PICK UP
2022.02.21
【2022秋冬NYコレ ハイライト】60Sロックや80Sディスコにストリート・・・レトロでユースな魅力に満ちたコレクション
左からトリー バーチ、マイケル・コース、コーチ
ニューヨークでは2022秋冬シーズンのニューヨークファッションウィークが2月11日から16日まで、ニューヨーク市内の各所で行われた。アメリカでは昨年末から22年1月下旬までオミクロン波が襲って過去最大の感染者数を出し、ニューヨークでも一時は一日の新規感染者数が8万人を超え、感染者率が30%を超えるという事態になった。これは大まかに3〜4人にひとりが感染しているという状況だ。
そのために今季はデジタルの発表に留まるブランドが多く、リアルの対面式ショーを行うブランドも出席者数を絞ってデジタルと同時発表するブランドがほとんどとなった。これは昨年9月に行われた2022春夏ニューヨークファッションウィークよりも、対面式でショーを行うブランドが激減した形だ。ところが実際に行われたランウェイに行ってみると、フロントローではマスクをしていない観客ばかりで、すでにコロナ禍が終わったかのような感覚でいる人も多く、かなり日本での意識とは違っているといえる。はたして次の9月にどうなるかはわからないが、5月には恒例のメットガラも開催される予定で、ファッションが再び活気を集めそうだ。今季行われたリアルなショー、そしてデジタルのショーを含めて、ハイライトをレポートしよう。
アディアム(ADEAM)
前田華子が率いる「アディアム」は、創設10年目を迎えて、ブランドの始まりを辿るコレクションをデジタルで発表した。「アディアム」は2013秋冬にニューヨークファッションウィークデビューして、ミュージカルの傑作「イントゥ・ザ・ウッズ」にインスパイアされたプレタポルテコレクションを発表した。今季の2022秋冬コレクションでは、幼少期のノスタルジアと、デビューコレクションのアイデアを融合させて、ダーク・アカデミアとおとぎ話に基づいたコレクションを作り出した。
暗い森を背景にして、ファーストルックは温かみのあるソフトな質感のキルティングで作られたコートが登場した。コンバーチブルにできていて、腕や裾を取り外すことができるデザインが特徴的だ。4ウェイデザインとなっていて、そのままダウンコートとして、またロングジレ、ジャケット、クロップドジレとしてそれぞれスタイリングができる。またダブルフェイスのポエトリートレンチコートは3ウェイでの着こなしができ、トレンチコート、ロングジレ、またボレロジャケットとしても着こなせる。ニットもコンバーチブルに作られており、シャツもカフスが取り外し可能で、さまざまなスタイリングを提案してみせた。
色彩パレットは秋らしいブラウンから、ダスティなヌードカラー、モノクロームなジャガード、そしてボルドーやフォレストグリーンといった深みあるジェムカラーを構成した。ロマンチックなフリルがついたドレスやトップスはカットアウトを施したり、オフショルダーにしたりして、フェアリーテイルの世界をモダンに仕上げたコレクションとなった。
コーチ(COACH)
スチュアート・ヴィヴァースが手がける「コーチ」は、ピア36の巨大な会場を使って、リアルな対面式ランウェイを打って、2022秋冬コレクションを発表した。これは今季で最大規模のショーとなる。
舞台に設置されたのは、アメリカ郊外の光景であり、ワゴン車が置かれていて、アフガンハウンドを連れた女性や、BMX自転車に乗った少年たちが走っていく。どこか80年代を舞台にしたドラマ「ストレンジャーシングス」や当時の大ヒット映画「E.T」を彷彿とさせる雰囲気だ。そして「ソニックユース」がリメイクした「カーペンターズ」の往年の名曲が流れるなかモデルたちが闊歩する。
「コーチ」が得意とするシアリングのビッグなアウターのなかには、ブラトップとコーデュロイのバギーなパンツを合わせてみせる。メンズにも同じくスカートが数多く登場する。ウィメンズのキールックは、マイクロミニのベイビードールドレスで、花柄に白い襟つき、チェック柄、クロッシェ編み、レース、ポンポンやリボン付きといった様々なバリエーションで登場する。もうひとつ目につくグループが、レザーを使ったバイカースタイルで、ベストとパンツの組み合わせ、レザーのコートでハードさを打ち出す。コレクションの最後に出てきて、目を引くのは、ペイントされたレザーのアウターやバッグで、これはニューヨークを拠点にする「ミント&サーフ(Mint & Serf)」によるグラフィティによるもの。グラフィティでアーティスティックなテイストを加えてみせた。
トリー バーチ(Tory Burch)
「トリー バーチ」は2022秋冬コレクションを対面式のランウェイとデジタル配信で発表した。
ファーストルックはスポーティブなトラックジャケットに、ウールのパンツを組みあわせたもので、ストリートとラグジュアリーの掛け合わせを狙った。ネオンカラーのトラックジャケットに、ハイウエストの合皮テーパードパンツを合わせたり、ハイネックのニットシャツに鮮やかなプリントのテックTシャツを重ねてロングスカートと組みあわせたりと、自由なスタイリングを提案。
