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2021.03.01
【2021秋冬ミラノ ハイライト1】ビッグネームの初コレクション、新しい演出など ミラノならではの華やかさに包まれたデジタルファッションウィーク(1)
左からマルニ、プラダ、フェンディ
2021年2月24日~3月1日の期間で、ミラノ・ウィメンズ・ファッションウィークが開催中だ。68ブランドがデジタルショーを、65ブランドがプレゼンテーションを、7つのイベントのトータル140項目がカレンダー上に並んだ。毎週のように新型コロナウィルスへの感染防止規制が変わる不安定な状態のミラノにおいて、ランウェイショーはすべてデジタルでの発表になったが、展示会はアポイント制によりフィジカルで行うブランドもあった。ファッションウィークにこだわらない形で新作を発表する「グッチ(Gucci)」や「ボッテガ ヴェネタ(Bottega Veneta)」、ファッション・ウィーク後の3月5日に発表を予定している「ヴェルサーチェ(Versace)」、パリで発表する「ジル サンダー(Jil Sander)」を欠いた以外はほぼビッグネームも出そろい、デジタルながらも華やかなファッション・ウィークが進行している。これらのうち、まずは前半に発表されたものからレポートする(後半編はファッションウィーク終了後掲載予定)。
ヌメロ ヴェントゥーノ(N°21)
ガレージヴェントゥーノと思われる無機質な空間を舞台にメンズ、ウィメンズ混合ショーをデジタルで配信した「ヌメロ ヴェントゥーノ」。今シーズンのコレクションでアレッサンドロ・デラクアがインスパイアされたのは、イタリア人デザイナー、建築家、写真家であるカルロ・モリノのポラロイドショットで知覚される雰囲気だ。イタリアのブルジョア階級に象徴的な、控えめで直感的な官能性を表現しているという。
そんな雰囲気は、デコルテ部分や背中が大きく開いたボディコンシャスなミニドレス、大きく胸元の開いたベアショルダーのドレス、ワンショルダーのサテンドレスやマイクロミニモヘア、下着が見えるようなフリンジドレス、透け素材のオーバードレス、ランジェリードレスやブラとボトムのコーディネートなどのセンシュアルな要素に現れる。それがシープスキンのカバンコートや、アニマルモチーフのコクーンシルエットのコート、8つボタンのジャケット、グランジ風のチェックのマキシシャツやアウター類などとコーディネートされる。またレザーカットが施された肌の見える素材を使った良家の子女風のワンピースや、胸元をフリルとボウタイで飾ったマイクルミニのドレスなどにも、上品さと官能性が共存する。
スカート、アウターからバッグに至るまで、フリンジが各所に使われているのも特徴的だ。また、アレッサンドロ・デラクアには珍しいアニマルモチーフが各所に登場する。
メンズコレクションは、いつものようにウィメンズと呼応し、モヘア、シープスキンコート、チェックやアニマルのモチーフ、フリンジのディテールなどが使われている。
「謙虚さと注目を集めたいという願望の両方をひとつにした典型的なイタリアのエロティシズムの感覚」、「エキセントリックなエロティシズム」を追求したという今回のコレクションでは、相反するものとミックスしながらも肉体やヌーディティに向き合った、デラクアの新境地開拓ともいえるコレクションとなっている。
ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)
今回は通常の展示会枠ではなくランウェイカレンダー内でコレクションを発表した「ブルネロ クチネリ」。同社本拠地ソロメオ村に2018年に完成した公園のシンボル的存在である「人間の尊厳に捧ぐ」と刻まれたモニュメントを背に、新作コレクションを纏ったモデルたちが登場。デジタルで配信された映像のオープニングはソロメオ村の美しい風景が流れ、コレクション発表を挟んだ、後半の締めくくりはブルネロ・クチネリ自らが、パンデミック下の現代においての彼のヒューマニズム溢れる思いを語る・・・という「ブルネロ クチネリ」らしい魅力を満載した仕上がりになっている。
今シーズンは“The Touch of Knit”というテーマで、ニットをクローズアップ。オンとオフ、インドアとアウトドアの境界線が曖昧になっている今、柔らかく身を包む快適なアイテムであり、高級な素材を使うことによってフォーマルな役割もできるニットを主役に、「コージーウェア」、「ニューフォーマル」といったキーワードでコレクションを構築する。
カシミア、ウールなど上質な素材で仕上げられたニットがコート、ジャケット、スーツ、ワンピースやツインセット、そしてバッグに至るまで様々な形で登場する。シルエットには「ブルネロ クチネリ」らしいマスキュリンとフェミニンのミックスがなされていて、たっぷりしたトラウザーをブーツインしたり、トラックパンツやクロップとパンツ、テーラードテイストのコートやジャケットも多く登場する。が、そんな中に、チュールや刺繍、スパンコールなどのフェミニンなディテールがミックスされている。
