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2015.06.12
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.25】2015~16年秋冬東京コレクション
宮田理江のランウェイ解読 Vol.25
2015-16年秋冬・東京コレクション(メルセデス・ベンツ ファッション・ウィーク 東京、3月16~21日)は東コレが新たなステージに上がった印象を残した。全体を包んだ「大人っぽい」というムードがクリエイター側の意識を物語る。グローバルトレンドに目配りしつつ、ディテールや素材感に創意を盛り込む試みが目立った。海外ブランドの参加も東コレの厚みを増している。
(左から)FACETASM/beautiful people
ジェンダーミックスやアンドロジナスのうねりが大きくなる中、「ファセッタズム(FACETASM)」は1枚の服にメンズとウィメンズを融け合わせた。細プリーツのスカートとダブル裾のパンツといった、男女のシンボリックな装いを強引めにねじり合わせている。服の約束事を壊すような試みは、裾切りっぱなしの超ショート丈ジャケットやスーパーロング丈のニットベストにも表れていた。
「ビューティフル ピープル(beautiful people)」は「アウター重視」や「ボヘミアン」などのグローバルモードを巧みに取り込んで見せた。ゆったりフォルムのコートや、やさしい輪郭のケープといった、たおやかな風情のアウターを提案。お得意の程よいヌケ感がボーホー気分を連れてきた。ワイドパンツやガウン風コートなどの新トレンドアイテムも迎え入れ、ボリュームに変化をもたらしている。朗らかな量感が「エフォートレス」なムードを漂わせていた。
(左から)matohu/support surface
谷崎潤一郎の随筆『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』に着想を得た「まとふ(matohu)」は「ほのか」をテーマに、光を操った。メタリックを織り込んだ布、つやめきを宿した生地で、まばゆさと陰影の響き合う着姿に仕上げた。オリジナルのロングアウター「長着(ながぎ)」を軸に、張り感や縦落ち感を持つビッグアウターとの縦長イメージのレイヤードを組み上げている。ミニワンピースやパンツルックを打ち出し、行動的なムードを持ち込んだのも、意欲的な取り組みと映った。
次シーズンのキーアイテムになりそうなタートルネック・ニットを柱に据えたのは、カッティングの巧みさが持ち味の「サポートサーフェス(support surface)」。ボトムスでは極太ワイドパンツを打ち出して、量感たっぷりの着姿に整えた。穏やかに丸みを帯びたアウターが人なつこい表情を見せる。落ち着いたカラーパレットを組み立て、品格を寄り添わせた。
(左から)mintdesigns/DRESSCAMP
「ミントデザインズ(mintdesigns)」はガーゼのような透ける薄手生地を用いて、ミステリアスでロマンティックなムードで包んだ。オーガンジー風のトランスペアレント生地を重ねて、妖しい気配やノーブルなゴシック感を帯びさせている。一方、ケミカルな光沢テープを服に何本も貼り付けたようなアイテムを送り出し、スピード感を印象づけた。ソフトな色味のメルヘン調プリント柄から離れ、15年間を経てのギアチェンジをうかがわせた。
グリッターやフューチャリスティックは来季の世界トレンドに位置付けられているが、「ドレスキャンプ(DRESSCAMP)」は両者をグラマラスに彩った。まばゆいラメをちりばめたミニ丈ワンピース、ビッグサイズのカラーサングラスはアグレッシブなムードを呼び込んだ。ドット(水玉)柄とペイズリー模様を引き合わせたルックや、身頃の左右で素材が全く異なる服にも、カオス(混沌)を恐れない挑発的な姿勢がのぞいた。
柄のバリエーションを広げ、アートな風情をまとったのが「イン-プロセス バイ ホール オーハラ(IN-PROCESS BY HALL OHARA)」。バウハウスやアール・ヌーヴォーにインスパイアされたデコレーションルックを披露。アール・ヌーヴォーを連想させるボタニカル(植物)柄やペイズリーなどのモチーフを、直線や曲線と組み合わせて、重層的なパターンを組み上げている。セットアップやレイヤードで、柄と色をわざと不ぞろいに引き合わせ、表情を深くした。
若き俊英に引き継がれて2シーズン目となった「ハナエモリ デザイン バイ ユウ アマツ(HANAE MORI designed by Yu Amatsu)」は色を躍らせた。主役に起用したのは、パステル系のアイシーな色。やわらかい色調のイエローやウォーターカラー、ライラックなどを響き合わせた。シャツ、スカート、羽織り物といったアンサンブルを、トリコロール(3色使い)で組み立てている。ブランドアイコンである蝶々は幾何学模様風のモチーフに図案化してあしらい、ヘリテージ(遺産)にリスペクトを示した。
(左から)YASUTOSHI EZUMI/Ujoh
意図的にアシンメトリーを仕掛けた「ヤストシエズミ(YASUTOSHI EZUMI)」。スカートは左右がアンバランスで、右側だけにプリーツを配した。ロング丈のニットトップスは裾が片流れし、ロングコートは前後で別の表情。基本的なシルエットは抑制の利いたミニマルなすっきりした形で、静かな着姿に不ぞろいの美を理知的なムードで宿らせた。コートの2枚重ね風、ライダースジャケットもどきのケープなど、機知を忍び込ませたアウターも披露した。
アウトドアやワークウエアが世界的な新テイストとして浮上する流れに沿うかのように、「ウジョー(Ujoh)」は機能とモードを交じり合わせた。ミリタリー風味のアウターにキルティングを施したり、アノラック風情を帯びたワンピースを仕立てたりと、タフ顔ウエアをフェミニンに操った。「アウターonアウター」のアレンジを試し、丈違いのアウターを重ねたり、アウターの上からベストを羽織ったりしていた。
(左から)LAMARCK/CHRISTIAN DADA
新鋭ブランドの「ラマルク(LAMARCK)」はファーといたずらっぽく戯れた。手首から先にだけファーを配したハンドウォーマーはユーモラスな見栄え。ボリューミーなファーで足首と靴をくるんで、プレイフルな表情に仕上げた。ニットトップスの裾からはシャツをのぞかせ、のどかな景色のレイヤードを演出。ボウタイも首周りに華やぎを添えていた。
ディテールに凝るアプローチが相次いだ。「クリスチャン ダダ(CHRISTIAN DADA)」が選んだ表現は、手仕事感の高いニードルワークの刺繍。つやめき生地のジャケットに派手な柄の「スカジャン」風刺繍を施した。伝統的なロシア衣装のようなファーの帽子や、ゴシック感を帯びた十字架ビジューも、あでやかで妖しいムードを立ちのぼらせていた。
グラマラス色を強めるグローバルトレンドと歩調を合わせるかのように、東コレでもグリッターやフューチャリスティックの演出が増え、つやめきや力感を高めた。ジェンダーミックス、ボヘミアン、アスレジャーなどの潮流もしっかり受け止め、マーケット動向や消費者マインドときちんと向き合う態度も強まった。「タケオ キクチ(TAKEO KIKUCHI)」や「ケイタ マルヤマ(KEITA MARUYAMA)」といったカムバック組が東コレの奥行きを深くした。回を追うごとに成熟度を増していく東コレは「アジアの東コレ」としてのポジションをはっきりさせつつあり、その点でも成長の期待が高まってきている。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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