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2017.12.04

元Facebook CTO創業のユニコーン企業「Quora」、Q&Aサービスの黒船が考える日本展開の戦略とは

今年11月14日に日本でのサービスをローンチしたナレッジ・データベースの共有プラットフォーム、Quora。2009年の設立以来順調な成長を続け、現在世界中で登録ユーザ数2億人、また今年4月にはシリーズDで8,500万ドルの資金を調達、企業価値も18億ドルとなりユニコーン企業への仲間入りを果たしました。

 

このサービスの最大の特徴は、ユーザーが様々な分野で疑問に思ったことや知りたいことを質問すれば、実名や企業名を登録したユーザーから直接回答をもらえる為、専門知識・実際の経験・社会的な信頼でクオリフィケーションされた的確な情報を得ることが出来るという点です。

 

米国、欧州諸国に続く市場として、Adamが白羽の矢を立てたのが日本。今回、記者会見のため来日したCEO and FounderであるAdam D’Angelo (アダム・ディアンジェロ)氏をbtrax Japanオフィスへお迎えし、単独・独占インタビューを実施しました。元FacebookのCTOでもある彼がなぜQuoraというサービスを立ち上げたのか、どうして日本のマーケットを今回選択したのか、また勝算はあるのか、彼の戦略を取材しました。

 

Adam氏やQuora創業の経緯について

 

Q: Adamさんはなぜ、Facebook社を退社してご自身でQuoraを創業したのですか?また、Facebookでの経験でQuoraの創業に役に立ったことは何かありますか?

 

A: 当時多くの会社、例えばYahooやLinkedIn、GoogleなどがQ&A的なサービスを始めていたのは事実ですが、Q&Aコンテンツのクオリティを高くて専門的なものにするというコンセプトではありませんでした。

私には、世界中のクオリティの高い知識や知見を共有できるサービスが必要になるという信念がありました。

他の企業ではできない高品質な知見が共有できるサービスを始めるためにはユニークな開発アプローチが必須だと考えたため、自分自身でQuoraを創業することにしたのです。

Facebookからは多くを学ぶことができました。当時はまだ今のような巨大企業ではなく急激な成長期を迎えている時期でもあったので、スタートアップ文化や企業経営のノウハウや、チームワークの大切さを身をもって体験したことは、後にQuoraを創業するときに大変役に立ったと思っています。

 

Q: スタートアップ創業者の多くが、事業を軌道に乗せるまでに苦労したという話をよく聞きますが、AdamさんもQuoraを創業された当初は苦労をされたのでしょうか?

 

A: おっしゃる通り創業時にはをいろいろな苦労をしました。開発資金が必要であったためにいろいろな分野の方々にも相談しました。「わざわざ苦労してまで新しいサービスを始めなくてもいいのではないか」とか「どうしてFacebookを退社したのか?」などと言われもしましたし、大きなプレッシャーも感じました。

しかしながら、FacebookでCTOとして仕事をしていた経験が大きな信頼を獲得したところもあり、創業時の滑り出しは比較的スムーズに進みました。とてもラッキーだったとは思っています。

 

Q: 最初に開発する前のアイデアの段階で、VCなどに資金提供の話をもちかけたのですか?

 

A: まず最初にプロダクトの開発から始めました。ある程度のプロトタイプが出来てからVCに見てもらうというアプローチを取りました。資金提供を受けるためには、実際に動くプロトタイプを見せるのが大切だと思っています。実際にプロトタイプを見ると資金提供をする立場からもサービスのイメージがしやすくなり、投資の際のリスクを軽減できるからです。

また、創業当初は無駄なコストを徹底的に省き、会社を大きくすることを安易に考えずに、運営をシンプルにすることが重要だと考え、創業当初はそれに徹しました。

Q: 成功しているスタートアップは、創業メンバーとして数人で始めることが多いと聞いていますが、Adamさんはお一人で創業したのですか?

 

A: 私が創業した後に同じくFacebookにいた友人がCo-Founderとして加わり、二人で創業したと言っても過言ではありません。二人で開発を進めながら徐々に会社運営や経営やマネジメントが出来る人を採用して運営していきました。現在は約200人の従業員が働いています。


Quora CEO and FounderのAdam D’Angelo氏

 

Quoraのサービスについて

 

Q: Quoraにユーザとして登録するときには、実名登録ということもあり、また勤務先や経歴や経験などをかなり詳しく入力する必要がありますね。使ってみようと思う人にとってはハードルが高くなるような気がします。これについてはどう思われますか?

