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2019.10.09
【2020春夏パリコレクション ハイライト】自然テーマ、再生利用、脱ビニール・・・サステナビリティを推し進めるメゾンたち<1/2>
9月23日から9日間、パリ市内各所でパリコレクションが開催された。
会期がスタートした当初は、ルイーズ・トロッターがアーティスティック・ディレクターに就任して初のラコステのコレクションに注目が集まっていたが、それ以外は特に新着トピックが見当たらなかった今シーズン。「OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH(オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー)」のヴァージル・アブローが体調不良で欠席といった不穏なニュースもあり、華やかさに欠けると思われていた。しかし、一度ふたを開けてみると、派手なショーが矢継ぎ早に飛び出し、その百花繚乱さに息つく暇もなくあっという間に終わってしまった。
とはいえ、目を見張るような新しいアイテムやアイデア、新人デザイナーに乏しかったことは事実であり、それらへの期待は来シーズンに持ち越したい。9月末のパリは、例年では夏のような高温になることもしばしばで、多くのブランドがショーを屋外で発表することが多かった。「マリーヌ・セール(Marine Serre)」、「クレージュ(Courrèges)」、「Y/プロジェクトY/PROJECT」、「リック・オウエンス(Rick Owens)」、「サンローラン(SAINT LAURENT)(SAINT LAURENT)」、「イザベル マラン(ISABEL MARANT)」、「アー・ペー・セー(A.P.C. )」など、1日に1弱、屋外のショーがある計算だった。
しかし、そのような時に限って、9日間のうちほとんど毎日雨が降るという、天候不良の会期となり、筆者も含めて体調を崩すジャーナリストが続出。ただ、今季の場合は高温を避けるためではなく、大きなキーワードとなった“サステナビリティ”にリンクしたためではないか、という説もあった。“サステナビリティ”という言葉が、無意識に浸透しつつあることを強く認識した今シーズンだった。
今シーズン現地で話題をさらったショーは?
今シーズン、話題となったショーは、クリスチャン・ラクロワとの共同作業によってコレクションを完成させたドリス・ヴァン・ノッテン、そして派手な演出で見せたクレージュとリック・オウエンスだった。
ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)
オペラ・バスティーユでショーを開催した「ドリス ヴァン ノッテン」は、クリスチャン・ラクロワと共同作業を行うことでコレクションを作り上げた。これは共同作業であって、決してコラボレーションという形ではないと主張しているのが興味深い。
当初「ドリス ヴァン ノッテン」は、モードを純粋に楽しんでいた80~90年代にインスパイアされたコレクションを制作しようと試み、様々な写真を集めてボードに貼っていたが、その多くがクリスチャン・ラクロワのものだった。このままではラクロワへのオマージュで終わってしまうと危機感を抱き、コレクションの共同制作をラクロワ自身に直接依頼することとなったという。
そうして出来上がったアイテム群は、ポルカドットのフラメンコドレスや、ショッキングピンクのグランドソワレなど、これまでの「ドリス ヴァン ノッテン」では見られなかった、ラクロワからの影響を色濃く反映したアイテムが随所に見られる結果に。
しかし、タンクトップやスウェットなどのスポーティな要素を加えることで、「ドリス ヴァン ノッテン」らしいモダンな手法が生かされており、全体としては両者の持ち味が十分に生かされた、正に才能の融合を感じさせる濃密な内容となっていた。
クレージュ(Courrèges)
ヨランダ・ゾベルによる「クレージュ」は、サンマルタン運河沿いで派手な演出によるショーを発表。クレージュらしい60年代的レトロ、あるいはフューチャリスティックな持ち味を生かしながら、ヨランダ・ゾベルの持つ魔訶不思議な感性を前面に押し出した。
ショー冒頭、シンガーのLafawndahとモデルたちを乗せた船が登場。Uターンして川岸に横付けし、モデルたちが下船して石畳のランウェイを歩いた。
これまで、アイコンジャケットには石油由来の合成素材が使われてきたが、今シーズンは環境に優しい素材に切り替え、サステナビリティへの意識を表明。オレンジやイエローのヘア、白塗りなど、斬新なヘアメイクに、大胆な色合わせのセットアップをミックスし、「クレージュ」のイメージに新しい側面を加えていた。
リック・オウエンス(Rick Owens)
パレ・ドゥ・トーキョーの噴水広場でショーを開催した「リック・オウエンス」。母親のルーツであるメキシコにイメージを求めた。コレクションタイトルは、母親の旧姓である“Tecuatl”。
自身が所有するニット工場で織られる、切りっ放しでもほつれないニット地のドレープドレスなど、定番ともいえるアイテムに、メキシコをイメージさせるゴールドスパングルの刺繍ドレスや、オーロラグリーンにペイントされた鎖帷子のドレス、メキシコの民族衣装から引用したプリーツブラウスなどをミックス。
フリッツ・ラングの映画をイメージしながら、アーティストとのコラボレーションで作り上げたというヘッドピースも印象的。ショーの半ばからシャボン玉を作る大道芸人部隊が登場。会場は夥しい数のシャボン玉で溢れ、ファンタジックな雰囲気になるも、アステカ文明を意識したドレスとの取り合わせに不思議な感覚に陥る。「リック・オウエンス」ならではの、強固な世界観に。
ラグジュアリーもサステナビリティ・コンシャスに
ディオール(Dior)
マリア・グラツィア・キウリによる「ディオール」は、ロンシャン競馬場の特設テントでショーを開催した。
