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2021.03.18

【2021秋冬東京 ハイライト1】 「東京だからこそ」と思いを込めるデザイナーたち(2)

2日目 「フミト ガンリュウ」と「リトゥンアフターワーズ」がタッグ

アデリー(ADELLY)

 東京コレクション初参加の「アデリー」は、“Love at first sight(一目惚れ)”をテーマにフィジカルショーを開催。ブランドの立ち上がりから根底に据える、“充実した日々を送る女性に寄り添い、自由にエモーショナルに、心踊る日々を過ごして欲しい”というコンセプトに忠実なクリエーションを展開した。

 

 ビンテージから着想を得たテキスタイルはどれも気品やときめきを感じさせるものばかり。スクリーンにテキスタイルを投影してみせる演出も相まって、会場は一気に「アデリー」の甘美な世界観で包まれた。「アデリー」のデザイナー、小松未季はスタイリストとしても活動しており、同コレクションのスタイリングは自身で行ったという。

 

 「アデリー」というブランド名は、アデルとリリーという花の名前を組み合わせた造語で、百合の花という意味合いが込められている。一貫したイマジネーションのもとで作られる花柄のエンブロイダリーは、今後もブランドのシグネチャーテキスタイルとなっていくはずだ。

エイチシー タカシ イトウ(HxCx takashi ito)

 「エイチシー タカシ イトウ」も初参加を果たしたブランドの一つ。2019年に設立してから2シーズン目となる今回は“インセン ユース(iNSANE YOUTH)”をテーマにオンライン形式で発表した。

 

 「エイチシー タカシ イトウ」の服には、デザイナーの城戸孝のルーツでもある学生時代のバンド経験やこれまで触れてきたロックカルチャーが大きく反映されている。今シーズンのテーマである“インセン ユース”も、彼の人生で指標となり続けてきた「ユース」や「キッズ」といったワードに基づいたものだ。

 城戸デザイナーは2000年に渡英後、ロンドンやベルリンでヘアサロン、レストラン、バーなどを次々とオープンするなど、現在も計5店舗を経営している異色のビジネス経験を持つ。

 

 今後は海外展開も視野に入れており、今年の夏ごろには、ヨーロッパのカルチャーの発信地でもあるドイツ・ベルリンに路面店をオープンする予定だという。

ミカゲシン(MIKAGE SHIN)

 「ミカゲシン」は知性と想像力を用いて強さのあるクリエーションを展開。アートや文学をヒントに、コロナウイルスによる未曾有の危機と、そこから再誕していく予感を服としてビジュアライズさせた。

 

 テーマは“ザ プロセス(The Process)”で、全てのアートワークがプロセスにまつわる構成となる。哲学者、ニーチェの手記をオリジナルコラージュしたテキスタイルは、偉大なアイデアの生まれる「思考のプロセス」をダイレクトに表現した。京都の伝統芸術である墨流しの技法を取り入れたマーブル柄のテキスタイルには、伝統工芸品の色褪せない美しさという本質的な美学が内包されているという。

 

「ミカゲシン」のデザイナー、進美影が「視覚的にリズムや違和感を残せるかということに拘ってデザインしています」と語ったように、レーヤリングでもドレープを付けたり、不規則的になっていたりと、一辺倒に視線が流れてしまわない構築的なルックがランウェイを飾った。またアシンメトリーのアクセサリー使いも暗喩的だった。

 メンズのスカートルックも、ファッションにおけるジェンダーレス化や当たり前の変容といった「プロセス」をナチュラルに提案していたといえる。

 

 進デザイナーの変化に対するポジティブな姿勢は、コロナ禍により発表できずにいた過去作品をアップデートして、自身の「成長プロセス」としたルックからも見て取ることができた。2021秋冬コレクションで「ミカゲシン」が提案した「プロセス」は、混沌に満ちた世界のカンフルなのかもしれない。

フミト ガンリュウ (FUMITO GANRYU) 

 「フミト ガンリュウ」が「リトゥンアフターワーズ(writtenafterwards)」のデザイナー山縣良和とのコラボレーションショーを国立新美術館で開催。これは、2021年6月9日から同美術館で行われる展覧会「ファッションイン ジャパン 1945-2020―流行と社会」の関連イベントとして行われた。「フミト ガンリュウ」は東京コレクション初参加となる。 

 

