PICK UP
2021.02.24
【米国発現地レポート】 Clubhouse(クラブハウス)は次世代のSNSマーケティングチャネルになりうるか?
Image:Shutterstock
2021年に入り日本で今話題沸騰中のSNSといえば、「Clubhouse(クラブハウス)」ではないでしょうか。
Clubhouseは2020年に誕生した、アメリカ発の音声対話型アプリです。ユーザーはClubhouse上にある好きなルーム(部屋)に入り、参加者の話を聞いたり、会話に参加したりすることができるようになっています。日本でも芸能人が使い始めたことをきっかけに、今年の1月末から爆発的にユーザーが増えています。
なぜClubhouseが今注目されているのか?
Clubhouseは、テキストや画像のない音声のみのやりとりであること、完全招待制であること、規約で会話の録音が禁止されていることなど、これまでのSNSとは一線を画す新しいコンセプトに注目が集まっています。
また、Clubhouseはアプリのテスト段階で参加者を制限していた際、各業界の著名人、有名人をテスターとして参加させていました。そのため一般向けに参加枠が広く開放された現在でも、有名人がルームに訪れて会話をするということが日々起こっています。一般の方からすると、憧れの人と同じルームに滞在し、普段は聞けないような内輪の話が聞けるチャンスがあるとなれば、誰もが参加してみたいと思うのではないでしょうか。
Clubhouseをマーケティングチャネルとして活用することはできるのか?
Clubhouseでは、様々なテーマのルームが作られ、日々会話がされている
筆者のClubhouseよりスクリーンショット
Clubhouseには、様々なテーマのルームが存在します。スポーツ、映画、語学といった趣味に関するテーマから、テクノロジー、マーケティング、スモールビジネスといったビジネスに関するテーマまで幅広く網羅されています。ユーザーは誰でもルームを作ることができ、そのルームをフォローしたほかのユーザーと会話をすることができます。同じ趣味を持つユーザー同士が共通の話題で盛り上がるという使い方もあれば、同業者同士が情報交換したり、ビジネスオーナーがオーディエンスを潜在顧客と捉えて、ビジネスピッチをするというような使い方も考えられます。まだリリースされて1年弱のClubhouseですが、すでにマーケティングチャネルとして活用されている事例はあるのでしょうか。
形式にとらわれない自然な会話がスピーカーの経験や感性を引き出し、ファンとの特別な時間を共有する場になっている
ファッションビジネスでのClubhouse活用の可能性について、
語るルイ・ヴィトンのクリエイティブデザイナーのVirgil Abloh氏(左)、
とClubhouse創業者のPaul Davison氏(右)。
Youtubeよりスクリーンショット
ルイ・ヴィトンのクリエイティブデザイナーであるVirgil Abloh氏は、Clubhouseのアクティブユーザーの一人です。Clubhouseの魅力に取りつかれ、多忙なスケジュールの合間を縫って頻繁にファッション関連のルームに出入りしているといいます。ファッションといえば、視覚から入ってくる情報がメインで、音声とは程遠いジャンルに思えます。なぜ画像もビデオもないClubhouseを好んで使っているのでしょうか。
Abloh氏は、Clubhouseの魅力をこう語ります。「私がこれまで参加したファッション関連のルームでは面白いことが起こっています。通常のインタビューやメディアの決められた型に沿って話すときよりも深い話ができるんです。オーディエンスはインスタグラムでは見ることができないものを聞きにきています。自分のインスピレーションや商品がどうやって誕生したのかについて表現できる場ということで、Clubhouseは私にとってとても意味のあるものになっています。」
Clubhouseでは、ファンはブランドを作り上げている人たちと同じ時間を共有するという貴重な体験ができます。またその場でしか語られない特別なエピソードに、まるでブランドと一種の秘密を共有しているような感覚を覚えることで、さらにブランドへのエンゲージメントを深める場になっているのではないでしょうか。一方でブランド側にとっては、ほかの媒体とは違った方法でブランドの世界観を表現できる場であり、ファンとの会話からインスピレーションを得たり、ブランドがどう評価されているかを学ぶ場になっているのではないでしょうか。双方にとって何のバイアスもかかっていないリアルなやり取りであり、その場で議論が発展していくことで思わぬ気づきやアイデアが生まれるというところに、Clubhouseの新しいマーケティングチャネルとしての価値と可能性を感じます。
