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2019.10.09

【2020春夏パリコレクション ハイライト】自然テーマ、再生利用、脱ビニール・・・サステナビリティを推し進めるメゾンたち<2/2>

クリーン&シンプルなルックに浮き上がるメゾンの独自性

エルメス(HERMÈS)

 ナデージュ・ヴァンヘ=シビュルスキーによる「エルメス」は、パリ市営のテニスコートを会場にショーを発表。レザーを中心にした構成で、ヴァンヘ=シビュルスキーにとってはプリント素材を一切用いない珍しいコレクションとなった。

 

 特に背中がオープンになったアイテムが目を引き、職人用のエプロンから着想したクロスバックのヌバック製ベストや、前面にボックスプリーツを配した背中の開いたドレスなど、前後でイメージが異なるのが印象的。

 

 ボタンを留めると袖になるポンチョや、メッシュをライニングに配したパンチングレザーのコート、パーツ同士をステッチ留めしたオーガンジーのドレスなど、特徴的なアイテムが多いが、金具を組み合わせたカーフレザーのピースは、職人の手によって一針一針縫われた労作。「エルメス」にしか成しえないスペシャルな作品に仕上がっている。

 

 シルエットはクリーンでシンプル。しかし一点一点のディテールの技巧と素材の美しさは目を見張るものがあり、実際にブティックで手にして眺めてもらいたいコレクションだ。

 

「エルメス」2020春夏コレクション

ジバンシィ(GIVENCHY)

 クレア・ワイト・ケラーによる「ジバンシィ」は、フランス共和国親衛隊宿舎を会場にショーを開催した。ワイト・ケラーがNYにいた1993年にイメージを求め、当時の象徴的なアイテムだったデニムとフローラルモチーフに焦点を当てている。

 

 ダメージデニムやウォッシュドデニムには、フローラルプリントのトップスなどが合わせられるが、シルエット自体はシンプルなものとなっている。

 

 レースの上から更にギピュールレースのモチーフを刺繍したドレスや、刺繍を施したエンパイアスタイルのドレスなど、クチュールブランドらしい凝ったアイテムもミックス。全体としては、90年代のミニマリズムの影響で無駄のないデザインのアイテムが中心となっていた。

 

「ジバンシィ」2020春夏コレクション

クロエ(Chloé)

 アーティスティック・ディレクターに就任して5シーズン目となったナターシャ・ラムゼイ・レヴィによる「クロエ」は、“フェミニンでありながら、現実主義に基づいたヴィジョン”をテーマに、これまで以上にシンプルなシルエットを提案している。

 

 ピンスストライプのパンツにボウタイのブラウス、シャツドレスやレースのオールインワンなど、「クロエ」らしいマスキュリン・フェミニンなルックは、一見オーソドックスに見えるが、カッティングやボリュームに技巧が凝らされ、モダンで新鮮な印象を与える。

 

 長めのボクサーパンツの上から短いショーツを合わせる、というアイデアも見せ、マスキュリン・フェミニンな「クロエ」に新しいスタイルを加えていた。

 

「クロエ」2020春夏コレクション

ハイダー アッカーマン(HAIDER ACKERMANN)

 「ハイダー アッカーマン」は、パレ・ドゥ・トーキョーで最新作を発表。BGMにプリンスの「Under the cherry moon」を印象的に使いながら、アッカーマンらしい造形的なカッティングとカラーパレットのスーツで構成。

 

 多くはパンツスタイルで、シンプルかつリーンなカッティングのジャケットに、ボリュームあるスポーティなパンツを合わせたり、サイドにラインの入ったパンツをコーディネイトしたり。

 

 ドレスは3点のみで、マダム・グレ作品を思わせるハンドプリーツのドレスは彫刻的な美しさ。後半には着物地を使用したスーツも登場した。

 

「ハイダー アッカーマン」2020春夏コレクション

フェミニン、ユース、時代要素などと絡んでグラマラスが進化

セリーヌ(CELINE)

 エディ・スリマンによる「セリーヌ」は、6月に発表されたメンズコレクションに引き続き、サントロペでバカンスを楽しんでいた60年代のセルジュ・ゲンズブールから着想したコレクションを発表。しかし、今季は更にジェーン・バーキンとブリジット・バルドーのイメージを加え、よりフェミニンでグラマラスな世界観を描いている。 

 

 「セリーヌ」全盛の60~70年代のスタイルを打ち出しつつ、サンダルではなく、マスキュリンなブーツを合わせてモダンにアレンジ。

 

 カレッジスウェットやウォッシュドデニムを合わせてカジュアルに、カシミール風のエスニックモチーフの華やかなドレスにはラメや刺繍を配してドレッシーに仕上げ、アイリッシュレースのトップスやラップドレスには絶妙なクラフト感を漂わせる。

 

