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2022.06.09

コロナ禍でも積極出店へ、通販実施企業の店舗戦略、“売らない店”の挑戦も

 通販カタログやECチャネルではリーチできない層の開拓やブランド認知の向上に向けて、通販実施企業が実店舗展開を加速している。商業施設などではコロナ禍で空きテナントが目立つ中、街中の人出は回復し始めており、”オフラインへの攻め時”と判断する通販実施企業が増えてもおかしくない。コロナ前から店舗戦略を推進してきた企業や、新たにショールーミング型店舗に挑戦する事業者などの取り組みを見ていく。

 

表参道や自由が丘に開店、新層にPR

 DINOS CORPORATION(=ディノス)は通販で展開する50代女性向けファッションブランド「DAMAcollection(ダーマ・コレクション)」の新商品などを展示するショールーミング型店舗を都内2カ所でそれぞれ期間限定で開設する。

 6月17~19日までは表参道の路面店型レンタルスペース「GUM表参道」(=広さ42平方メートル、所在地・港区北青山3‐10‐25)で、同24~26日までは自由が丘の貸しスペース「自由が丘ポップアップスペース」(=広さ43平方メートル、同・目黒区自由が丘1‐29‐1)で5月下旬に発刊した通販カタログ「ダーマ・コレクション盛夏号」で掲載した商品のうち、衣料品や鞄、靴、アクセサリーなど約70点を展示。来店者は展示する実物の素材感や質感、サイズ感などを確かめたり、試着もできる。ただ、ショールーミング店のため、販売は行わず、店内で購入した商品は顧客の登録住所に後日、配送する。来店者には同社の通販サイトで販売する「DAMA」の商品購入時に使用できる10%引きクーポンや同社の通販サイトの会員に新規登録した来店者にオリジナルミニボトルをプレゼントする特典を付与する。

 「DAMA」では店舗展開にも積極的で東京・有楽町と大阪・心斎橋にDAMAの商品を展示し、試着できるショールーミング型常設店「DAMAお客様サロン」を構えているほか、かつては首都圏の複数の百貨店にテナント出店(現状は東京・新宿の京王百貨店1店舗のみ)するなどリアルでの接点を重視してきた。「DAMA」の商品は単価が高いものやまた、素材感にこだわった商品なども多く、実際に確かめてから購入したいとする顧客からの声も多く、店舗を設置することで固定客の育成や「DAMA」のターゲット層に合致する百貨店の来店者層にアピールし、新規顧客獲得を図る狙いのためだ。

 今回の期間限定店舗もリアル接点を重視した施策の一環だが、これまでの店舗との違いは「DAMA」とは接点がなかったであろう層へのPRと当該層の新規獲得が狙いという点だ。

 前述通り、「DAMA」は50代女性を中心に展開しているが、展開する商品群は当該層よりも下の層にも当然、高い訴求力があると見る。「表参道や自由が丘というファッション感度の高い方々が多く訪れる場所に店舗を構えることでDAMAをご存じなかったお客様にブランドの持つ世界観や商品の良さを知って頂き、認知が広がれば」(同社)という。今回、来店者に付与する10%引きクーポンの利用率や通販サイトの新規会員登録者数などを中心に効果を分析しながら、成果次第で再度、冬頃をメドに同様のショールーミング型店舗を設置したい考えだ。

 

都市部の靴専門小型店が軌道に

 靴の通販などを手がけているヒラキは自社プライベートブランド(PB)商品を中心に取り扱う都市型の靴専門店について、コロナ禍となった2020年から本格出店を進めており、現状は10店舗まで拡大している。

 もともと運営していた実店舗は靴商品を軸に食料品や日用雑貨、衣料、インテリア、寝具などを他社からの仕入れも含めて幅広く展開。2~4階建て郊外型の大型総合店として、本社のある兵庫県内に4店舗を構えていた。

 都市型の靴専門店は、京阪神間の駅前などにある大型商業施設にテナント出店する形で店内面積は約66~165平方メートルと従来よりも限られたスペースの売り場に設計。それまで通販でメインに扱っていたPBの靴商品を中心に販売している。

 16年に大阪市内にモデル店舗となる1号店を立ち上げ、その成果を踏まえた上で20年より2号店以降の出店を本格化。昨年度については上半期に3カ店、下半期に2カ店を出店(1カ店は閉店)して、現在は合計10店舗体制となった。今年に入り、コロナ禍で商品供給体制が遅延し、靴専門店でも一部商品の在庫が不足するという逆風もあった。しかし、4月からは緊急事態措置・まん延防止等重点措置などが解除されたこともあり、時短営業や外出自粛の影響が緩和。入居していた商業施設への客足が回復していった。

