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2023.07.25
【2024春夏パリメンズ 展示会レポート2】日本ブランドが各所で展示会・ショールームを開催
2024春夏シーズンのパリ・メンズファッションウィーク中にパリ市内各所で日本ブランドがショールームを開催した。主にマレ地区で披露するブランドが多く、個別からコレクティブショールームまで、日本からのプレゼンスが高まっていると感じられた。
そもそもパリのセールス時期における日本のメンズブランドの定評は高く、「アンダーカバー」や「カラー」「メゾン・ミハラヤスヒロ」などコレクションブランドが、そのイメージ向上に貢献してきた。
彼らの次世代が育ってないという指摘もあるが、日本人メンズデザイナーの公式スケジュールでのコレクション発表やオフスケジュールでの展示会開催などは増えるばかりだ。これらのことから世界のセレクトショップが評価する中堅ブランドが着実に増えているのは間違いない。
さらにコロナ下を潜り抜けて、回復期へと向かう今日、円安の追い風に吹かれて、確実に攻勢に出るべき時期に来たとも言える。そんな期待がかかる2024春夏シーズンを回った。
ショールームトーキョー・イン・パリ
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ショールームトーキョー・イン・パリの入口
「東京ファッションアワード(TOKYO FASHION AWARD/TFA)」の「ショールームトーキョー・イン・パリ(showroom.tokyo in Paris)」は、6月22~27日にフィユ・デュ・カルベール駅近くの会場で開かれた。第8回受賞デザイナーから「イレニサ(IRENISA)」「コッキ(KHOKI)」「タナカ(TANAKA)」「テンダーパーソン(TENDER PERSON)」が、第7回受賞デザイナーから「ダイリク(DAIRIKU)」「キディル(KIDILL)」「ヨーク(YOKE)」が参加した。
主催する一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)の今城薫コレクション事業ディレクターは、「バイヤー、プレス、インフルエンサーなど約120組が来場。うち海外のバイヤーは70組で、香港、韓国などアジアが多く、欧米ではイタリアが多かった」と語った。欧米からは「カナダのオンラインショップエッセンスやドーバーストリートマーケットのロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルスの各店、米国エイチロレンツォなど有力店もアポが入った」とし、中東のドバイなどからも来訪があったという。
バイイングの傾向については、「アジアは、素材の良さなどに理解を示し、欧米は見た目が派手なものを好む」と分析する。
悩ましい課題は円安だ。東京都の予算組みの時期から比べても大きく円安に振れているため、当初の予算で収めることが難しくなってきている。円安は、輸出の価格面では追い風となるが、渡航費、輸送費、滞在費、そして何よりもスペースのレンタル代などセールス面での支出が大きく狂うことになる。「東京の旬なブランドが見られるショールームとして定着してきており、継続することが大切なので、東京都に結果報告しつつ、来年もメンズ・ウィメンズ4組ずつで、予算を継続してもらうよう働きかけていく」としている。
■イレニサ(IRENISA)
「イレニサ」は香港、韓国などアジア圏からの引き合いが多かったという。ミラノの「ディエチ・コルソコモ」も来展し、2~3件のオーダーが期待できるそう。
「モト(moto)」とコラボした取り外しできるレザーポケットが付いたコットンツイードのブルゾン(105,000円/以下全て税別/小売価格)と刷毛で引き染めし、星空のように見えるキュプラ・ウールのノースリーブシャツ(46,000円)が人気だったという。
■タナカ(TANAKA)
「タナカ」は、ミラノの契約ショールームのアポを含めると40件ほどの来展。韓国、香港、中国などアジア圏以外に、ベルギー、トルコ、ロシア、フランス、オーストリアなど広範囲だ。
一枚の布にプリーツを掛け、ドレープを捻るなどして作った「ワンピース・オブ・クローズ」は、「一つ」を強調することで平和への願いを込めた。同様にハンドステンシルで平和を象徴する鳩をペイントした前垂れ付きデニムジーンズもイチオシの商品だ。
■テンダーパーソン(TENDER PERSON)
「2回目も見てもらえると良い反応が取れて、続けていくことの大切さを感じる」と話す「テンダーパーソン」の両デザイナー。「手編み、エアブラシ、カッティング、フォトフレームなのか、好き嫌いがはっきりと分かり、今季の方が手ごたえを感じる」とし、韓国、英国、イタリア、中国などから引き合いがある。
