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2019.10.07
【2020春夏ミラノ・パリコレクションハイライト】日本人デザイナーたちが欧州で訴える自然と多様性
2020春夏パリコレクションが終了した。サステナブルや多様性というキーワードが単なるシーズンのトレンドではなく、2020年代には不可欠なものとさえ言われる中で、日本人デザイナーのコレクションでも自然や地球、海などからインスピレーションを受けたアースコンシャスとでも呼べそうなコレクションが目を引いた。
また、自然や根源的な力強さ、ダイバーシティというキーワードを反映したかのように、1年前のコレクションでも目立った、アフリカからインスパイアされたデザインやアフリカ系に見えるモデルたちも定着しているが、日本人デザイナーとしての強みを生かすためか、今欠かせない軽さやリラックスできることを追求しながら、実験的な要素や、もともとの自然の色や柄を多く使う着物の要素を取り入れたコレクションも印象に残った。
そうした流れから色も黒や白とともに茶、グリーン、ブルー、イエローが使われている。素材も天然素材が中心。その一方で、サステナブルを強調するためか、トレンドとして既にピークが終わり、新しくないということか。自然からのインスピレーションと未来的なムードやミニマリズムを共存させたコレクションはあるものの、1年前までは様々なシーンやアイテム、小物にまで広がっていたPVCを使ったコレクションはほとんどなくなり、スパンコールなどの手仕事で光沢感を表現するようになっている。
若き才能や挑戦でアップデートする大御所ブランド
イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)
近藤悟史が手掛けた初のコレクションとなった「イッセイ ミヤケ」。”A Sense of Joy”をテーマに、演出家のダニエル・エズラロウのディレクションによって、服を着ることに感じる歓びを、現代的なかたちで表現した。ビッグなコート、帆掛け船や風船のように風をはらむデザイン、アフリカのようにも見える根源的なエネルギーを描いたデザイン、1枚の布、自然のモチーフや色、弾むプリーツ。
「イッセイ ミヤケ」の原点回帰、あるいは大展覧会やこれまでの仕事を今の技術で進化させたとさえ思えるようなデザイン。そして、ダンスや演出も含めたその表現も加わったことで、パリコレクションが夢だった時代、三宅一生のショーを見た頃を思い出す、技術を超えた着る喜びが伝わってくる。しかも、その素材は当時より遙かに軽く進化し、パターンも現在のものに変わっているため、完全に今のものになっている。「ほっとしたし、届けたかったメッセージ、着る楽しみや喜びが伝わったので胸が熱くなった」と近藤。来年ブランド50周年を迎える「イッセイ ミヤケ」の過去、現在、未来とでも呼べそうなコレクション。
ノワール ケイ ニノミヤ(noir kei ninomiya)
「ノワール ケイ ニノミヤ」のテーマは”Beginnings”。前回もタンポポのようなドレスを見せた「ノワール ケイ ニノミヤ」だが、今シーズンは未来の植物や果物のようなデザインや、植物の持つ毒々しいまでの生命観やエネルギーとパンクやロック、ストリートのスピード感、オートクチュールのような大胆さが共存する。そして、山や地球、こけなどを着てしまったようなデザインや山の化身のようなデザイン、光を着たような透明ドレス。ヘッドピースやマスクも木や森のよう。エコやサステナブルという要素もありながら、コレクションやデザインは、未来に向かうように挑戦的でオリジナリティがあふれている。
ヨウジ ヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)
