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2021.03.01
【2021秋冬ミラノ ハイライト1】ビッグネームの初コレクション、新しい演出など ミラノならではの華やかさに包まれたデジタルファッションウィーク(2)
エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)
メンズ、ウィメンズの混合形式で、デジタルにてコレクションを発表した「エンポリオ アルマーニ」。今シーズンのテーマは、“In a pop mood -ポップな気分で”。「洗練されたシェイプとリラックスエレガンスの融合」というキーワードで、快活で都会的なスタイルを、ウィットを入れて表現する。
1981年に誕生した「エンポリオ アルマーニ」は今年40周年。そんなアニバーサリーイヤーということもあってか、ブランド誕生当時の「80年代」のムードが強調されている。それを象徴するのがピンク、ブルー、グリーン、パープルなどのネオンで装飾された舞台セット。コレクションにおいてもメンズ、ウィメンズに共通してこれらのビビッドカラーが各所に使われているのが象徴的だ。その一方で80年代の特徴のひとつでもあるオールブラックのコーディネートも多数登場する。ウィメンズのシルエットは細身でボトムはハイウエスト、メンズはドロップショルダーを多用したワイドでゆったりしたフォルム。でも両者のハーモニーは完璧に一致していて全体に流れるようなリラックス感が漂う。素材やモチーフも多くが共有されており、ベルベットを使ったアイテムが多いのも共通している。
ウィメンズにはパフスリーブ、バルーンスカート、ボウタイなどのディテールを使った、上品なミニドレスや、その一方でドローストリングス付きのクロップドジャケットやサイドラインの入ったワイドパンツなどスポーティなアイテムも。フェザー使いやパッチワークプリントのベルベットのドレスなど華やかなアイテムもウィメンズならでは。
一方、メンズでは、ノーカラーやスタンドカラーのジャケット、ニットとシープスキンのパッチワークのカムフラージュパターンのブルゾン、デニム効果のテーラードスーツなどが特徴的だ。
世界的に好景気で元気だった時代を意識したコレクション。残念ながらそんな80年代とは決定的に違う2021年において、今の時代だから要求されるリラックス感を満たしつつ、同時に今の時代にこそ必要な、気分を上げてくれるような元気な色遣いを盛り込んだ。
エトロ(ETRO)
「エトロ」はメンズコレクションと同様にBASEというミラノの複合スペースにて行われたランウェイショー形式の映像を発表。今回はアリッサによるライブパフォーマンス風のBGM演出もプラスされた。メンズと同様、ウィメンズでも「エトロ」が求めるのは「自由」だ。クリエイティブ・ディレクターのヴェロニカ・エトロは、ロシアから亡命した伝説のバレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフと、ジミ・ヘンドリックスという自由奔放で反逆的な姿勢を貫いた二人のアーティストからのインスピレーションで、社会通念に囚われない独特な美学を追求した。
創業者であるヴェロニカの父ジンモ・エトロは30年にわたってヌレエフの衣装を収集していたそうで、そんなロシアの衣装の幾何学的な刺繍が施されたローブコートやセーター、ニーハイブーツなどが登場する。そしてジミ・ヘンドリックスが好んだタイガープリントや、彼のインディーズスタイルを物語るフリンジが各所に使われる。
そこにキルティングのアノラック、パーカー、レギンス、ボンバージャケット、キャップなどのストリートテイストや、ピンストライプのスリーピーススーツやジレとパンツのコーディネート、Vネックのメンズ風ニットやポロシャツなどマスキュリンな要素も交じり合う。エトロならではのペイズリー、そしてパッチワークのモチーフが加わって色遣いは華やかだ。
フィナーレでは、メンズ同様、会場からモデルたちが力強く外に歩き出していく。ステイホームの日々の中、リラックス着が王道になるのだとしたら、そんな一般的概念に「反逆」して自由奔放に着飾ろう、というメッセージが込められているのかもしれない。
トッズ(TOD’S)
1月のメンズコレクションではミラノ郊外の田園にある邸宅で一人の時間を見つめる主人公の一週間のスタイリングを展開するシチュエーションだったが、ウィメンズでは4人のモデルを主人公にミラノのガッレリア・マッシモ・デ・カルロというモダンなギャラリーを舞台にコレクション映像を繰り広げる。今回のコレクションで「トッズ」クリエイティブ・ディレクター、ヴァルター・キアッポーニは、ミラノの上流階級の女性のようなエレガントで文化的なクチュールテイストを描いたという。ただ、そんなシックさの中に小さなエキセントリックさや人間らしい弱さやエロティズムも同時に描かれているのだとか。
キーアイテムの一つはトレンチコートで、このマスキュリンなアイテムを使うことであえてフェミニンさを引き立てる。それは50年代のクチュールドレスのような感じでキモノの帯風にフロントで結んだり、大きなフリルの襟をつけたり、またはそれを解体して再構築したアシンメトリーなジャケットやスカートとして登場する。同様に重要となるダウンには柔らかいレザーを使い、コクーン型のオーバーサイズのジャケット、50年代風のワンピースや1700年代風の高い襟がついたコート、またはフード付きのスキー用ジャケットなどとして登場。そこには「トッズ」の哲学である、機能性やユーティリティもしっかりと生かされている。
