PICK UP

2020.03.31

大阪・梅田「リンクスウメダ」の挑戦 “家電”を軸に幅広い客層を取り込む試み

ファミリー層、インバウンドなど新規客を取り込んだ「リンクスウメダ」

 「ヨドバシカメラ」などの小売店を運営するヨドバシホールディングスが開発した複合商業施設「リンクスウメダ」(運営はヨドバシ建物。大阪市北区大深町)。昨年11月16日のグランドオープン後、順調に来館客を増やしてきた。新型コロナウイルスの影響で現在は小康状態だが、当初のMD編集は、新規顧客として想定したファミリー層やインバウンドも取り込んで、狙い通りの成果を挙げたようだ。開業後3カ月の推移をまとめた。

ロングテールの発想、200万点の豊富な品揃えが強み

 18年前、当時は珍しかった都市部立地への家電量販店の出店が注目を集めた「ヨドバシカメラ マルチメディア梅田」。現在では、同グループ内でも、有数の売上規模を誇る主力店舗の1つになっている。家電の顧客を主軸にして、さらに新しい客層を開拓しようというのが、「リンクスウメダ」の大きな目的だった。

 

 関西随一の商業施設の集積度である梅田商圏において、新しい売場や商材を導入することは難しいことだ。梅田商圏の商業施設に伺うと、「差別化・住み分けできる商材やカテゴリーを常に意識している」という声をよく聞く。「リンクスウメダ」成功の可否も、この差別化・住み分けがカギだった。

 

 幅広い分野の商材を扱う品揃えが強みの同社。梅田の店舗も同様で、十分な売場面積と豊富な品番数(200万点)により、「実店舗で(販売数が少ない)“ロングテール”の商材を扱うことができる」(五鬼上大介・ヨドバシ建物梅田事務所長)。ネット販売ではなく、リアル店舗が在庫置場兼物流センターの役割を担っている一面がある。

 

 元々、同グループのオーナーが「幅広い品揃えは集客につながる」という発想の持ち主で、それを具現化した店舗と言えるだろう。こうした基本理念の基、「リンクスウメダ」も開発された。従来型のショッピングモールと比べ、品揃えの統一感がないと指摘される面もあるが、家電を軸とした「ヨドバシの顧客が求める商材を揃える」という点では、理に適っている。

新規のファミリー層、インバウンドが増加

 昨年11月16日の開業後の推移は順調だった。オープンから10日間で500万人が来館(年始までで約1500万人)。11-12月は話題性もあり、具体的な数値は公開していないが、売り上げも集客も高水準で推移したようだ。年明けも1月の成人式までは順調な推移だった。例年、成人式までを繁忙期と見なしているため、今回の動向も想定内だった。2月以降は新型コロナウイルスの影響を受けているが、売り上げや集客の動向を見る限り、当初のMD構成は間違っていなかったようだ。

 

 「リンクスウメダ」で強化した分野の1つがファミリー層。関連の物販テナントやアミューズメント施設、ベビールームなどを整備した。5階のアミューズメント施設「モーリーファンタジー」では「バギーを押した親子連れが増加した。新規の顧客層が増えている」(五鬼上所長)、ここは有力な集客装置になっている。インバウンド客も家電売場からそのほかの新しいフロアを回遊しているようだ。

 

 そのほか健闘しているのが、地階の飲食店街「オイシイもの横丁」。横丁の雑多感を演出した内装や店揃えが受けて、男性客に加え女性の利用も増加した。梅田商圏ではここ数年、飲食テナントの導入が増えている。アパレルを筆頭に物販が奮わないことが背景にある。「リンクスウメダ」でも飲食店街を集客装置の1つとして活用している。

周辺施設との競合は限定的

コーナー売場を中心に健闘している「石井スポーツ」

 周辺の商業施設との競合は限定的だったようだ。さすがにオープン当初は来館が偏ったようだが、3カ月が経過した後は平静を取り戻している。「リンクスウメダ」をはじめ、各施設が住み分けを考慮し、自店の客層を見極めている点が大きいと考えられる。「リンクスウメダ」1階には「ユニクロ」がある。隣接する「ルクア イーレ」にも「ジーユー」との複合店舗が出店しているが、「客層が異なっている。周りの施設への影響はない」(五鬼上所長)という。

 

 デベロッパー側も入居するテナント側も、各施設のコンセプトや客層に合わせMD編集を替えていることが、住み分けにつながっているようだ。事実、「リンクスウメダ」のアパレル関連テナントでは、いわゆる“セカンドライン”の出店が多い。ファッション感度は周辺の「ルクア」や「グランフロント大阪」の方が高めで、「リンクスウメダ」はマス市場寄り――カジュアルテイストが強くなる。

 

 健闘している主なテナントは「ユニクロ」「スーパースポーツゼビオ」など。グループ傘下のアウトドアショップ「石井スポーツ」も好調だ。特にコーナー展開している「ザ・ノース・フェイス」や「アークテリクス」など、「タウンユースも可能なブランドの反応が良い」(五鬼上所長)。

 

 今後の課題は「館のファン作り」(五鬼上所長)。物販とイベントやサービスの両建てで、顧客の開拓に力を入れる。「フロアを回遊してもらえるかどうか、顧客の関心をいかにつなぎとめるかが肝。今秋へ向けて、取り組み課題は色々ある」(同)と積極姿勢である。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

 

メールマガジン登録