エディ・スリマンは、「セリーヌ」のコードを絶対的に守るというストイックな姿勢を見せつつも、これまで以上に多彩なアイテムを自由自在に組み合わせ、様々なTPOに対応するルックを提案していた。

 

「セリーヌ」2020春夏コレクション

サンローラン(SAINT LAURENT)

 アントニー・ヴァッカレロによる「サンローラン」は、エッフェル塔をバックに、トロカデロ広場の噴水に建てられた特設テントでショーを開催した。イヴ・サン・ローラン社は、1966年にプレタポルテをスタートさせ、より多くの女性たちがファッションを楽しめるようになったが、そんな自由な時代にイメージを求めている。

 

 ショーツを合わせたスーツには、ロングブーツを合わせてモダンにアレンジ。ターバンのようなヘッドピースが合わせられたシリーズは、1976年に発表されたバレエ・リュスにイメージを求めたコレクションからの引用。ロシアのイメージは刺繍を施したアイテムでも見られ、コレクションに華を添えた。

 

「サンローラン」2020春夏コレクション

 後半からはスモーキングが登場。様々な素材を組み合わせ、それぞれ異なる刺繍を施し、驚異的なバリエーションを見せた。

バルマン(BALMAIN)

 オペラ座の回廊を舞台にショーを開催した、オリヴィエ・ルスタンによる「バルマン」。自己の青年時代を振り返り、当時夢中になっていたビヨンセやブリトニー・スピアーズ、クリスティーナ・アギレラ、そしてジェニファー・ロペスなどの90年代のアイコンたちのイメージをコレクションに落とし込んでいる。

 

 モチーフとしては、円、ボーダーなどで構成され、円モチーフの刺繍ドレスや、半円の樹脂製パーツを縫いあわせたニットドレス、菱形のスパンコールをボーダー状に刺繍したドレスなどが登場。円と線の組み合わせは、どことなくアールデコ時代のスタイルを想起させた。

 

「バルマン」2020春夏コレクション

ハッピーでポジティブなメッセージを伝えるデザイナーたち

ニナ リッチ(NINA RICCI)

 リュシュミィ・ボターとリジィ・ヘルブルーによる「ニナ リッチ」は、パレ・ドゥ・トーキョーを会場に新作を発表。昨年のイエールとLVMHのコンクールで注目を浴びたオランダ出身の二人は、アントワープの王立アカデミー出身。今シーズンは2季目となる。

 

 冒頭には、花の付いたスウィムキャップから着想を得たアイテムが登場。花をチェックモチーフに刺繍したブラウスや、花をバゲットビーズで繋いだヘッドピースとトップスなど、愛らしいアイテムで目を引く。

 

 後半は、植木鉢やバケツを思わせるヘッドピースを合わせたルックで構成。オーガンザとピンストライプのマスキュリンな素材を合わせたドレスや、大きなラッフルで飾ったシャツドレスなど、これまでの「ニナ リッチ」では見られなかったマスキュリンな要素が加えられていた。

 

「ニナ リッチ」2020春夏コレクション

トム ブラウン(THOM BROWNE)

 会場となったボ・ザール(国立高等美術学校)の講堂には、シアサッカーでくるまれた小便小僧の像が中央に置かれ、宙はシアサッカーの蝶が舞い、床はシアサッカーで作られた造花で埋めつくされている。今季の「トム ブラウン」は、6月に発表されたメンズコレクションに続き、18世紀の宮廷にイメージを求めた。

 

 シアサッカーでくるまれたクリノリンを合わせたシアサッカー製ジャケットとショーツに身を包んだモデル達に続き、クリノリンを入れたジャケットドレスをまとったアナ・クリーヴランドが登場し、軽やかな舞いを見せる。

 

 パステルカラーのツイードドレスや、イルカや帆船モチーフのジャカード素材のジャケットを合わせたドレス、帆船&波モチーフのオールハンドニットドレスなど、手の込んだファンタジックな作品が並ぶ。

 

 「トム ブラウン」らしい、プリティでクチュールライクな宮廷絵巻が繰り広げられた。

 

「トム ブラウン」2020春夏コレクション

イザベル マラン(ISABEL MARANT)

「イザベル マラン」は、パレ・ロワイヤル内の特設テントに顧客を多く集めてショーを開催した。パリのトレンドの全てを把握していると評されるマランだが、それは顧客との距離の近さによるものと実感。今季は南米のリゾートを思わせる、享楽的なコレクションを展開した。

 

オーバーサイズブルゾンにショーツ、マクラメ編みのトップスに膝下のパンツ、ボタニカルモチーフのオーバーオールなど、全てがリラックスした雰囲気を演出。

 

リバティプリントを組み合わせたセットアップや、ボタニカルプリントのミニ丈ドレスには、肩にパネルを重ねることで甲冑のような強さ出し、コレクション全体にリズムを持たせている。

