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2016.01.06

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.30】2016年春夏ファッションの6大トレンド

 華やぎや遊び心が一気に台頭した16年春夏シーズン。主要コレクションでは、肌見せやシースルーが相次いで提案され、プレイフルないたずらや、レトロを帯びた未来感覚、躍動的なアフリカテイストなども打ち出された。おしゃれ気分の盛り上がりを支えるかのように、クチュール感やハンドクラフト性も増した。全体にファッションを面白がる意識が前面に出ている。

◆ストロングフェミニン

(左から)GUCCCI 、Givenchy

(左から)ALEXANDER MCQUEEN 、PROENZA SCHOULER

 たおやかでロマンティックな装いが戻ってきた。エロスやグラマラスの領域にまで踏み込んだフェミニン表現が着姿にエモーションを注ぎ込む。しかし、目に残るのは、はかなげ感ではなく、むしろ芯の強さだ。ベアショルダーで大胆に素肌を露出。二の腕や腰の上でくりぬき式のカットアウトを施し、サプライズ肌見せを仕掛ける。深いロングスリットは色香を招き入れる。ランジェリーやナイトウエアもモードに昇華。色気は漂わせながらも、凜々しさや落ち着きを醸し出している。トランスペアレントやレースをはじめ、ひらひらと揺らめく裾や、古風にふくらませたベルスリーブがエレガンスを宿す。両袖を裁ち落としたようなスリーブレスアウター(ジレ)を引き合わせ、女性の二面性を写し取ってみせる。

◆トリック・オア・プレイ

(左から)MARC JACOBS、 DIOR

(左から)MSGM、 MARNI

 おしゃれで「遊ぶ」といういたずらっぽい気分が濃くなってきた。先行していた「プレイフル」のテイストが加速。ウィットやユーモアを写し込んだ「ニヤリ系」の提案が相次いだ。バランスのきちんと整った装いをわざと茶目っ気たっぷりに崩すトリッキーなアレンジが着姿を朗らかに弾ませる。左右や前後で不ぞろいの美をうたうアシンメトリーは装いにドラマを呼び込む。静かなフロントとダイナミックな背中という、振り返りを誘う演出も愉快でフェミニン。モチーフを特大サイズで描くデフォルメは全体のリズムをゆがめ、着姿にスパイスを振りかける。

◆プリミティブパッション

(左から)DOLCE&GABBANA、BALMAIN

(左から)VERSACE、KENZO

 フォークロアの流れは土俗的にワイルドに勢いづいていく。地域ではアフリカに接近。砂漠やジャングルの色、モチーフを写し込む。土埃を思わせるアースカラーや、アニマル柄(レオパード、ゼブラなど)、植物モチーフ、タイダイ(絞り染め)、バティックが装いに伸びやかなナチュラルムードを忍び込ませる。ビーズやフェザーといった伝統的装飾パーツにはスピリチュアルな気分が宿る。サファリジャケットやペザントブラウスにも光が当たる。ダイナミックなハンドペイント模様が民族衣装をモダンに息づかせる。ビッグイヤリングのような主張系アクセサリーもネイティブ色を深くする。エスニック一辺倒ではなく、薄手生地やリッチ素材とのハイブリッドを仕掛けて表情に奥行きを生んでいる。

◆サイバーレトロフューチャー

(左から)EMILIO PUCCI、PRADA

(左から)LOEWE 、 SAINT LAURENT

 SF風の未来感を帯びたテイストが浮上。フューチャリスティックなムードは以前から強まっていたが、さらに押し出しの利いたスタイリングに進化していく。新たに上乗せされるのはサイエンス系のミステリアス感。デコラティブの復権を追い風に、きらびやかに着姿をつやめかせる。さらに、テクノロジー気分を漂わせるサイバーテイストにも注目が集まる。一方、手仕事ディテールやヴィンテージ感覚などを引き合わせ、アナログとテイストミックスする演出も趣を深くする。近未来感覚を打ち出しているのに、どこかノスタルジーが漂う不思議なレトロ感だ。

◆ユーティリリカル

(左から)ALEXANDER WANG 、 ACNE STUDIOS

(左から)BURBERRY PRORSUM 、 MAXMARA

 アウトドアやワークウエアの濃度が上がる。ミリタリーから続く実用性や硬質感を帯びた「ユーティリティ-」のトーンが主役に躍り出る。ただ、持ち味の武骨さは薄め、リッチでしなやかな風情。飾らない詩情もまとう。健康的でリュクス志向の「アスレジャー」にミリタリーを足し込んだようなムード。高級キャンプのグランピングに出かけるような気分が漂う。ライダースジャケットやオールインワン(コンビネゾン)、トラックスーツなどがキーアイテムに浮上。フットベッドサンダルも極厚底やビジュウ付きに進化を遂げる。タフでアクティブな服をロマンティックに整えるスタイリングが新しい。ジップやステッチ、ドローストリングも着姿に程よい飾り気を添える。

◆キッチュナブル

(左から)CHLOEFENDI

(左から)MOSCHINOEACH X OTHER

 2016年春夏シーズンに向けて最もトリッキーな形で打ち出された「ださかわいい」感を押し出すスタイリング。文系おたくの「ナード」、理系の「ギーク」に共通する、垢抜けなさや学生っぽさをわざと目に飛び込ませる、ウィットフルでキッチュなアレンジだ。洗練されていないところがかえってファッショナブルという逆転を試みる。漫画のキャラクターや映画の場面など、手法はポップアートに通じる。見慣れた言葉をひねったフレーズは装いにステートメントを持ち込む。ビッグフレームのアイウエアやトロンプルイユ(だまし絵)の仕立ても目をあざむく演出。一見、奇妙に見えるけれど、愛らしさに惹かれるようなたくらみが視線を呼び込む。

 

 アイキャッチーな素材、凝ったディテールが装いにポジティブとグラマラスを注ぎ込む。シンプル志向がクローズアップされてきたが、ここに来て艶美さをうたう装いが復活。エフォートレスやスポーツシック、ユーティリティーなども新トレンドの中へ発展的に吸収されている。これまで以上にいくつものトレンドが交錯するシーズンとなるだけに、アレンジの幅を一段と広げて、自分好みのおしゃれを再発見するチャンスともなりそうだ。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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