 

A: 私はクオリティの高い知識や知見を非常に重要視しています。そのためには、どんな人が何を聞いて、どんな人がどう答えてくれたかが非常に重要だと思います。

 

共有される情報の質を高く保つためには、詳しいパーソナル情報が不可欠です。

 

ユーザー自身が詳しいパーソナル情報を入力することで、コンテンツは益々高品質になっていきますので、ハードルが高いとは思いません。

 

集められた質問やそれに対する回答はデータベースに蓄積され、どんどん大きなデータベースになって行きます。機械学習によって質問に対する的確な回答が出てくるようになっていきますので、ユーザーは常に的確な回答を得られることができます。この点が、Quoraの特徴でもあり、最も力を入れているところです。

 

Q: 通常私たちは何か知りたい・聞きたいことがあった場合、検索エンジンを使うことが多いと思います。現状では検索結果として、ユーザーの多い既存のQ&Aサービスの回答が検索結果の上位に来るのではないかと思います。Quoraの質の高い回答が検索上位に表示されるためのSEOなどの施策は考えておられるのですか?

 

A: Quoraのポリシーは最も的確な回答を提供するという事ですので、GoogleやYahooなどもユーザーエクスペリエンスを高めるために、Quoraの回答を上位ランクに持って来ざるを得なくなっているのが現状です。最も質の高い回答を集めるという事自体が、Quoraを多くの人に知ってもらい使ってもらうための最も効果的なマーケティング施策だと思っています。

 

Q: 収入源はQuoraのページに表示される広告からの収入と聞いていますが、どんな仕組みで広告を表示するのでしょうか?

 

A: 英語版では、最近になって広告を出すようにしました。ある会社の商品に対する質問や回答があった時に、その会社がターゲティング広告を出せるような仕組みになっています。米国でも操業開始後6年目に始めた試みで現在広告収入も予想通りに出るようになってきました。

 

ユーザ数も増え、質の高いナレッジ・データベースが出来たからこそ実現したビジネスモデルです。日本では当面はクオリティを重視して、Quoraの価値を理解してくれるユーザーを増やしていき、質の高い回答を集めていくのが最重要だと考えています。

 

Q: ヘルスケア分野や医療関連分野での質問などがある場合には、間違った回答は大きな問題を起こすかも知れません。どのように回答の質を担保しているのですか?

 

A: Quoraでは医療従事者等その分野の専門家の回答も多いのですが、回答者である専門家が他のユーザーから高く評価されているかどうかを常にチェックしています。さらに、機械学習によってテキストをチェックして、最も的確で信頼のおける回答を表示するような仕組みになっています。そのためにも質問者や回答者のパーソナル情報や回答に対する評価が重要なのです。

 

米国でも欧州でも、ヘルスケア分野だけでなく最近ではペアレンティング(育児関連)などのQ&Aも増えてきており、Quoraのような高品質なコンテンツの共有プラットフォームは今後も益々重要になってくると思います。

 


btrax Japan(Faro 青山)でのインタビュー風景

Q: オバマ元大統領、ヒラリー・クリントンさん、カナダのトルドー首相、Facebookのシェリル・サンドバーグCOOなど、多くのスーパーエキスパートがQuoraを利用してます。このような著名人やエキスパートをユーザとしてリクルートするためには何か特別なことを行っているのでしょうか?

 

A: 創業当初はコンタクトをする役割の社員もいてコンタクトを試みた時期もあったのですが、現在は何か特別な営業をしているわけではありません。基本的には高品質のQ&Aサービスだということが口コミで伝わって、使ってみたスーパーエキスパートがご自身のネットワークで友人にも声をかけるというような感じで著名人が増えてきたようです。

 

Q: Quoraでは偽のユーザ情報やなりすまし、いい加減な回答をどのようにブロックするのでしょうか?

 

A: ユーザーがいい加減な回答や嘘の回答らしきものを発見した時には、Quoraにそのユーザーネームを報告できるような仕組みになっています。また、非常に高いプロファイルのユーザーとして登録してきた場合には、実際に本人かどうかの確認を行うこともあります。知識や知見の品質を高く保つためにできる限りのことを行っています。

 

Q: 世界各国へ展開しているQuoraですが、サービスのUI/UXデザインについてはどのようなポリシーで開発を進められているのでしょうか?

 

A: Quora社内には、UI/UXを専門にするデザインチームがあります。機械学習によってユーザーの動きやコンバージョン等のデーターが、デザインチームに伝達される仕組みになっていますので、常にユーザが使いやすいUI/UXにアップデートできるようにしています。また、当然多くのユーザーは回答を探していますので、的確な回答が上位表示される仕組みを実現し、短い時間で信頼のおける回答が見られるというように工夫しています。

 

Q: Quoraでは自社のブランドに対してどのようなポリシーあるいは戦略をお持ちですか?

