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2021.03.02

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.71】ミニマルとグラマラスが混在 2021-22年秋冬ニューヨーク&ロンドンコレクション

左から:プロエンザ スク―ラー、3.1 フィリップ リム、シモーネ ロシャ、アーデム

 コロナ禍の出口がようやく見え始めてきたものの、2021-22年秋冬のニューヨーク、ロンドン両コレクションは大半がリアルのランウェイショーを見合わせ、オンライン開催のデジタルショーとなった。「アメリカファッション協議会(CFDA)」は「ニューヨーク・ファッションウィーク」を「アメリカン・コレクションズ・カレンダー」に名称変更した。東京を拠点とする、「TOKYO FASHION AWARD」の2020年度受賞デザイナーの6ブランドがロンドンで動画を発表するなど、発表方法も多様になっている。

 

 コレクション発表のタイミングも、ブランドごとに分散していて、正規のスケジュールからあふれるケースが相次いだ。これまでの「ファッションウィーク」というくくりが難しくなる中、クリエーションも「ミニマル、懐古」派と「グラマラス、ときめき」派に二極分化する傾向が現れている。

■NYコレクション

◆プロエンザ スク―ラー(Proenza Schouler)

 ニューヨークのファッション表現が楽観と抑制に割れる中、縦に長いしなやかなシルエットを軸に据えて、スレンダーな装いを披露。黒やグレー、アースカラーなど、抑制を利かせたカラートーンも細身感を引き立てている。セータードレスやパンツスーツが凜々しくシャープな着映えに導く。しかし、窮屈さは遠ざけ、伸びやかでコンフォートな着心地に整えた。

 

 余計な飾り気はそぎ落としながらも、流麗な骨格は残すというエッセンシャルな造型。何度も登場したのは、正面のボタンを外して、素肌の三角形をのぞかせる「チラ腹見せ」の演出。肩出しや肩甲骨出しもヘルシー感を漂わせた。もふもふのフラットなビッグシューズが足元の華奢感を際立たせている。カマラ・ハリス米副大統領の継娘、エラ・エムホフのモデル起用はZ世代の新ミューズ像を示していた。

◆アナ スイ(ANNA SUI)

 「スウィンギング・ロンドン」の1960年代テイストをちりばめ、現実逃避のパーティーに誘うかのような、ファンタジー感の濃いコレクションにまとめ上げた。お得意のヴィンテージ感やレトロテイストは一段と強く打ち出され、そこに、90年代を思わせるグランジルックな風情も交わらせている。白黒まだらの牛革風の朗らかなモチーフや、ウィンドウペインチェック、花柄などの多彩なモチーフが楽観を注ぎ込んだ。

 

 シグネチャーカラーの紫に赤味を乗せた、明るい赤紫をキートーンに迎え、装いにぬくもりを添えた。サイケデリックカラーやつやめき素材が妖しさとグラマラスを交差。手編みのニットウエアが朗らかな雰囲気を帯びさせ、アセテート製のサングラスはノスタルジックなたたずまい。マスクにもレースや刺繍でゴージャス感を盛り込んでいた。

◆アリス アンド オリビア(alice + olivia)

 ニューヨークへの愛とリスペクトを、グラマラスでクールな装いで表現した。全体を包むキーモチーフに選んだのは、大ヒットしたテレビドラマ『ゴシップガール』。マンハッタンのスーパー富裕層子女を描いた同ドラマは2007~12年に放送され、新シリーズの制作が決まっている。夜の外出が難しい状況に立ち向かうかのように、ナイトクラビング風のゴージャスなムードを醸し出した。

 

 フェイクファーやビーガンレザーを用いて、サスティナブルでありつつ、弾け気分の「遊び着」に仕上げた。ツイードジャケットに代表される「良家の子女」テイストも盛り込んで、アッパー感とトラッドをねじり合わせている。超ロング丈とミニ丈の両方を提案。レディーライクなヘッドアクセサリーはクラス感をまとわせていた。

◆3.1 フィリップ リム(3.1 Phillip Lim)