カラートーンは全体的にグレーやペールカラー、ホワイトなどのエターナルカラーのニュアンスで、お得意のトーンオントーンを多用。リラックスウェアを意識しているとはいえ、クオリティと高級感を保った安定感のあるコレクションは、今回、理想郷ソロメオ村を舞台にしたことで、よりその魅力が際立った。
フェンディ(FENDI)
ウィメンズのアーティスティック ディレクターに就任したキム・ジョーンズ(Kim Jones)が手掛ける初のプレタコレクションとなる「フェンディ」。先日のオートクチュールでのセットを彷彿させるガラス張りのボックスの中に、今回はローマのフォロ・ロマーノのような、遺跡群が鎮座している。デジタルで配信された映像の中では、鏡の演出も手伝って迷路のようになったランウェイをモデルたちが歩く。
ローマ帝国の雰囲気を前面に出したセットともつながるようなコレクションの着想源は、ローマを本拠地とするフェンディ一族の勤勉に働く知的な女性たち。創業者の娘たちである5姉妹、およびシルヴィア・フェンディの日常着からのインスピレーションだと言う。ウォッシュ加工を施したミンクのベルスリーブのコートやシルク風のつやがあるシャツ、ウールのピンストライプの仕事着、シャツジャケットなどが、それを象徴する。
そしてダブルカシミアとキャメルのコート、ヘリンボーンのチェスターコートやダブルブレストのミンクのメンズコート、フライトジャケットなど、メンズのワードローブで見られるような実用的なアイテムがたくさん登場するが、それとコーディネートされるのは、ブラトップやショーツ、シガレットスカートなど、センシュアル、そしてストリートテイストも感じられるアイテム。同時にサテンのランジェリードレスやボディコンシャスなニットドレスなどのフェミニンなアイテムも登場する。キャメル、ブラウン、ブロンズなどの茶系のトーンをメインに、白、黒、グレーなど控えめな色を使い、多くのルックをトーンオントーンでコーディネートする。
そこにカール・ラガーフェルドがブランドにもたらしたディテールを、控えめながら随所に散りばめ、アーカイブに収蔵されている数々のスケッチをもとにしたデザインや「カーリグラフィ」モノグラムなどが差し込まれる。
アクセサリー類では、フリンジ付きのマキシマフラー、あるいはそれがアウターの一部になっているようなデザインが特徴的だ。また「フェンディ」モノグラムを斜めにあしらったクラッチ「フェンディ ファースト」がデビューし、イタリア各地の職人がアイコニックな「バゲット」バッグを作り上げるお馴染みの企画「ハンド・イン・ハンド」では、今回カンパニア州の職人がバロックの花のモチーフをあしらった、化粧板を張った構造的な「バゲット」を製作した。
キム・ジョーンズが提案したのは、シルヴィア・フェンディがしばしば用いるポップで遊び心溢れる現代的テイストとは一線を画する、モードにアップデートされた日常着感覚。だが、それは「フェンディ」らしい職人技が生きた華のあるラグジュアリーに仕上がっている。
ヘルノ(HERNO)
「ヘルノ」はサステナビリティなライン「ヘルノ・グローブ」に特化したコレクションを、ブランドの本拠地であるマジョーレ湖の象徴的な場所で撮影した映像にて公開した。そこに登場するのは、現在、世界で「ヘルノ」だけがエクスクルーシブで使用しているポリアミドの糸で織った20デニール ナイロンを使用した、ボンバー、フード付きベスト、Aラインコート、廃棄漁網や産業廃棄物からの再生ナイロン、エコニールを使った、コクーンボンバー。または 生地製造工程で出る廃棄物などを原料とする100%リサイクルナイロンサテンを使ったスタンドカラーのダウンアイテム、染料を一切使用せず100%有機飼育のメリノウールを使ったチェスターコートとスタンドカラーと七分袖が特徴のコート、リサイクルウールによるファスナーで開閉するクラシックなコートとフード付きローブドシャンブル モデルのコート。さらに、有機飼育によるウールを使ったミニマルコートとオーバーサイズコート、動物に優しい農場からのウールを使った半袖のダウンベストや長袖のスタンドカラージャケットの、メンズルックのコートとニットのディテールをあしらったフード付きショートコートなど。
「博識ぶった創造性は存在せず、モデルやインフルエンサーのよく知られた顔もない」、「サステナブルであることがクールだ」という同社の考え方には大いに賛同したい。
マックスマーラ(Max Mara)
今年創業70周年を迎える「マックスマーラ」の今回のコレクションのテーマは“1951”。創業年を意味するこの数字に表されているように、創業当時の志を振り返るコレクションだ。デジタルで配信された映像の最初に現れるエクスクラメーションマークは、「マックスマーラ」が創業当時に使っていた広告のグラフィックだ。創業者アキーレ・マラモッティが目を向けたのは、「地元の公証人や医師の妻」といった意識の高い女性たちだったそうだが、そんな正統派でありながら時にエキセントリックな女性たちを、英国スタイルにイタリアっぽいアクセントを効かせたコレクションで表現した。
