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2020.09.02

スローリテールとサステナブルがキーワード アメリカンイーグルのスローリテール「UNSUBSCRIBED」とは

アパレルウェブ「AIR VOL.38」(2020年8月発刊)より

「Unsubscribed(アンサブスクライブド)」の公式ページより

 

スローリテールとサステナブルがキーワードの「UNSUBSCRIBED」
米国ではファストファッションへのアンチテーゼとして注目されている

  ロングアイランドの最東端に位置するハンプトンは、世界有数の富豪達の別荘が立ち並ぶ高級リゾート地として知られる街。ビーチがすぐそばに有り、別荘を持つセレブリティやニューヨーカーがひと夏を過ごしに訪れます。有名レストランやブティックが立ち並ぶ、イーストハンプトンの一角に、アメリカンイーグルの新ブランド「Unsubscribed(アンサブスクライブド)」がひっそりとオープンしました。「アンサブスクライブ」とは、定期購読や定期購入等の契約を解除するという意味。このストア名に秘められたコンセプトには、現在まで市場を席巻してきた小売業界のトレンドを覆す、新たな挑戦が含まれています。

 

 米国の調査会社「Coresight Research」によると、今年はコロナ禍のロックダウンにより閉鎖する店舗が25,000店舗にのぼると予測しています。多くの競合店が窮地に陥り、今までに経験したことのない景気後退の最中、アメリカンイーグル社があえて新コンセプトのストアをオープンするのはなぜなのでしょうか?

パンデミック後の心を癒すリラクゼーションUNSUBSCRIBEDのコンセプト

「Unsubscribed(アンサブスクライブド)」の公式ページより

  太陽が差し込む店内は、巨大な植物があり、アパレル商品はかなりの間隔をとって配置されているミニマリズムのイメージです。ハンドバッグ等のファッション雑貨も取り扱い、自社製品以外にも厳選されたサードパーテイの商品が展開されています。商品構成は、クリーンテイストのシルクワンピース、米国製のニットやフリース、ユーズド加工のオックスフォードボタンダウンシャツ、カシミアセーター、ライトウェイトのジャージ素材トップス、リサイクルナイロン使用の水着、100%使用済みの廃棄物からつくられたリサイクル デニムやハンドバッグ等。価格帯は、水着($70-250)、ドレス($90-550)、トップス($40-300)となっています。H&MやZARAが展開している大量生産のファストファッションとは真逆、生産スピードを落とし、シンプルな美しさを再認識させるようなコレクションを展開しています。ゆっくりとしたペースで生産を実施し、量よりも質を重視する事で、商品の持続性や愛着 心を訴求しています。ストアのキーフレーズには、「LAID BACK(ゆったりとした、リラックス)」、「FREE SPIRITS(自由な精神)」が含まれており、東海岸で有名な避暑地という居心地の良い環境で、ストレスフリーなショッピング体験を提供しています。スローリテールとサステナブルが上手く機能した、より社会的な意味を謳う小売を目指している事が分かります。またUnsubscribedでは自社ブランド以外に、テイストがマッチするセレクトブランドを取り揃えています。

小さなコミュニティから目指す大きなムーブメント!中高所得者層を狙う!

「UNSUBSCRIBED」でセレクトされていてるブランド

左から:Lem Lem/ Indigo Africa / Boyish / A.Shirt Stoy via instagram

 現在Eコマースはありませんが、将来的にはEコマースを立ち上げていく予定です。今取り組んでいる施策としてはコロナ対策として、顧客が楽しく安全な買い物体験ができるよう、VIP向けのデリバリーサービス、カーブサイドピックアップや、アポイント制のプライベートショッピングの提供を行っています。

 

 今や消費者の好みは細分化しており、それぞれの好みやライフスタイル、予算に合わせた展開が必要になりつつあるように思います。小売店が窮地に陥っているここ数年の状況下でも、支持されている企業グループには、例えば、ヨガウエアの「lululemon(ルルレモン)」があります。同社を成功に導いた要因の一つは、紛れもなくコミュニティマーケティングです。エデュケーターと呼ばれる店員が、顧客の名前や生活習慣を覚え、的確なアドバイスをする消費者主体のサービスを特徴としていました。ハイエンドなスタイルを好む高収入の客層に焦点を当て、ヨガウエアのままカフェやショッピングに行く事を一般化させたのも、チームルルレモンという親密なコミュニティ に所属しているという自信の表れでもあったと思います。その後、若年層へのトレンドへと変化し、一大スポーツブームの流れへと繋がります。

 

 アメリカン・イーグル社のAerie(エアリー)も、このパンデミック状況下において、25店舗の出店を予定している非常に稀な企業です。ボディポジティブキャンペーンでは、ありのままの自分を主張する若年層へのアピールに成功し、ヴィクトリアシークレットを破綻に陥れた張本人といっても過言ではありません。サステナブルにも着目し、Repreveと言われる、120本のリサイクルペットボトルから作られた水着ラインの展開や、不要なブラの寄付も定期的に行っており、3月時点で4万3,000着のブラをリサイクルしています。冒頭で紹介した、新コンセプトストアの「アンサブスクライブド」では、社会的意識の高い中高所得者層をターゲットに“意識的な”スローペースで社会貢献を目指す小売店として、小さなコミュニティを作り上げようとしているのではないでしょうか。

 

 米国のWWD誌でも紹介されていた「Less is More and Kind」というフレーズには、沢山の物を購入し短期間で廃棄していく消費よりも、良いものを大事に長く使い、資源を次世代に繋げていく事が、真の思いやりであり、このストアの本質であるという事が表現されています。現時点では、リアル店舗1店舗のみ、ターゲットを特定したテスト店舗ですが、様々な業界に大きな影響を与えたパンデミックを経験した世代へ向けての挑戦と言えます。SNS時代の今、小さなコミュニテイから大きなムーブメントを起こす可能性に期待したいと思います。

このコンテンツは弊社の会員誌「アパレルウェブイノベーションレポート」の38号から転載しております。

 

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