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2019.10.21
【2020春夏東京 ハイライト1】東京メンズに辿り着いたトレンドとローカリティとは
2019秋冬頃からヨーロッパ メンズ コレクションで主流となっていた「エレガンスの復権」や「テーラード回帰」、いわゆる「B.C.B.G.トレンド(上流階級の着こなし)」が今シーズン東京メンズにも到着したようだ。テーラードをベースに、素材やディテールでブランドの特徴を出したり、遊び心を加えたりするブランドが多く見られた。また、東京メンズの強みであるストリートやミリタリー、ロックの要素もトレンドの中にバランス良く取り入れられていた。
春夏シーズンということもあり、重くなりがちなメンズのクラシックなアイテムを、透け感や素材の艶やかさ、丈感で軽く爽やかに表現したブランドも多かった。また、アーティストとのコラボレーションなど「アート」をファッションに融合させるブランドも幾つか見られ、「文化の発信地としての東京」を強く感じさせるシーズンでもあった。
チノ(CINOH)
「フレンチ」をテーマに、ブランドらしいシンプルさとミニマルなデザインを保ちながらどこまでフレンチシックを遊べるかにチャレンジしたといいう今シーズン。スカーフの使い方や、バスク・ボーダー・セーラーといったカジュアルになりがちなフレンチシックの要素をチノ流にエレガントかつコンテンポラリーな表現をした。
ナイロンコーチジャケットにはイタリア「リモンタ」社の高密度に織り上げられたナイロンを、レザーアノラックにはスペインの名門「タンナーインペルサ」のレザーを使用。シャツにもワッシャー加工をしてニュアンスを出し、キュプラシャンブレーの開襟シャツなど、エレガンスを保ちながら着心地にもこだわったコレクションを紡ぎ上げた。
「ミスター・ジェントルマン(MISTERGENTLEMAN)」
「ミスター・ジェントルマン」は、透け感や肌見せで軽やかなコレクションに仕上げた。中でも特徴的なのはシフォン素材のような透け感のあるシャツやアウター。素材感はフェミニンながらも、その素材で伝統的なメンズアイテムを紡ぎあげることによって、絶妙なバランス感を保っていた。また、トレンチコートのディテールであるヨークを取り入れたシャツも印象的。ショートパンツと合わせることで、若々しく軽やかなスタイリングに仕上げた。
ショー後半にはカラフルなパターンのシリーズが登場。淡い色で表現されたパターンは、迷彩のようにもタイダイのようにも見え、独特な表情を生み出していた。
「ディーベック(D-VEC)」
「ディーベック」は清廉なアウトドアルックを紡ぎ上げた。一見トレンチのように見えるナイロンコートや鮮やかなブルーのアノラックなど、機能性はもちろん保ちながらも大都市にも映える上品さ。また、洗練された雰囲気の中にも大きなポケットや立体的なポケットで遊びを効かせている。カラーパレットはカーキやダークグレーのシックな色合いをベースに涼しげなウォーターブルーやヴィヴィッドなオレンジでアクセントをつけていた。
アートと融合しルックを昇華
「フェイスエージェー(FACE A-J)」
アフリカと日本のファッション文化の積極的な交流を通じて、クリエイティブ・マーケットを発展させる目的で発足したプロジェクト「フェイスエージェー(FACE A-J:Fashion And Culture Exchange. Africa-Japanの略)」。第一回目のイベント開催となる今シーズンは、「ケネス・イズ(Kenneth Ize)」 / 「サルバム(Sulvam)」 / 「アニャンゴ・マフィンガ(Anyango Mphinga)」 / 「富永 航(Wataru Tominaga)」 / 「COYOTE チーム(COYOTE team)」 /そして「LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE 2019」を受賞した南アフリカ出身のデザイナー「テベ・マググ(Thebe Magugu)」の6組が参加し、それぞれ最新のコレクションを発表した。
「富永 航」、「COYOTE チーム」、「ケネス・イズ」 はインスタレーション形式で発表。映像やアート作品と組み合わせて展示するなど、ファッションだけではないクリエイティビティの高さを見せた。「サルバム」は、アフリカ文化への敬意を込めて「ケネス・イゼ」が作った手織りのテキスタイルを用いたジャケットなどを製作。日本民謡とラテンリズムを融合させたライブバンド「民謡クルセイダーズ」のメンバーたちがそれらのコレクションを纏い、ライブを行った。 「アニャンゴ・マフィンガ」は、カッティングが特徴的なシャツドレスなどを纏ったモデルたちのダンスパフォーマンスで、「テベ・マググ」はランウェイ形式でコレクションを発表した。「テベ・マググ」は、アフリカの伝統的な柄を用いながらもカッティングやシルエットの斬新さでモダンな表情を見せた。
