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2023.07.22

【2024春夏パリメンズ展示会レポート1】ウェルカムエディションが最大規模のトレードショーにのし上がる

 2023年6月20日から25日まで開催された2024春夏シーズンのパリメンズ・ファッションウィーク。同時期に開催されたメンズのトレードショーは、「ウェルカムエディション (Welcome EDTION)」「マン(MAN)」「トラノイ (TRANOI)」の3展。総出展者数で見ると、2015春夏(14年6月)から比べて、この9年間で4掛けとなった。612ブランドから242ブランドへという凋落(ちょうらく)ぶりだ。4年前の2020春夏、299ブランドと比べても8掛けと、まだコロナ前を回復できていないのが分かる。

※コロナ下の3年間については正確なデータが掴めていない為、0とした。

今季最大規模となった「ウェルカムエディション」

  • 簡易冷房が設置されているとはいえ、3~4階は暑さとの戦いとなったウェルカムエディション

 ヘリテージ系ブランドを集めた「ウェルカムエディション」は、バスチーユ広場近くの建物の4フロアを使い、113ブランドを集めて、「マン」、「トラノイ」を抑え最大規模となった。日本からの出展は16ブランド。

 

 18年に終了した「カプセル・パリ」や同じく展示会を取りやめた「ジャケットリクァイヤード」の一部出展者を引き継いでスタートした同展は、4回目の開催となったコロナ前の2020春夏には、70ブランドの出展者数となった。コロナ明けの再開時ともなった2023春夏には、約50ブランドの出展があったと目されている。コロナ以前の2020春夏と比べて61.4%増となった今シーズンだが、主催者は「これ以上の拡大は望んでいない」様子で、今後増えても130ブランド程度に収めると見られる。

  • アウターリミッツが全面的に展開する「ナイジェルケーボン」は、ウェルカムエディションの常連だ。

  • マンから移ってきた日本ブランドの「ティーエスエス(Ts(s))」

デザイン・モード寄りのブランドに絞り込んだ「トラノイ」

  • ラ・ゲテ・リリックに会場を移して開かれたトラノイ

 20年にパリの素材総合見本市「プルミエールビジョン (PREMIERE VISION)」を主催するGLイベンツ傘下となり、仏オートクチュール・モード連盟唯一の公認トレードショーと位置付けられている「トラノイ」は、会場をマレ地区西部、レオミュール・セバストポール駅近くの「ラ・ゲテ・リリック (LA GAITE LYRIQUE)」に移し、絞り込んだ55ブランドで開催した。日本からの出展は無かった。

 9年前と比べて85.9%減だが、当時はウィメンズのトラノイ・プレビューも含まれており、「50ブランド程度に絞り込む」という方針変更もあるため、単純な比較はできない。コロナ前と比べても38.2%減となっている。今シーズンも引き続き「ソウルファッションウィーク」のパビリオン出展や複数のショールームを導入。単独出展も含めると11ブランドが韓国から出展していた。

 またポルトガルのコーナーを設置するとともに、「コンテンポラリー」「フレンチクリエーション」などテーマ別のコーナー展開も施し、デザイン・モード寄りの展示会という位置付けが明確になってきた。

 

  • 「ソウルファッションウィーク」のパビリオン

  • 「ソウルファッションウィーク」のパビリオン

  • ポルトガルの出展者を集めたゾーンを開設

  • コンテンポラリーのコーナー

ウェルカムエディションより幅広いカジュアルのイメージが強まった「マン」

  • コロナ前の最盛期から半減したマン

  • マンに復帰したジャンブル・パリの出展は8ブランド

 「マン」は、ヴァンドーム広場の南西角にある「パビヨン・ヴァンドーム」の1階と地下を使用し、74ブランドが出展した。以前はトラノイ同様にマン/ウーマンとしてウィメンズのプレコレも出展していた為、9年前と比べると同程度を維持した格好だが、20年春夏比では、47.1%減となった。ウェルカムエディションよりは、幅広いカジュアルウェアというポジションが明確になってきた。

 日本からの出展は、16ブランド。今季から日本の「ジャンブル東京(JUMBLE Tokyo)」が復活し、8ブランドが出展した。コロナ前、20年1月展の27ブランドには遠く及ばないが、嬉しいニュースだ。「来年1月には、助成金も活用し、出展ブランドを増やす」(北田真二ジャンブル代表)という。

  • ジャンブル・パリに出展した「FDMTL」

  • ジャンブル・パリに出展した「FDMTL」

  • ジャンブル・パリに出展した「ナーディー」

  • ジャンブル・パリに出展した「ナーディー」

  • ジャンブル・パリに出展した「マスターピース」

 「マン」に初出展したアングローバルの「キタン (quitan)」とデザイナーの宮田ヴィクトリア紗枝さん。奄美大島の泥染めヘンプや滋賀で水撚りしたリネンジョーゼットなどナチュラルで素朴な風合いの素材を得意としている。

スイム・リゾートウェアのトレードショー「スプラッシュ・パリ」

 ウィメンズ分野となるが、スイム・リゾートウェアのトレードショー「スプラッシュ・パリ」が約100ブランドを集めて、マレ地区の「ル・カロー・デュ・タンプル(Le Carreau du Temple)」で開かれた。

 

 

 

メンズ3展のキャラクターが明確に

 

 総じて、メンズ3展のキャラクターがはっきりしてきて、出展者側からするとその選択肢が明確になったと言える。

 一方で来場者の層を考えると、いまだ中国からのバイヤーが殆ど見受けられず、その帰趨(きすう)次第で出展する価値が図られるのも仕方のないところだ。欧米や東南アジアの復調と言われても、卸ビジネスのバイイングパワーの強さを感じられるところまでには至っていない。それは単なる景気の加減なのか、それとも大きな構造変化の前兆なのか。

 気候変動、ファッション産業がもたらす環境負荷、グローバルサウスと先進国の確執、ウクライナ戦争、富の一極集中とマネー資本主義の過熱など、様々な要素に目を配り、熟慮しながら見極めていかねばならない。

 

 

 

取材・写真・文/久保雅裕(ファッションジャーナリスト)

アナログフィルター「ジュルナル・クボッチ」編集長/杉野服飾大学特任教授/東京ファッションデザイナー協議会(CFD TOKYO)代表理事・議長

 ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。「senken h」を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。

 大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア「Journal Cubocci」を運営。2017年からSMART USENにて「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」ラジオパーソナリティー、2018年から「毎日ファッション大賞」推薦委員、2019年からUSEN「encoremode」コントリビューティングエディターに就任。2022年7月、CFD TOKYO代表理事・議長に就任。この他、共同通信やFashionsnap.comなどにも執筆・寄稿している。

 コンサルティングや講演活動の他、別会社でパリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストアの開催、合同展「SOLEIL TOKYO」も主催するなどしてきた。日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。

 

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