今シーズンは、クリスチャン・ディオールの妹、カトリーヌ・ディオールの写真から着想。当時としては珍しく、女性としてフローリストという職業を持っていたカトリーヌは、幼少の頃からガーデニングに親しんでいた。そんな彼女からインスパイアされたコレクションは、フローラルモチーフに溢れ、サステナビリティの意識を感じさせる内容となっている。
ケミカルフリーの染色によるニットや、草木由来のハンドペイントによるドレス、ラフィアを編んだミニドレスなど、環境に優しいアイテムが目を引く。花が飾られたニットドレスは、香水の名前にもなった、カトリーヌをイメージし「Miss Dior」のドレスから着想。ガーデニングからインスパイアされたセットアップには、動きやすいショート丈のパンツが合わせられているのも興味深い。
合わせられたジュエリーも石のビーズをあしらい、どこを切り取っても自然の美しさを感じさせるコレクションとなっていた。
ステラ マッカートニー(Stella McCartney)
サステナブルの概念を根付かせたともいえる「ステラ マッカートニー」は、オペラ座でショーを開催。今回のコレクションがこれまでで一番サステナブルで、今季使用したデニムの9割以上がオーガニックであったり、約75%がサステナブルな内容となった、としている。
サークルモチーフを多用し、ニットのホールモチーフやトップスのスリーブのカット、スカートの合わせ部分、サーキュラードレスなど、円を描くアイテムが多く見られ、女性らしい柔らかさとしなやかさを伝える内容となった。
パリならではクチュール技術と加工で既存概念を新解釈
ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)
ニコラ・ゲスキエールによる「ルイ・ヴィトン」は、ルーヴル美術館中庭の特設テント内でショーを発表した。
トランスジェンダーのアーティスト・DJであるSophieの「It’s ok to cry」のPVをバックに、ウッドのフローリングというシンプル&クリーンなランウェイをモデルたちがウォーキング。まとっているのは、19世紀末から20世紀初頭にかけてのベルエポックから着想したアイテム群で、当時を彷彿とさせる有機的な要素を加えながら、全く新しい世界観を描いて見せた。
様式化されたフローラルモチーフや、アールヌーヴォー風のプリントを多用しながら、シルエットは60年代を思わせ、そのミクスチャーが新鮮。多くのモデルに合わせられた、様々なコンビネーションカラーの樹脂製オーキッドブローチも、コレクションに毒々しさと複雑な美しさを加えていた。
ロエベ(LOEWE)
ジョナサン・アンダーソンによる「ロエベ」は、ユネスコ本部の廊下スペースを会場にショーを開催。これまでのコレクションでは、「ロエベ」の主力であるレザーアイテムに注視してきたが、今シーズンは布帛によるウェアの領域をブラッシュアップさせたい、というアンダーソンの意向に沿って作られている。
16~17世紀のコスチュームから着想。多くにレースが使用され、スイスやドイツ、インドなど様々な国のレースを特性に合わせてあしらっているため、レースであってもアイテムごとに全く表情が異なるのが特徴的。
クリノリン風のボーンを入れたドレスは、当時のコスチュームからの影響を直接的に感じさせるものの、シースルーでパイピングを施してスポーティにアレンジし、モダンな仕上がりになっている。
アレキサンダー マックイーン(Alexander McQueen)
リュクサンブール公園内のオランジュリー(冬場にオレンジの樹を保管するスペース)でショーを開催した、サラ・バートンに「アレキサンダー マックイーン」。今季は“時間”に焦点を合わせ、“時間をかけて皆で新しいものを作りあげること”を主題としている。
ファーストルックのジゴ袖ドレスは、一度ドレスに仕立てたものをほどき、澱粉に浸してから縫い直したという。またドローイングを刺繍したドレスは、「アレキサンダー マックイーン」社の広報や経理、掃除人まで全ての人々が一針刺したもので、共同作業というテーマを具現化させた作品となっている。
得意とするテーラードは、今季は背中が大きく開いたジャケットが特徴的。それらには、テーブルクロスを専門に作る企業とのコラボレーションで実現した、レースで縁取られたスカートが合わせられる。
グラデーションに染めてプリーツ加工したオーガンザのパーツを刺繍したミニドレスや、金糸や銀糸を刺繍したレースアップのドレスなど、このブランドらしいクチュールライクな作品も印象的。
メゾン マルジェラ(Maison Margiela)
真実と虚像の境目を曖昧にしたクリエーションで魅了したのが、ジョン・ガリアーノによる「メゾン マルジェラ」。
デジタルプリントのチェックは虚像で、そしてプリントし損なった白い部分は真実である、とするハッキングプリントの概念や、ポルカドットに見えるものが、実はただの穴(ホール)で、そこに真実があるとする考え方を発展させたアイテムが登場。
また、7月に発表されたアルティザナルコレクションのコンセプトを再解釈させ、画像を投影させたかのようなプロジェクタリングプリントを施したオーガンザを重ねたアイテムなども目を引いた。
バレンシアガ(BALENCIAGA)
デムナ・ヴァザリアによる「バレンシアガ」は、パリ郊外の映画学園都市を会場にコレクションを発表。様々な職業のワークウェアを、ボリュームやカッティングの変化でひねりを加えている。
今季、特に目を引いたものが、パワーショルダーのテーラード。パッドを入れるのではなく、特別に開発した強度のあるボーンを入れることで張りを持たせている。フローラルプリントのドレスは、中心線をずらすことでアシメトリーとなり、新鮮なシルエットを描く。
テレビのニュース番組のロゴを集めたようなプリントのドレスや、ゴシップ誌風プリントのドレスなど、デムナ・ヴァザリアらしいアイロニカルな作品も健在。