 「コロナの真っ最中にリアル店舗を出店するのはどうかとも思ったが、今は結果としてやって良かった」(伊原英二会長兼社長)と説明。その言葉通り、今年4月には10店舗合計で月間4000万円を売り上げるまでに成長。すべての店舗で黒字化も達成している。

 靴専門店は、通販で主力となっている自社PB商品を扱うものの、ECへの誘導を必要以上に意図した仕掛けを行っているわけではない。同社によると、通販で売れる商品が必ずしも実店舗で売れるとは限らず、またその逆の場合もあるため「そうした(売り場間の)ギャップを探る上で小型店舗をたくさん作ることで地域性など色々な部分でひとつのモニターとして使える部分がある」(伊原会長兼社長)と説明。開設した靴専門店を通じて、展開地域ごとのニーズを分析することにもつなげていくというのだ。今年度も靴専門店は積極的に出店展開する考えでリアルでのブランド認知の拡大にもつなげていく考え。

 

JR東と協業で駅ナカ出店強化

 千趣会は、資本業務提携した東日本旅客鉄道(JR東日本)との協業で、駅ナカや駅ビルなどでの店舗開設やポップアップ開催を積極的に実施している。オフラインでの顧客接点を強化することで、カタログやECではリーチできない層を開拓するほか、顧客の声を吸い上げて商品開発にもつなげる。

 店舗展開については、昨年10月に東京駅構内に開業した「ディズニーファンタジーショップ バイ ベルメゾン」の常設店が開設2カ月強で約1万5000人が購入客を獲得するなど順調な出だしだったほか、「サラリスト」や「ホットコット」といったベルメゾンの人気商品を販売する催事をJR東日本の管轄エリアで多数展開し好評を得ているようだ。

 6月3日~14日には、知的障がいのあるアーティストの作品を世に出しているヘラルボニーと共同開発したオリジナルアイテム17商品を販売するポップアップをJR横浜駅構内の催事スペースで開催するのと同時に、隣接する体験型ショールーミング店「JREモールカフェ」では「ヘラルボニー×ベルメゾン」の商品などを展示し、JR東日本グループの通販サイト「JREモール」に送客する。

 ヘラルボニーとのコラボについては、12人の作家の作品をモチーフとしたTシャツやバレエシューズ、ショルダーバッグ、傘、エプロン、おむつケースなどを開発し、買いやすい価格で提供する。

 ヘラルボニーは外部企業とのコラボ商品を数多く展開しているが、ベルメゾンではアート作品が好きな人や福祉に熱心な人だけでなく、幅広い人が興味を持てて使いやすいように、「普段の暮らしに取り入れやすいデザインとアイテムを意識した」(千趣会)という。

 コラボ商品のタグにはヘラルボニーという言葉を生み出した松田翔太氏直筆の「暮らしを、アートで心ゆたかに。」のメッセージがデザインされている。

 なお、「ヘラルボニー×ベルメゾン」のポップアップはJR東京駅のグランスタ東京イベントスペースでも6月20日~7月3日に開催する予定だ。

 

新宿マルイに初の店舗開設

 レインウエアなどの製造販売を手がけるカジメイクは5月27日、新宿マルイ本館7階に同社が運営する通販サイト「AMETOHARE(アメトハレ)」の実店舗(約60平方メートル)を開設した。同社として初のリアル店舗は、その場では商品を販売しないショールーミング型で出店。ブランド認知の向上とECチャネルの強化を図る。

 レインウエアの購入者は都市部の30~40代女性が多く、新宿マルイの客層と近いことや、丸井が”売らない店”へとビジネスモデルの転換を加速していることから、初のオフライン展開としてベストと判断したようだ。

 実店舗では、レインウエアを中心に防水バッグやレインブーツなど常時20~25アイテムを展示。応援購入サイト「マクアケ」で2000万円超を集めたレインポンチョやその新作も試着できる。

 店内にはスタッフが常駐し、自転車用に設計されたレインウエアなど、アイテムの特徴や機能を体感できるコーナーに加え、実際の商品を手に取ってフィッティングできるスペースも設けた。

 商品の購入は、商品近くのQRコードから「アメトハレ」の商品詳細ページにアクセスし、購入してもらう仕組みとなる。

 カジメイクはホームセンターなどへの卸がメインだが、約3年前に自社ECを開設し、一般消費者との接点を増やしている。今回のショールーミング型店舗でも顧客の意見を吸い上げて次の商品企画に反映させるとともに、自社ECに送客することで顧客化とLTVの向上につなげる。

 

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