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2023.08.01

「Myne」から「KAMIYA」へ、海外市場を視野にクリエイションの新章を開く

 ソスウが展開する「MYne(マイン)」は今年7月、2018年からディレクションを手掛けてきた神谷康司の名を冠した「KAMIYA(カミヤ)」にブランド名を変更する。「Maison MIHARA YASUHIRO(メゾン ミハラヤスヒロ)」のDNAを受け継いだストリートブランドとしてユース世代を中心に支持の厚いブランドだ。神谷がディレクションを担当してからは、ビンテージのワークウェアをベースにトレンドと掛け合わせ、ヒップホップをはじめとする音楽からの刺激も反映させるなどサンプリングによるアプローチで、よりストリート色を強めた。名称変更を機に「神谷色」をさらに強めていく。自身の名をブランド名にした経緯、服作りで意識していること、海外展開など今後の取り組みついて、神谷に聞いた。

神谷康司(かみや・こうじ) KAMIYA デザイナー
1995年、愛知県生まれ。2016年、ソスウに入社。「MYne(マイン)」の直営店で販売スタッフとして勤務。19年春夏コレクションよりマインのディレクターに就任。22年、旗艦店「THE PHARCYDE(ザ ファーサイド)」を中目黒に出店。23年、マインを「KAMIYA(カミヤ)に改称し、海外展開も本格化する。

より自分らしく、個性を進化させる

 

 

 

 ――「MYne(マイン)」の2代目ディレクターとして4年が経ち、昨年は旗艦店の「THE PHARCYDE(ザ ファーサイド)」を出店、そして今年はマインを「KAMIYA(カミヤ)」へと改称。3月にコレクションの一部を先行発表しましたが、ちょっと驚きました。

 

 公式には2023-24年秋冬シーズンからカミヤとして活動します。僕はマインが立ち上がった16年に販売スタッフとして入り、18年からディレクションを手掛けています。マインはモード、ストリート、スポーツのテイストを軸としたエッジの効いたデザインが特徴ですが、僕が引き継いでからは自分の中のマイン像を追求してきました。ビンテージのワークウェアを中心としたアメカジをベースに、ヒップホップやファンク、ソウルなど僕自身の音楽ルーツからエッセンスを取り入れ、今のストリートカルチャーを服として体現しています。そこは僕がディレクションをしてからの大きな変化であり、これからカミヤで進化させていくべき個性と捉えています。

  • 「KAMIYA(カミヤ)」としてコレクションを先行発表した今年3月の展示会

――より自分らしい表現を追求していくという思いから、自身の名前を冠したブランド名に変えたのですか。

 

その思いはありました。大きなきっかけは三原(三原康裕ソスウ代表取締役)の一言――「ブランドの名前を変更してみないか」でした。もちろん次へのきっかけを自分から作らないといけないとは思っていて、もっと自分らしさを出していきたいという思いが強まっていた時期でもあったんです。

 

――ちょうどよいタイミングで三原さんが背中を押したかっこうになった。

 

そうですね。ブランド名の変更を正式に決めたのは、マインの23年春夏シーズンに向けた服作りに入るタイミングでした。最初は正直なところ、ちょっと恥ずかしかったんですけど、カミヤとしてやっていくという思いを持ってサンプルを作り込んでいく過程でしっくりしてきたんです。で、完成したコレクションを発表すると、想像していた以上に反応が良かったんですね。今はめちゃくちゃ覚悟ができています。

  • シューレースを編んだ、手編みニットベスト(23年春夏/マイン)

  • 葛飾北斎の「八方睨み鳳凰図」をモチーフに、刺繍で表現したジャケット(23年春夏/マイン)

一気に高まった海外からの評価

 

 

 

 ――23年春夏コレクションでは、新たな販路を開拓できているということ?

 

 はい。特に海外からの反応をたくさん貰えました。以前からルックなどの資料を送ってはいたんですけど、今回は「すごくいい」という声が続々と届き、「継続して買い付けたい」という要望もいただけました。

 

 ――カミヤとしては本格的に海外市場を狙っていく。

 

 例えば韓国は国内に日本のように大きな市場がないので、K-POPなどは最初から世界戦略ですよね。ファッションブランドのルック制作にも必ずアートディレクターが入って、みんながディスカッションをしながら世界観を作り上げていくといいます。日本の場合はそういうことが少なく、日本で売れてから海外を目指す傾向が根強くあります。カミヤになることを想定した23年春夏コレクションでは、服作りもルックなどのビジュアル制作も海外へ向けたクリエイションを強めました。そこも海外のバイヤーに評価された理由の一つだと思っています。国内の卸先にも変化が見られました。その中で今年3月にカミヤのコレクションの一部を先行してお披露目したんですね。

  • マインの23年春夏で最もヒットした「ウェーブデニムジャケット」

  • 綿のツイード生地を使ったハーフコート(23年春夏/マイン)

