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2018.07.04

増える日本ブランドのグループ出展 パリはファッショントレードビジネス革命前夜??――19年春夏・パリメンズファッションウイーク(2)ショールーム編

 日本ブランドを集めたショールームも各地で開催された。東京ファッションアワードの「ショールームトーキョー」、メンズ合同展「ジャンブル」の「ショールーム・ジャンブル・パリス」をはじめ、ジャンブル会場地下で開かれた「スペリオール・パリス・ショー」や、「JSEP」「PR01.ショールーム」、「デジマショールーム」「ジャパニーズ・イン・パリス」など、各所で奮闘する日本ブランドを紹介する。

【ショールームトーキョー】

 東京ファッションアワードの「ショールームトーキョー(showroom.tokyo)」 には第3~4回受賞デザイナー、8ブランドが出展した。第4回受賞ブランドは、今季で全面支援が終わり、来年1年間は出展料が免除される。

チルドレン・オブ・ザ・ディスコーダンスのブース

チルドレン・オブ・ザ・ディスコーダンス
背中にグラフティーを施したパッチワークのトレンチコートは、20万円

 「チルドレン・オブ・ザ・ディスコーダンス(Children of the discordance)」は、ピッティ、ミラノの「ホワイト(WHITE)」 からパリへとラウンドしてきた。フィレンツェ、ミラノではバイヤーと食事をするなどして親しくなれたのが大きな成果だ。「今後の課題はブランドの知名度を上げる事」としていた前回だったが、今回は対象が「ラグジュアリーショップのバイヤー」とコレクションの方向性が明確になったそうだ。既存20件に対して、新規10件を目指すとしている。また4年前から海外販売している経験から、バイヤーは自分で呼ばないと来ないと実感している。

エフシーイーのブース

エフシーイー
80年代フーリガンをイメージしたリブのクールマックス・トラックジャケットは2万8,000円

 「エフシーイー(F/CE)」 は、4シーズン続けていたマンへの出展を取りやめ、ショールームトーキョーに集中した。パリでは場所代が高いので、同ショールームのメリットを強く感じているようだ。そんな中、ショールームから輸入卸でのオファーがあり、検討していくそうだ。既存が30件程あり、今回は米国、イタリア、スウェーデンなど7件ほど拡大しそうだ。すでに売上高の20%(アジア17%、欧米3%)を海外が占めており、本格化する年になりそうだ。

ボディソング
レイヤードのデニムを貼り付けたハーフパンツは4万3,000円、ダブルレイヤードのマウンテンパーカーは8万円

 「ボディソング(BODY SONG)」 は初のパリ進出だった前回、3件の受注を獲得し、今回は米国、イタリア、ロシアなどコンタクトは30件ほどで、4件ほどの新規受注を獲得できそうだ。ショールーム内で情報共有ができることもメリットの一つと考えているそうだ。「日本ブランドは濃いので、面白がってくれる」とダブルレイヤードのデニムやアウターの反応が良かったという。

クオンのブース

クオン
藍で手染めした刺し子織りのシャツは4万5,000円

 「クオン(KUON)」は前回同様、ボロ布や刺し子のアイテムに人気が集まり、今季のニューヨークメンズファッションウイークからショールーム「ザ・ニュース(THE NEWS)」に入ることになった。東京でショーをやったことも認知度向上に繋がったという。この2回の出展で「海外との取り組み方の一連の流れや国々、エリアによって考え方や価格、傾向の違いがあることが理解できた」と実りの多かった点を強調していた。次シーズンからはザ・ニュースでの展示会となる。

タークのブース

ターク
オパール加工で左半分を透かしたTシャツは2万2,000円

 第3回受賞ブランドは、今季で支援が終了となる。
ターク(TAAKK)」 は既存7件で、新規は英国、カナダ、米国、ポルトガルなど10件ほど行けそうという勢い。前回「自分らしい服を作り続けていくことが課題だ」としていたが、今回は「ブランドの存在価値、強さが求められていること、すなわちテキスタイルからの作り込みが得意なところを伸ばしながら、飛ばすところと抜くところのバランスが見えてきた」と進化を感じているそうだ。

