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2022.12.26

【2023プレフォール ハイライト】ブランドの原点を見つめ直す気運がますます強まる

 2022 年12月に発表された、2023フォール、プレフォールコレクションをハイライトでリポートする。ショー形式で発表するブランドからルックブックを公開するブランドまで発表方法は様々だが、シーズンの狭間的なコレクションということもあってか、トレンドもさることながら、ブランドの原点を見つめなおす姿勢が見られた。

 

 

 

ディオール(Dior)

「ディオール」2023フォールメンズコレクション

 

 

 

 2022年12月4日 に、ギザの大ピラミッドを背景に2023フォールメンズコレクションのランウェイショーを発表した「ディオール」。キム・ジョーンズは、星や天空にまつわるストーリー、ひいては古代エジプトに興味を抱き、古代文明から現代、そして未来への連続性をコレクションに投影した。それはシンボルや神秘的なことに魅了されていたムッシュ ディオールが、フォーブール サントノレ通りで見つけた「ラッキースター」につまずいたことがきっかけで、自分の運命は自らのオートクチュールメゾンを始めることだと確信したというブランドのルーツともリンクしており、ブランド創立75 周年の歴史を祝うものでもある。

 

 そんなコレクションでは、パターンカッティングに焦点を当てた過去の「ディオール」のアーカイブが現在と未来に応用される。フェミニンをマスキュリンに変容させたようなゆったりとしたボリュームのテーラリング、クチュールの仕上げとテクニカルな実用性を融合したアウターウェア。また50 年代のドレスのバイアスプリーツスカートを起源とする、新しいウールのハーフキルトなど、アーカイブモデルから誕生したアイテムも登場する。そしてこれらをアシンメトリーなカットや、レイヤードによるバランスの遊びでコーディネートしている。

 

 また動きや気楽さ、流動性がキーポイントになっており、トレインのように後ろになびくチュールやハーフマントなども数多く見られる。そして、未来的な要素をダイレクトに表現する宇宙用服のようなボディスーツやヘルメット、ピラミッドや星座のグラフィックモチーフが描かれたニット、未来的なデザインのフットウェアなども差し込まれる。

 

 さらに2023フォールメンズコレクションショーの一部として、カプセルコレクション「ディオール ティアーズ」を大エジプト博物館で発表。「デニム ティアーズ(Denim Tears)」のトレマイン・エモリーをゲストデザイナーとして迎えたコレクションは、「ジャズの旅」をキーワードに、演奏のためにヨーロッパに赴いたアフリカ系アメリカ人ジャズミュージシャンたちや、50~60年代にかけてのアイビーリーグのアフリカ系アメリカ人学生のスタイルからインスパイアされている。それはチェックシャツ、バーシティジャケット、チノといったプレッピーテイストと、クラシックなウールのオーバーコート、テーラードスーツがサルトリアルスタイルのミックスに現れる。また「セルジュ ドゥ ニーム(ニーム産のサージ)」を語源とするフランス由来デニムをベースに、50年代のシルエットで特殊なジャカードや抜染プリントなど、アメリカンスタイルにフランス的クラフトマンシップを組み合わせたアイテムも登場する。

 

 

 

ジバンシィ(GIVENCHY)

「ジバンシィ」2023フォールコレクション

 

 

 

 「ジバンシィ」は12月9日に2023フォールコレクションを発表。コレクションでは、ユベール・ド・ジバンシィが築いたパリのエレガンスと、マシュー・M・ウィリアムズが生まれ育ったカリフォルニアの地に根ざしたリラックスしたアティテュードや美学がミックス。メンズでは、タキシードジャケットとアンティーク加工を施したデニムのカーゴパンツ、クラシックなコートにパーカや迷彩パンツのコーディネートなどが。一方ウィメンズでは、センシュアルなフラウンスブラウスとカーゴスタイルのポケット付きペンシルスカート、テーラードジャケットにカーゴショーツのコーディネートといった、コントラストを活かしたルックが登場。ウィメンズでは、メゾンの象徴である4Gロゴが施されたシースルーのブラックドレスや、カットアウトやスリットの入って肌見せ要素のあるドレスやトップなどセンシュアルなアイテムや、シルバーのビジューやフェザーで縁取られたイブニングドレスなどゴージャスなピースも印象的だ。

