NEWS

2019.11.07

デジタル・プラットフォーマー規制、公取委が新法案視野に提言、「検索アルゴリズム」要件開示求める

 

 公正取引委員会が、オンラインモールの運営事業者などデジタル・プラットフォーマーの規制を強化する。10月31日、今年1月に始め、段階的に行っていた実態調査の結果を公表。モール運営事業者と利用企業の「事業者間取引」において、独占禁止法上、問題となる行為を整理した。政府は、2020年の通常国会にデジタル・プラットフォーマーの規制をめぐる新法案を提出する予定。公取委は、モール内の検索アルゴリズムの要件開示など、法制化を視野に入れた提言を行う。法制化の枠組み検討のため新設された「デジタル市場競争会議」にも積極的に参加していく。

 公取委は、モールの実態把握に向け2段階の実態調査を行ってきた。今年4月に公表したアンケート調査では、モールを利用したことがある事業者約800社から回答を得た。今回は、モール運営事業者5社、利用企業42社を対象にヒアリングを行った。

 法制化を視野に、公正性・透明性に欠けるおそれのある行為について整理。調査結果を受けて、「検索・表示のアルゴリズム」、規約や手数料に関する「利用事業者に対する説明、情報の開示」、「審査基準・運用」に言及した。

検索上位表示、理由の明示求める

 

 オンラインモールにおける商品の表示をめぐっては、利用事業者から「検索順位の仕組みを全く公開していない」、「運営事業者は検索結果の表示順位を自由に操作できると感じる」、「広告費を支払うことで表示順位が恣意的に上昇する仕組み」といった指摘がある。

 一方、モールの運営事業者は、「商品情報や価格、在庫状況、販売履歴などの要素によって決まることを開示・説明している」、「アルゴリズムの詳細を明示しないのは、不正な対策を施した商品が上位表示されることを防ぐため」、「広告費を一つの要素として表示順位が変わることは平等だと考えている」などと主張。両者の見解は真っ向から対立する。

 ただ、公取委は、取引の公正性・透明性を確保する狙いから、検索順位を決定する主なパラメータやそのウエイトを明らかにする必要性に言及。検索順位の上位を広告枠とする場合、消費者に誤認を与えないよう、その旨を明らかにすることも必要とする。

 モールにおける商品表示の広告枠は、モール各社で表示方法が異なる。広告枠を「PR」との表記とともに上位表示したり、「〇〇(モールの運営事業者)が販売します」といった形で、直接販売であることを示すモール運営事業者もいる。

 公取委は、「検索アルゴリズムはあくまで一例。アルゴリズムの利用範囲の問題ではなく、恣意的に自社や関連会社の商品を優遇することで、モールの利用企業と消費者の取引を不当に妨害する行為を独禁法違反となると禁じている」として、消費者に誤認を与えない形での広告枠の明確化や自社商品の表示を求める。

利用規約の説明責任に言及

 手数料や利用規約、出店・出品審査の結果をめぐる情報の開示や説明の充実も必要とする。

 規約をめぐっては、モールの利用企業を対象にしたアンケート調査でも、「規約を一方的に変更された」との回答が約5~9割、その内容に「不利益なものがあった」との回答が約4割~9割に達していた。

 運営事業者は、「利用企業の集まる会議などさまざまな場面で変更の趣旨や目的を説明している。必要に応じ個別に時間をかけて説明している」などとする。一方、利用企業からは、「手数料改正の背景について説明はあるものの、その料率や金額の根拠が示されない」「何の根拠もなくマージンを取っているのではないか」といった指摘がある。

 公取委は、手数料の内容があいまいでは、利用企業によるコスト削減や、需要に沿った価格設定等の経営判断に悪影響を及ぼすと指摘。結果として、価格の低下など競争のメリットを消費者が得られなくなるとして、手数料等の変更や請求内容について書面で開示すること、出店・出品審査において不承認とする場合は事前に通知し、その結果に至った理由を可能な限り明確に説明することが必要とする。

 審査基準の明確化も求める。運営事業者が、「過去に消費者被害や不正を行った利用企業の再出店を防ぐため」「具体的な理由の詳細を説明すると基準を不正にすり抜けようとする利用企業がいる」といった指摘を行う一方、利用企業からは「出店を申し込んだが事前審査で却下された。審査基準は一切示されておらず、なぜ却下されたか分からない」といった声があがっている。

 公取委は、脱法的行為を行う企業の出店・出品を防ぐため、審査基準に解釈の余地を残すことは必要性に触れつつ、審査の一貫性を高めること、申請件数や不承認とした件数・理由、審査期間を開示することで、利用企業の予見可能性を高めることなどが必要とする。