「FACE A-J」のプロジェクトディレクターを務める栗野宏文は、「アフリカの人たちは、とにかく色彩感覚に優れ、アクセサリーの使い方も天才的。ファッションだけじゃなくアートでも優れたクリエイティブ力を持った人がたくさんいる。ファッション業界が新しい刺激を求めてアフリカに注目している」とイベント後の会見で語った。
「フェイスエージェー(FACE A-J)」2020春夏コレクション
ダイエットブッチャースリムスキン(DIET BUTCHER SLIM SKIN)
「ダイエットブッチャースリムスキン」は、「CURIOSITY(好奇心の意)」をテーマにコレクションを紡ぎあげた。画家を目指していたこともあるというデザイナー深民尚の好奇心は、アートと洋服の共存。今、深沢が心惹かれているというアーティスト「河村康輔」と「GUCCIMAZE」の2人とコラボレーションした。
シルエットはリラックス。柔らかく、動きに合わせてしなやかに揺れる、見るからに心地良さそうなアイテムたち。素材は、アートが一番きれいに見えるように、素材や、刺繍やジャガードなどの表現方法もとことんこだわった。
デザイナーの深沢は「たまたま今の気分がそうだったから東京で発表した。また今後世界で発表していくための弾みになればいいと思っている」と語った。
「ダイエットブッチャースリムスキン」2020春夏コレクション
ランドロード ニューヨーク(LANDLORD NEW YORK)
独特の世界観を創り上げたのが、ニューヨークでコレクションを発表してきた「ランドロード ニューヨーク(LANDLORD NEW YORK)」。黄色のボアのフーディーにピンクのハーフパンツ、ランダムなキーチェーンをつなげてアクセサリーにしたようなネックレス、大げさなまでの腰パンに大胆に太いパンツ、飛び出すアイテムひとつひとつのインパクトが大きく、カラーの組み合わせもあまりにも自由で、ペイントされたようなパターンと相まってコレクション全体がアート作品のように見えた。
ディスカバード(DISCOVERED)
「ディスカバード(DISCOVERED)」は音楽とアートをファッションに融合させた。現代美術作家の政田武史のアートをアイテムにのせ、ライブ形式のインスタレーションを開催。ファッションだけでなく、文化を創っていきたいというブランドの意志を見せつけた。
ストリート、ロック、ミリタリー・・・東京ならでは強みを活かす気鋭たち
ミツル オカザキ(MITSURU OKAZAKI)
2018秋冬シーズンにスタートした「ミツル オカザキ(MITSURU OKAZAKI)」。今シーズンは、「ロックスター」をテーマに、70年代後半の音楽カルチャーやシルエットをインスピレーションにコレクションを作り上げた。パンクロックが流行した時代の空気感を、スリムなシルエットや星、ギター、レコードなどのモチーフで表現。グランジは、切り裂かれたパンツの裾から違うカラーのテキスタイルを重ねるなど、エレガントに仕上げられた。また、編み生地を重ねたり、スクエア状のテキスタイルに鋲を打ったアイテムで、「ミツル オカザキ」特有の立体感を生み出していた。
「コウザブロウ(KOZABURO)」
「コウザブロウ」は、日本のアウトローを表現。スカジャンやジャージ、胸元を大きく開いたシャツなど、アイテムではワルっぽさを出しつつ、シャツのカッティングが丸くなっていたり「公三郎」と漢字のロゴを取り入れたり、ツイードのような立体的でエレガントな素材を用いるなど、プレイフルなディテールでブランドの貫禄を見せつけた。
アール エー ビー ディー(RABD)
「ベクトル」をテーマに紡ぎ上げた今シーズンのコレクション。レザーブランドでも成功しているデザイナーの三木勘也だが、今回は様々なベクトルで物事を試したかったという。言葉通り、ブランドの強みであるレザーはもちろん生かしながらも、今回はデニムにもフォーカスを当て、多種多様なケミカルウォッシュのシリーズを作り上げた。また、トップスやアウターで使用されるレザーやデニムのハードさとは対照的に、パンツは主にナイロンを使用して艶感を出した。裾を引きずるくらいの丈感や袴のように大胆に太いシルエットでエレガントな印象を生み出していた。
バルムング(BALMUNG)
