PICK UP

2020.08.04

米サンフランシスコ発の体験型店舗「b8ta(ベータ)」が 日本の小売にもたらす新しい体験とは(1)

Written by AIR編集部

 米サンフランシスコ発の体験型店舗「b8ta(ベータ)」(以下:ベータ)がアジア、日本ともに初の2店舗(新宿マルイ本館 1 階、有楽町電気ビル 1 階)を2020年8月1日(土)に開業しました。米国の店舗と違って、日本では最新ガジェットだけではなく、アパレル、スキンケア、生活雑貨などライフスタイル要素を取り入れた商品も展開しています。今回、記事の前半ではベータ・ジャパン合同会社カントリーマネージャーの北川 卓司氏(以下:北川)へのインタビューを掲載し、同社の日本進出の経緯や今後の事業展開を中心に紹介、後半ではベータの店舗の仕組みを紹介していきます。

「b8ta(ベータ)」について

 ベータは、2015年に米サンフランシスコで創業した体験型の小売店に特化したスタートアップ企業です。同社は、弊社が発行する会員誌(アパレルウェブ・イノベーション・レポート)でも取り上げたRaaS(Retail As A Service)というビジネスモデルのパイオニア企業として知られ、「リテールを通じて人々に“新たな発見”をもたらす(Retail Designed for Discovery.)」という企業理念を掲げています。現在では、日本の2店舗のほか、米国で 23 店舗、ドバイに1 店舗の計26店舗を展開し、1000 以上のブランドがベータに出店しています。これまでに、5000万件以上の消費者と商品との接点を生んでおり、年間300万人以上の来客がありました。

b8ta Tokyo – Shinjuku Maruiの内観

b8ta Tokyo – Yurakuchoの外観と内観

いずれの店舗でもVR(バーチャル・リアリティ)などの最新ガジェットからコスメまで、140以上の商品を幅広く展開

小売の運営に必要なすべての機能を集約したRaaS(Retail As A Service)の革新性

ベータ・ジャパン合同会社

カントリーマネージャー

北川 卓司氏

そもそも、アジアには数多くの市場がある中で、日本を最初の進出国に選んだ理由を聞かせてください。

北川: サンフランシスコの店舗が開業した翌年の2016年頃から、実は、多くの日本人のお客様がサンフランシスコの店舗にご来店されました。現地の駐在員や観光客のほか、とくに最先端のIT企業視察ツアーの中で、弊社の店舗を見学に来られた方が多く、それを見た店頭スタッフが、日本のお客様は弊社で取り扱う最新ガジェット、または弊社のような新しい小売のビジネスモデルに興味を持っていただけるのではないかと創業者に伝えたことがきっかけとなり、日本進出への本格的な検討がはじまりました。

日本人客の数多くの来店実績から、日本市場における可能性を感じたのですね。「RaaS」という概念はまだ日本ではあまり浸透していないように思いますが、RaaSの仕組み、出品企業のメリットとはどのようなものがあるのでしょうか?

北川: そうですね、SaaS(Software As A Service)の流れで、RaaSもいわゆるデータを蓄積するだけのビジネスモデルだと思われがちですが、弊社としてはそうではなく、リアル店舗出店に必要な一連のサービスをパッケージ化して提供することで、店舗出店のリスクやハードルを軽減するねらいがあります。具体的には、ブランド様がベータへ出店する際は、商品のみのご用意で、それ以外の在庫・売上の管理、販売スタッフのリクルートおよびトレーニングなど、小売を運営するにあたって必要な機能は予めパッケージ化し、ベータ側がすべて請け負います。このような様々なサポートを月額制でご利用いただけるため、ブランド様にとっては、サービスやシステムを個別に導入することや、販売スタッフの雇用などの時間や手間を大幅に軽減できます。

 

 

 さらに、弊社のサービスの最大の特徴、あるいは他社との差別化のポイントとして、ブランド様へのマーケティングデータの提供およびサポートがあります。具体的には、ベータの店舗内の天井に設置されているカメラと、商品横に設置されているタブレットから、収集したマーケティングデータをブランド様に全て開示しております。1日1回、営業終了後に、これらのデータが専用の管理画面に反映されます。データについては、消費者のデモグラフィックデータ(年齢層、性別など)、定量データ(商品前に一定時間立ち止まっていた人の数や、各商品との接触時間など)に加え、店頭スタッフのコメントなどの定性データまで多岐にわたります。ブランド様は、出品スペース分の月額費を支払うことで、専用の管理画面にアクセスし、これらのデータすべてを取得することが可能となります。例えば、当日の売上データを見ながら、マーケティングデータと店頭スタッフのコメントを検証し、企業のマーケティング活動に活かしていくことが可能です。

なるほど。小売に特化した一連のサポートをワンパッケージとして利用できるサービスはなかなかないですね。RaaSは、日本の小売りに対し、どのような効果をもたらすのでしょうか?

