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2024.02.18

【2024秋冬ニューヨーク ハイライト1】SNS受けは鳴りをひそめクワイエットなルックが主流に

写真左から「コーチ」「トム ブラウン」「トリー バーチ」「マイケル・コース」

 

 

 ニューヨークファッションウィークが、2024年2月9日から14日(アメリカ現地時間)にかけて行われた。

 

 「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」はブランド設立40周年を記念して、ファッションウィークの公式スケジュールに先駆け、現地時間2月2日に、2024春夏コレクションを発表した。ニューヨーク(以降NY)のファッションを40年にわたって牽引してきた、その才能とパワーをあらためて見せたランウェイとなった。

 

 全体として97ブランドが参加、その約半数がランウェイを打ち、アメリカファッション協議会(CFDA)会長を務めるトム・ブラウンは、大トリのショーで参加した。大きな流れとしては、NYコレクションでは、ここ数年を席巻していた、SNSウケがする極端なデザインは鳴りをひそめて、むしろクラシック回帰の流れが見られた。

 

 ラグジュリアスブランドでは、クワイエットラグジュアリーへの希求が見られ、また若い世代に訴求するイメージとしても、むしろシンプルでミニマルであることがかえってZ世代にとっては新鮮なものと映っているようだ。

 

 では、ファッションウィークから、まずインターナショナルなブランドのコレクションをハイライトで見ていこう。

 

トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)

Courtesy of TOMMY HILFIGER

 

 「トミー ヒルフィガー」は、初日に2024秋冬コレクションを、ランウェイで披露した。今季のテーマを“ニューヨークモーメント”として、場所もニューヨークのアイコンであるグランドセントラル駅にある「オイスターバー」を選んだという。

 

 音楽を「ザ・ルーツ」のクエストラブが担当するなか、ランウェイに飛びだしてきたのは、クリーンなプレッピースタイルだ。今季はブランドのルーツであるアメリカンスポーツウェア、プレッピースタイルの原点に戻り、服のプロポーションを大きく変えることでツイストを加えてアップデートしてみせた。ビッグなブレザー、スラウチなトラウザースなど、ボリュームあるシルエットが続く。

 

 ウィメンズはマイクロミニかロングという両極端のスカート丈を提案して、ドロップウェストの位置にベルトをしてみせた。白のケーブルニットやミニドレスポロにはカシミヤを使用している。カラーはブルーとレッドというブランドのシグネチャーに加えて、キャメルを配し、きわめてクリーンな印象だ。ほとんどがソリッドカラーで、そこにボーダー縞が差しこまれる。コートやジャケットには、ツイードやチェック柄、コーデュロイ、ヘリンボーンがあしらわれた。大判のストールでアクセントをつけ、スタジアムジャンパーやラグビーシャツ、ベースボールキャップで、アメリカンスポーツスピリッツを表現する。

 

 「トミー ヒルフィガー」といえば、「シーナウ・バイナウ」形式でショーを見せてきた先駆者だが、今回はトラディショナルな形式に戻ったことになる。この変化については、ヒルフィガーは「より質の高いマテリアルの服を提供するために、デリバリーにかかる時間をもっと設けたかった」と語る。

 

 フロントローに座るソフィア・リッチー・グレインジやイ・ジュノ、ナヨンらのセレブは2024春夏コレクションに身を包んでおり、いわば春夏も秋冬も同時に見られる仕組みだ。フィナーレにはグラミー賞に輝く歌手ジョン・バティステが登場して、アフターパーティでパフォーマンスを披露した。

 

ヘルムート ラング(HELMUT LANG)

Courtesy of HELMUT LANG

 

 ピーター・ドゥがクリエイティブディレクターを務めて、2シーズン目となる「ヘルムート ラング」。今季はブルックリンで、2024秋冬コレクションを発表した。今季のテーマを“PROTECT VS. PROJECTION(プロテクト=保護、対プロジェクション=予測)”と題したもの。

 

 オープニングのルックは白いバブルラップでできたシャツとパンツであり、まさしくプロテクトのテーマを反映しており、秀逸だ。さらに顔を覆うフェイスシールド、多用されるジッパー、フード付きの防水ジャケット、光沢あるナイロンのダウンなど、同じく保護のイメージを強化して、ビッグショルダーでウエストを絞ったジャケットや、立ち襟のジャケットもミリタリーのイメージを感じさせる。

 