 1枚で何パターンも着こなせそうな造りの服を、「着せ替え」風に提案。70年代調のレトロ感を漂わせつつ、スマートにモダナイズ。持ち味のシャープなテーラーリングを生かして、マニッシュなスーツを構築。その一方でAラインのスカートルックも用意。深いスリット入りでダイナミックなレイヤードを組み立てている。

 

 付け襟ならぬ「付けハイネックニット」のようなギミックアイテムはアレンジが楽しくなりそう。ところどころにスポット状のカットアウト(くり抜き)を施して軽やかに肌見せ。ニットドレスにスポーティー感を添えた。馬モチーフのプリントスカートは「アフターコロナ」の戸外に誘うかのよう。伝統的なアメリカンスポーツに、「アクティブ×グラマラス」のムードでひねりを加えている。

◆アディアム(ADEAM)

 これまでのメインラインに加えて、ジェンダーニュートラルの新ライン「アディアム イチ(ADEAM ICHI)」を初披露した。前半はメインの「アディアム(ADEAM)」で、途中から新ラインにスイッチ。性別の異なるモデルが同じアイテムを別パターンでまとって、ユニセックスなサイズ感を生かした着こなしを印象づけていた。全体にリラクシングなシルエットに、パンツで落ち感を出している。

 

 ケープコートやフレアパンツが量感を弾ませている。袖や肩にシャーリングやフリル、ドレープを配して、起伏に富んだ、ロマンティックなたたずまいに整えた。二の腕にカットアウトを加え、素肌をさりげなくヘルシーにのぞかせている。シャツのウエストアウトは気取らないノンシャランとしたムード。ジェンダーニュートラルラインには「大人ストリート」の気分が薫るようだった。

■ロンドンコレクション

◆シモーネ ロシャ(SIMONE ROCHA)

 ミニマル志向のモードが勢いづく中、反骨パンクな空気が爽快。ガーリーな持ち味は保ちつつも、ファーストルックから黒革のライダースジャケットを連発。バレリーナの衣装「チュチュ」を思わせる、チュール仕立てのミニスカートと組み合わせて「パンクキュート」のミックステイストを押し出した。スクールガール気分を宿す大襟の白シャツも、程よい違和感がおしゃれ心をくすぐる。

 

 ライダースもワンピースも袖をパフィに膨らませ、エドワード朝のロマンティックさを薫らせている。一方、靴は底の厚いレースアップでロックなたたずまいに。ワンピースには花柄と刺繍が施され、ハッピー感を漂わせている。少し毒っ気を忍び込ませて、タフ感とプリティさを巧みに混在させるカオス演出が、芯の太い女性像を立ちのぼらせた。

◆アーデム(ERDEM)

 バレエの世界に着想を得た、動感とエレガンスが響き合う装いを提示した。バレリーナの衣装に通じるフェザー風ディテールやヘッドピースがドラマティックな印象。細いプリーツがスカートやコートに配されて、動くたびに凛としたリズミカルな動きを演出。「フィット&フレア」がしなやかな構築美を描き出した。

 

 ボディコンシャスなリブニットのパンツにクラシックなジャケットで合わせて、カジュアルとフォーマルが交差する、ウイットフルなスタイリングを試した。コルセット状のカマーバンドはくびれを際立たせている。繰り返し登場させたフェザー柄には希望を託かのよう。幅広ヘアバンドと分厚いプラットフォーム靴で上下にアクセントを加え、装い全体を弾ませている。

 

 

 NYとロンドンで目立った新傾向はオーバーボリュームやボディコンシャスといった量感の遊びのほか、あでやかな花柄使い、進化形パンツスーツ、70年代ツイスト、シャツ重視、プリーツ多用など。首・襟ゾーンの盛り立て、ロングコート復活、パンク色、グランジ風味、ニット重視なども目立った。全体的な方向性はタイムレス意識の強まり、主張の打ち出しなどを先シーズンから受け継ぐ。ニューノーマルになじむ装いを、歴史的な流れに位置づけるような試みだ。キャッチーなトレンドづくりが減る半面、長く着続けやすい「愛着ウエア」「ポリシー服」の提案が増えた点が大きな収穫と見えた。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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