PICK UP

2024.09.18

【2025春夏ニューヨークハイライト2】個性と主張を放つインディペンデントなデザイナーたち

写真左から「リンシュウ」「アキツ」「ディオティマ」 「ロナルド・ファン・デル・ケンプ」

 

 

 ニューヨークでは、2024年9月6日から11日まで、ニューヨークファッションウィーク(以下NYFW)が開催された。今季は「アナ スイ(ANNA SUI)」のように知名度の高いブランドが、展示会に形式を変更するといった一方、小規模ブランドが合同でのランウェイや展示会をするスタイルも増えてきた。

 

 小規模ブランドでは、それぞれの個性が濃く出やすいが、「アシュリン(ASHLYN)」は精緻なドレープで柔らかでフェミナンなスタイルを加えてみせ、「リンシュウ(RYNSHU)」では袖に切り込みを入れてケープのように動きがでるジャケットが見られた。こうした柔らかで、動きのある素材やスタイルは、冷たい人工的なものよりも、自然の動きや人らしさへの希求を感じさせる。

 

 ここではハイライトとして、インディペンデントなブランドや新進気鋭のブランドを、ピックアップして紹介しよう。

 

アシュリン(ASHLYN)

Courtesy of ASHLYN

 

 「アシュリン」は、2025春夏コレクションを、トライベッカのギャラリーで展示発表した。“Reverie(夢想)”と名づけられた展覧会は、アシュリン・パークがゲストキュレーターとして、アート作品を選んで展示し、また彼女が作成したオーガンジー作品のインスタレーションも置かれている。

 

 「アシュリン」の2025春夏コレクションは、15のルックから成り立つ。ファッションの歴史を振り返りながら、先人デザイナーたちのアイデアを現代に再解釈し、ブランドの理念に沿って表現するのを旨としたという。

 

 細密なプリーツを施したルックで、柔らかく、曲線を描いたフェミニンなロングドレスは、マダム・グレのクチュールを現代によみがえらせたようだ。このプリーツでできたバスティエ部分を柔らかなカーフに嵌め込んだり、あるいはジャージーでできたロングスリーブとつなげてみせたりして展開した。

 

 一方、白いジャケットやコートジャケットには、「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」で彼女が鍛えた卓越したパターンと、正確なテーラリングが光る。なかでも圧巻は、黒のドルマンスリーブのコートジャケットで、バックには斜めに流れるようなオープン部分を作り、そこから同じく波のように形づけられた白いシャツが見えるデザインだ。ゼロウエイストを掲げるオーガンジーのフリルをあしらったルックも披露された。

 

 マダム・グレの官能的なドレープと身体への繊細なアプローチ、そして「ヨウジヤマモト」の前衛的で分解されたシルエットからインスピレーションを得たこのコレクションには、「アシュリン」らしいテクニックと美意識が光っていた。

 

エリア(AREA)

Courtesy of AREA

 

 「エリア」はスプリングスタジオで、2024秋冬コレクションのランウェイを開催した。ブランド設立10周年に当たり、ブランドのシグネチャーとなるデザインを再考して出し、個性と自己表現をより深めたという。
 
 
 
 ミリタリーのユニフォームを彷彿とさせるルックは、肩を大きく張りだしたショルダーコンシャスなジャケットやコート、あるいはスパイクを数多く飾りつけた革ジャンなど、制服という個性を消すものを反対に、反骨精神ある自己表現として披露した。
 

 フリンジもキーとなるモチーフだ。ジャージー素材をスパゲッティのように細いフリンジ状にカットし、ドレープ加工され、肌を見せるセクシーなドレスや、パンツの装飾としてあしらわれた。メタルにも見えて、柔らかさと構造の絶妙なバランスを表現。

 

 そして目を奪ったのは、手のモチーフだ。デニムやフェイクファー、ジャージーなどの素材の上に、スクリーンプリントやエンボス加工、ビーズ刺繍など、さまざまな手の模様が見られたが、これは下記に記述する「女性の生殖の権利を守る」「体を制限する手に反対する」というメッセージが受け取れる。

 

 さらにランウェイには「Bans Off Our Bodies(私たちの体を禁止するものをなくせ)」というTシャツが登場。これは妊娠中絶の禁止や体外受精の権利の制限を打ち出す共和党の政策に対して、「女性の生殖についての権利」を訴えるもの。今年11月に迫った大統領選でも大きな争点となっている。

  マッチングアプリの「ティンダー」がスポンサーになっているのも興味深く、「ティンダー」もこの生殖の権利について強く支援しているファッションウィークで、政治が声高に語られるのも、アメリカらしい。

