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2022.03.03

コロナ禍で根強いニーズ「EC商品の店舗受け取りの今」 EC事業との差別化にも

 大手小売りや専門店チェーンが自社ECで注文した商品を最寄りの店舗で受け取ることができるサービスを強化している。多くの場合、当該サービスを利用すれば送料無料とすることで実店舗への来店を促し、買い回りにもつなげる狙いがある。また、受け取り専用の窓口を設ける企業もあり、コロナ禍で店内の滞在時間を短くできるメリットもある。最近では、店頭在庫を有効活用することで素早く受け取れたり、店舗には在庫を置かずウェブ限定品をフックに店舗送客につなげたりと、方向性はさまざまだ。”有店舗”の強みを生かしてEC専業との差別化を図る小売り各社の現状を見ていく。

 

店舗受け取り軸の自社EC

カジュアル衣料大手のしまむらは、リアル店舗を持つ強み生かし、既存の店舗向け物流網を利用して送料無料で届ける「店舗受け取り」サービスを軸にしたローコストECの運営に磨きをかけている。

 同社は仕入れがメインで、かつ多品種小ロットの品ぞろえもあってEC参入にはそれまで消極的だったが、コロナ前までは成長にブレーキがかかっていたこともあってECの展開を模索。2020年10月に主力事業の「しまむら」で初の自社ECをスタートしている。

 

 EC事業については、22年2月期が初年度となる3カ年の中期経営計画において全事業で展開することで顧客の利便性を高めるとともに、全国2000店以上のリアル店舗と自社ECとのシナジー効果を最大限に発揮したい意向だ。

 現状、EC事業の目的のひとつである”ECからリアル店舗への送客”の面で成果を得ている。前期の上期(3~8月)時点では、EC注文のうち送料がかからない「店舗受け取り」が9割と想定以上で推移しているのに加え、「店舗受け取り」利用の約5割が店頭で別の商品も購入していることから、ECチャネルは実店舗の売り上げ拡大にも貢献しているという。

 昨年9月には、しまむら事業に続き、ベビー・子供服を取り扱うバースデイ事業でも自社ECサイトをオープン。これに合わせて、店舗受け取りの対象店を同社グループ(しまむら、バースデイ、アベイル、シャンブル)の約2140店に拡大した。これによって例えば、「しまむら公式オンラインストア」で注文した商品をバースデイやアベイルなど別ブランドの実店舗でも受け取れるようにして利便性を高めた。

 しまむらでは現在、自社ECの品ぞろえ強化に取り組んでおり、インフルエンサー企画やラージサイズ、キャラクターものといったEC限定商品に注力することで、前期上期のEC限定品の割合は40%となった。こうした限定商材をフックに自社ECの利用を促すとともに、店舗送客にもつなげる。

 

最短2時間で受け取り可能

ジーユーでは昨年末より、今後の新店舗の方向性として「EC」や「オムニチャネル」を踏まえた内容とすることを明らかにしている。同社の場合、今年については国内で新規20店舗の純増拡大を計画しているが、その出店形態としては「都心部」、「郊外型のユニクロ併設型ロードサイド」、「地域有力商業施設」の3種類となる。大型店では品ぞろえに注力しつつも、スペースの都合で全ての商品を置くことができない標準店については、駅の近くなど生活導線上に開設して、EC商品を受け取りやすくする考え。

 関連して、昨年11月には、従来のEC商品の店舗受け取りサービスである「クリックアンドコレクト」に加え、アプリやスマートフォンからの注文後、最短2時間で商品を受け取ることができる「ORDER&PICK」を全国約400店舗で開始した。顧客は商品を選択し、当該商品の在庫がある最寄り店舗を選ぶことで利用できるというもの。スマートフォンで購入手続きが完了するため、店舗ではサービスカウンターで商品を受け取るだけとなり、忙しい時など店内で商品を探さずに、事前に注文することでスムーズな受け取りが可能となっている。

 同社のECでは5000円以上の購入から送料が無料となるが、送料を気にする顧客や帰宅途中で店舗に立ち寄れる顧客などが店舗受け取りサービスを利用しているようだ。

 

女性用スーツを店舗受け取りで

 作業服販売のワークマンは2月22日、女性用ワークスーツシリーズを発売した。女性用ワークスーツは通常の店舗に陳列スペースを確保できないことから、ウェブ注文からの店舗受け取り専用品としている(作業服を扱っていない「#ワークマン女子」全店とショッピングモール内の「WORKMAN Plus」店では陳列して販売する)。