 

A: 高品質なナレッジ・データベースの共有がQuoraの使命であり我々のブランド戦略です。このポリシーを基本にして、Quoraを世界中の人に知ってもらうように努力しています。

 

もともとQuoraという会社名は、”Quorum”という言葉から考えました。本来の意味は「過半数よりもパワフルな多数意見」とでも言いましょうか。

 

世界中の誰もが安心して得られる知見を提供する企業、それがQuoraなのです。

 

また、Questionの”Q”というイメージや、Quolityの”Q”というイメージも浮かびますので、とても気に入っています。

 

 

日本展開、今後のIPOの行方について

 

Q: 米国を皮切りに、欧州5か国(イギリス・ドイツ・フランス・イタリア・スペイン)とサービスを展開されて、第6番目に日本を選ばれました。ネットユーザの数で考えるとお隣の中国が圧倒的に多いと思いますが、今回どうして日本だったのでしょうか?

 

A: 何よりもまず、私自身が日本を好きだからです。また、何度か日本へ来た経験から、日本の皆さんが求めるサービス品質のレベルが高いことを実感してきました。「信頼性」と「高いクオリティ」を標榜しているQuoraのサービスは、日本の皆さんの好みとマッチすると確信したことも今回日本に進出した理由です。

 

Q: 11月14日の正式なサービスローンチに先立って、約2か月間のβ版で市場テストを実施されたと思いますが、テストの結果はいかがでしたか?

 

A: β版に多くの人のご協力をいただき、かなり質の高い多くの回答が集まりました。他の国でも同じようにβ版によるテストを行いましたが、日本市場では他の国に比べても、かなり良い結果を得られました。寄せられた回答に関する評点(Raiting)も高く、市場テスト結果にはとても満足しています。

 

Q: 日本人は少々シャイな国民性もあるため、人前で知識を披露することに躊躇するかも知れません。日本でのサービスを開始するにあたって、このあたりの議論はされましたか?

 

A: そうですね、当初日本は少し難しいかなと思ったのは事実です。しかし、クオリティの高い知識を集めていくのには時間もかかりますし、最初から膨大な知見を必要としているのでもありません。機械学習によって質の高い知識を集めていきますので、ある程度の時間が経つと質の高さを多くの人に理解してもらえて、ユーザが増えていくと期待しています。

 

先に始めた他の国でも同じです。日本は書籍もたくさん出版されていますし、自分の持っている知識を多くの人にシェアしたいと思っている人はたくさんいらっしゃると思います。β版での結果を見ても多くの知識や知見が集まっていますので、現在は日本でのサービス展開が難しいとは思っていません。



Q: 世界ではすでに2億人のユーザが使っているQuoraですが、日本ではどのくらいの期間でどの程度のユーザー数を獲得する予定でしょうか?

 

A: 現時点では、目標数を設定していません。まずは、高品質なQ&Aのコンテンツを増やすことに専念します。11月14日に正式にローンチしたわけですから、これから数か月のユーザーの増え方や回答の集まり方を見て判断し、来年には日本でのユーザー数獲得の目標を立てたいとは思っています。

 

他の国でも同じようにしてきましたが、Quoraでは目先のユーザー数の獲得には注力せずに、質の高い回答を多く集めることに注力することが、ユーザーにとって最も重要だと考えています。



Q: 今後、IPO(株式公開)の予定はありますか?

 

A: 現在は日本を含めたインターナショナルな展開を進めているところなので、まだまだやらなければならないことが多く、現段階では予定はしていません。IPOできる環境が整ってから考えようと思っています。

 

 

インタビュー後記

 

CEOのアダムさん他、3名のキーメンバーである、広報トップのジェシカ・シャンポラさん、海外展開担当のトップのシャーレス・セーシャサイさん、そして、日本語コミュニティー担当のトップのフリーデンバーグ・桃紅さんも参加頂き、大変楽しく、有意義なインタビューセッションでした。アダムさんは、ニューヨーク郊外で育ち、大学はカリフォルニア工科大学 (CALTECH)でコンピュータサイエンスを勉強。筋金入りのソフトウェアエンジニアです。

 

なんと、高校時代には米国コンピューティングオリンピックでの入賞や国際情報オリンピックでは銀メダル獲得など、いわば天才肌のエンジニア。物静かな立ち居振る舞いの中に、Quoraの世界展開を狙う強い意志を感じました。私たちの少しばかり意地悪な質問にも快くお答えいただき、とても楽しい出会いとなりました。

 

※「Quora (日本語版)」は以下のURLから登録可能です。https://jp.quora.com/

 


今回インタビューを務めたbtrax 佐藤とQuoraメンバーの皆さん

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