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2023.12.08
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.93】エアリーな工芸アートへ 職人技と極上素材を前面に 2024年春夏・パリ&ミラノコレクション
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写真左から「ルイ・ヴィトン」「プラダ」「ディオール」「フェンディ」
2024年春夏のパリ&ミラノコレクションは「手仕事美」と「エアリー」を打ち出した。ミニマルで飾り立てない「クワイエットラグジュアリー」はメインストリームに浮上。控えめさに格上イメージや上品な透け感を押し出すクリエーションが選ばれている。セットアップとドレスの増加がクラシックなムードの復活を示す。品格や流麗さを重んじるクリエーションの主役を担ったのは職人技のハンドクラフト。シルエットや色彩の主張を抑えつつ、丁寧な作り込みや透明感のある上質な素材を押し出す提案が相次いだ。
■パリ・コレクション
◆ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)
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エアリーでリュクスなムードにチャーミングな要素を投入した。シフォン系の薄手生地で仕立てたスカートをレイヤード。裾に表情を持たせてふんわりドレープを多用。ビッグシルエットの肩張りジャケットやボマージャケットと、コンパクトなボトムスとの量感コントラストを利かせている。ビスチェ風トップスでフィット&フレアを演出。チェック柄やストライプを組み合わせた柄ミックスが弾む。ミニ丈のシャツドレスや白タイツでガーリーなムードも。ボリューミーアウターとミニスカートでめりはりを出して、ほんのり未来的な「Y3K」感も醸し出している。太いベルトを腰の下に巻くアイデアや、首から提げたカメラバッグが60年代レトロ感を添えていた。
◆ディオール(DIOR)
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黒をキーカラーに据えて、エレガンスに反骨ムードを忍び込ませた。中世の魔女イメージから引いたダークな雰囲気に、凜としたムードが宿る。フェミニズムを貫くクリエーションは、既成の枠に収まらない人物像を描き出した。黒のジャケットとスカートで端正に整えつつ、白シャツは襟を立て、袖先をあふれさせている。ポインテッドトゥの靴はすねに何本ものストラップが巻き付き、レディー版グラディエーターブーツのよう。片方の肩を出すワンショルダーを繰り返した。透けるレースやフィッシュネット仕立てを多用して、ミステリアスな風情に。ボトムスのシースルーで艶美さを漂わせた。芯の強さとクラシックな品格をねじり合わせて、しなやかな反逆者の装いに仕上げている。
◆ミュウミュウ(MIU MIU)
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◆ミュウミュウ(MIU MIU)
ブレザーとスイムウエアを交わらせ、プレッピーを崩したリミックス手法を軸に据えた。フォーマル×スポーツのミックステイストに、メンズ風水着ショーツを持ち込んだ。色柄シャツにポロシャツを重ねるレイヤードも繰り返した。トレンドセッターとしてブームを呼び込んだショートボトムスを連打。ブルマー風やチュチュ風はどれもマイクロミニ丈で、テーラードジャケットとのずれ感を醸し出している。ドローストリングスのハーフパンツで装いの重心を下げるローウエスト演出が続く。極太ベルトも低く巻いている。アンダーウエアを腰からのぞかせ、ウエストのロゴを露出してサーファー感を添えた。ルーズなプレッピーに気負わないバカンス気分を上乗せしている。
◆ヴァレンティノ(VALENTINO)
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素肌のヌーディー感を引き出すカットアウトを多用して、上品で涼やかなルックに仕上げている。白のミニドレスは花柄モチーフで全身を包んで、あちこちにくり抜きを施して、素肌美を高めている。手の込んだ、浮き彫り風の刺繍が立体的な起伏をもたらした。ワンピースは両脇を大胆にカットアウトし、スカートも腰までスリットが入る。センシュアルでありつつ、クリーンなたたずまいだ。オーバーサイズのジャケットはボトムレス風のスタイリング。ブラトップにジャケット、ハーフパンツというアクティブな組み合わせも見せた。丁寧なハンドクラフトが注ぎ込まれ、シンプルなパンツスーツにもクチュール感が漂う。