 同社では、昨春に発売した「男性用2WAYワークスーツ」が大ヒット商品となっており、「同じ素材の女性用スーツを作って欲しい」という声が高まっていたという。男性用ワークスーツと同じ生地と副資材を使って同じ製造ラインで生産できるため、高機能と低価格が実現できたとしている。

 同社によれば、標準的な店舗の陳列スペースは330平方メートルしかないため、制約が大きいが、新商品はウェブ注文からの店舗受け取り専用品であることから、店舗の陳列スペースの調整が不要なため、比較的容易に製品を増やせる点がメリットという。また、売り上げは100%加盟店に計上される。

 同社では一昨年3月、店舗受け取りを強化した通販サイトを開設。店舗に在庫がある場合は、ネットで注文してから最短3時間で店舗受け取りが可能となる。送料は無料で、届いた店舗で試着してからの購入も可能としている。

 

ヤフーモール機能活用で取置を強化

 ホームセンターを展開するコメリは2月25日から、ネット販売で購入した商品を実店舗で引き渡すサービスを強化した。

 同社では2014年から、運営する通販サイト「コメリドットコム」で受注した商品を顧客が選択した実店舗で引き渡す「取り置きサービス」をスタートしているが、同日からはヤフーが運営する仮想モール「PayPayモール」などで実店舗を持つ出店者向けに提供する店頭在庫をモール上でも表示できる機能「実店舗在庫サービス」を活用して、PayPayモールに出店する店舗「コメリドットコム」でも対応を開始。当該商品ページで顧客が対象商品の購入手続きを進めると通常配送のほか、「実店舗でも受取可能です」という表示が選択できるようになり、それを選ぶと当該商品の在庫がある実店舗で顧客が商品を受け取ることができるようになる仕組みだ。取り置きサービスはコメリが展開するホームセンターのうち、大型店となる「コメリパワー」の各店から開始。今後、「コメリ ハード&グリーン」などの他の店舗でも順次、対応していく予定としている。

 なお、ヤフーが仮想モール上で実店舗運営者向けに実施している「実店舗在庫サービス」を活用してEC商品の店舗引き渡しを実施している事業者はコメリのほか、大手家電量販店のヤマダデンキやベスト電器、家具専門店の村内ファニチャーアクセス、スポーツ用品販売のヒマラヤなど現時点では49社となっている。

 

4社が連携しエリアを補完

自転車専門店チェーンを展開するDAIWA CYCLE(ダイワサイクル)は2月22日、同じく自転車専門店を運営するシナネンサイクルとマルナカ、サイクルショップカナガキと協業し、各社が通販サイトで販売する自転車をそれぞれの店舗で受け取れる自転車業界初のサービスを本格的に開始した。

 新サービスでは「ダイワサイクルオンラインストア」で購入した自転車を自社店舗の「ダイワサイクル」だけでなく、協業先の実店舗(ダイシャリン、サイクルジョイ、自転車のカナガキ)でも受け取れるようになり、ユーザーはサイト上で合計150店舗以上の中から受け取り店舗を選び、購入後は当該店舗で点検や修理などのアフターサービスを受けることができる。

 ダイワサイクルは関西、関東、中部エリアに97店舗、シナネンサイクルは東北、関東エリアに36店舗、マルナカは中部エリアに23店舗、サイクルショップカナガキは中国エリアに14店舗をそれぞれ展開しており、4社の連携によって幅広いエリアをカバーし合えるのがメリットだ。まずはダイワサイクルのECから対応をスタートするが、協業先の通販サイトでも同サービスを順次導入していく。

 今回協業する4社は自転車専門店として長年、地域に根差したサービス提供に努め、厚い信頼を得てきたという。自店舗での販売では整備・点検を経験豊富な整備士が行い、実際に商品を前にして説明を受けることができ、購入後は対面でアフターサービスを受けることで安心感につながっていた。一方でいつでもどこでも気軽に購入できる通販は利便性が強みだ。そうした実店舗の「安心感」と通販の「利便性」を両立することが自転車購入者にとって大きな利点になると考え、今回のサービス連携が実現した。なお、ダイワサイクルでは今後、取り扱い商品の拡充を図り、提供サービスの向上に努めていくとしている。

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