 一方で、カットアウトのニットや、パッド入りのボディコンシャスなドレス、透けたニットなどが官能性を漂わせる。鱗のような質感を与えたジャケットとパンツ、ジャージー類も、魅力的だ。カラーはブラックをメインとしながら、オレンジ、黄土色、赤といった暖色カラーを差しこんだ。

 

 「ヘルムート ラング」のシグネチャーであったミニマルで、研ぎ澄まされたシャープさと、都会的な官能性があるDNAをうまく掘り起こして、ピーター・ドウらしくアップデートしたコレションとなった。

 

アナ スイ(ANNA SUI)

Courtesy of ANNA SUI

 

 「アナ スイ」が2024秋冬コレクションの会場に選んだのは、老舗の書店ストランド・ブックストアだ。古書の多さや、年代物の希少本を揃えていることで名高い。

 

 その稀少本を集めたフロアで、2月10日にランウェイが行われた。革張りの本が並ぶ書棚の間をオープニングでキャットウォークしたのは、まずオレンジの色調でまとめた英国調グランマスタイルだ。 推理番組の「フーダニット(Who done it)」のファンだったというアナ・スイは、愛するキャラクターである老嬢探偵ミス・マーブルをイメージソースとしたという。

 

 ツイード、アーガイルニット、フェイアアイルニット、 などの伝統的なブリティッシュのモチーフを、アナらしく表現した。オレンジ、ブラウン、シナモン、マスタードやティーローズなどの色彩パレットが美しい。

 

 さらにバージニア・ウルフの本の表紙からインスパイアされたというブルーを貴重としたシリーズで、皺加工をしたシフォンやクラッシュドヴェルベット、ヴェロアニットなどを用いて、アールヌーボーやビアズレーからインスパイアされたというプリントと合わせてみせた。

 

 最後は30年代のロンドンのナイトクラブシーンを彷彿とさせる、きらめくイブニングドレスを見せて、「アナ スイ」らしい世界観でまとめてみせた。

 

コーチ(COACH)

Courtesy of Coach

 

 「コーチ」は2024秋冬コレクションを、2月12日アッパーイーストにある旧邸宅ベンジャミンデュークハウスで行った。クリエイティブディレクターのスチュワート・ヴィヴァースは、今季、次世代が自分たちのイメージやニーズに合わせて、クラシックを再定義することをテーマにしたという。

 

 オープニングルックは、アップサイクルされたタフタのイブニングスカートで、大きなリボンの飾りが印象的だ。続くタキシードジャケットやトレンチコートなど、シルエットはオーバーサイズで、ビッグショルダー、そして丈もロングのシルエットが展開される。

 

 レザーのコート、スエードのフリンジ付きカウボーイジャケット、デニムジャケットには、インにフーデットパーカを合わせて、ストリートでカジュアルなスタイリングを提案。カーディガンジャケットをメンズが着こなすのも面白く、ボウ付きのキャミソールに、ジーンズを合わせるスタイルはZ世代に刺さりそうだ。スチュアート・ヴィヴァースは伝統的なクラシックなスタイルを解体して、今の空気感で再構築してみせた。

 

 バッグは極端に大きいオーバーサイズのバッグが魅力的で、レディースバッグのダブル使い、ヘビーなチャーム使いで、スタイリングしていたのが印象的だ。

 

マイケル・コース(MICHAEL KORS)

Courtesy of MICHAEL KORS

 

 「インスピレーション源は、祖母のウェディング写真だ」と、マイケル・コースは今季のプレビューでそう語った。そこからニューヨークを象徴するイメージを膨らませたという。

 

 キーとなるデザインはふたつ。ひとつはバイヤスカットを用いたフェミニンなラインだ。1930年代におけるキャロル・ロンバート、そしてケイト・モスやナオミ・キャンベルのシグネチャールックに受け継がれてく。もうひとつのラインが、かっちりと仕立てられたテイラードの系譜で、こちらは1930年代のキャサリン・ヘップバーン、そして90年代のキャロリン・バセットのイメージに継承されていく。そのふたつを組み合わせたのが、今季のコレクションのキールックであるという。

 

 「マイケル・コース」が2月12日、2024秋冬ランウェイの舞台としたのは、かつてオリジナルのバーニーズニューヨークがあった建物だ。バーニーズといえば、ニューヨークの都会的センスを代表するデパートであり、そこで買い物することがNY体験だったといえる。その象徴的なヴェニューで、ランウェイに流れるのは、アリシア・キーズの歌声であり、コレクションはニューヨークに賛歌を捧げるものとなった。