同ブランドのシンボル的存在であるキャメルコートを中心にアウターが重要な位置を占め、アウターのレイヤードなども見られる。ボリューミーなボンバージャケット、キルティングのコートやベスト、テディコート、パッチポケットがたくさんついたアルパカコート、ダウン風ロングコートなど様々。特にパッチポケットやエルボーパッチの付いたジャケットやキルティングのアイテム、ボリューミーなアランニットのセーター厚底シューズなどは、英国のカントリーサイドのイメージを醸し出す。ガンクラブチェックのスリットスカートや、グレンチェックやタッタ―ソールチェックのスーツなどにも英国テイストが漂う。
そんな中に、襟や胸にフリルのついたドレスシャツや、深めのスリットが入ったスカートなどがフェミニンさを加えたり、オプティカル柄やアニマル柄などが差し込まれる。ウエストポーチやショーツなどのスポーティなアイテムが都会的な雰囲気を添えている。
最後にモデルが全員登場する様子は、ジュゼッペ・ペリッツァ・ダ・ヴォルペドの絵画「フォース・エステート」をも連想させ、自力でキャリアを切り開く女性たちに寄り添ってきたマックスマーラの70年を象徴するようなエネルギッシュなフィナーレだった。
ブルマリン(Blumarine)
今シーズンの「ブルマリン」は2000年代全盛期のブリトニー・スピアーズとパリス・ヒルトンのカジュアルなポップグラマーからのインスパイア。デジタルで配信された映像は、一面ピンクでキラキラな部屋にあるベッドからいきなり立ち上がったモデルたちがウォーキングする。クリエイティブ ディレクターのニコラ・ブロニャーノは今回のコレクションで、「ショービジネスやポップミュージックが強かった2000年最初の頃のファッションをモダンな感性で再起動」させたのだという。
登場するのは、ローライズのベルボトムパンツとマイクロトップのコーディネート、ボディコンシャスなマイクロミニのニットドレスやランジェリードレス、マクラメ刺繡をあしらった透け感のあるチュールロングドレス、ファーのボア付きのカーディガンなどグラマラスなアイテムたち。そして足元にはレースアップサンダルやパンツをインしたロングブーツを合わせる。これらのアイテムのほとんどは鮮やかな色遣いで、「ブルマリン」らしいフラワーモチーフやアニマルプリント、フリル、レース、スパンコールなどで飾られている。
セクシーで挑発的、エネルギッシュでハッピームード満載の「ブルマリン」のコレクション。こういうムードこそが、実は今の時代に一番必要なのではないだろうか。
モスキーノ(MOSCHINO)
今シーズン「モスキーノ」がデジタルで発表したのは、“ジャングル・レッド”と題した往年のハリウッド映画のような映像。このコレクションは、セレブのご婦人たちの愛憎劇を描いた1939 年公開の映画「The Women」からのインスピレーションだそうで、“ジャングル・レッド”とは映画の重要な舞台となるネイルサロンで話題の最新ネイルカラーの名前から来ている。この映画は、出演者は女優だけというのが特徴でもあるが、映画さながらに40年代風のハイソな夫人たちが劇場に集まり、演劇を見ている様子が描かれる。そして「ショーの中のショーの中のショー」で登場する様々なシーンごとにバラエティ豊かに洋服が展開される。
それは、高層ビルが並ぶ大都会の背景をバックに登場する、ピンストライプのマスキュリンなパンツスーツやシガレットスカートのビジネスウーマンだったり、空や牧場や牛が描かれた舞台の背景がそのままプリントされたようなプレーリードレスや、農場の麻袋のモチーフやパッチワーク柄のフリルドレスやベルスリーブのドレスなどのカントリースタイル。続いてはミュージアムを舞台にして、キュビズムのような構築的なドレスや、またはポスト印象派の絵画からそのまま飛び出したようなプリントのドレスたちが登場。その後は、舞台をサファリに移し、キリン柄のミニドレスやラメのフラミンゴが前面につけられているドレス、ゴールドメタリックのフェイククロコの尻尾付きパワースーツやヒョウ柄の尻尾付きのミニドレス、またはジャングルの探検隊のようなサファリジャケット風ワンピやショーツなどが登場する。そして最後には観客のご婦人たちが着用しているゴージャスなイブニングドレスをそれぞれ披露。大トリでハートモチーフの真っ赤なドレスを着たディータ・フォン・ティースが現れ、ターンするとハート型の穴が開いたドレスからお尻が・・・というオチでフィナーレだ。
相変わらずのアイロニーとひねりを効かせたコレクションと独創的なショーの演出で全く飽きさせなかった「モスキーノ」の映像。この現状ではそれを着て出かける機会がないような服もあったが、ファッションの楽しさや高揚感を思い出させてくれた。