ニューヨークメンズデイ(NYMD)

(写真左から)Courtesy of Earthling VIP、Courtesy of SIVAN

 

 ニューヨークメンズデイは、6日に合同展覧会を催した。今季のスポンサーは、スイスに本拠地を置き、スイスアーミーナイフや腕時計、トラベルバッグなどのメーカーとして知られる「ビクトリノックス(Victorinox)」が担った。

 

 参加ブランドは、「アースリングVIP(Earthling VIP)」、「A.ポッツ(A.Potts)」、「クララ・ソン(Clara Son)」、「ザ ソールティング(The Salting)」、「シヴァン(SIVAN)」、「テリー シン(TERRY SINGH)」、「サーモンシリーズ(Sermon Series)」、「スタン(Stan)」、「タープリー(TARPLEY)」らの気鋭ブランドに、スポンサーの「ビクトリノックス」と、トップサイダーで知られる「スペリー(Sperry)」が展示をした。

 

 「アースリングVIP」は“ダヴズ・クライ”と名づけたコレクションで、鳩をバックに描いた革ジャン、パッチワークのデニム、鋲打ちしたデニム、バイクやロックTシャツ、炎の模様を入れた革パンツなど、80年代ロック色の強いテイストを打ち出した。

 

Courtesy of TERRY SINGH

 

 メンズスカートを打ち出す「テリー シン」は、今季、ダンサーたちをモデルに使って、モダンダンスをするというプレゼンテーションを行った。今季は柔らかな素材を利用したスカートで、ジャンプする、宙返りするといった動きも難なくこなして、スカートが動きやすいアイテムだという説得力を与えた。またトップスにはバスケットボールジャージーなどを組み合わせて、よりアスレチックで、ストリートなテイストを加味した。

 

 ジャック・シヴァンが手がける「シヴァン」は、2020年設立の新進ブランド。ビスポークのテーラリングから出発して、レディ・トゥ・ウェアを手がけるようになった。リネンやサマーウール、デニムなどの素材を使い、トラディショナルなテーラリングを生かしながら、なおかつモデルも男女ともに使い、ユニセックスなデザインも含んでおり、トラッド×ダイバーシティという路線を示している。

 

リンシュウ(RYNSHU)

Courtesy of RYNSHU

 

 山地正倫周、りえこが手がける「リンシュウ」がNYFWに初登場。2010年よりパリでコレクションを発表してきた「リンシュウ」だが、今季2925春夏コレクションを、9月6日(現地時間)にNYでランウェイを打って、メンズ&ウィメンズウェアを発表した。
 
 
 カラーパレットはブラックを基調にして、ホワイトを入れ、イリディセントなブルーを差しこむという、きわめてストイックな構成。その分、ブラックの表現は多彩で、オーガンジーのドレスに立体的なアップリケを施したり、同じくコートにも立体アップリケを飾りつけたり、また長めのフリンジをシャツやジャケット、ロングドレスに飾りつけて、動きや立体感を添えた。
 
 
 ことに目を引いたのは、袖の部分にスリットを入れて、ジッパーで開けるようにして、ケープ状に着こなせるジャケットで、エレガントとスポーティさを同時に演出してみせた。Rのロゴアイコンが立体敵に織られたジャガードのジャケットや、ラメのジャガードジャケットなど、ラグジュリアスな生地を使ったルックを提案した。

 

ナオコ トサ(Naoko Tosa)

Courtesy of Naoko Tosa

 

 京都大学防災研究所附属巨大災害研究センターの土佐尚子特定教授は、9月8日(現地時間)、グローバル・ファッション・コレクティブのランウェイショーで、コレクションを発表した。

 

 土佐特定教授にとって、これでニューヨークファッションウィークへの参加は3度目となるが、今季のファーストルックは、インフルエンサーであり、LGBTQの活動家であるエルトン・イリジアーニを起用。歌舞伎の連獅子のメイクをして、肩衣と振袖が合体したドレスを着せることで、人種、性別や性自認、国籍を問わず誰にでも似合うグローバルファッションスタイルを提案した。

 

 ほとんどのルックは美しいプリントを生かした、直線断ちのチュニック、カフタンスタイルのトップやシャツ、ドレスで、ユニセックスで着用できる。日本の美と伝統文化を保ちながら、パラボリックフライトで無重力撮影やデジタルを使ったイメージを取り入れ、ファッションとアートの融合を打ち出した。

 

アキツ(AKITSU)

Courtesy of AKITSU

 