レーザーでパンチングしたトレンチコート(200,000円)やヨハネ、キリスト、エンジェルをインクジェットプリントしたデニムジャケット(80000円)、ジーンズ(60000円)が好評だったという。
■コッキ(KHOKI)
「コッキ」は、得意のインドの刺し子、カンタキルトが目立った。
■ヨーク(YORK)
「ヨーク」は、「薄いものを求めている人が多い」と温暖化傾向を実感している様子だ。韓国、香港、中国のほか、カナダ、米国、フランス、ロシア、オーストリアなど13件ほどと商談が進んだ。
(写真左から)フロッキー加工を施したカットジャカードのステンカラーコート(98000円)、4つの織り組織で組んだチェック柄のハーフコート(72000円)、途中で途切れるダブルステッチをポケットや前立ての縁に施したサマーウールジャケット(68000円)などが好評だった。
■キディル(KIDILL)
メンズコレクション初日の6月20日にショーを行った「キディル」は、着実に知名度が上がっている。
■ダイリク(DAIRIKU)
「ダイリク」はフランスから帰国後、ショーを開いた。
TFA卒業組や有力ブランドを集めた日本ブランドショールームも活躍
「ロブスターショールーム(Lobster showroom)」は、「エフシーイー(F/CE)」「チノ(CINOH)」「エムエーエスユー(MASU)」が参加するコレクティブショールームだ。ショールームトーキョー・イン・パリの一つ南側のコミンヌ通りで、6月21~26日に開いた。
■エフシーイー(F/CE)
販売先が欧州に強い「エフシーイー」は、今季30件程度の受注を見込む。デザイナー自らが今夏から拠点を移す英国、さらにはドイツ、イタリア、スペイン、ノルウェー、オランダなどに続き、カナダ、米国、韓国、中国からも引き合いがある。特にアウター系の動きが良く、夏も肌寒い地域から好評を得ているという。
左からロープ柄のメッシュプルシャツ(34,000円)、ペーズリー柄カットジャカードのプルオーバー(32,000円)とパンツ(36,000円)の反応が良かった。
■エムエーエスユー(MASU)
「エムエーエスユー」は、今年1月展で3~4件増の10件程度の取引ができ、今季もそれを維持したいという。「何かしらアピールを強めないといけない」という思いだったところに米国のフォロワーの多いラッパーからコンタクトがあり、SNS発信の強化に取り組むことにしたという。
イチオシは、左から全面にフロッキー加工を施したボンディングのカットソー素材をGジャン風にしたトラッカージャケット(63,000円)と桐生産地で作ったカットジャカードのパンツ(58,000円)。
■チノ(CINOH)
昨年1月からパリ出展を再開した「チノ」は、コロナ前と変わらず10件程度の取引だ。韓国、シンガポール、中国、香港などアジア中心にカナダなどから引き合いがある。
コロナ直前に望んでいた有力店が決まり、納品後、2020秋冬がキャンセルとなった苦い経験もあり、「もう一度、一からやっていくしかないという気持ちで今季臨んでいる」という。
■アンドワンダー(and wander)
アングローバルの「アンドワンダー」は、ショールームトーキョー・イン・パリの隣の路面ギャラリーで開催した。アウトドアに強いブランドだけにリュックサックのバリエーションが豊富で引き合いも強いという。
■デジマ・ショールーム(DeJIMa showroom)
「デジマ・ショールーム」は、スペイン・マドリード在住日本人による日本と海外のブランドを集めたコレクティブショールームで6月22~28日、マレ地区西部のトゥルビゴ通りで開いた。今回はロンドンで学んだ中南響による「ヒビキナカミナミ(HIBIKI NAKAMINAMI)」も参加した。
30ヶ国、約100社へ卸販売広げるビームス
ビームスは、09年から「ビームス プラス」の海外卸をスタートし、長年に渡ってオンラインで卸事業を継続してきた。更なる拡大を目指し、コロナ禍直前の20年1月にパリで初めての展示会を開催し、20社程との取引が決まり、時を同じくして「ジョア(JOOR)」の導入も始めた。渡航が厳しくなった20年6月からは「ジョア」でのオンラインオーダーに切り替えて取引を継続し、「ビームス プラス」以外にも一部のブランドで海外卸事業をスタート。2年半ぶりにリアル開催した2023春夏(22年6月展)には「ビームス プラス」に加えて「ビームス ジャパン」と「ピルグリム サーフ+サプライ」も参加。今季のパリ展は、前シーズンから始めた「インターナショナルギャラリー ビームス」と合わせて4ブランドが参加した。
そもそも同社は、14年のル・ボンマルシェへのポップアップ出店や16年マレ地区でのポップアップストア開催などで、パリでのプレゼンス向上に努めてきた。さらに2019春夏、「ビームス プラス」でのコペンハーゲンのトレードショー「コペンハーゲン・インターナショナルファッションフェア(CIFF)」出展がパリ展へと繋がるチャレンジとなったのだろう。