 ――そして7月にいよいよ公式にカミヤをスタートさせ、8月から23-24年秋冬コレクションを本格展開します。

 シーズンテーマは「NEW JACK(ニュージャック)」としました。ブラックミュージックのカテゴリーである「NEW JACK SWING(ニュージャックスウィング)」が語源で、直訳すると「新しい奴のスウィング」。伝統的なR&Bと新たな波になっていたヒップホップの技法であるラップをミックスしたサウンドとも言われ、80年代半ばから90年代にかけてアメリカのミュージックシーンを席捲し、「新しい世代・時代を代表するビート」と称されました。僕の服作りへのアプローチ、そしてマインからカミヤへ生まれ変わった自分自身の現在との親和性を感じて、ニュージャックを「キャリアのある新参者」と意訳し、テーマにしたんです。コレクションは、従来の服作りの概念にとらわれないアプローチと、僕らの世代特有のファットなシルエットが特徴になっています。ダック地にハードなダメージ加工やブリーチ加工を施したワークパンツやベスト、ビンテージさながらのくたくたな表情をしたTシャツやフーディー、シューレースを編み込んだニットなど、僕自身の中にあるクリエイションの幅をより自由に表現しました。

 

  • 「KAMIYA(カミヤ)」の23-24秋冬コレクション

コレクションは1枚のアルバム、音楽として洋服を作る

 

 

 

 ――神谷さんはビンテージのワークウェアなどアメカジを服作りのリソースとしています。結構、収集しているのですか。

 

 べらぼうにたくさん持っているわけではないけれど、ビンテージ物はいろんなところから個人的に買い集めていて、時代が比較的新しい古着も気になるデザインを中心に古着ショップでチョイスしています。そうやって集めた古着を新しい服のベースにしたり、ディテールを生かしたり。古着自体を解体して、分析することもあります。僕は服飾学校でパターンの勉強をしたわけではないので、自分がイメージしたファッション表現をブラッシュアップしていくために必要だと思ったからです。昔の服のビジュアルなどの資料も神保町で漁っています。まだまだ学びは必要ですが、服の表現を成り立たせている構造が自分の中でかなり整理されてきました。

 

 ――服作りで大事にしていることは何ですか。

 

 僕自身が絶対に着たいと思えるか。それが一番大きなフィルターとしてあります。例えばテーパードのワークパンツをベースにしたとすると、あえてヒップ回りを大きくとって腰穿きができるバギースタイルにするとか、思い切って寸胴のシルエットに変更してオールドスクールな穿き方ができるようにするとか、「絶対に着たい」と思えるものにチューニングしていくんです。ヒップホップで言うサンプリングですね。

 

 ――22年8月に出店した旗艦店「THE PHARCYDE(ザ ファーサイド)」も、アメリカのヒップホップグループの名称です。

 

 カミヤになってからも大切な拠点です。ファーサイドの楽曲を作っていたJ.ディラが、僕にとってはカリスマ的存在なんですよ。様々な時代のファンクやソウル、ジャズなど多様な楽曲をサンプリングすることでヒップホップを構築していく。かなり影響を受けているので、僕の服の作り方もそういうスタイルになっていました。この年代のビンテージ服のこのディテールってカッコいいな。でも、そのまま使っても野暮ったいな。そこで異なる要素を足し算したり、引き算したりして、今の感覚に変換していく。言ってみれば、僕は音楽として洋服を作っているんですね。シーズンコレクションは1枚のアルバム。全体を構成する1曲、1曲をみんなに楽しんでもらうという感覚です。

 

  • 2022年8月に出店した旗艦店「THE PHARCYDE(ザ ファーサイド)」

 ――アルバムでは曲順も大事だったりします。

 

 そこまでは考えてこなかったのですが、24年春夏シーズンはカミヤとしてのランウェイショーを想定しているので、「曲順」もかなり意識して作り込んでいます。その過程で、ソウルミュージシャンのビリー・プレストンが1974年に発表した「Nothing from Nothing」と出会ったんですね。すごくピースフルな曲で、すごくハッピーなエンディングになっていて、今、一番好きな楽曲です。「無からは何も生まれない」という意味なんですけど、これを次のテーマにしようと考えています。

 

 ――インプットしないとアウトプットもできない、とも言えますね。

 

 そうなんです。僕は現在28歳ですが、卸先のセレクトショップで10代、20代前半の若いお客さんとよく話をします。そのときに「何かをしたいと思っているけど、何もできない」という相談を受けることがよくあるんです。でも、今はインスタグラムもあれば、TikTokもありますよね。いくらでも発信できるのに、肝心な「何か」はやっていなくて、仲間内でチルアウトしていたりする。何かを自分で始めないと、何も生まれないじゃないですか。そういうメッセージを伝えていくに当たって、僕のバックボーンって親しみやすいんじゃないかと思うんですよ。マインの販売から始めて、服作りを学んで、自分のやり方を構築していって、様々な人たちに支えられて、現在はコレクションを評価していただいている。既成のコースを歩んできていないからこそ、僕が伝えられることがあるのではないか。そのメッセージとして「Nothing from Nothing」を服に体現していきたい。

 

写真/遠藤純、ソスウ提供
取材・文/久保雅裕

 

■関連リンク
KAMIYA 公式Instagram:https://www.instagram.com/kamiya___official/
THE PHARCYDE 公式Instagram:https://www.instagram.com/the_pharcyde.official/

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

 

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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この記事は「encore(アンコール)」より提供を受けて配信しております。

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