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2021.09.23
大手小売店舗の大型刷新、“新しい売り場”づくり着々
大手小売りで次世代型店舗の開発が進んでいる。消費環境が急激に変化する中、従来型の店舗では行き届かなかった顧客対応や商品理解へのサポート、把握しづらかった顧客行動などについて、ECをはじめとしたデジタルの力をつかって補完。新しい購買体験を提供していくことで、コロナ禍の逆風の中でも選ばれ続ける売り場・ブランドを目指している。先行する大手2社が今月立ち上げたばかりの最新型店舗の様子を見ていく。
旗艦店刷新、ECとも連動
ユニクロ
ユニクロは9月17日、都内の「ユニクロ銀座店」をリニューアルオープンした。かねてより、”新しい購買体験”を提供する店舗づくりを掲げていたもので、売り場を活用したライブコマースや、通販サイトから購入できるオーダーメイド感覚スーツの専門スタッフによる接客、期間限定の購入商品の即日配送など、ECにも関わる新たな機能をふんだんに取り入れた内容となっている。
同店舗は、広大な売り場面積(約5000平方メートル)を有し、刷新以前よりユニクロのフルラインナップを取り扱う「グローバル旗艦店」として展開。ブランドの情報発信拠点としての役割も持っており、今回の刷新に当たっては新たな購買体験を提供する新形態の店舗として国内初の機能を各所で取り入れている。
まず、専門スタッフによる接客サービスやサロンを設置しており、ECに関わるものでは、10階に「オーダーメイド感覚で選ぶ、ジャストサイズのスーツ」を取り扱う「CUSTOM ORDERSALON(CUSTOMオーダーサロン)」を新設した。同商品はECやアプリで受注しているもので、注文後に袖丈など必要箇所を補正して配送している。
実物を確かめてから購入したいニーズもあることから、現在、全国約130店舗で試着用サンプルを使ってスタッフがサイズを案内しているが、既存店舗では売り場スペースの問題から展示しているサンプル数にも限りがあったという。
同店舗では、初めて「サロン」として同商品専用のスペースをとった売り場にしたことで、他店舗にはないような多くのサンプルのサイズを用意しており、来店者が様々なパターンから試すことができるという。スタッフが店内で顧客を採寸してそのデータを顧客のスマートフォンや自宅PCなどに送信。顧客はそのデータをもとにいつでも注文できるようになっている。加えて、接客に当たるのは特別な研修を受けた専門スタッフであるため、オーダーメイドスーツの未経験者でも相談しながら、気軽に購入できる環境となっている。
商品や混雑状況によるものの、シャツは翌日、ジャケットの場合は3日でそれぞれ最短配送。ネットで決済ができるが、店舗支払いの場合は同店での特典キャンペーンもある。銀座自体がビジネス街でもあることから、スーツ商品の需要は高くあると見込んでいる。
店舗を活用したライブコマース
そして、同社では昨年からインスタグラムでのライブコマース「UNIQLO Live STATION」をいくつかの店舗を舞台にして開催しているが、同店についても店内の様々な場所を撮影に使って定期的に配信を行っていくという。基本的には話題性のある商品を発信する傾向にあるため、旬の商品を大々的に展示するスペースのある最上階がその舞台の中心となるようだ。なお、既存店でのライブコマースについてはこれまでのところ、不定期で1、2カ月に1回ほどの頻度で実施。コラボ商品やお勧め商品などを発売するタイミングで行うケースが多いという。
動画では撮影場所となる実店舗スタッフだけでなく、ファッション関連雑誌の編集長やプロのスタイリストも登場。「コーディネートも提案してもらっているが、第三者の目線で商品を紹介してもらうと説得力がある」(同社)と説明した。同社のインスタグラムアカウントのほか、専用ページではアーカイブ配信も行っており、配信した商品の売り上げへのインパクトは大きいようだ。
そのほか、ウェブマーケティングに関わるものでは、11階のTシャツブランド「UT」の専門売り場において、1500円以上の購入者を対象に同店限定のオリジナルの壁紙で記念写真が撮れる撮影機材を設置している。好きなUTのグラフィックを背景に選んだ撮影が可能で、その場で紙焼きの写真を印刷するほか、QRコードからデジタル素材でも提供。同店だけの撮影体験を提供することで利用者のSNSから、UTブランドの拡散効果も期待できる。
また、期間限定の企画としては、オープンから11月30日まで、同店で当日1万円以上を購入者した、対象区内(中央区・千代田区・港区・江東区・墨田区の一部)に在住のユニクロアプリ会員に向けて、商品を無料で同店舗から自宅に即日配送するサービスも行う。店舗での買い物の後に銀座の街を手ぶらで楽しめるよう配慮したもので、同店だけの初の取り組みとなる。