相談体制の充実求める

 これらの円滑な運用に向け、モール運営事業者に相談体制や紛争解決手段の充実も求めている。

 モール運営事業者の相談体制をめぐっては、「問い合わせ窓口を365日・24時間体制で設けている」(モール運営事業者)、「アカウント停止を受けた際、改善方法を相談したが、コールセンターに連絡しても『担当部署に電話をつなげることはできない。該当の件は何も分からない』と言われただけで何の解決にもならなかった」(利用企業)と両者の見解が相違する。紛争解決の手段も、モール運営企業が指定する裁判所で行う必要があることに「遠隔地に所在する小規模事業者は、費用捻出が困難で裁判を提起できない」との意見がある。

 こうした状況を受け、公取委では相談体制の充実に言及。当事者間で解決できない紛争が生じた場合に裁判外の和解を試みるため、第三者の調停者を定め、調停に要する費用の負担割合をあらかじめ検討する必要性があるとする。
 公取委は、デジタル・プラットフォーマーの公正性・透明性を高めるこれらの行為について、ルールを法律で定めることが有効と報告書で指摘。イノベーションを阻害する過剰な規制とならないよう留意しつつ、検討することが適当とする。



「出店者との関係強化」強調、直販・グループは「優遇していない」


<大手仮想モール3社の反応は?>



 今回の公取委の調査報告書を受けて、主要な仮想モール運営3社はどう反応したのか。まず、楽天では「オンラインモール事業(楽天市場とグループ出店・直販事業など)として、実態調査に全面的に協力した。報告書の結果については、社内でもしっかりと確認するとともに今後も出店者やユーザーの声に向き合い、出店者とのコミュニケーションをより一層強化し、利便性の高い魅力的なプラットフォーム運営をしていく」(EC広報課)とコメント。具体的には、47都道府県で順番に実施している出店者との意見交換・説明会「楽天市場タウンミーティング」(10月末時点では40都道府県で実施済み)や、同社ECコンサルタントとのコミュニケーション、外部の有識者からなる「楽天市場 品質向上委員会 アドバイザリーパネル」などを通じて、不明点や店舗が懸念する点などを吸い上げ、モール運営に反映させるとしている。

 「商品検索アルゴリズム」については、「出店者向けサイトやガイドブックなどで、検索順位を決める主要な要素(検索キーワードと商品との関連性・各ユーザーの閲覧行動や購買行動など)を示している」(EC広報課)と説明。直販事業である「爽快ドラッグ」や「楽天ブックス」、ビックカメラと共同で運営する「楽天ビック」などに関しては「『どの店舗が信頼できるか分からない』というユーザーの声もあるため、(同型番商品の価格比較ができる)「商品価格ナビ」については、赤帯を入れて楽天グループ店舗のであることを明示した上で、グループ店舗を価格比較リストの最上位に表示している。ただし、その上部に表示される『ファーストビュー』と、クリックすると買い物カゴに入る『直カゴ』は最安値をつけた店舗が獲得できる仕組みだ」(EC広報課)とした。

 ヤフーでは「年初から複数回、公取委からアンケート調査などを受けた。今回の発表において、モール事業の運営上で影響はないと考えている。今後は出店者等とのコミュニケーションをさらに強化し、引き続き変更理由の説明や対応に必要な準備期間の確保に努めていく」(広報)とコメントした。

 「商品検索アルゴリズム」はヤフーショッピング、ペイペイモールそれぞれのヘルプで開示しているという。関連する「ロハコ」や「ゾゾタウン」の検索画面での扱いについては、「消費者がどんな商品を探しているか、どんな商品を購入したか、ストアが支払う販売促進費の設定率などの各種データを使用しており、グループ企業の商品の優遇は行っていない」(広報)と説明している。

 アマゾンジャパンでは本紙の問い合わせに対し、「公取委を含む、当局とさまざまな事案についてコミュニケーションを取っており、本調査にも協力している。今後とも消費者や販売事業者によりよいサービスを提供できるよう努力する」とコメントし、詳しい説明は避けた。

 「利用事業者に不利益を及ぼす場合には独占禁止法上問題(優越的地位の乱用)となる恐れがある」との公取委の指摘に対し、3社とも「出店者とのコミュニケーションを強化する」と回答した。ただ、現状のモール運営に不満を持つ出店者が一定数いるのは事実であり、運営の透明性確保は必須といえそうだ。

メールマガジン登録