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2021.02.22

【2021秋冬NYコレ ハイライト1】オンラインによる配信がメインなるも参加ブランドは増える

写真左から「アリス アンド オリビア」「アディアム」「アナ スイ」

 ニューヨークコレクションが、2021年2月12日から2月18日をメインにして行われたが、コロナ禍にあって、オンラインがメインの発表プラットホームとなった。

 

 これに先だって、アメリカファッション協議会(CFDA)のトム・フォード会長は、名称を「ニューヨーク・ファッションウィーク(NYFW)」から「アメリカンコレクションズカレンダー」に変更すると発表。CFDAは1962年の創立以来、アメリカのファッションを国内外でプロモートすることを使命にしてきて、これまではニューヨークで「NYFW」にコレクションを見せることに力を入れてきた。しかし現在ではヨーロッパやアジアなどを発表の場に選ぶブランドもあり、どこで見せようと彼らをサポートするのがCFDAの務めとし、国外や公式スケジュール以外で見せるデザイナーのスケジュールも「アメリカンコレクションズカレンダー」に入れるとした。

 

 CFDAでは、先シーズンにオンライン発表の場として立ち上げた「ランウェイ360」で、ショーやルックブックを披露した。今回はデジタル配信がほとんどということもあって、30分刻みのスケジュールでショーが配信され、多い日は34ブランドあまりの配信、全体では80ブランド以上がコレクションを配信した。

 

 一方、「NYFW」のプラットホームも持続していて、こちらも「NYMD(ニューヨークメンズデイ)」や「フライングソロ」といったショールームの展示も合わせれば、合計200ほどのブランドが参加したことになる。「ジェイソン ウー」は、ビューティのラインを、NYFWの配信で行っていて、ビューティなどの分野を含めると、幅広い配信となった。両方のプラットホームで見せるブランドもあれば、ひとつのプラットホームだけのものもあり、一本化されたわけではないシーズンとなった。

 

 さて今回のコレクションはほとんどのブランドがデジタルによる映像配信かルックブック配信になったが、ひとつの利点をあげるならば、オンラインのみであって参加費用が手頃になったせいか、幅広いブランドが参加したことだろう。たとえば「イミテーション・オブ・クライスト(IMITATION OF CHRIST)」や「スリー・アズ・フォー(threeASFOUR)」など、かつてNYコレクションで話題を集めたものの、ショーの表舞台からは姿を消していたブランドが再び参加している。

 

 また昨年ブラック・ライブズ・マター(黒人の命が大切だ)運動で、構造的人種差別が浮き彫りにされたアメリカ社会だが、そのムーブメントも会ってか、マイノリティーの参加デザイナーも増えた。IMGとブラック・イン・ファッション・カウンシルは、4日間のショールームを開いて、ハウス・オブ・アーマ(House of Aama)、イーダス(Edas)など、16人のデザイナーをフィーチャーした。またブラックトランスジェンダーのデザイナーが手がけ、「ノーセックス/ノージェンダー」を掲げる「ノーセッソ(No Sesso)」や、ワシントンDCを拠点とした母娘のデュオによる「デュードゥ(DUR DOUX)」、元「ボッテガ・ヴェネタ」のAbrima Erwiahと女優のロザリオ・ドーソンが組んで、アフリカで生産されている「スタジオ・ワン・エイティ・ナイン(Studio 189)」なども参加した。

「スタジオ・ワン・エイティ・ナイン」2021秋冬コレクションムービー

 今までモード界では、マイノリティだったブラックデザイナーたちが、新しい視点を持ち込めることを期待したいところだ。

 

 今回はルックブックのみで発表するブランドも多かったが、「ジェイソン・ウー(JASON WU)」は空間に、食料品や花などを並べたマーケットをわざわざ作り上げ、そこをキャットウォークするという趣向をこらした。なおこれらの食料品は、発表後、すべて寄付にまわされた。ランウェイはショッピングに来た女性たちという設定で、ロングでリーンなシルエットをメインとしながら、全体にゆったりとしたリラックス感が漂う。プリントのロングドレスが多く、コートに紐をつけてみせるといった細部のデザインが光る、アメリカンスポーツウェアのコレクションを展開した。

「ジェイソン・ウー(JASON WU)」2021秋冬コレクションムービー

 また新しいスターが登場したのは、「プロエンザ スクーラー(Proenza Schouler)」のオンライン・ランウェイだ。ここに登場した新人モデルが、エマ・エムホフ。彼女は、初の女性副大統領として注目を集めるカマラ・ハリス副大統領の義理の娘だ。大統領就任式での「プラダ(PRADA)」のコートを着た姿が話題になって、トップモデル・エージェンシーであるIMGがモデル契約をしたといういきさつがある。ロング&リーンのシルエットで、ミニマルなスタイルを打ち出した今季の「プロエンザ スクーラー」の世界に、ぴったり嵌まったキャスティングとなった。

 その他、コレクションのなかから、いくつかハイライトとしてピックアップして紹介しよう。

メゾンキツネ(MAISON KITSUNÉ)

ライブDJを行ったモデルの松岡モナ

 「メゾンキツネ」は、2021春夏コレクションのルックブックの発表とモデルの松岡モナがライブDJを行い、NYFWのキックオフライブとしてnyfw.comで限定配信した。2021春夏コレクションは、新しいクリエイティブディレクターとして、マーカス・クレイトンを迎えたものとなる。

