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2021.03.02

マンハッタン五番街での最新体験レポート: 「バーニーズ」の新しい売り場、「ナイキ」のARを使ったエンゲージ、「ブルーミングデールズ」のBOPIS

RINAのFASHION x IT レポート from NYC Vol.130
RINA

 今月はマンハッタンの五番街界隈で気になっていた「BARNEY’S at Saks」、「NIKE HOUSE OF INNOVATION」、「BLOOMINGDALE’S」の3つのリテールを確認してきましたので主観と共にお伝えしたいと思います。これらの店舗に立ち寄ったのは2月の平日、正午あたりの時間帯です。この時期のニューヨークの気温はマイナス前後ということもあり、この寒さからか五番街の人足はかなり少ないように感じました。

BARNEY’S at Saks / バーニーズ・アット・サックス

BARNEY’S at Saks(バーニーズ・アット・サックス)店舗の入口

 日本でもファンが多かったBARNEYS NEW YORK(バーニーズニューヨーク)が経営破綻し、その後は2019年の10月に米ブランド管理会社のAuthentic Brands Group(オーセンティック・ブランズ・グループ)によって売却されました。そう昔の話でもないですが、時の流れの感覚がたまに分からなくなることがある今、そんな事もあったなと思い返してしまう自分がいました。売却後、1月半ばにマンハッタンの五番街にあるSaks Fifth Avenue(サックス・フィフス・アヴェニュー )に、「BARNEY’S at Saks(バーニーズ・アット・サックス)」として売り場がオープン。新たにスタートした売り場は一体どんな雰囲気かと立ち寄ってみました。

BARNEY’S at Saks(バーニーズ・アット・サックス)店内の様子

 バーニーズ・アット・サックスは、2019年2月にリニューアルされたサックス・フィフス・アヴェニューの5階フロアの一部にオープン。約5,000平方メートルに及ぶ売り場では、Fear of God、Loulou Studio、Reese Cooperといった新進気鋭のデザイナーから3.1 Phillip Limなど広く知られるブランドまでをミックスした取り揃えとなっていました。ショップ・イン・ショップらしくレディースとメンズのアイテムが同じフロアで紹介されています。ただ、売り場に立ち寄った時期が大雪明けで、ウィズコロナかつ平日の昼間ということも関係しているのでしょうか、他のお客様とすれ違うことも無かった状況は残念に感じました。

 

 個人的には、売り場に並ぶデザイナーズコレクションの一つ一つを見ると発見があり物欲もくすぐられるのですが、同フロアに並ぶデザイナーズブランドと、バーニーズ・アット・サックスとの差別化はぼんやりとしており、「BARNY’S at Saks」のサインがなければ見逃してしまうほどでした。“N YといえばマディソンアヴェニューのBarneys New York!”という世代だからか、どこかで少し違うように思う寂しさは隠せませんでした。しかし、Z世代からすると「BARNEY’S at Sak」は新たなブランドとして捉えられるでしょうし、大切なのはここからどう変化、そして進化していくかということだと思います。今後、若い世代がどのように新たな売り場にエンゲージしていくのか、今後の売り場作りなどに注目していきたいと思いました。

NIKE NYC HOUSE OF INNOVATION / ナイキ NYC ハウス・オブ・イノベーション

NIKE NYC HOUSE OF INNOVATION (ナイキ NYC ハウス・オブ・イノベーション)の店舗の様子

 マンハッタンの五番街にある「NIKE NYC HOUSE OF INNOVATION」では、1月初旬から一ヶ月間にわたり「AGC HO20」のアウトドアコレクションが展示されており、売り場を体験してきました。この店舗ではモバイルを活用した体験に関するマーケティングが行われており、ARを活用したエンゲージメントが展開されていました。具体的には、店内の床に記されたQRコードをスマートフォンのカメラ機能で読み取ることで、キツネやワシなどの動物がARの技術で登場するというユニークな体験です。意外とリアルな映像で、個人的にはグラフィックの素晴らしさにも感動しました。他には、売り場の商品説明に添えられた7つのQRコードを全て読み取ることで、ナイキのメンバーシップに入会していれば誰でも限定のウォーターボトルとステッカーを受け取ることができるキャンペーンなど、ファンを店舗へと導く工夫が施されていました。私がチャレンジしに店舗へ足を運んだ時にはすでにウォーターボトルは在庫切れ、ステッカーのみの受け取りとなり、キャンペーンの人気がうかがえます。

