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2020.03.27

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.64】タフな貴婦人 内なる多様性を交差させて 2020-21年秋冬ミラノ&パリコレクション

(左から)ディオール、ルイ・ヴィトン、プラダ

 強さとたおやかさの二重奏――。2020-21年秋冬シーズンに向けて、ミラノ・ファッションウィーク(2020年2月18~24日)とパリ・ファッションウィーク(2020年2月24日~3月3日)では、女性の内なる多様性を引き出した装いが提案された。レザールックやスーチング、プロテクト仕様などを打ち出しつつ、フリンジやシアー素材、ケープ、ロンググローブなどで優美なフェミニンを薫らせている。ジェンダーレスの流れに、「強い女」のイメージやタイムレス感が上乗せされて、全体に凜とした重厚感が加わっている。

■パリコレクション

◆シャネル(CHANEL)

 「シャネル(CHANEL)」は、創業者の愛した乗馬をキーモチーフに選んで、軽やかでフレッシュな装いを送り出した。両サイドにメタリックボタンを連ねた、ワイドな乗馬パンツ(ジョドパーズ)が繰り返し登場。トップスやアウターにもメタリックボタンがあしらわれた。履き口を深く折り返した乗馬ブーツが足元に凜々しさを添えた。ウエストシェイプを施した、モーニング風ジャケットはマニッシュなたたずまい。ショートパンツにロングアウターを重ねる長短アシンメトリーも披露した。

 

 シグネチャー的存在の襟なし・膝丈のスカートスーツは、正面にジップスリットが入り、若々しい着映えにシフト。色は黒と白のコンビネーションを軸に据えつつ、グリーンやピンクのパステルトーンも盛り込んだ。十字架モチーフのコスチュームジュエリーが装いを華やがせる。エドワード朝ライクな装飾的シャツをはじめ、随所に亡きカール・ラガーフェルドの面影を写し込んでいた。

◆ディオール(Dior)

 強さとフェミニズムを軸に据えたのは、パンツスーツ姿で幕を開けた「ディオール(DIOR)」。ダブルブレストのニットジャケットにネクタイを締め、足元にはフィッシュネットのソックスという、ジェンダーレスの装い。黒と白のシックなカラートーンがコレクションを方向づけている。短めのネクタイは繰り返し登場し、初々しさときちんと感を薫らせた。

 

 ノスタルジックなムードを醸し出したのは、スクールガール風のスカートルック。ミニ丈のガーリーな服にも、太いコンバットブーツを引き合わせ、タフ感を添えている。バンダナのように巻いたヘッドスカーフは1970年代の気分を呼び込んだ。斜め掛けバッグやロングネックレス、ロゴ入りベルトが着姿を弾ませる。ロングフリンジを多用し、スカート全体をリズミカルに演出。女学生、ミリタリー、スーツ、透け感など、異なるイメージを響き合わせて、多面的な女性像を印象づけていた。

◆ヴァレンティノ(VALENTINO)

 「ヴァレンティノ(VALENTINO)」は黒を主体にコレクションを組み立て、ロマンティックな官能美を引き出した。ファーストルックからオールブラックのコートルックを提案。幅広い年齢や体型のモデルをランウェイに送り出し、多様性を強調。クチュール感が高いベアショルダーやフラワーモチーフを大胆に配したドレスなどをまとわせ、エモーショナルな印象を濃くしていた

 

 マテリアル(素材)の主役を担ったのは、布のように柔らかくなめした黒革。レザーはジャケットやドレスに仕立てられ、フェティッシュなムードを帯びた。ロンググローブやオーバーニー・ブーツにも黒革が使われている。黒と組み合わせた、赤の差し色使いが妖艶な雰囲気を醸し出ている。

◆ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)

 「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は時空を越えたカルチャーミックスを通して、自由なファッションのよろこびを表現した。肩が張り出したジャケットに合わせたのは、ラッフル尽くしのミニスカート。あえて上下でイメージを食い違わせて、ずれ感を際立たせている。近未来の戦争や災害に備える人たち「プレッパー(prepper)」を思わせるプロテクト仕様のアウターに、ドレッシーなボトムスを交わらせ、入り組んだムードを醸し出した。

 