今季は100社以上と商談するまでに至り、取引先は英国、フランス、ドイツ、デンマーク、スペイン、イタリア、米国、カナダ、オーストラリアなど欧米各国に加え、中国、シンガポールなど30ヶ国に及ぶ。
今後の課題は「ビームス プラスに次ぐブランドを育てることと、世界の受発注時期に合わせるようにサンプル、生産時期を組み立てていくこと」とビームス経営企画室/グローバル戦略部の村野結里さんは語った。
(写真左から)展示会場で商品説明をするインターナショナルギャラリービームスの服部隆PD本部メ
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メイン商材となるビームスプラスの展示会場
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メイン商材となるビームスプラスのディスプレイ
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コロナ下のジョアで取引を繋げてきたビームスジャパンでは、招き猫や招き犬、けん玉、提灯など日本の伝統文化に紐づいた商品が喜ばれる
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コロナ下のジョアで取引を繋げてきたビームスジャパンでは、招き猫や招き犬、けん玉、提灯など日本の伝統文化に紐づいた商品が喜ばれる
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卸販売を強化するインターナショナルギャラリービームス
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インターナショナルギャラリービームスの服部隆ディレクター
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インターナショナルギャラリービームスの関根陽介バイヤー
オールジャパンで臨む体制が必要
ショールームレベルでも多くの日本ブランドが出展しているパリ・メンズファッションウィークだが、韓国や英国、北欧などと比べてプレゼンスが高いとは感じられない。それは国全体としての押し出し、プロモーションが欠落している点にありそうだ。以前ジェトロ(日本貿易振興機構)が取り組んだマップのような日本ブランドの出展者リストをデジタル施策含めて復活させるのも一考ではなかろうか。
ただ、ジェトロ支援のブランドのみしか載っていなかった経緯も考えると「オールジャパン」で臨むような体制が必要だ。「ショールームトーキョー」は、それ単体としては、東京都とJFWOによる団体としての出展になるが、個別のブランドショールームやコレクティブショールーム、それら全てを包含した網羅的なプロモーションができないものか。個々のデザイナーの表現方法は尊重するとして、国全体がまとまった形でプロモーションできれば、「大きな後押しになるのでは」と感じた。
円安による出展コストの上昇がハードルを高くしているが、一方で割安感の追い風を生かすチャンスも逃したくはない。海外進出の好機は、すぐそこまで来ている。
取材・写真・文/久保雅裕(ファッションジャーナリスト)
アナログフィルター「ジュルナル・クボッチ」編集長/杉野服飾大学特任教授/東京ファッションデザイナー協議会(CFD TOKYO)代表理事・議長
ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。「senken h」を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。
大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア「Journal Cubocci」を運営。2017年からSMART USENにて「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」ラジオパーソナリティー、2018年から「毎日ファッション大賞」推薦委員、2019年からUSEN「encoremode」コントリビューティングエディターに就任。2022年7月、CFD TOKYO代表理事・議長に就任。この他、共同通信やFashionsnap.comなどにも執筆・寄稿している。
コンサルティングや講演活動の他、別会社でパリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストアの開催、合同展「SOLEIL TOKYO」も主催するなどしてきた。日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。
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