店舗にあるQRコードをスマートフォンのカメラ機能で読み取ることで、

キツネやワシなどの動物がARの技術で登場するというユニークな体験

 店舗を訪れた際、心のどこかでストアスタッフとの会話でさえ必要以上にはせず控えたいと感じてしまうコロナ禍。そんな心境がある中、10分程度の滞在時間でも楽しめるような工夫が施されていると、店舗に行ってみようと思える大きなきっかけになると感じました。

 ARの機能は特に家具やインテリアの企業で活用されていることが多いですが、ファッションリテールでもアトラクションとして大いに活用できると思っています。例えば、家族やカップル、友人と百貨店、商業施設、ショッピングセンターを訪れた際、館内のすべてのフロアにQRコードとARを用意し、「宝探し」をイメージしてスキャンをしてもらうことで、普段は一部のフロアしか行かない顧客にとっても、他のフロアにどんなブランドがあり、どんな商品があるのか知ってもらえるような機会が作れますよね。さらに独自アプリを通じて実施することでアプリのダウンロードを促すこともできると思います。そして、前述したナイキの取り組みの様に、「お楽しみ」としてチェックポイントをすべてクリアした際のノベルティーのプレゼントなどを用意するのは大切ですよね。

AR機能の紹介動画

BLOOMINGDALE’S / ブルーミングデールズ

ブルーミングデールズにあるBOPICS専用のカウンター

 ブルーミングデールズのような百貨店に限らず、多くのファッションリテールでも提供されているBOPIS(Buy Online, Pick-up In Store)のサービス。クリック&コレクトとも言われるこのサービスは、消費者にとって便利なサービスであるものの、気をつけなければならない部分もあります。それは受け取り場所の設置です。クリック&コレクトの最大のメリットは、オンラインで購入することで店舗内を歩いて探す時間をセーブし、受け取りが店舗でスムーズにできることだと感じます。マンハッタンにあるブルーミングデールズのフラッグシップストアではかつて、BOPISの受け取り場所は2階か3階のカスタマーサービスカウンターに設置されており、当時は、エスカレーターを利用し広い店内を歩いて向かうのが億劫だと感じていたのを覚えています。しかし、現在はパンデミックを経てサービスも改善し、BOPIS専用のカウンターは1階フロアに移設されています。早速、気になっていたフィットネスブランド「bala(バーラ)」のウエイトを外出前にブルーミングデールズのオンラインサイトで購入し、受け取りはBOPISを指定して店舗へ向かいました。外出途中、ピックアップの用意が完了したという通知が届いており、他の店舗に寄った後、最後にスムーズにピックアップすることが出来ました。受け取りの際は、注文番号と写真付きIDの提示による本人確認が必要となります。

 

 ブルーミングデールズがBOPISの受け取りカウンターを設置した1階フロアは、以前は数ヶ月ごとにテーマを変えポップアップショップを行っていた場所。しかし顧客にとっての優先事項が、スムーズかつ安全に買い物が出来ることである今、従来のままコンセプト型のポップアップショップを行うのではなく、オンライン注文商品の受け取りカウンターへチェンジした選択は正しかったと思います。

 

 最近は、目の前にある現実を自分なりに理解しながら、日々の生活にアダプトしていくということの大切さについてよく考えます。リサーチをしていて感じることは、“変わってしまった”ということにフォーカスしすぎると、戸惑いが強くなり考え方も凝り固まってしまいます。先述したバーニーズの話にもあったように、以前と変わってしまったことにそこまでこだわる必要はないと感じます。「今」にアダプトし、ブランドとして、リテーラーとして未来に向けてどう進化し続けるべきか。そうしたマインドセットを常に持つことで、心離れしてしまった顧客にも再びアプローチ出来るのではないかと、そんな風に感じました。


 

 

R I N A

90年代の米国がネットバブルだった頃に米国にて日本向けのファッションポータル事業にコンサルタントとして関わる。

 

以降、「ファッション」と「インターネット」上で行われるビジネスを中心とした事業に15年ほど携わり、Web製作やディレクション、ビジネスのコンサルタントを行う。現在は米国のファッション事情やトレンド、ファッションとIT関連を中心とした執筆、今までの経験と知識を活かしビジネスサポートも行っている。

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