 山縣によるインスタレーションは“合掌”をテーマに、山梨・西島の手漉和紙にテーマを表現する写真をプリントしたオブジェクトと、堆肥を調合した土の上にディスプレイされた衣服が入ったショーケースを会場に配した。そしてその間で繰り広げられる「フミトガンリュウ」のランウェイショー。今シーズンは“必然的多様性”をテーマに、「モード」と「ストリート」の図式は果たして背反する指標なのかという疑問への答えを表現したかのようなコレクションを披露した。フーディーやダウン、ダッフルコートなど、ストリートやカジュアルアイテムをデフォルメしてオーバーサイズで表現したり、プルオーバーやシャツに大胆なスリットを入れたりナイロンのポケットを配するなど、モードとストリートが交錯する。大ぶりなファーハットやヘアスタイリングだけでなくウェアにも取り付けられたヘアピースも強い印象を残した。 

 

 また、フィナーレでは「ネグレクトアダルトペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATiENTS)」とのコラボレーションTシャツもお披露目。ショーの後はモデルとして登場したBiSHのメンバーが「GiANT KiLLERS」を歌い上げるデジタルアフターパーティーの様子も配信された。 デザイナーの丸龍文人は「東京でショーを行うということは自分にとって本当に特別なことなので、お話をいただいた時はとても嬉しく二つ返事で承諾しました。山縣さんとは同じクリエイターとしてシンパシーを感じることも多々あり、尊敬するデザイナーの一人です」と語った。

ミントデザインズ(mintdesigns) 

 「ミントデザインズ」は“The Night Circus”をテーマに映像配信でコレクション発表を行った。印象的な市松模様、ピエロの衣装のようなボリュームのあるドレスや立体的なパンツ、20cmを超えそうなヒール。次々に現れる「ミントデザインズ サーカス」の登場人物に釘付けになる。蛍光色をアクセントにしたポップなドレスやアウターが登場したかと思えば、贅沢に生地を使ったレースのセットアップやフラワージャカードで優雅な装いも見せる。ピエロや動物使いのシルエットのプリントは、コレクションに遊び心をもたらした。映像終盤では天使のような真っ白なスタイリングが登場し、美しい余韻でサーカスをフィナーレに導いた。

3日目(3月17日) 「ミスター・ジェントルマン」がショーでオオスミタケシデザイナーを悼む

カ ワ ケイ (KA WA KEY)

 ロンドンと香港を拠点とする、カワキィ・チョウ、ジャーノ・レッパネンが手がける「カ ワ ケイ」。二人の出身であるアジアとスカンジナビアの伝統的なテキスタイルクラフトを再考し、現代のカジュアルウェアやニットウェアに落とし込むスタイルが特徴。倫理的な素材調達と製造を重要視し、サステイナブルな素材にこだわって服作りをしている。RFWT初参加となる今シーズンは、映像配信でコレクションを発表。ロンドンのデザイナーの自宅で撮影されたという映像は、ストーリー性がありファンタジックな仕上がりになっていた。コレクションも、ピーターパンやウィリー・ウォンカといった物語の登場人物に着想を得て、色彩豊かでプレイフルな、見ているだけで心がワクワクするようなものであった 。

バルムング(BALMUNG)

 「バルムング」はコンセプチュアルなショーを開催。身体性や時間性をテーマに彫刻作品を制作する作家、鈴木操氏の作品を、モデルがその場で組み立てるというパフォーマンスをしてみせた。

 

 今回のシンプルかつカオティックなショーは、「バルムング」のデザイナー、Hachiが服作りの根底とする“表裏一体”という部分が、鈴木氏のテーマと共鳴し実現したもの。

 

 ハイネックのビッグパーカーは同ブランドのシグネチャーウェアの一つで、肩と頭蓋の間にあるはずの首の存在感を柔らかなフォルムで消し去ることにより、視線を顔貌へ集める効果を持たせたという。ルームウェアやスポーツウェアをモチーフにしたシルエットからも、「バルムング」が発するノン・ジェンダーな印象を受けた。

 

 「バルムング」の魅力は、ファッションやアートの垣根を超えて衣服の次元において「パフォーマティブな衣服」を提示し続けていること。「自分の足元を見つめてそれを更新していきたい」とHachiデザイナーが語ったように、他のブランドにはない実験的な姿勢に今後も注目したい。

チョノ(CHONO)

 初参加の「チョノ」は映画の予告編をモチーフにしたコレクションフィルムを発表した。予告には必ず本編が存在するものだが、ここでの本編はブランドのアイテムを着用した人自身が紡いでいくものだという意味合いを込めた。

