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2019.08.14

生まれ変わった老舗ファッションビル「京都BAL」  “慎重派”京都人の心を掴んだ集客策

館の世界観が顧客に浸透してきた京都BAL

 顧客に感動を提供する“ニューリテイル”への取り組み事例を捜し歩いている昨今、意識的に取り組まれている商業施設はまだ少数派だ。しかし、ニューリテイルを意識せずとも、顧客サービスの充実を追求していった結果、売上増に結び付いている館はいくつか存在する。今回はそうしたファッションビルの1つをご紹介する。京都の繁華街、四条河原町の一角に店舗を構える「京都BAL」だ。

上質な大型テナントを集積したフロア構成

京都BAL3階フロアの核テナントは「エストネーション」

 「京都BAL」(京都市中京区河原町通三条下ル山崎町)は中澤株式会社(京都市)が管理・運営する1970年11月に開業した老舗のファッションビル。2013年1月に一時閉店し、建て替え工事の後、15年8月に新館をオープンした。売場面積は約1万2000平方メートル、地上6階、地下2階の8フロア構成。テナント数は約30で、面積の割に少ない。1店舗当たりのスペースを増やし、各ブランドの世界観を表現することに力を入れているためだ。

 

 地階は書店「丸善」が入っているが、地上階はファッション系テナントが中心。1階は複数の店舗で構成しているが、2階以上では核テナントになる大型ショップが入居する。2階には「トゥモローランド」、3階フロアは「エストネーション」、4階は「ザ・コンランショップ」。5階は「無印良品」がフロア全てを使用している。最上階の6階は「ロンハーマン」「ロンハーマン カフェ」である。1320平方メートル(400坪)を超える大型テナントも珍しくない。

 

 建て替えオープン当初は、デザイナー系のショップが多かった同館。新館では、“上質なショッピング体験を提供する”ことを主眼に置き、ブランドの世界観を演出・発信できる売場作りに力を入れた。短期的に売り上げを確保するのではなく、多少時間はかかるが、館のファンを着実に増やし、育てていこうという考え方だ。

 

 京都の消費者は新しい物や事に“とっつきにくい”という傾向があるようで、「最初は様子見の方が多かった」(中澤、山本健太開発室マネージャー)。例えば「エストネーション」は京都初出店だったというが、3年目以降から売り上げが伸びてきたという。新館の開業から丸4年が経過し、今では順調に来館客数、売上高が伸びているという(実数は非公表)。昨年(2018年度)の入館客数、売上高は共にプラス成長だった。大型テナントを中心に、まんべんなく集客が図れているようだ。

顧客層の幅拡大もプラスに働く

若手アーティストの作品を展示する「スターバックスコーヒー」

 主力の顧客層は、30代後半から40代前半の年齢層。以前は女性客が70%を占めていたが、直近では男性客が40%にまで増えてきている。昨年来、一部テナントの入れ替えを実施した効果が表れているようだ。「館のコンセプト、時代性に合致したテナントを誘致する」(山本マネージャー)というリーシング方針のため、新しいショップを導入するにも時間がかかる。現在、1階と4階に「POPUP」スペースを設けており、不定期で新しいブランドや商材を紹介している。こうして来館顧客の反応を見ながら、慎重にテナントを見極めている。

 

 今年3月、新たに導入したのが「スターバックスコーヒー」。「エストネーション」などが入る3階フロアの一角に店舗を構える。今では、ファッションビルに「スタバ」が出店しても正直、目新しいことはないが、この店舗は趣が異なる。若手のアーティストの作品80点以上を店内に展示した新しいコンセプトを採用した。京都BAL“だけ”のショップだ。インスタグラムなどSNSで情報が拡散され、オープン後の反応も非常に良いようだ。館でもインスタグラムやフェイスブックなど、SNSにも力を入れており、「地道に情報を発信している」(山本マネージャー)。

 

 今年7月には2階フロアに、国内2店目の「ralph’s COFFEE」(ラルフズ コーヒー)がオープンした。これは東京・表参道にある路面店「ポロ ラルフローレン」で展開するカフェ。京都BALでは、3階フロアに出店する「ポロ ラルフローレン」と隣接するスペースにショップを構えている。内装は、本国・米国スタイル。若い層の利用客も増え、館全体で新しい客層を取り込めている。また、アパレルショップの「ポロ ラルフローレン」では、表参道店に次いで2店舗目のカスタムオーダー「CYOカスタムショップ」も展開している。

 

 カフェ業態の出店が続いたのは、偶然だったようだ。「カフェが少なかったのは確か」(山本マネージャー)だが、前述の通り、“館のコンセプト、時代性に合致したテナントを誘致する”方針に変わりはない。基本はファッション関連テナントである。

来店頻度をいかに高めるかが肝

 前段でも少し触れたが、概してテナントの売り上げは順調のようだ。中でも大型テナント――「エストネーション」「無印良品」「ロンハーマン」などがけん引役になっている。2019年春夏シーズンも順調な推移だという。

 

 重視していることは、いかに来館してもらうか。「館に来て、物や事を知り、感動する場でもある。例えば、海外旅行で現地に行かないと分からないことがあるように、館に来ないと伝わらないことがあると思う」(山本マネージャー)。百聞は一見にしかず、ということだ。「館に(ほかの施設との)違いを感じてもらわないと、差別化できない」(同)。

 

 現在は順風満帆のように見えるが、「百貨店はしっかり顧客をつかめる力を持っているので強いと思う。これからも、流行の“半歩先”のものを提供していきたい」(同)という姿勢。むしろ危機感の方が大きいという印象を受ける。今後、どのように進化していくのか、実に興味深い。

 

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樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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