デジタル基軸の新業態
そごう・西武
そごう・西武は9月2日、西武渋谷店にOMOストア「CHOOSEBASE SHIBUYA(チューズベース シブヤ)」を開設した。半年ごとに編集テーマを設け、共感するD2Cブランドなどの商品を扱う実験的店舗として運営する。店舗とECのシステムやオペレーションを融合させ、オンラインとオフラインを自由に行き来できる仕組みを導入。百貨店としては珍しいリアル店舗とECの完全在庫連携を実現し、店頭で見た商品を帰宅後にオンラインで購入したり、オンラインで購入した商品を店舗で受けとるなど、顧客目線での購買体験を追求する。
同時に、消費者と取引先ブランド双方の満足度を高め、機会損失を発生させないためにもショールーミング型ではなく、その場でも販売して全商品の持ち帰りが可能だ。そごう・西武として初のRaaS(小売りのサービス化)業態を採用。販売商品のシステム登録とOMOストアへの商品配送以外の業務をすべて代行することで、実店舗の出店実績が少ないブランドでも簡単に出店できるようにした。
OMOストアは西武渋谷店パーキング館1階(面積約700平方メートル)を全面刷新。売り場は4つのエリアで構成されており、ふたつある展示エリアではD2Cブランドを中心に展開。サステナビリティを切り口にキュレーションしているが、消費者が自分事として理解しやすいキーワードとして「タイムリミット」を掲げている。
「チューズベース シブヤ」の出店企業は54社で、洋品雑貨や衣料品、インテリア用品、化粧品など約400点を取り扱う。大半がD2Cブランドの商品で、これまで百貨店で取引のなかったブランドがほとんどだ。
来店客の購入体験は非接触を重視した。店頭にスタッフを配置しているが、積極的な接客は行わず、来店客が自分のスマホで各商品に付いているQRコードを読み込むことで専用通販サイトの商品ページで商品の詳細情報や価格、ブランドの情報などをチェックしてもらう。
気になる商品はそのままお気に入り登録して、後でゆっくり購入を検討できる。すぐに購入したい場合はカートに入れて支払い手続きに進むと、LINEアカウントかメールアドレスを入力する画面に遷移。どちらかを選んで購入画面に進むが、その際もEC購入で自宅に配送するか、店頭で商品を決済して持ち帰るかを選べる。店頭で会計する場合もクレジットカードかQRコード決済の完全キャッシュレス決済となり、持ち帰り商品の準備ができたらLINEアカウントかメールにお知らせが届く。
ミレニアル世代とD2Cつなぐ
今回のプロジェクトは2年ほど前に始動。百貨店の既存ビジネスモデルでは大きな成長が見込めない中、既成概念に縛られずに”新しい百貨店を作る”という思いでプロジェクトがスタートした。「百貨店が持つコアバリューは”編集力”。そこにデジタルをかけ合わせることで伸びしろを広げられる」(伊藤謙太郎事業デザイン部新業態推進担当部長)とし、小売りの新たな潮流になりつつあったD2Cと、ミレニアル世代など新しい顧客層とをつなぐ場になれると考え、第1弾として「チューズベース」を開設した。
”新しい百貨店”を目指して今回、そごう・西武本体のECのシステムとはまったく別の仕組みを構築。デジタルプロダクト開発のルートシックスの協力を得て、最先端のテクノロジーを活用したRaaS業態として展開する。出店契約は定額のサービス利用料と売上高に応じた販売手数料を出店ブランドから得る形で、「ブランドさんはECモールに出店するような感覚でリアル店舗に出店できるのが特徴」(伊藤担当部長)という。
定額のサービス利用料にはシステム利用料などに加え、AIカメラによる店内のデータ解析を含む各種マーケティングデータも含まれている。「チューズベース」の専用サイトからD2Cブランドなど出店者の自社ECに来店客が流れる可能性については織り込み済みで、「それを含めて『チューズベース』の提供価値になる。良い商品と出会う機会を作ることが大事で、従来のような顧客の囲い込みモデルは限界がある」(伊藤担当部長)とする。
展示エリアのテーマは「SDGs」を軸に半年ごとに設定する。展示エリア以外には、オーダースーツのD2Cブランドを手がけるファブリックトウキョウが、3Dスキャンボックスで身体を採寸し、自分好みにカスタムオーダーできる働く女性向けブランド「インセイン」の1号店を出店したほか、ラウンジエリアにも完全キャッシュレスのパーソナライズドカフェ「テイラードカフェ」が出店した。
なお、オープンして間もないが、天井が低く、半地下のような建築特徴を生かした店作りもあり、SNSで「チューズベース」を知った消費者が来店。店内で写真を撮る若年層の姿がとくに多く、新たな来店客を呼ぶという好循環が生まれているようだ。