 変形タキシードのジャケットや、レザーのバイカージャケット、闘牛士風の刺繍入りボレロジャケットなど、「制服」的な装いに崩しを仕掛けた。レザーで仕立てたタイトワンピースはカラフルな幾何学模様で彩った。つややかな質感のボトムス、しわ加工を施したジャンプスーツなど、風合いにも工夫を凝らしている。バロック期から現代までの服飾ヒストリーをいたずらぽくシャッフル。多様性を写し込みつつ、歴史とたわむれる、タイムレスでウィットフルな冒険を試みていた。

■ミラノコレクション

◆プラダ(PRADA)

 「プラダ(PRADA)」はファーストルックで、ウエストをベルトで絞ったマニッシュなジャケットに、総フリンジ仕立てのスカートという、ジェンダーミックスの装いを打ち出した。その後もボクシーなジャケットや、短冊を連ねたようなすだれ状スカートを披露し、パワフルでグラマーな着姿を押し出した。パフィなふんわりジャケットやバスケットボールトップスにはスポーツテイストを帯びさせている。

 

 量感とくびれ演出を組み合わせて、タフネスと官能性をミックス。ネクタイを組み込んだ紳士服風ルックにも、色やディテールでフェミニンを忍び込ませている。レギンスの上から、透けるスカートを重ねるレイヤードもジェンダーニュートラルな見え具合。よろいとドレスを融け合わせるかのような、強さとたおやかさのマリアージュが新たなフェミニスト像を描き出していた。

◆ジル・サンダー(JIL SANDER)

 トレンドがミニマル志向を強める中、先駆者的な「ジル・サンダー(JIL SANDER)」は「タイムレス」という別の道を選んだ。ルーシー&ルークのメイヤー(Meier)夫妻は奇をてらわない、静かなシルエットを描き出しながらも、素っ気ないシンプルには見せていない。丁寧なテーラーリングで、思慮深い造型に導いている。

 

 流れ落ちるロング丈のドレスや構築的なジャケットを軸に据えつつ、プリーツスカートやざっくりニットを交えて、知的で上品なたたずまいに整えた。秋冬コレクションのはずなのに、春夏でも似合いそうな装いが、シーズンレスやシーンフリーの今の時代の空気感をつかんでいる。長く着て、愛着を熟成していくような服は、創業者の原点をリスペクトしたクリエーションを感じさせる。

◆フェンディ(FENDI)

 ミラノ全体にクラシック志向が強まる一方で、「フェンディ(FENDI)」はスリリングな装いを押し出した。最大の見どころは円筒状の袖。羊の脚風のジゴ袖の発展形とも移る。ロールケーキを思わせる、たっぷりしたボリュームの両袖が朗らかなムードを演出。逆に細感も引き出した。

 

 オーバーサイズのコートもふっくらシェイプ。プラスサイズモデルを起用して、曲線的なシルエットを描き上げた。ライダースジャケットもパフィに膨らませた。ウエストを絞って、くびれを強調するシルエットも披露。黒いメッシュやレース越しに素肌を透かせて、パンクとフェティッシュを交差。ロンググローブは貴婦人テイストをプラス。フェミニンと強さを兼ね備えた官能的な装いは新たな「フェンディレディー」を形にしてみせた。

◆エムエスジーエム(MSGM)

 メタリックカラーやサイケデリック色を躍らせたのは「エムエスジーエム(MSGM)」。メタリックグリーンやターコイズ、ネオンピンクなどの毒っ気を帯びた強め色がミステリアスな雰囲気をまとわせた。マラボー風のシャギーなショールも着姿にナイトクラビング気分を乗せる。巧みなテーラーリングで仕立てたマニッシュなコートは、ビッグシルエットが強さを感じさせた。

 

 ブランケット風コートはたおやかな着映え。片方の襟にちりばめたきらめきジュエルやドット柄のロングスカーフが顔周りを華やがせる。ハイウエストのパンツや、ラッフルを配したブラウス、ケープ付きのコートでジェンダーを入り組ませ、グラマラスとテーラードを融け合わせていた。

 

 先シーズンに盛り上がったミニマル志向からの揺り戻しもあってか、クラシックテイストを軸に据えつつ、ディテールで仕掛けを加える試みが目立った。制服崩しや解体・再解釈、アンフィニッシュなど、あえて約束事から踏み出すトライアルも見えた。主流は黒、レディーライク、スローファッションの保守的な傾向だ。半面、クチュール仕事や上質素材、古典的な演出などが再評価されていて、「一筋縄ではいかない、タフな貴婦人」のイメージを深めたようにみえた。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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