 

 オープニングルックは、美しくテイラードされたジャケットとスカートのスーツで、強い肩のラインを持ち、ウエストを絞り、そこに深いスリットを入れたタイトスカートを組みあわせて、都会のシャープな女性像を演出する。

 

 一方で、ランジェリーのようなスリップドレス、透けるレース素材のスカートを合わせて、「見せるセクシーさ」を添える。ウエストマークしたテイラードのジャケットスカートスーツには、インにブラックのジップアップフーディを合わせてスポーティさを打ち出した。テイラードのロングコートにはマキシ丈のドレスを合わせ、足もとはフラットシューズを合わせるスタイリングも絶妙だ。

 

 バイヤスカットのデニムスカートに、シアリングのトップを組みあわてスポーティに。そしてモンゴリアンラムのファーコートは、ブラッシュピンクの色彩が美しく、そこにスリップドレスを合わせてみせた。フィナーレを飾るのは、テイラードのタキシードジャケットに、長くトレーンを引くドレスの組み合わせで、まさしくフェミニンとマスキュリンの掛け合わせの象徴となった。

 

 全65ルックのうち、ほとんどはウィメンズのコレクションだが、数点メンズも披露した。アメリカンスポーツウェアの機能性とシンプルさを持ちつつ、ラグジュリアスに昇華させる「マイケル・コース」の強みが生かされていた。

 

トリー バーチ(Tory Burch)

Courtesy of Tory Burch

 

 「トリー バーチ」は、ニューヨーク市立図書館の長い回廊を使って、2024秋冬コレクションのランウェイを披露した。

 

 トリーは今季のコレクションでは新たなボリュームとシルエットを探求し続けたという。シルエットは幾何学的で、光沢のあるフェイククロコダイルレザーやコットンジャガードで作られたセットアップは、トップスも台形のシルエットで、スカートも四角いシルエットだ。

 

 オレンジやブルーのランプシェイド型のスカートには、ぴったりと頭を覆うビスコースのフーデッドニットを組み合わせるスタイリングを提案した。カーフヘア素材や薄いペーパーレザー、そしてコーテッドシルクの半透明のレインコートなど、素材のバラエティも面白い。

 

 フリルを用いたミニドレスは、一部のフリルがほどけているように細工され、また水玉模様をほどこしたナイロンタフタのスモックドレスも不均衡で、不完全の美を表現している。細いティンセルをつけたきらめくコートはインパクトがあり、フィナーレを飾るのにふさわしい存在感だった。

 

トム ブラウン(THOM BROWNE)

Courtesy of THOM BROWNE

 

 CFDAの会長も務めるトム・ブラウンは最終日の2月14日、ファッションウィークの最後を飾るウィメンズとメンズの2024秋冬コレクションを発表した。そのシアトリカルなショーは、他に類をみない圧倒的なクリエイティビティで拍手を浴びた。会場はハドソンヤードにあるイベントスペース「ザ・シェッド」。雪に見立てられた白い粉で埋めつくされて、そこに立つ巨大な木、その幹は特大のパッファージャケットで覆われている。

 

 そしてエドガーアランポーの詩「大鴉」を、女優のキャリークーンが朗読するなか、ランウェイが始まった。大鴉に扮したファーストルックは、ブラックのペンシルスカートに、ツイードのオーバーコートを羽織って、テールは燕尾にわかれている。詩が呼び起こすムードのように、モデルたちは蒼白で、奇妙な角のようなヘアをしており、ゴシック小説から抜け出したような不穏な空気がある。

 

 グログランリボンが垂れ下がっていたり、切り刻んだように布が下がったり、バックルがいくつもつくデザインは、いったんスーツを破壊して、それをまた再構築したようだ。また極端に両肩を落として、ウエストを絞ったスタイルなど、新しいシルエットの構築を試みが見られた。

 

 ラストルックはデボス加工のバラとブラックモアレのインターシャのカラスがあしらわれたゴールドのジャカードケープに身を包んだスタイルで、ケープを外すと、コルセット型スカートと手編みのゴールドカーディガンのルックとなって終わった。

 

 ショーの終わりには、昨年と同じくトム・ブラウンが、パートナーのアンドリュー・ボルトンに巨大なチョコレートの箱を捧げる場面もあり、多くの拍手を誘った。

 

 

 

取材・文:黒部エリ
画像:各ブランド提供
>>>2024秋冬ニューヨークコレクション

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