ダブレットのブース

ダブレット
即席カップ麺(写真下段)と同じ要領で広がるハンガー型のTシャツ。本気で売ろうとしていない感じが良いと思っているそうだ

 「ダブレット(doublet)」は、LVMHプライズのグランプリ受賞もあったが、「凄く増えたという訳でもない」と控えめなコメント。既存20件程で、新規はオーストラリア、スイス、インドネシアなど3~4件の予定。「セールス担当に任せるのでなく自ら積極的に話しかけていけば、熱意が伝わり、よく分からないギャグがツボにはまって買ってくれることもある」と積極性の大切さを強調。一方で「紙ヒコーキを折るところまでは自分でしたが、周りの支持してくれる人の意見を聞いて実践してみて、風のお陰で飛べた、タイミングが良かったんだと思っています」とも話してくれた。

【ショールーム・ジャンブル・パリス】

ショールーム・ジャンブル・パリスの会場
「MEDICOM TOY」「FDMTL」「CHUP」などがバイヤーの牽引力に

ショールーム・ジャンブル・パリス
2回目で手応えを感じている北田真二代表

 2回目の単独開催となった「ショールーム・ジャンブル・パリス(SHOWROOM JUMBLE PARIS)」はバッグの「マスターピース(master-piece)」 、デニムの「ファンダメンタル(FDMTL)」、メンズウェアの「ミーンズワイル(meanswhile)」 など22ブランドが参加。来場者は微増の約260社となり、うち4割が新規だった。特に英国とアジアが多く、米国は少なかったという。北田真二代表は「特に洋服が厳しい。小物やライフスタイルには興味を示してくれるが、フルコレクションのところは難しいと感じる。バイヤーも安定したブランドは取るが、新規が入っていく余地が無い」と洋服と新規参入の厳しさを強調した。一方で「日本ブランドへの期待値は高いと感じる」とも述べた。

【スペリオール・パリス・ショー】

スペリオール・パリス・ショー

スペリオール・パリス・ショー
一括納品のメリットを強調していきたいという

 ジャンブル会場地下で開いた「スペリオール・パリス・ショー(SPERIOR PARIS SHOW)」 は、ウェアの「ライディング・ハイ(RIDING HIGH)」 、バッグの「チャオチャオチャコ(CIAOCIAOCHAKO)」 、「アンリアレイジ(ANREALAGE)」 の雑貨など14ブランドを揃えた。フランスが微増、韓国、ロシアが微減といった感触だそうだ。「成約は前回を超えそう」と順調だったが、「もっとショールーム自体に興味を持ってもらえるようにブランディングしていきたい」と小森太郎代表。また各ブランドを一括納品する仕組みも整えてきており、このメリットを伝えることも強化してくそうだ。

【JSEP(ジェイセップ)=ジャパン・シューズ・エクスポート・プラットフォーム

JSEPのブース

JSEP
(写真左)宮城興業「ミヤギコーギョー(MIYAGI KOGYO)」 の山形産オーストリッチのマウンテンブーツは約10万円(同右)ニチマン「キテン(KITEN)」 のホワイトレザーでスニーカーをイメージしたマウンテンブーツは5万円

JSEP
オリエンタルシューズ「マツモト(MATSUMOTO)」 の組紐をあしらったドレスシューズは5万5,000円

 「ジェイセップ(JSEP)」は、日欧EPA発効をにらんだ経産省の支援事業の一環で2回目の開催。オピニオンリーダーや政治家のパーソナルスタイリストなどが来場し、クラス感のあるターゲットに絞ってファッションウイークとは一線を画すスタンスで臨んでいくという。また欧州のいくつかの都市でトランクショーなどの開催も検討している。