 

 マスキュリンとフェミニンの要素を巧みに使い分け、カラフルに、そしてバリエーション豊かに仕上げていた。

 

「イザベル マラン」2020春夏コレクション

新進や気鋭が放つパンチの効いたコレクション

コシェ(KOCHÉ)

 多種多様な人々が行き交うポンピドゥセンター内の図書館でショーを開催したのが、人間観察のために、そして本との出会いを求めてその場を度々訪れるというクリステル・コシェールによる「コシェ」。

 

 特に大きなテーマはなく、様々な人々の様々な装いをイメージ。モデルも、年齢、国籍、体型などバラバラで、一見してジェンダー(性別)不明のモデルも参加し、このブランドらしい多様性を見せた。

 

 ウエスト周りにギャザーを入れたポロドレスや、レースをパッチワークしたTシャツドレスなど、スポーティでありながらドレッシーなルックが目を引く。

 

 今シーズンはリベットやスタッズ、スナップやチェーンなど、金属パーツをアクセントにしたアイテムも多く見られた。特にリベットにチェーンを通すアイデアは、冒頭のTシャツ風ドレスから、最終ルックのフェザーをあしらったドレスにまで使用。クチュールとプレタポルテの境目を曖昧にしながら、これまで以上に美しくて新しいものを寛大に取り込んで見せたコレクションとなっていた。

 

「コシェ」2020春夏コレクション

マリーヌ・セール(Marine Serre)

 オートゥイユ競馬場に、庭園のような会場を設営してショーを発表した「マリーヌ・セール」。今季も三日月モチーフを多用しながら、様々な人々のコスチュームを想起させる、バリエーション豊かな内容となった。

 

 コレクションタイトル“黒い潮汐(Marée Noire)”通り、ブラックのシリーズでスタート。モワレ素材のヴィクトリアン風ドレスに始まり、警察隊風だったり、スポーティだったり、互いに関連性の無いものが登場。ポメラニアンを抱えたセレブ風ワンピースや、金ボタンを飾ったマダム風スーツなど、ユーモラスなルックも。

 

 三日月モチーフのオールインワンや、顔をすっぽりと覆うモスリンのドレスなど、「マリーヌ・セール」らしいアイテムで締めくくった。

キムヘキム(KIMHĒKIM)

 韓国出身の「キムヘキム」は、16区のガレージを会場にショーを開催した。キミント・キムヘキムは、2009年にステューディオ・ベルソーを卒業し、「バレンシアガ」に勤務した後独立。2014年よりパリコレクションに参加している。

 

 点滴のスタンドを押しながらのモデルが登場してショーがスタート。異常なほどにオーバーサイズのパンツスーツや、床に届きそうなほど長い袖のシャツドレス、極端に大きなネクタイを合わせたミニドレス、全面にタグを縫い付けたドレスなど、狂気的なアイテムが続く。

 

 90年代のパリコレクションでしばしば見受けられた危ういモードを感じさせるも、一点一点の仕上がりは美しく、バランスの良さも漂わせる。まだまだ未知数ではあるが、今後に期待できるデザイナーとなりそうだ。

 

「キムヘキム」2020春夏コレクション

ロック(ROKH)

 パリコレクションに参加して2シーズン目となる「ロック」は、パレ・ドゥ・トーキョーでショーを開催した。今季は、90年代に韓国からアメリカへ渡ったロック・ファンが当時アメリカで目にした女性たちをイメージしている。

 

 ブラがはみ出たようなビュスティエドレスでスタート。得意とするトレンチは、シャツとスカートに分けたトロンプルイユ・スタイルにアレンジしたり、レザーとのコンビにしたり。レザーのパッチワークドレスやベビードレス、前身頃の切り替えを敢えてずらしたブルゾンなど、レザー使いも秀逸。トグルで長袖に半袖にもなるダッフル風のジャケットやドレスは、今回のコレクションで特に目を引いた新鮮なアイテムだった。

Y/プロジェクト(Y/PROJECT)

 グレン・マーティンスによる「Y/プロジェクト」は、アレクサンドル三世橋のたもとにあるクラブ「ショーケース」と、橋の下部分を使用してショーを開催した。

 これまでに、歪みやねじれなど、視点をひねるテクニックを用いたアイテムを発表してきたが、今シーズンも基本的には変化が無く、しかし美しい仕立てのテーラードを発表するなど、新たな局面を見せていた。

 スポーティなスウェットのセットアップや、ボーダーのニットドレスは、中心線をずらしてアシメトリーに仕上げている。ブルーのシャツドレスは、片方の襟が大きく飛び出ているだけでシンプルな仕上がり。シャイニーな薄手の素材を一枚重ねたスーツは、装飾性の少ないオーソドックスなデザイン。

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