 

 また、小物類ではゴージャスなラインストーンで装飾された「Cut-Out」バッグ、「ヴォワイユー」のツートンカラーの新バージョン、「G-Hobo」、「CutOut」、「4G」いったシグネチャーバッグが、シャイニーなブラックパテントレザーやスパークリングピンクなどで登場する。

 

 

 

クロエ(Chloé)

「クロエ」2023フォールコレクション

 

 

 

 「クロエ」の 2023フォールコレクションでは、絵画を通して女性を擁護し、女性の力の限界に対する誤った認識を覆した画家として知られるルネサンス期とイタリアのバロック期を代表する17世紀の画家アルテミジア・ジェンティレスキがテーマ。

 

 このコレクションでは、そんな彼女の作品が持つ女性的なパワーを、大胆でありながら柔らかなシルエットや、対照的な素材を使った組み合わせによって表現。ルネサンス期の絵画に出てくるようなビショップスリーブの膝上丈のナッパレザードレスや、ルネサンス建築からインスピレーションを得た格子モチーフのセットアップ、モンクローブのようなコートやトランペットスリーブのニットドレスなど、アルテミジアの時代を彷彿させるアイテムが登場。ブラウン、キャラメル、コーヒーなどのカラーブロックが施されたレザーのベルスリーブのオーバーサイズトップス、フレアスカート、ドレス、トラックスーツは、アルテミジアが得意とした布の流れやドレープの表現や色使いとコントラスを反映している。また、ウールとシルク、デニムとリネンなど異なった素材を組み合わせたてコントラストを出したセットアップなども。テーラードテイストのマニッシュなパンツスーツはコーディロイやツイードなどの暖かみのある素材で提案される。

 

 2022秋冬、2023スプリングと春夏コレクションに続き「クロエ」は気候変動対策に取り組んできたが、このコレクションでは気候変動の影響で避難した人の5人に4人が女性という現実や、女性の革新性や、専門知識によって生活や生計が改善され、気候変動による被害からの回復力や全体的な福祉が向上しているという調査結果から、気候変動対策として不可欠なテーマとして、ジェンダーギャップの解消に焦点を当てている。

 

 具体的には、水の使用量を最大80%削減した、環境への負荷が少ない新しいデニムウォッシュや、スーツに使われているのはリサイクルコットンを使用した新しいコーデュロイを開発。また、リサイクルナイロンやレザーのパファージャケット、より環境負荷の少ないウールポインテルのニットスカートとセーターなどが登場する。

 

 

 

マックスマーラ(Max Mara)

「マックスマーラ」2023プレフォールコレクション

 

 

 

 「イコノクラシック(The iconoclassics)」というテーマで、現代のニューヨークに降り立ったマリリン・モンローをイメージした2023プレフォールウィメンズコレクションを発表。特に、「Marilyn inManhattan: Her Year of Joy」という著書で述べられている、教養を身につけ、文学、音楽、芸術の嗜好を高めていた時期のマリリン像だ。グラマラス&セクシーな日々からの脱却を図るジーンズとデニムジャケット、ダッチェスサテンやラズミールなど光沢素材のメンズサイズカーペンターパンツやオーバーオールなど、マニッシュなコーディーネートが特徴的だ。または、マリリンが日々ランニングをしていたという逸話からのテクノメッシュ素材のパーフェクトなシースドレスやアイコニックな「101801」コートも。さらにポップアートプリントシリーズでは、口紅、マニキュア、マスカラ、ブラッシャー、香水など、マリリンのビューティーケースにあるようなモチーフが使われている。

 

 また「イコノグラフィック」を強調するものとして、元々は男性の威信の象徴からマックスマーラが女性のエンパワーメントを象徴するものに昇華させたキャメルコートに焦点を当て、アーカイブに収められた最も初期の作品の中から、1961年のキャメルカラーのカシミアラップコート、裏地のないダブルブレストのカポチーノ2つのスタイルが登場する。

 

 さらに「アイコニック」なアイテムとして、2023年に10周年を迎えるマックスマーラのテディベアコートは、マリリンにインスパイアされ、デニムジャケットをフワフワ素材で仕立てた「テディ テディーノ」に。また、アーティスト、ウィリアム・ウェグマンによる、マックスマーラのアイコンコートを身にまとった彼の愛犬ワイマラナーを撮影したユーモラスな作品をプリントしたコレクター向けの記念Tシャツも登場する。