北川: 様々な不確定要素がある中で、小売が難しくなると考える時に、店舗で売上を作るにあたって、「体験」と「発見」を主な目的としているRaaSのビジネスモデルは、日本の小売市場に新しい風を吹きこみ、活性化させるきっかけになると期待しています。

スマートスピーカー(左)

照明として使えるインテリア商品(右)

今回、丸井グループとの提携にあたり、両社にとってどのようなシナジー効果を期待しているのでしょうか。

北川: 丸井グループでは近年、「共創」という企業理念のもと「売らない店舗」として、お客様にとって、単なる物販ではなく、発見や体験が生まれる購買体験を提供するというビジネスモデルを全面的に掲げており、その点に共感をいだいています。特に今回、ベータが出店する新宿マルイ本館の1階は、丸井グループの代表的な売り場であり、両社にとって革新的な試みになることを期待しています。

日本での事業展開にあたって、どのようなローカライズを工夫しているのでしょうか?

北川: 元々は米国のサービスなので、Dashboard(ダッシュボード)と呼ばれる管理画面の翻訳がまず必要となります。この管理画面では、弊社が提携しているいくつかのサードパーティのソフトウェアを一括して、一つの管理画面上で利用いただけます。また、日本で展開する際、出店企業候補として、最新ガジェットやIoT関連の商品のほかに、ファッションブランド、コスメブランドにもお声がけしています。例えば、「FABRIC TOKYO(ファブリックトーキョー)」の新D2Cブランド「スタンプ(STAMP)」は、ベータ有楽町店で期間限定出品し、カスタマイズデニムの採寸ができる3Dスキャナーを設置します。他にも、「BULK HOMME(バルクオム)」や「イッキ(IKKI)」など、いくつかのD2Cコスメ・スキンケアブランド企業が出品しています。さらに、「CAINZカインズ)」のような雑貨を展開するブランド企業が出品するなど、日本のお客様のライフスタイルに合わせて、品揃え面で工夫を凝らしました。

VR端末(バーチャル・リアリティ、左)

ウェアラブル端末(右)

なるほど、幅広いですね。そういう意味では、ガジェット好きのお客様だけではなく、男女問わず、ファミリーでも楽しめる商品展開ですね。一方で、現在はコロナの影響により、なかなか店舗へ多くのお客様を呼び込むことが難しい状況だと思います。米国ベータのECサイトによると、「バーチャルアポイントメント」(ECサイトで予約、ビデオチャットを介して接客)という取り組みがありますが、今後日本でも、ECサイトの展開および店舗との接客を連携するような計画はありますでしょうか?

北川: はい。現在、採用するシステムや展開時期は検討中ですが、日本でもECサイトを展開する計画はあります。b8ta Tokyo – Yurakuchoでは、全日本空輸グループ会社の「avatar-in (アバターイン)」という企業が開発した、店舗見学などに利用できるロボットを試験的に導入する準備を進めています。。仕組みとしては、お客様が自身のPCを使い、アバターインのクラウドサービスを経由して店舗に設置されたロボットを遠隔操作することで、ロボットに搭載されたカメラで店内や商品を閲覧する、店頭スタッフと会話するといったことが可能となります。

ぜひ後ほど店舗で体験してみたいです。さいごに、今後の展望についてお聞かせください。

北川: 日本市場への参入を決めた当初は、現在より多くの店舗を展開する計画でしたが、現在は、まずはしっかりとb8ta Tokyo – Shinjuku Maruiとb8ta Tokyo – Yurakucho運営し、そこで得たフィードバックや課題を改善しながら、将来的に関西など他の地域でも店舗展開が出来ればと思っています。

メールマガジン登録