【PR01.ショールーム】

PR01.ショールームの会場

PR01.ショールーム
(写真左)ファッチーズのニットジャケットは5万4,000円(同右)ミドラの切り替えワンピースは4万円

PR01.ショールーム
セールスを担当する木村俊之さん

 4年前からパリで開いている「ピーアールワン・ショールーム(PR01.SHOWROOM)」 は今回、ウィメンズの「ミドラ(MIDDLA)」 「ザ・ケイジ(THE KEIJI)」 「フルギ・ニ・レース(FURUGI-NI-LACE)」 、メンズの「ファッチーズ(FACCIES)」 「ワイオーエヌ(Y.O.N)」 の日本の5ブランドと海外2ブランドをセールスした。英国、ロシアの来場が目立ち、既存25件、新規4件を獲得。北欧も増えたが、あまりレイヤードしないので、1枚で着られるようなものを好むという。アジアはストリートが強いと感じているそうだ。

【デジマショールーム】

デジマショールームの会場

デジマショールーム

デジマショールーム
(写真下段右)プライスポイントが良いと評価が高いジエダのツーウェイデニムパンツ(2万4,000円)とカットワークシャツ(1万8,000円)

 メンズウェア「ジエダ(JieDa)」 「ロアガンズ(roarguns)」 、ウィメンズアクセサリー「アサミ・フジカワ(ASAMI FUJIKAWA)」の日本3ブランドを含め11ブランドで構成する「デジマショールーム(DEJIMA SHOWROOM)」は100件程のアポイントを取り、セールスを行った。日本ブランドの状況は香港、韓国、ロシアなど既存が9件、米国、カナダ、イタリアなど新規が7件の成果だったという。

【ジャパニーズ・イン・パリス】

ジャパニーズ・イン・パリスの会場

ジャパニーズ・イン・パリス
(写真左)アミアカルヴァのキャンバス地を染色したハンドルレザーのトートバッグは1万2,000円(同右)ランデヴー・オ・グローブの綿・和紙のロークロッチパンツは3万円

ジャパニーズ・イン・パリス
ノースワークスの価格的にもこなれたビーズのブレスレットは売れ筋の一つで5,000円前後。

 5年前からメンズウェア「ランデヴー・オ・グローブ(rdv o globe)」 、バッグ・服飾雑貨「アミアカルヴァ(AMIACALVA)」 、アクセサリー「ノースワークス(NORTH WORKS)」の3ブランドで始めた「ジャパニーズ・イン・パリス(Japanese In Paris)」は韓国、フランス、米国など20件の既存を持つが、毎回2割ほどが入れ替えになるという。新規はジョージア、オーストリア、英国、シンガポールなど6件ほど。

 さてトレードショーの状況を総括してみよう。グラフ・表を見るとはっきりと分かるのが、トレードショーの縮小傾向だ。総出展者数の推移で4年前から6割減、前年同期比4割減とこの1年間で減少傾向に拍車が掛かった形だ。トレードショー「冬の時代」を迎えたと言っても過言ではない。トラノイとマンの2展しかない状況で、新たにパリに進出したいと思っているブランドにとって、選択肢が狭められ、入るスペースも限られてくるというトレードショー、出展者双方にとって厳しい時代がやってきたことになる。

 

 だからと言ってショールームが活況ということでもない。街ごとショーケースという不動のプラットフォームに守られながら、他都市との差をじりじりと付けてきたパリだが、ここへ来て選択肢の幅が狭められ、爆発的な変化が起こる前夜のような状況になっていると感じる。再び既存トレードショーがインキュベーター機能を回復するか、もしくは新たな大型ショールームないし、新機軸のトレードショーが登場するか、さらにはデジタルプラットフォームを活用した第3の道が発火点になるのか。パリは、ファッショントレードビジネス革命前夜なのかもしれない。

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久保 雅裕(くぼ・まさひろ)
アナログフィルター『ジュルナル・クボッチ』編集長

 

ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。『senken h』を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。

大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア『Journal Cubocci』を運営。複数のメディアに執筆・寄稿している。杉野服飾大学特任教授の傍ら、コンサルティングや講演活動を行っている。また別会社で、パリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストア、国内合同展の企画なども行い、日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。

 

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