 アーティストであり、社会貢献事業家である、けみ芥見が率いる「アキツ」は、グローバル・ファッション・コレクティブで、ランウェイを打った。2019年にモナコのショーでデビューして以来、ミラノファッションウィーク、パリファッションウィーク、ローマオートクチュールに参加してきている「アキツ」だが、ニューヨークファッションウィークは初めて。

 

 日本の着物にインスパイアされたデザインを続けてきている「アキツ」だが、今季は水着との組み合わせを提案した。「忍者」「花魁」「サイバーパンク」をインスピレーション源として、12ルックのうち、5着は着物の生地を使用している。

 

 ファーストルックは、水着の上に、着物の袂を生かしたボレロと、前がオープンな作りのスカートを着用。続くルックも、ショート丈のトップスに、パンツ共にナイロンのバックルベルト使いをしていてスポーティだ。

 

 パンツはちょうどカウボーイチャップスのように、内股と外股、ヒップの部分は露出していて、エッジイに仕上げた。星条旗の水着に、金と赤の打掛のようなガウンをまとったスタイルも登場。車椅子のモデルも登場して、多様性のあるスタイルを示した。

 

ディオティマ(Diotima)

Courtesy of Diotima

 

 レイチェル・スコットが手がける「ディオティマ」は、9月9日(現地時間)、チャイナタウンのスタジオで、2025春夏コレクションを発表した。

 

 “デジャ・ヴ”と題されたコレクションはカリブ海での思い出をインスピレーション源にしているといい、会場に並べられた赤いロウソクは、ジャマイカの秘儀を彷彿とさせた。

 

 シグネチャーであるクロッシェ編みは引き続きトップスやスカートに登場し、ジレ型のトップスのサイドにも円形に嵌め込んだ。海の色を思わせるシーフォームグリーンのロングドレスの脇にもクロッシェ編みのアップリケをアクセントに。またスカートのヘムや、シャツの前身頃、パンツやジーンズのサイドには、ヤシのモチーフのブロダリー・アングレーズがほどこされており、透け感を演出する。

 

 目を引いたのは、リネンのスカートのスリット沿い、あるいはワンピースの脇にホールをあけて、メタルのスパンコールを飾ったルックで、スパンコールは牡蠣の殻のようにも見える。シアーなオーガンザの薄手コートには襟をフリンジで飾り、フリンジ状のループ編みニットでタンクトップとスカート、あるいはニットドレスを披露した。透け感を出しながら、従来よりも日常使いもできるスタイルへのアプローチが観られた。

 

ロナルド・ファン・デル・ケンプ(RVDK RONALD VAN DER KEMP)

Courtesy of RVDK RONALD VAN DER KEMP

 

 「ロナルド・ファン・デル・ケンプ」は、ブランド10周年を祝って、9月11日(現地時間)、2025春夏コレクションを、イーストビレッジの教会で披露した。

 

 サーキュラーファッションを提唱して、セミクチュールのクリエイターとして知られるロナルド・ファン・デル・ケンプ。90年代にニューヨークに住んで、ビル・ブラスの元で働いた彼にとって、ニューヨークのポジティブなエナジー、そしてバーニーズやビル・ブラス、ソーシャライトのナン・ケンプナー、オペラ歌手のジェシー・ノーマン、そしてチェルシーの蚤の市などのアイコンを創作源としたという。すべてリサイクルの素材を使っている。

 

 冒頭は、星条旗をパッチワークしたジーンズに、星条旗のトレーンを長く引き、抱えたブーンボックスからはAC/DCの往年の名ロック「You Shook Me All Night Long」が流れて、80〜90年代アメリカンカルチャーへのオマージュが感じられる。

 

 肩が極端に尖ったストリングショルダージャケットは、デコラティブなラインストーンを飾られており、メタルを飾りつけたレザーのビッグショルダージャケットには、シルクのハーレムパンツを合わせる。フィットしたボレロ、アシメトリーに襞をたたんだスカート、フリルを重ねたミニや、アニマル柄やレザーをパッチワークしたコート。80年代のラクロワを彷彿とさせて、マキシマムで華やいだ世界観を表現した。

 

 ラストには、星条旗をあしらったジーンズに着替えたモデルたちが壇上に並んで、「I Love America」の曲が流れ、「ロナルド・ファン・デル・ケンプ」流のアメリカ賛歌を捧げた。このジーンズは一般販売される。

 

 

 

取材・文:黒部エリ
画像:各ブランド提供
>>>2025春夏ニューヨークコレクション

メールマガジン登録