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2023.07.12

【2023秋冬パリオートクチュール ハイライト】オートクチュールの技術で創造するシンプリシティとライトネス

シャルル ドゥ ヴィルモラン(CHARLES DE VILMORIN)

「シャルル ドゥ ヴィルモラン」2023秋冬コレクション

 
 今後が期待される若手クチュリエと目されるシャルル・ドゥ・ヴィルモランは、リシュリュウ通りにある工事中の建築物内で初のランウェイショーを開催した。若いモデルに交じって、イネス・ドゥ・ラ・フレサンジュが久々にランウェイに登場して話題に。年齢を感じさせないウォーキングで、会場内から大きな拍手が起きた。
 
 シャルル・ドゥ・ヴィルモランは、クチュール組合によるファッションスクール「サンディカ」卒業後に自己のクチュールコレクションを発表して脚光を浴び、2021年に24歳にして「ロシャス(ROCHAS)」のアーティスティック・ディレクターに就任。家系的に恵まれた環境にあり、シャトレ地区の園芸店「ヴィルモラン」を経営する家族に生まれ、ジャン・コクトーやオーソン・ウェルズと浮名を流し、アンドレ・マルローを伴侶とした著述家、ルイーズ・ドゥ・ヴィルモランを大叔母に持つ血筋。
 
 アーティスティックかつグラフィカルなモチーフを自在に操る作風は健在で、各ルックに合わせられた動物モチーフのオブジェ的なアクセサリーや、ドレスに合わせられた仮面、いくつかのルックを彩る狂気を感じさせるプリントにその持ち味が生かされていた。
 
 オートクチュールというカテゴリーにあっても、シルエットはモダンでその手法は斬新。数少ない新進クチュリエとして、今後も注目して行きたい。

 

ユイマナカザト(YUIMA NAKAZATO)

「ユイマナカザト」2023秋冬コレクション

 

 
 鉱物が触れ合うように音が流れてショーがスタートした、中里唯馬による「ユイマナカザト」。モデルが登場して初めて、その音がセラミックのビーズを繋いだアクセサリーから発する音であるとわかる。会場となったパレ・ド・トーキョーの床には、鉱物の断面のようなモチーフの床材が敷き詰められ、天井からは一見岩のような不織布のオブジェが吊り下げられている。モデルたちはロングシルエットのドレスやコートドレスで、不織布のオブジェを縫うようにウォーキング。
 
 前シーズンに引き続きアフリカへの旅からインスパイアされ、コレクションタイトルを“Magma”と題した。赤や黒は大地の色を表わし、様々なアクセサリーはアフリカを想起。
 
 シフォンをカットして羽のようにあしらったケープや、形状記憶素材による葉のようなパーツを吊り下げたドレスは、オートクチュールらしいルックで目を引いたアイテム群。
 
 床に敷き詰められたプリントや天井から吊り下げられたオブジェ、あるいは大振りのコート、裃のようなパンツは、エプソンとの共同開発による不織布素材によるもので、中里がアフリカから持ち帰った古着を、水を使うことなく再生させたもの。そして持続可能な顔料インクを用いてプリントを施している。今季もエプソンとの協業がキーとなっていた。
 

ヴィクター&ロルフ(Viktor&Rolf)

「ヴィクター&ロルフ」2023秋冬コレクション

 
 クチュール界のシュールレアリスト、「ヴィクター&ロルフ」は、スイムウェアからイメージを発展させた超現実的な作品を並べた。会場となった劇場、サル・ワグラムのクラシカルな内装と、楽しさと毒々しさとアイロニーがないまぜになった水着とのコントラストは文字通りシュールだった。
 
 コードでビキニとパンツを繋いだ水着や、フリルを飾ったものなど、ある意味シンプルなものからスタート。大きさの異なる水着が重なったもの、クチュールの象徴であるリボンを重ねた水着などが登場し、徐々に不穏な方向へ。グローブと一体型の水着は、胸元にNOの文字が飾られ、ボーンの入ったランジェリーのような水着はストラップが大きく浮いている。
 
 サテンの水着には蝶ネクタイのマネキンが肩車され、一体化しているのだが、一見しただけではどのような構造になっているのかわからず混乱させられた。「I WISH YOU WELL」の文字が袖になった水着、マネキンがしがみついてトレーンになっている水着、色違いの水着が真横に連なっている水着。これらにはどんなストーリーがあるのかはわからないが、ただただ不思議と思わせられるルックばかり。
 
 終盤には蝶ネクタイを合わせたスモーキングジャケットとパンツも登場。ホルターネックの水着マリエ(ウェディング)でショーを締めた。

オートクチュールの技術を用いて極限まで無駄を省く

 

 コロナ禍が落ち着き、もうそろそろ実際にショーを開催しても咎められることは無いだろうと判断したのか、今季はフィジカルなショーで埋め尽くされたシーズンだった。
 
 そしてフタを開けてみると、各ブランドはそれぞれの方向性でコレクションを作り、やはり共通項を見出すのが難しかった。
 
 それでも、色については赤が印象的だった。「アルマーニ」はバラをテーマにしていただけに、赤を配したルックが多かった。「バレンシアガ」も赤のアイテムが印象的に差し込まれていた。メインカラーとは言えなかったが、赤がブランドカラーである「ヴァレンティノ」は、もちろん赤のアイテムが据えられていた。その一方で、「トム ブラウン」はブランドカラーのグレーで統一。最終的には、それぞれが打ち出したい色を提案していた、ということになるのだろう。

写真左から「フェンディ」「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」

 

 プレタポルテ(高級既製服)では、春夏と秋冬の境目が無くなってきているのだが、オートクチュールの世界でも、その傾向が見られるかもしれない。その筆頭は、秋冬コレクションに水着をテーマにしたコレクションを発表した「ヴィクター&ロルフ」だろう。  
 
 そして、大振りで大袈裟な、クチュール独特の重さを感じさせるドレスは影を潜め、見るからに軽やかで着易そうなアイテムが多かった気がする。「シャネル」は、シンプリシティを心掛けながら着飾ることに慣れているパリジェンヌ像を見事に捉えて、アクセスしやすいコレクションを形作り、「フェンディ」はアクセサリーを引き立てるために削ぎ落としたシルエットを描いた。「ヴァレンティノ」は、表面的には確認し辛いが、その実繊細な手仕事に裏打ちされたすっきりしたラインのアイテムを披露。「ディオール」は女神のイメージで、モダンかつシャープなアイテムを考案。
 
 プレタポルテ(高級既製服)ではない、あくまでもオートクチュールの技術を用いて極限まで無駄を省くことが時代にマッチしているとされ、それはSDGsの流れにも沿っている。やや大雑把にまとめたトレンドではあるが、意外にも今後の方向性を示唆しているのかもしれない。

 

取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
画像:各ブランド提供

 

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>>>2023春夏パリオートクチュールコレクション

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