2018年度の「Tokyo新人デザイナーファッション大賞プロ部門」で東京都知事賞に選ばれ注目を集める「バルムング」。「都市」をブランドコンセプトに掲げ、ウェアラブルからコンセプチュアルまで、幅広い表現を繰り広げている。今シーズンのテーマは、デザイナーHACHIの生まれ年である「1985」。ランウェイの中央にブラウン管のテレビやスーパーファミコン、障子、コンクリートに埋め込まれたスニーカーなどが並べられ、退廃的な雰囲気を演出していたが、コレクションは対照的に無機質な表現。クリア素材のシューズや、大げさなほどにオーバーシルエットなアウターにシャツ、小物にポイントとして使用されるアルミのような素材で、非現実的でフューチャリスティックな印象を生み出していた。
「ネグレクトアダルトペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATiENTS)」
BiSやBiSHなど、アイドルグループのプロデュースも手掛ける渡辺淳之介によるブランド、「ネグレクトアダルトペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATiENTS)」。モデルがランウェイを歩きながらカップ焼きそばを食べるパフォーマンスなど、毎回型破りな演出を見せる同ブランドが今シーズン見せたのは、デザイナーの若き頃の憧れ。「ティーンエイジドリーマーズ(tEEnAgE DrEAmErs)」をテーマに、デザイナーの渡辺が10代の時に好きだった歌や、流行っていた、やってみたかったファッションをコレクションに詰め込んだ。
ニルヴァーナのカート・コバーンが大好きだったことから、ネルシャツやダメージデニムなど、カート・コバーンを象徴するアイテムが登場。さらに、“憧れていたけど自分はなれなかった”というヤンキー風の、ジャージにサンダルというスタイリングや特攻服風のアウターをブランド流にアレンジしていた。そして今シーズンは、ランウェイに座って流しそうめんを食べるという、また型破りなパフォーマンスを見せた。
日本テーマや日本ならではの属性に注目
ハレ(HARE)
トップトレンドある80年代風アバンギャルド。それを日本の伝統と掛け合わせてミッドトレンドに提案したのがアダストリアグループの「ハレ」。オリエンタルムードの中、ブランド名に掲げている日本語「ハレ」をテーマに掲げた。「ハレとケ」の「ハレ」を表現し、日本の非日常を表現した。
着物のような、非構築的なルックが魅力的だ。ショーの前半はブラックがベースカラー。その中に浮世絵や現代の夜景を描いた墨絵風、錦風の柄やモチーフを差し込み、「日常の中の非日常」を表現した。ショーの後半には、アーシーカラーを中心としたストーリーに移行。オーバーフィットのコートは打掛風に、シア素材のトップスを絽の着物のようにウェアリング。フレンチシック風のカラーや小物づかいも見せた。
レインメーカー(RAINMAKER)
「レインメーカー」は、セットアップに着物の要素をプラス。ベルトを帯のように見立て、ジャケットには着物のような前合わせのディテールで、京都のブランドらしいエレガントな和の要素をバランスよく取り入れた。素材は艶やかさとテロンとした落ち感で、上質さを強調した。目をひくのが、タイダイや絞り、つづれなど、着物で見られるような仕上げや織りの手法。これらの要素はジェネラルトレンドとも言えるが、京都らしい雅びなムードに仕上げ、独自性を訴求した。
ノブユキ マツイ(Nobuyuki Matsui)
「ノブユキ マツイ」は、会場に水滴モチーフの装飾を施し、水の流れや波をイメージしたディテールを取り込んだ。全体的にダークなカラーパレットの中、水の流れをそのままプリントにしたようなパターンが印象的。鮮やかなブルーサテン生地のパンツやジャケットの裾を波形にカットするというディテールで遊び心をのぞかせた。
チルドレン オブ ザ ディスコーダンス(Children of the discordance)
ジャーナリストの中で評価が高かったのが「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス」。得意のバンダナパッチワークを豊富なバリエーションで発表。コレクション全体のカラーに統一感はなく、様々なパターン、色、素材が組み合わされ、切りっぱなしの裾や切り裂いたようなディテール、ダメージデニムなどで予定調和に対する反抗心のような強さを見せた。それは、「流行には流されたくない」というデザイナー志鎌英明の強い意志の表れだったのかもしれない。
今シーズンの特徴は、シルエットの変化。先シーズンは、オーバーフィットや膨れなどが目立ったが、今回は風含んでそよぐフリュイドシルエットにシフト。洗練さをまとったコレクションに仕上がっていた。
「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス」2020春夏コレクション