 発表したルックブックでは、パリの街並みを背景に、同ブランドの根幹をなすポロシャツや、ロゴスウェットシャツに、クラシックなトレンチコートやポンチョをニットにレイヤードするスタイルが展開される。「東京とパリ」をインスピレーション源にしたといい、ブルジョワなパリジャンのプレッピースタイルに、東京の機能的なストリートスタイルを融合させた。ボクシーなシルエットのジャケットや、ユニセックスなオーバーサイズのシャツといったリラックス感あるシルエットが主流だ。

 

 トレンチコートのカーキやベージュに、パステルブルーやピンク、グリーンといったカラーをあしらったパレットも爽やかで、コロナ禍があける初夏を感じさせる。清潔感があり、オプティミスティックなストリートスタイルを披露してみせた。

アディアム(ADEAM)

 前田華子が率いる「アディアム」は、CDFAのランウェイ360とNYFWで、2021秋冬コレクションを発表した。

 

 昨秋、前田は森美術館で開催された「STARS展」を訪れて、日本の歴史と文化から普遍的なアートを生み出していることに感銘を受けたという。日本の伝統を現代に落とし込む手法として、今季はクリンクルプリーツをはじめとする、日本の型紙メーカーによるさまざまなオリジナルのプリーツ生地を使用した。ナイフプリーツや、コットンとストライプシャツ生地は、ショルダートリムやサイドパネルとしてあしらわれている。

 

 色調は、ベージュのコートやベイビーピンク、ブルーなど、ニュートラルで快い色調と、柔らかな質感が目を奪う。そのなかに、伝統的な和色に着想を得たという、鮮やかな赤と深いバイオレットの色合いかが差しこまれる。パフスリーブやロマンティックなシルエットのドレス、柔らかなプリーツのワイドパンツなどが柔らかさを醸し出す。

 

 またメインであるアウターは、ふたつのオリジナル素材で登場した。ボリュームのあるベルト付きポンチョとオーバーサイズのジップフーディージャケットは、ダブルフェイスウールで作られ、コントラストカラーで仕立てられている。よりリラックスムードのテーラードボンバージャケットは、柔らかなダブルフェイスジャージー生地で作られており、リラックス感のあるエレガンスを提案した。

 また同ブランド初となるジェンダーニュートラルで、サイズインクルーシブなライン、「アディアム・イチ」のコレクションを発表した。ジェンダーやサイズにかかわらず着られるフーディやTシャツ、スウェットを中心としたアイテムを、肩の力がぬけて洗練されたカジュアルスタイルとして提案した。

タダシ ショージ (TADASHI SHOJI)

 「タダシ ショージ」は映像形式で、2021秋冬コレクションを発表した。ドラマチックな夕暮れを背景に、ベッドやシャンデリアや家の瓦礫の上に立つモデルたちは、コロナ禍に襲われたあとの世界を示しているのだろう。「防護の意識があるデザイン、われわれの強さを反映したコレクションを求めた」とタダシは言い、鎧からインスピレーションを得たという。そこにシルクのフリンジや、ビジューで飾られた襟元、あるいはメタリックなブクレのドレス、肩山を高く強調した袖や、薔薇の花びらのように大きく広がったパフスリーブを提案してみせた。

 

 色彩パレットはブラックに、ブロンズメタリックカラーやクリムゾンやティールといったジュエルトーンが展開されて、冬らしく深みがある。またラメを散らしたマスクも「タダシ ショージ」ならではだ。21年の冬には、また人々が集まり、パーティが少しずつ復活するのではないかと希望を感じさせるコレクションとなった。

アナ スイ(ANNA SUI)

 「アナ スイ」はフィルム形式で、2021秋冬コレクションを発表した。夜空の天体をあらわした背景を使って、ブラックアンドホワイトのボーダーやフェイクファーのルックから始まった。極端なベルボトムのシルエットやカウパターンが魅力的だ。

 

 色調は、モノトーンからラズベリー、エメラルドなどのジュエルトーンに展開されていく。スタイルは60年代調のミニやサイケデリックな色彩のニット、黒いレースのトリミングをあしらったドレスや、シフォンのロングドレス、フラワープリントといった「アナ スイ」お得意のスタイルが続く。ツイードのジャケット、レオパード柄のフェイクファーコート、ラメのパンタロンスーツなども、ロックガールらしいアイテムで目を引いた。

アリス アンド オリビア(alice + olivia)

「アリス アンド オリビア」2021秋冬コレクション

 「アリス アンド オリビア」は、フィルム形式で、2021秋冬コレクションを発表した。「アリス アンド オリビア」の世界観にふさわしい瀟洒なタウンハウスを舞台として、プレゼンテーションを展開。

 

 トゥースハウンドのキャミソール、ジャケットとミニスカートのセット、ミニドレス、コートなどクラシックなパターンから、真紅のボディにフィットしたドレス、タータンチェックのストラップドレスやミニのセットアップなどを展開。差し色として、ネオンイエローのピースが目を引いた。イブニングドレスは、「アリス アンド オリビア」らしいゴールドのジャカード織りやメタリックなドレスで、華を添えた。

 

取材・文:黒部エリ

「ニューヨーク」2021秋冬コレクション

 

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