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2023.01.06

【マーケットアイ vol.1】2023年ファッションビジネスの前提となる5つのキーワード

 2023年がスタートしました。ポストコロナへの期待が広がる中、戦争や円安による不安要素はまだまだ残ります。今後さらなる変化が起きないとも言えない状況です。このような状況では「よりマクロ」に環境を捉えることが大事。そのような思いからこの連載「マーケットアイ」をローンチしました。ロケーションや客層、トレンドテーマなどをマーケティング視点で読み解いてきたいと思います。初回は2023年日本のファッションビジネスの前提となる5つのキーワードについてお伝えしていきたいと思います。

 

スリフト&サステナ

  • 新中古衣料販売のパイオニア「ラグタグ」は日本橋高島屋へ出店

  • 静岡松坂屋のリニューアルではゲオの「ラックラック」を中層階に配し、スリフト&サステナに対応。

 「スリフト(thrift)」とは倹約を意味する言葉で、「スリフト&サステナ」とは倹約しながらなるべくサステナブルなものを選ぶという考え方です。これまで世界でサステナブルな取り組みを牽引してきたのはアッパーマーケットのプレイヤーや生活者でした。大衆マーケットが厚い日本のマーケットではまだ定着しているとは言えません。そして日本の多くを占める大衆の倹約志向はますます強くなるでしょう。生活型商業にとっては頭の痛いことばかりです。

 ファッションにおいて「スリフト&サステナ」ニーズに対応するのが二次流通です。新品をフルプライスストア(プロパー店)で買うのが当たり前という考え方はどんどん減っていき、二次流通の存在感が増していきます。すでに駅ビルや地方百貨店に二次流通のショップやオフプライスショップが進出していますが、今後は都市型百貨店での二次流通売場の拡大が進むと思われます。実は新品をフルプライスストアで買うという考え方に拘らなければ、Reduce(減らす)、Reuse(再利用する)というサステナブルに通じるソーシャルグッドな消費行動ができるようになるのです。サステナ素材を使った高い価格のアイテムを新品購入するより、すでに生産したものを大事に使うことを選択し、そのことが社会のために役立つという実感が消費者を幸福にさせていくのだと思います。

 

多幸感

  • 「スポーツ&マックス」2023春夏コレクション

  • 「フェンディ」2023春夏コレクション

  • 「フェンディ」2023春夏コレクション

 
 今、消費者に不足しているのが多幸感です。その感じ方は人それぞれですが、多くの消費者に共通するキーワードです。資産や収入があって非日常な楽しみを味わう、自分へのご褒美をあげるというのも多幸感だとすれば、日常の中の幸福を見つけて毎日を送るというのも多幸感です。

 ファッションアイテムはこの多幸感を与えることができる代表的なアイテム。一つ一つの商品をお客様に届けることでどのような幸せを与えることができるのかを考え、生産・販売活動していくことが求められます。

 このような考えは欧米ブランドがコロナ禍期間に提唱した考えです。厳しいロックダウンと急速な回復を味わった結果生まれたものですが、日本においては日常が戻る2023年に大きく広がるでしょう。エアリーやシアー、総柄などのハッピーな商品属性だけでなく、ボディポジティブという「自分の体型をポジティブに捉える」という姿勢も多幸感提案の現れと言えます。

 

ラグジュアリー&コア

  • 「ルイ・ヴィトン」は2023年1月2日に東京・原宿に「ルイ・ヴィトン×草間彌生」ポップアップストアを期間限定でオープン

  • 「ディオール」は2023スプリングカプセルコレクションのポップアップショップを2023年年始に原宿・キャットストリートにオープン

  • 「コーチ」はコンビニスタイルのポップストアを2023年末東京・原宿にオープン

  • 神戸阪急はラグジュアリーなゾーン「Hankyu Mode Kobe」を開発

  • 三原康裕デザイナーが手がける「日本橋アナーキーカルチャー文化センター」

  • 「サカイ」はNYのシェフ集団とコラボし期間限定のカフェをオープン

 それでは新品をフルプライスで買う層はどのような層かというとニューリッチ層とコア層でしょう。世の中の大きな変化を好機として育ってきた企業経営者などのニューリッチ層に支えられ中高級百貨店は2022年後半以降売上拡大しています。

 そしてコア層とは、ブランドへのロイヤルティの高いコミュニティのメンバーです。コア層の育成が売上の安定につながるのが商売の原理原則ですが、日本のミッドグレード以下のプレイヤーはなかなかそれをやりきれてきませんでした。

 しかし、今やオンラインに蓄積されたデータを活用してコミュニティマーケティングを行うことが可能となっています。そのような取り組みをやり切ることができる企業やブランドが勝ち残っていくのではないでしょうか。

 この辺りはラグジュアリーブランドの戦略がとても長けています。既存チャネル以外にも、ポップアップやテストマーケティングとしながら進出し、認知度アップとメッセージ訴求を行い、価値観を共有するコミュニティづくりを行っています。

 

インバウンド&デジタル

  • 新宿の街にも訪日客が戻った

 現在、都心部の百貨店やファッション店の売上アップに繋がっているのがインバウンド消費です。中国本国からの訪日客数回復にはまだ時間がかかりそうですが、他のアジアの訪日客が補完しており、消費の仕方が変化しています。

 かつての転売目的の買い物でなく、個の売上を重視していくことが必要となっています。コミュニティへの加入促進、リピート購買など個とつながるための働きかけが必要となってきます。

 その橋渡しとなるのがデジタルでしょう。SNSや越境ECなどで顧客にフィットするサービスを行っていくことが大事になります。

 

GO LOCAL

  • 大阪・梅田の新開発エリアの振興のために行った「うめきたMIDORIコレクション」

  • 無印良品の関東最大店「無印良品 板橋南町22」は板橋区と連携

 「GO LOCAL」とは地元回帰を意味する言葉で、米国のオーガニックスーパー「ホールフーズマーケット」も提唱した言葉です。日本の食では地産地消という言葉で元々あったコンセプトですが、衣や住関連でもこの取り組みができないものかと思います。

 コロナ禍による巣篭もりが生んだ地元愛の醸成や、国内外観光客のマニアックなニーズなどへの対応として期待できると思います。大切なのは地元の魅力発見と発信です。地元の魅力を地元客、国内客、訪日客へわかりやすく発信することが大事となりますが、ファッションにおいてはなかなか取り組みが難しいテーマでした。

 しかし近年、小売業ではその取り組みが多く見られるようになりました。多店舗展開している企業やブランドが、それぞれのロケーションに合わせた店づくりをするというものです。ラグジュアリーブランドやデザイナーブランドはインテリアにそれぞれの地域文化を取り入れていますし、ユニクロや無印良品などはその土地の特産品生産者や小売業などとコラボレーションなどをしています。メーカーでは創業の地の振興、素材などの産地のブランディングのレベルアップに期待したいところです

文:山中健

画像は筆者及び編集部撮影

山中健 Takeru YAMANAKA

欧米、アジア、国内のコレクション取材やファッションマーケット調査を数多く行っており、国内外のファッションビジネスの動向を語ることができる貴重な存在として注目されている。

2009年にアパレルウェブコンサルティングファーム主席研究員、2011年にアパレルウェブ編集長就任。2018年より毎日ファッション大賞推薦委員を務めている。

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