■ミラノ・コレクション
◆プラダ(PRADA)
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手仕事感の高いルックでミニマルな装いにエッジをきかせた。シャツライクな薄手ジャケットは裾を、マイクロミニ丈のセットアップ・パンツにウエストイン。ベルトは余った端を長く垂らして、落ち感を強めた。ソックスと革靴はスクールガール風にアレンジ。ペールトーンやピンク、ブルーのドレスに霞がかかったかのような羽衣風シアーレイヤードを披露。シャツジャケットの袖はトゥーマッチなほどに長く太い。ウエストからロングフリンジを垂らして、ショートパンツに動きを上乗せ。ワークウエア風ブルゾンはユーズド感を帯びた。職人技を注ぎ込み、クリスタルやスタッズをちりばめている。テーラリングとパンク風味の交差がスリリングだ。
◆グッチ(GUCCI)
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リラックスグラマラスを打ち出したのは、新クリエイティブ・ディレクターのサバト・デ・サルノのデビューコレクションだ。シルエットはミニマルに整えつつ、ディテールや質感でリュクスを奏でている。主役はマイクロミニ丈のショートパンツ。セットアップに組み込んで、テーラードジャケットとのマリアージュを試している。ミニドレスも繰り返し披露。スウェット風ブルゾンはつやめきレザースカートと引き合わせた。コートの両袖と裾にはたっぷりのフリンジを垂らしてリズミカルに弾ませている。伝統のホースビット・ローファーはスーパー厚底に進化。襟ぐりの深いタンクトップがヘルシーセクシー。トム・フォード感とリアルクローズをねじり合わせたようなスタイリングを打ち出した。
◆フェンディ(FENDI)
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ボディラインをしなやかに描き出す細身のドレスを軸に、クワイエットラグジュアリーを掘り下げた。ベアショルダーや肩カットアウトで素肌感を添え、ニットウエアも胸元でカットアウト。着物の帯を垂らしたようなパネル使いでウエスト周りに動きをプラス。ニットを巻き付けたり結んだりして起伏をもたらしている。軽やかなアウターを重ねてエアリーなレイヤードに。カラーブロッキングで気品とドラマ性を両立させた。パッチワーク風トリコロールが装いを弾ませている。Fの字ロゴもマルチカラーのモチーフに組み入れた。赤のグローブでノーブルな差し色を利かせて、しっとりしたエレガンスを薫らせている。
◆ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)
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工芸アートの領域へいざなった。シグネチャー技法のレザー編み込み「イントレチャート」を拡張したうえで、クリエーションの柱に迎えている。リゾート気分のかご編みバッグも用意した。総レザー仕立ての真っ赤なベアショルダー・ドレスやボディに巻き付けるようにまとうジャケットを披露。レザードレスはストライプ柄が斜めに流れる。革と布の異素材ミックスも試した。抽象的なオブジェ風のフォルムが生命感を宿す。キーディテールはフリンジ。裾をはじめ、あちこちにあしらい、球状のフリンジボールも配した。モチーフが多彩で、旅心を誘う。レザーの職人技が秘める表現力をいっぱいに引き出して、手仕事クチュールの可能性を印象付けた。
パリ&ミラノに共通していたのは、エアリーで軽やかな装い。「地球沸騰」を受けて、さわやかな着心地を望むウェルビーイング志向が背景にある。マイクロ丈ボトムスやカットアウトの盛り上がりは象徴的だ。ミニマルでライトな装いを格上げする、職人技の深掘りがクラス感を押し上げた。ミニマルの台頭で、流れ落ちるほっそりシルエットも勢いづいている。その一方で芯の強さや自立性、自分らしさを、「崩しプレッピー」のようなリミックスの形で表す試みが続く。アート性、コンフォート、タイムレスを求める志向がさらに強まり、春夏モードは涼しさと洗練、工芸を融け合わせる方向に加速していきそうだ。
画像:各ブランド提供
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宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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