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2020.07.31

狙いはユーザーとの接触時間を増やすこと「ミッション」機能が核となる 中国のライブコマースアプリ

アパレルウェブ「AIR VOL.37」(2020年7月発刊)より

タオバオライブ(左)と「快手(かいそう)」(右)のライブコマースアプリ

 AIRでは以前から中国のライブコマース文化を取り上げていますが、中国で今、最も人気のライブコマースアプリ「タオバオライブ(アリババ傘下)」と「快手(かいそう)」には、共通した機能があります。それは「ミッション」という機能です。「ミッション」は、ライブコマースアプリの仕組みの中で、最も特徴的で、重要な役割を果たしています。今回は、この「ミッション」の仕組みを説明、そして「ミッション」はどのようなメリットがあるのかを解説していきます。

接触時間を長くするため10の「ミッション」が設定

【図表1】タオバオライブの中にある「ミッション」の内容

 「ミッション」というのは、ゲームアプリによく採用されている仕組みで、ゲームの運営側がユーザーに、定期的にアプリで遊んでもらうための仕掛けです。例えば、「3日間連続でアプリを起動すると、ゲーム内で利用できる仮想の通貨や、希少なアイテムが貰える」などです。こうしたインセンティブを付与することで、ユーザーのモ
チベーションを高め、継続的にアプリで遊んでもらうように誘導します。これは、ゲームアプリのミッションを経由して「アプリで遊ぶことを習慣化」させることを目的としています。

 

 タオバオライブと快手も「ミッション」の仕組みをライブコマースアプリに取り入れています。「図表1」は、タオバオライブの中にある「ミッション」の内容を和訳したものです。10個の項目は「買い上げ」「ライブ配信のシェア」を除いて、「ライブ配信の視聴時間が35分を満たす」といったアプリとの接触時間を増やすように「ミッション」を設計しています。ではなぜこれほどまでにタオバオライブは接触時間を増やそうとするのでしょうか。これは、アプリの接触時間と売上が比例するからだと言われています。

【図表2】(左)ECアプリの使用時間とEC売上の相関関係
     (右)ECアプリの使用時間とEC+リアル店舗の売上の相関関係

参照サイト:https://www.appannie.com/en/go/state-of-mobile-2020/

 

 「図2」は米国の研究データですが、ECアプリの接触時間が長いユーザーは、EC売上や実店舗売上が増える傾向にあるということが証明されています。実際に、ミッション機能が2019年1月に実装されてから、タオバオライブの視聴時間は増えており、2018年と比較すると2019年は150%に増加。また、2018年の年末時点では流通金額が1,000億人民元でしたが、2019年の年末に2,000億人民元を突破したと、同社の「2020年タオバオライブ公式ユーザーレポート」が発表しています。

エンゲージメントを可視化させたファンランキング

 売上をつくるための手段として、中国でもセールやクーポンの配布は当たり前の施策になっていますが、常に「無条件」でクーポンを配布すると、クーポンが貰えるのは当然となってしまい、クーポンの効果が弱まることが予想されます。また、販促費用としてコストもかかります。そこで「ミッション」という形で条件を採用することで、コストを抑えることも可能になります。

 

 「ミッション」は、アプリとの接触時間を増やして、「習慣化」させるほかに、ユーザーとのエンゲージメントの質を可視化するという役割も担っています。ユーザーがアプリを利用する行動を数字化、優良顧客を育成するための指標として活用しています。例えば、「毎日ログインをする」、「一定の時間視聴する」、「SNSで友達に
シェアする回数」といった指標があるため、ユーザーとのエンゲージメントの質を客観的に評価することが可能になります。つまり、タオバオライブでは購入以外のアクションも評価しているのです。

 

 この指標を活用して、「タオバオライブ」の独自の機能では、「ファンランキング」というものがあります。これは「タオバオライブ」の標準機能で、ライバーごとに、ユーザー(視聴者)の貢献度を「レベル」として表す仕組みです。貢献度を判断する指標は、「ミッション」の項目をどれだけ達成しているかです。例えば、Aというライバーに紐づいたミッションとして「毎日視聴する」などがあるとします。視聴者は「ミッション」のクリア数を競い、ファンランキングのレベルを上げていきます。ファンランキングの「レベル」は高くなればなるほど、クーポンのOFF率も高まり、特典も豪華になります。また、ライバーに対するユーザーの「ファンランキング」は一般公開されており、自分の「レベル」がどの位置にいるのかがわかります。このランキングがあるため、ユーザー同士の競争も激しくなり、推しのライバーに認知してもらおうという形でユーザーのモチベーションも上がります。アリババ側(運営側)では、これだけのビックデータを持っているため、タオバオライブの分析を通して、ライバーへのコンサルティング事業を実施しています。

「ミッション」の概念を会員ランクの評価指標に

【図表3】タオバオライブのファンランキング機能

 今回ご紹介した「ミッション」の考え方は会員の皆様にとっても参考になる部分も多いのではないでしょうか。例えば、多くのファッションECサイトでは、エンゲージメントを可視化する手段の一つとして、会員ランク制度を設けていますが、ランクの基準は年間の買い上げ金額で区切るケースがほとんどです。コロナにより状況が激変した今、ファッションは「不要不急」のカテゴリーとして認識しているユーザーも多いです。このような状況下で、買い上げ金額だけを指標としていては、正しくお客様を理解することは難しい側面もあるのではないでしょうか。

 

 そして、ここからはご提案になりますが、買い上げ金額だけではなく、今回紹介した「ミッション」の概念を応用し、顧客が自社ECのログイン回数、アクセスの時間、お気に入りリストに入れているアイテムの個数など、毎日顧客が自社のECに対する行動やかける時間を表す行動を会員ランク制度の評価項目として取り入れ、ポイントやクーポンのインセンティブとして還元してみてはいかがでしょうか。もちろん、システム的な課題や評価制度の策定など、明日早速できる取り組みではありません。しかし、タオバオライブの事例を見ると、「接触時間を増やすこと」「顧客とのエンゲージメントの質を可視化すること」はお客様とのつながりを強化して、中長期的な売上に貢献することも確かです。自社の会員ランクの評価項目に「購買」以外のアクションを盛り込むことによって、優良顧客とそうではない顧客の新たな発見が生まれ、よりお客様を理解したコミュニケーションや取り組みをとることができるのではないでしょうか。

このコンテンツは弊社の会員誌「アパレルウェブイノベーションレポート」の37号から転載しております。

 

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