 

 

 

トッズ(TOD’S)

「トッズ」2023プレフォールウィメンズコレクション

 

 

 

 2023プレフォールウィメンズコレクションは、「マスキュリンなテーラリング、フェミニンなアティチュード」がテーマ。ボディコンシャスなメンズ風ジャケット、ソフトなパジャマ仕立てのスーツのパンツ、官能的でリッチな雰囲気の厚手のニットウェア、マスキュリンなワードローブのサルトリアルピースをフェミニンなプロポーションで表現する。様々な素材で作られたゆったりしたトップとパンツのセットアップにもマニッシュな中にフェミニンさが共存する。

 

 また、ブラッシュドウールのエレガントなブルジョワ風のオーバーコートからゴム引きコットンでつくられたマリンテイストのコート、上質なナッパレザーのクロップド丈のボンバージャケットまで、さまざまなボリュームと素材のトレンチコートが登場。カラーパレットも、キャメル、ナチュラルブラウン、レッド、地中海ブルー、ボルドーなど、イタリアの70年代サルトリアの色調がトーントントーンで繰り広げられることで品よくまとまっている。

 

 シューズ類は、厚いレインソールとオーバーサイズのチェルシーブーツ、高めのチャンキーヒールのローファー、柔らかなレザーと暖かみのあるウィンターカラーの「バブル バレリーナ」が、バッグ類は、2種類のサイズ展開の「T-ケース」バッグ、3つの異なる貴重な素材をミックスしたショッピングバッグが登場する。

 

 

 

トム ブラウン (THOM BROWNE)

「トム ブラウン」2023ウィメンズプレフォールコレクション

 

 

 

 「トム ブラウン」の2023ウィメンズプレフォールコレクションはハーマン・メルヴィルの小説「白鯨」が元になっているとか。コクーンシェイプのマキシボリュームのコートはクジラを連想させ、船やクジラのモチーフやプリントが施されたコート、ジャケットやスーツ、クジラのフォルムや折り紙で作った船のような帽子やバッグなどが、「白鯨」という物語の壮絶なストーリーとは対照的に、ポップに楽しくこのテーマを反映する。

 

 その一方で、メンズのサルトリア風のジャケットやボックスシェイプのコート、Iラインのワンピースやペンシルスカートなど直線的なラインのアイテムも登場。トム・ブラウンが得意とするチェックonチェック(またはトータルチェック)や、パイピング使い、パンツとスカートのレイヤードコーディネートなども各所に見られる。刺繍やインターシャ、シークイーンとビーズのミックス、メランジェの装飾など、高度で繊細な手作業も多くのルックに施されている。

 

 

 

ステラ マッカートニー(Stella McCartney)

「ステラ マッカートニー」2023プレフォールコレクション

 

 

 

 2023プレフォールコレクションでは、ステラ・マッカートニーはファッション業界の環境保護主義者のパイオニアとして自分の原点に立ち返り、自然への敬意を前面に押し出しつつ、革命的な素材をエイジレスでタイムレスなスタイルに、コンテンポラリーなディテールやカットを盛り込んでいる。今回のコレクションでは、衣服とアクセサリーの 94% は、森林に優しいビスコース、再生コットンやデニム、ペットボトルから作られたリサイクル糸、バナナの皮などの代用革を使用したバッグや靴など、責任ある繊維から作られている。

 

 樹皮のモチーフのジャカードのドレスやパンツスーツ、木目調のパターンのボリューミーなテディコート、パイソン柄のオーガニックシルクシフォンのドレス、フラワーモチーのオーガニックシルクドレスなど、自然を連想させるモチーフが各所に使われる。

 

 またお祖母さんのワードローブから拝借してきたような、ボクシーなフォルムのジャケットとワイドパンツ、パイピングを施したツイードのコート、職人技を活かしたマクラメ刺繍のドレスなどヴィンテージ風テイストも入れ込みつつ、素材はサステナブルにアップデートしているのも特徴だ。

 

 

取材・文:田中美貴

画像:各ブランド提供(発表順に掲載)

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田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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