Clubhouseで獲得した新しいファンをビジネスに誘導できるよう、プロファイルの記載は念入りに。自分を表現することがファン育成につながる。
実際に筆者もClubhouseをビジネスに活用していそうなユーザーを何人かフォローし、ルームでの会話を聞いてみました。彼らのClubhouse運用方法にいくつかの共通点を見つけたので、今後Clubhouseをマーケティングチャネルとして活用したいと考えている方々に向けてご紹介したいと思います。
・自分がかかわっているビジネスのルームを作成し、モデレーター(会話のホスト役)を務めている。
・決まった曜日や時間にルームをオープンしている。
・ルームのネーミングを工夫し、一目でどんなビジネスに関するルームなのかわかるようにしている(Working in Fashion、Beauty of Business、The Art of Selling Artなど)。
・プロファイルに自分のビジネスに関する情報が詳細に記載されている。たとえば受賞歴やメディア掲載歴、著書、自社Webサイト、ブログ、Twitter、Instagramなど。Clubhouseにはメッセージ機能がないので、仕事の依頼はTwitterやInstagramにDMをください、と記載。
・別のSNS媒体で自分のルームについて拡散している。たとえばYoutubeで「Clubhouseの使い方」というテーマで、前半はClubhouseに参加するための一般的なガイドに始まり、後半では自分のルームを宣伝するなど。
彼らの会話の中で印象的だったのは、それぞれのテーマに対して自分の考えを詳細に語り、自分がどんな人間なのかを表現している点でした。たとえば「ファッションビジネス」をテーマに会話しているとき、それは好きなブランドや今季注目しているアイテムといった表面的なものだけでなく、「各ブランドに見るダイバーシティに対する姿勢」のような内面的で深い問題にまで議論が発展していくことがあります。会話を聞き進めていくうちに、様々なテーマに一貫して自分と似た視点を持った人を見つけると、その人のTwitterやInstagramをチェックしにいく、という行動を繰り返している自分に気が付きました。そしてこれがClubhouseのマーケティングチャネルとしての可能性なのでは、と考えるようになりました。つまりあらゆるテーマについて自分の価値観を表現することが、ファン(フォロワー)を増やすことにつながり、ビジネスにつながっていくのではないかということです。
有料チケット、投げ銭機能など噂されるClubhouseのマネタイズ計画
現時点では、ルーム内でファンとコミュニケーションをとることによってエンゲージメントを深め、自社サービスにより興味を持ってもらうというのがClubhouseのマーケティングチャネルとしての活用方法だといえます。しかし今後の機能強化により、さらに強力なマーケティングツールとなる可能性があります。たとえばClubhouseのサービスをサブスクリプション制にしたり、ルームへの参加を有料チケット制にしたり、リアルタイムで「投げ銭」できるようにしたりと、Clubhouseのプラットフォーム上でマネタイズできる機能の追加が予定されているそうです。このようなマネタイズの仕組みが整ってくると、このプラットフォームで収益を得たいと考える人が増え、マーケティングツールとしての価値もより強力になってくるのではないでしょうか。
音声を介したコミュニケーションはどこまで人を魅了できるのか、Clubhouseの機能はどのように進化していくのか、しばらくはClubhouseから目が離せなくなりそうです。
出典:Youtube, Clubhouse’s Paul Davison & Virgil Abloh: How Fashion Can Leverage Audio (https://www.youtube.com/watch?v=sLTOG5UfFt0)