「ヨウジ ヤマモト」は今シーズンも花柄など新たなタブーを取り入れながらも、山本耀司らしいとしか言えないコレクションを見せた。マニッシュなアイテムを紙細工ように切り身体を見せたり、逆に装飾を組み合わせたりしたデザイン。インドの刺しゅうやレースをプラスしたデザイン。花という美しいものを「ヨウジ ヤマモト」流に仕上げたデザイン。「画と機 Painting and Weaving Opportunity 山本耀司 朝倉優佳」展で山本が言っていた「世界が、日本がヤバい状態を何とかできるのは、指先の力でありセンス、技術、そしてソフトパワー。つまりアートしかない。ファッションだけをやっていては駄目」という言葉を象徴するように、ここのところ毎シーズン登場する朝倉の作品を乗せた花のドレスは40メートルの布から作られていて、80年代の1枚の布をボタンで形作ったデザインも思い出させるボタンはマグネットだという。穴をあけた手法も80年代のぼろルックを今の技術とムードで描き直したという見方もできるが、できあがる服は着実に新しい。時代の求める軽さとメッセージ性、挑戦とらしさが共存するコレクション。
独特のアプローチで服を新解釈
サカイ(sacai)
「サカイ」のテーマは”One nation under a groove. “。様々な洋服の要素を組み合わせ、新しいものを生み出すハイブリッドなデザインを発展させながら、世界地図と地図学にインスパイアされたデザインなど、人類はよりよい未来へ向かっているという希望と楽観の概念を伝えるメッセージ性の強いコレクションを発表した。
アンリアレイジ(ANREALAGE)
「アンリアレイジ」は”アングル”をテーマに、ハイアングル、ローアングル、サイドアングルの3つのアングルから撮影した時の画像をそのまま形にしたコレクションを発表した。ベースになっているのは、エンブレム付きの紺ブレ、ブルーのシャツ、チノパンツ、カレッジTシャツ、トレンチコートなど、ディテールを拡大した前シーズン同様にあくまでもリアル。そのデザインや形はアバンギャルド。そして、コピーを失敗したときのように縦に不自然に伸びたり、縮んだりしたかつてのデザインなどとも共通していて、その考えは一貫している。服を見る前と後で世界の見方を考え方を変えることを目指す現代アートの流れとも共通するコレクション。
ビューティフル ピープル(BEAUTIFUL PEOPLE)
「ビューティフル ピープル」は24時間、24通りの着方など、様々な着方が可能なコレクションに挑戦。かつてのトラディショナルに見えるスタイルからパリ進出以降日本的なものやアバンギャルドなデザインを見せてきたが、今シーズンは非構築に見えながら、様々な機能をあわせ持つ、パタンナー出身らしいアバンギャルドを提案。様々な着方の出来るデザインはサステナブルなアバンギャルドとも言えそうだ。
アツシ ナカシマ(ATSUSHI NAKASHIMA)
「アツシ ナカシマ」は透け感のあるオーガンジーを複雑に切り替え、内部の様子を映し出したデザインや身体を生地の上にプリントし身体が外部に浮き出たように見えるトロンプルイユ、グラフィックやコラージュ、コートとスカーフをドッキングしたようなもの、マンガを取り入れたデザインなど、自分の得意とするデザインを追求。サステナブルやアースコンシャスをエレガントなデザインに仕上げたミラノのデザイナーたちとは違う、独自性を強調したコレクションを見せた。
日本人らしい視点で自然テーマを提案
マメ(Mame Kurogouchi)
コレクション公式スケジュールのトップを切ってコレクションを発表した「マメ」。”EMBRACE”をテーマに、”包む”という概念を中心に、春の芽吹きを纏い、日常に溢れる命の気配に耳を傾け、我々の体を守り、包む存在としての洋服を提案した。概念や素材の繊細さは日本的だが、全体のムードはこれまで以上に軽く、リアル。透ける素材も軽さを強調する。サステナブルなムードと日本的な考え方が共存するコレクション。
ジュンコ シマダ(JUNKO SHIMADA)
「ジュンコ シマダ」はギメ美術館の庭園で”マダム・バタフライ”をテーマにしたコレクションを発表。日本庭園を思わせるムードの中で自然のモチーフや植物プリントなどを使い、ダンスなども交えながら森の妖精のようなムードの作品を見せた。
アンテプリマ(ANTEPRIMA)
ハバナの太陽などからインスパイアされたデザインを打ち出したのは「アンテプリマ」。海の映像からスタートしたコレクションは海の光や風、大地や土などを感じさせるデザインとミリタリーの組み合わせ、ざっくりしたニットなど、サステナブルなムードがありながら、軽く、クールに仕上がっている。