 

 デザイナーの中園わたるは「2014年にチョノを設立して以来、ブランドを運営してこられたのは、日本全国の産地の方々の協力なしにはなかったこと。自分たちのブランドのあり方として、日本にある技術力を持った人たちのことを、もっともっとみんなに知って欲しい、もちろん同じようなブランドさんであったり企業であったりとかが日本の技術の根幹にフォーカスしていただいて、活性化していって欲しい」と、「チョノ」を続けるにあたっての原動力となる部分を熱く語った。

コンダクター(el conductorH)

 長嶺信太郎による「コンダクター(el conductorH)」は、“ヴァルガー ロマンス(Vulger Romance)”をテーマにフィジカルショーを開催。無数のネオンチューブによって赤く照らし出された地下駐車場が、「ロマンス」という物語の登場人物たちを待ち受ける。

 ビジューボタンの付いたフェイクファーコートや、ラメ入りのミックスツイードを使用したブリティッシュなセットアップスーツなど、長嶺デザイナーが影響を受けたカルチャーのリミックスが随所に見られた。フラワー柄のレースハイネックカットソーにシックなストライプのセットアップを合わせたルックも、強さとロマンチックが共存した今シーズンの衣装となり得た。

 また「コンダクター」では初となる、オリジナルの木型で制作したカウボーイブーツに加えて、編みタイツといったスタイリングもブランドからの新たな提案だという。

 長嶺デザイナーは「派手な演出ではないのですが、ただの赤いネオンチューブとバンドの生演奏だけで、どれだけかっこいいものが作れるのかというのを今回挑戦してみたところです。モデルのキャスティングも厳選しました」と、オーセンティックを追求した今回のショーディレクションを振り返った。

メアグラーティア(meagratia)

 オンライン形式での発表になってから、趣向を凝らした映像手法で発表を続けるデザイナー関根隆文による「メアグラーティア」。今シーズンは、ピアノやバイオリンの奏者たちがコレクションアイテムを着用し、クラシックを演奏している映像を配信。

 

 シーズンテーマは“UNEXPECTED”。“予期しない”という意味の英語だが、それは今の時代を表していると同時に、今シーズンの特徴である絞り染めやシワ加工も表現しているのだろうか。カジュアルなアイテムにも独特の深い表情を与える両者は、コレクション全体を有機的なものにしていた。カラーパレットは柔らかいネイビーやパープル、グレー、ブラウンなど自然に溶け込む色が揃った。それは、全体的なリラックスシルエットや落ち感と相まって、優しい雰囲気を作り上げていた。

ミスター・ジェントルマン(MISTERGENTLEMAN)

 吉井雄一と2021年1月に逝去したオオスミタケシが手がける「ミスター・ジェントルマン」。3月17日19:00に彼を悼むショーを行なった。

 

 会場は真っ白な床に白い椅子、静かな音楽を流し、オオスミデザイナーへの哀悼の意を表していた。シレーザービームが放たれショーがスタート。彼が病床でも製作していたという2021秋冬コレクションは、同ブランドらしいトレンドにツイストを加えるという「ミスター・ジェントルマン」ならでは姿勢を貫いたものだ。

 

 アウトドア、ミリタリー、ワーク、トラッドなどの普遍アイテムをリフォーメーション。ドッキングやレイヤードのテクニックを使用しハイブリットに組み立てた。シルエットはビッグなものが多いが、要所要所でスリムに締めており、ロング&リーンやフリュイドシルエットのルックも充実だ。カラーは優しげなペールトーンやアーシーカラー、ミリタリーカラーが中心。普段着と街着の境界線をなくしたワードローブも魅力。素材は、ファーやボア、テディーベアタッチのものが多くウォーミーなムードを盛り上げながら、ビニールやパテント調のものも差し込み、オオスミデザイナーらしいエッジも感じさせる。ショーの間は彼の死を忘れさせるような幸福感をゲストやビューワー与えたようだ。

 

 ショーが終了すると、吉井デザイナーが登場。横にいるはずのオオスミデザイナーを手振りで紹介。2人で製作したコレクションであることを印象付けた。その後、再びレーザービームが放たれ会場は暗転させ献花台を設置。これまでオオスミデザイナーや同ブランドとゆかりのある業界関係者や友人らが涙を拭いながら、献花を行なっていた。

 

取材・文:アパレルウェブ編集部

 

 

2021秋冬東京ファッションウィーク

https://apparel-web.com/collection/tokyo

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