また色彩も、レッドの表地に裏はフューシャカラーのコートや、レモンイエローのコート、パウダーブルージャケットなど鮮やかだ。ウエストは幅広いベルトでマークしている着こなしを提案して、ジャケットの上からベルトでウエストマークしてみせた。バスティエをバギーパンツと組み合わせ、あるいはシルクタフタのラップトップとボリュームあるスカートの組み合わせは、80年代のディスコシーンを彷彿とさせる。幾何学的な模様でカラーブロックを施した、ロング&リーンなシルエットのジャージー素材のワンピースもディスコエラを感じさせる。ストリートとラグジュアリーをトリーらしい手腕で融合させたコレクションとあった。
アナ スイ(ANNA SUI)
「アナ スイ」はデジタルで2022秋冬を発表した。今季は60年代のイギリスのロック番組「レディ・ステディ・ゴー!」にときめいていたアナ・スイは、ロックな週末をイメージしたという。
コレクションには60 年代のモッズ、20 年代のアールデコ、そして80 年代のニューウエイブの要素をかけ合わせてみせた。ファーストルックはジェンダーレスな鮮やかなパワーチェックのブレザーにブラックパテントのパンツが登場した。クロシェ編みのセットアップやスクールガール風のミニの襞スカート、色鮮やかなフェイクファーのコート、ゼブラ模様のトップとベルボトムパンツ、パープルのツイードアンサンブルなどが目を引くい。
今季のスカート丈はミニが主流で、プリントのタイツと合わせたスタイリングが魅力的だ。またニットのアンサンブルの足もとには、モコモコのスノーブーツを合わせるといった自由な着こなしを提案。まさに週末のパーティに「レディ・ステディ・ゴー!」な世界を展開してみせた。
マイケル・コース(MICHAEL KORS)
「マイケル・コース」は観客数を絞った対面式のランウェイと、デジタル配信で、ウィメンズとメンズの2022秋冬コレクションを発表した。
まず目についたのは単色づかいの着こなしだ。ファーストルックは、ベージュ一色のスタイリングで登場。続くルックもブラウン、ホワイト、オレンジ、グレー、マスタードイエロー、ブラック、ホットピンクなど、全体をモノクロームのスタイリングで披露した。
今季はグレンチェックやフランネルなどメンズウェアのクラシックな素材と、テーラードなジャケットやパンツが登場する一方、体にぴったりと沿うニットドレス、レザーのボディコンシャスなドレスなど、フェミニンなピースが披露された。かっちりしたフランネルのコートに、柔らかな同色のニットミニを合わせて、幅広いベルトでウエストマークしてみせ、「マイケル・コース」らしいラグジュアリーなスポーツウェアを表現した。カットアウト、スリット、ワンショルダー、マイクロミニ、そして幅広いベルトというのがポイントとなっていて、クラッチのようにバッグを抱えるスタイルも魅力的なショーとなった。
N.ハリウッド コンパイル(N.HOOLYWOOD COMPILE)
尾花大輔が手がける「N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)」はドレスウエアライン「コンパイル(COMPILE)」の2022秋冬コレクションをデジタル配信した。今季は「リアルフェイクファブリック」にフォーカスを当てたコレクションを製作したという。
ウールで織られたガンクラブチェックやヘリンボーンキー、ビーガンレザーなど、一見するとクラシックでトラディショナルに見えるが、着用することでまったく違うものだと感じられるのが特徴だ。メンズウェアの王道ともいえるアイテムを抽象的に捉えて、フォルムやデザインを再構築して、ウェアラブルでありながら、ホームウェアのようにリラックスしたトラッドを提案してみせた。
コリーナ ストラーダ(Collina Strada)
「コリーナ ストラーダ」は、映画館のアンジェリカフィルムセンターで、短編映画で2022秋冬コレクションを発表するという、めずらしい形式を取った。主役をつとめるのは、トランスウーマンで女優のトミー・ドーフマンだが、彼女が「コリーナ ストラーダ」でインターンを務めるという設定で、たとえばベジタリアンの間で「肉入りのサンドイッチ」を食べたり、「捨てられるカップでコーヒー」を飲んだりすることで、まわりの意識高い系とぎくしゃくするという、いかにもZ世代らしいコミカルな要素を含んでいる。
サステナビリティやソーシャルアウェアネス(人種や性差別、環境などの社会問題について意識をもつこと)を謳う同ブランドだが、モデルたちは年齢、ジェンダー、体型などダイバーシティに富んでいる。カラフルな色彩と、ドレスとパンツをレイヤードするジェンダーフルイドな重ね着、シュレッダーにかけたようなフリンジ、アスリートなアイテムとキッチュなアイテムの組み合わせ方など、独自の世界を築いている。なかでも、あたかもバッスルスタイルのように腰から張りだしたシルエットのパンツやスカートは構築的な形で目を惹いた。
取材・文:黒部エリ
「ニューヨーク」2022秋冬コレクション