そして「トッズ」には初めてともいえるチュールが使われたり、メンズテイストのポロシャツ風のボディスーツも登場し、センシュアルなイメージを加えている。その一方で、パンクテイストの厚底ラバーソールのゴンミーニのローファーや、素材をそのままカットし、縫い目をあえて外に出した大きめの「T タイムレス バッグ」などストリートテイストも加わっている。
上品なクチュールテイストのミックスを象徴したコレクションは、「現在の状況とは関係なく、自分が今、好きなものを描いた」というキアッポーニ。パンデミックに対応するアイテムばかりにあわせる時代もそろそろ終わりなのかもしれない。
プラダ(PRADA)
1月のメンズコレクションに続き、フェイクファー、大理石や石膏など様々な素材でできた4つの部屋を、モデルたちが移動する映像を発表した「プラダ」。
今回のコレクションのテーマは、“POSSIBLE FEELINGS Ⅱ”。メンズの際のテーマの第二章を示唆するようなウィメンズコレクションは、メンズコレクションとリンクする部分が非常に多い。第一章に当たるメンズコレクションは、“親密でパーソナルな接触や交流して関係を築くことへの欲求。そして人間の肉体へのフォーカス”というようなコンセプトを持っており、今回はその流れを繋ぎつつ、マスキュリンとフェミニンのコントラストや重さや軽さのバランスなど、シルエットや素材に重点を置いたコレクションとなっている。
メンズコレクションとの関連性が前面にだされ、今回も柔らかい触感や体を包む暖かさ、そしてレイヤードに重点が置かれている。今回もアイテムたちが見えるようにレイヤード。そしてメンズスタイルにフェミニンさを加えるという手法の主役となるのは、ラフ・シモンズの加入によってはじめて取り入れられたピンストライプのスーツ(パンツまたはスリット入りのスカート)。それにはタートルニット、ロンググローブやニーハイブーツがコーディネートされる。このニーハイブーツはメンズライクなダービーシューズのラストを使い、ジオメトリックかつカラフルなジャージー素材でカバーされたもので、ここにもマスキュリンとフェミニンが共存する。メンズコレクションの主役であったロングジョンも一部登場している。
今回もアウターに重きを置き、メンズでも登場したボリューミーなカバンコート、太うねコーデュロイのコート、ボンバージャケットなどに加え、ウィメンズではアスペン(フェイクファー)やスパンコールを全体にちりばめたテーラードテイストのコートも。そして、内側にスパンコールを配したアスペンやボンバージャケット風の袖がついたストールも重要な位置を占めている。
重さと軽さのバランスは、透け素材の軽いドレスの一部がニットになっていたり、その逆でニットジレのサイド部分だけがジョーゼットになったドレスによって象徴的に体現される。
そしてメンズ同様に「プラダ」のトライアングルロゴが強調され、背中に三角形の布がついていたり、三角ロゴのミニポーチが袖についていたり。メンズで登場した三角ポーチ付き手袋はウィメンズにも登場する。大きなボタンの中に三角ロゴが刻印された6つボタンのカバンコートや、ノーラペルで襟と襟を止めるベルトが胸元に三角形を作るディテールもメンズと共有している。またフラップ部分が三角形でジップ仕様になったバッグも登場する。
そして今回もショーの後には、オンライン対談が開かれた。対談には、ジャーナリストのデレク・ブラスバーグをモデレーターに、建築家レム・コールハース、マーク・ジェイコブス、モデル兼俳優のハンター・シェーファー、音楽家リッチー・ホゥティン、映画監督のリー・ダニエルズが参加。「プラダネス(プラダらしさ)とはミウッチャそのもの」というマーク・ジェイコブスのコメントが印象的だった。
マルニ(MARNI)
今シーズン、「マルニ」は朝食、ランチ、ディナーの3回に渡ってショートムービー風の映像を配信。Zoomおよび、イタリアファッション協会のサイトから配信されたが、ほとんどのコレクションが協会のサイトで発表後も視聴できるのに対し、「マルニ」はオンタイムのみ。それゆえに世界の様々な場所で見る人たちの時差を考慮して3回に分けられたのだと想像する。共通して漂うのは、ロマンティシズム。「ロマンチックな愛の歌を奏でるように、そしてラブレターを書くかのようにクリエイションした」とクリエイティブ・ディレクターのフランチェスコ・リッソは言う。
色とフォルムでロマンスを追及したという今回のコレクションでは、ダークな色合いから明るくカラフルな色まで登場し、ボリューミーなフォルム、たくさんのフリルやダーツなどの甘いディテールが絡み合う。それらがトレンチコート、メンズシャツ、パーカー、バイカージャケット、ブルゾンなどで登場する。
調理をしながら(靴を煮るシーンも!)、またはテーブルで、という楽しそう、かつちょっと不思議な映像、1日3回の映像配信という手法もかなりユニークで、印象的なプレゼンテーションとなった。
取材・文:田中美貴
「ミラノ」2021秋冬コレクション
田中 美貴
大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。