PICK UP

2016.10.19

新生「京都BAL」開業から1年――館の“空気感”演出を重視、売上至上主義と距離置く

ワンブランド・ワンテナント型ではない売り場編集

 「京都BAL」の歴史は古く、開業は1970年11月。当初はデザイナーズブランドを集積する高感度なファッションビルだった。現在は京都のほか、神戸・三宮にも出店している。京都店は館の老朽化もあり、2013年1月に一旦閉館し、建て替え工事に取り掛かった。昨年8月にオープンした新館では、住み分けを図るため“上質なショッピング体験”の提供を目的に、出店テナントを33店に絞り込んだ。「十二分にスペースを提供することで、各テナントの世界観をいかんなく演出・発信してもらう」(中澤の山本健太開発室マネージャー)という狙いがあった。

 

 建て替えに際し、館の敷地面積は約2769平方メートルと従来の2倍に拡大。延べ床面積は1万8561平方メートル(売り場面積は約1万2000平方メートル)で、小規模な百貨店と同程度の大きさだ。1万8000平方メートルと言えば、同じく京都に店舗を構える藤井大丸や、大阪・梅田の阪急メンズ大阪(メンズ館)に近しい規模感である。共通のコンセプトを持ったテナントを集積するには手ごろな面積と言えるだろう。

 出店する33のテナントは、昨今の人気ショップが名を連ねている。地下1・2階は、以前も出店していた書店の丸善だが、2階にはセレクトショップの「トゥモローランド」、3階には同じくセレクト業態の「エストネーション」、4階には「ザ・コンランショップ」が入居する。5階には全フロアを使い「無印良品」が大型店舗を構える。最上階の6階はワンフロア全てを使って「ロンハーマン」が出店する。「RHカフェ」も併設されていて、国内最大規模の1504平方メートルの広さだ。5階の「無印良品」は1603平方メートルと大型店舗である。ワンブランド・ワンテナントの従来型テナントが苦戦する中、ショップの世界観演出を優先した個性的な編集だ。

不完全燃焼だった1年目

“空気感”の演出にこだわった「京都BAL」(河原町通側の正面入り口)

 順調に売り上げを伸ばしているのは、「ロンハーマン」「エストネーション」「トゥモローランド」といったセレクト系ショップや、「無印良品」「丸善」。“上質なショッピング体験”の提供が顧客に伝わっているようだ。来館客は年齢・性別問わず、幅広い層が訪れているという。自分のファッションスタイルを確立した目の肥えたファンが多いとみられる。「今の専門店や百貨店に物足りなさを感じている方に来てもらっているようだ。それが当館の強みでもある。世界観を演出し発信するという、“コト”を表現できている点がプラスになっている」(山本マネージャー)と分析する。「当館において、時間をどう過ごしてもらうか。トレンドを反映した時代感や空気感を体験できる施設にしていきたい」と山本マネージャーは今後の抱負を語る。

 

 初年度売上高は目標に少し届かなかったというが、レジ客数は順調な推移だという。客単価はアパレルで上がっているが、廉価な雑貨を数多く取り揃えていることもあり、参考値として見ている。平日は夕方にかけて入館数が増えていき、夜も結構賑わうという。目測だが、30代後半から50代辺りが中心顧客になっているようだ。

 

 このようにそれほど悪くはない推移の初年度だったと思うのだが、山本マネージャーも出店テナントも消化不良だったようだ。「初年度のため、テナントも店舗運営で手探りの面があったと思う。『もっと色々やりたかった』という声が多かった。テナントの皆さんにはオープン当初から鼻息荒く取り組んでいただいたが、当館の強みをもっと外へ向けて発信するべきだったと反省している」(山本マネージャー)。

課題は認知度の向上

 従って今後の課題は、館の認知度アップだという。老舗ファッションビルとしては、何だか意外な気もするが。2年目も売り場環境を整えながら、コンセプトをぶらさず、「1年目と同じように取り組んでいけるかどうか」(山本マネージャー)が焦点になる。短期間での結果を求めず――もちろん、お商売なので収益を上げることは重要だが、館の方針・軸足をしっかり守っていくことを重視する。プロモーションを通じ話題性を提供して、認知度を高めていこうとしている。

 

 年間売上高が70億円ということは、月坪が大体16万円の計算だ。河原町三条付近という繁華街の一角にあるファッションビルとしてはかなり控えめの目標数値である。短期的で急な売上増でなく、中期にわたり安定した収益を重視する館と言えるだろう。「地元民を含め、どれだけ館を愛してもらえるか。それには、常に新しいものを感じてもらう必要がある。そうした取り組みを継続できるかどうかが重要だ」(山本マネージャー)。

 

 「京都BAL」は時間をかけて、じっくりと育てていくタイプの館であろう。私も時間をかけて、じっくり見守りたいと思う。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

アパレルウェブ ブログ

メールマガジン登録