NEWS

2019.07.25

【第26回香港ファッショウィーク春/夏】12カ国・地域から1,020社が参加―会期中のトピック4をピックアップ

 アジア最大級のファッション合同見本市・第26回「香港ファッション・ウィーク春/夏」(香港貿易発展局主催)が7月11日、4日間の会期を終え閉幕した。12カ国・地域から1,020社が出展し、73カ国・地域から約1万人のバイヤーが来場した。アジアを中心としたファッション市場を包括的に見ることができるのが同展示会の強みだが、近年は、世界的潮流でもあるスポーツやファッションテック、eコマースに対応したサービスなどの訴求も強めている。会期中のトピックをキーワード&写真とともにお届けする。

#クリエイティビティーを打ち出すブランド

 2016年にスタートした「センターステージ」(香港貿易発展局主催)が“アジアのモード発信地”を標ぼうしているのに対し、「香港ファッション・ウィーク」は、OEMの素材調達の場としての色を強く打ち出してきた。一方で、出身国・地域の伝統的技術や特色を生かし、強いクリエイティビティーを打ち出すブランドも多く参加している。ポップアップを行うブランドを誘致するため参加したというバイヤーからは、「前年よりキャッチーでユニークなブランドが増えていて面白い」とする声も聞かれた。

  • セールス&マーケティングマネージャーのWanidda Khunpromketsara氏(左)

 2015年にスタートしたタイの「ホムラック(Homrak)」は、タイの伝統的な藍染め技術を施したリネンやシルクなどの天然素材をドレスやプルオーバー、ストールなどのカジュアルアイテムに採用している。ハンドペイントやタイダイなどで表現した淡いブルーの独特の色合いが特徴。10代などの若年層をターゲットに据えていたが、上代価格が25~65米ドルであることなどから、購買層は30~50歳代が中心という。大型商業施設「サイアムパラゴン」を含む4拠点に店舗を構えるほか、今年中にも1店舗を新規開設する計画だ。展示会にも精力的に参加しており、日本ではリードエグジビションジャパン主催「ファッションワールド」にも参加経験がある。

 

■「Homrak」フェイスブック
https://www.facebook.com/homraktiedye/

  • OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 リゾートウエアを主力とする「Anuroj」(タイ)は、シルクやコットン、リネンなどの天然素材に手描きした大胆な色柄が特徴。今春夏コレクションは、1950年代の米カリフォルニアをテーマに、山や海などの原風景を明るいカラーで描いた。日本の衣装デザイナー時広真吾氏との協業コレクションもある。米国や香港、シンガポールなど海外売り上げの比率は全体の約2割。上代価格は32~150米ドル。すべてハンドメイドであるため、同展では価格設定を抑えてほしいというリクエストもあったというが、フィリピンや米国、南米チリのバイヤーなどから好反応を得た。

■「Anuroj」
https://anuroj.com/

「ATIPA」を手がけるBest Buttons Thailandの
マネージングディレクターWachiraphon Laoroekutai氏(右)

 タイのウィメンズブランド「ATIPA」は今回、ヘッドウェアを中心に展示した。カジュアルウエアやリゾートウエアを主力としてきたが、スタイリング提案の幅を広げるため、ワイドリムの帽子を豊富な色柄で訴求している。タイの伝統的な絵柄や日本の桜をモチーフにした柄などもラインナップ。ウィメンズのほか、キッズ向けも用意した。

■「ATIPA」
https://www.atipabangkok.com/

  • ブランド創業者のThanagorn Sittiwongwanich氏

 「SAAMU」は、南アフリカ・スタイルのウエア製作などを得意とするスミス・ガーメント・ファクトリーが手がけるウエアブランド。2018年にスタートした新ブランドで、同展に参加するのは、前年同月展に続き2回目。前年の出展によって、香港や台湾、米、仏のバイヤーとの取引が始まるなど手応えを得た。価格帯は25~100米ドル。今季のコレクションは、カラフルな配色や日本の着物などを取り入れたデザインが特徴。同展でも、日本やトルコ、韓国、フィリピンのバイヤーからの引き合いがあった。ATIPAやHomrak、Anurojと同様、タイの中小企業を支援するSME銀行の取りまとめによって参加した。

 

■「SAAMU」
http://www.smithgarment.com/

  • デザイナーのスヒョン・チョウ氏

 韓国のウィメンズブランド「Coett(コエット)」は、2018年にスタートしたウィメンズブランド。すべて韓国生産で高品質であることを訴求。フェミニンでユニークであることをデザインのコンセプトとしており、フリルなどを多用した女性らしさにアシンメトリーなディテールや直線的なカッティングを加え、ひねりのあるスタイルを提案している。デザイナーのスヒョン・チョウ(Soohyun Cho)氏は、米や中国、韓国などで15年間デザイナーとして活動。昨年同ブランドを立ち上げた。オンラインストアのほか、ロッテ百貨店やヒュンダイ百貨店などでも取り扱いがある。ロッテ百貨店とはコラボレーション企画も始まった。ブランド立ち上げから1年足らずで取引先が急速に増加。「デザインのコンセプトや色使いを評価してくれる方が多い」(チョウ氏)という。

 同展への参加は初めてだが、米国やポーランド、フィリピンなどのバイヤーから引き合いがあり、中国の有力アパレルJNBYグループとコンタクトを取ったほか、オーストラリアのバイヤーから大型発注の問い合わせもあったという。また、同展によるオンラインマーケットプレイスにも問い合わせメールが相次いでいる。「多くの工場とのネットワークがあるため、高い品質を保ちつつ安定供給することも可能」(チョウ氏)。FOB価格でワンピース50米ドル、スカート30ドル、ブラウス40ドルなど。9月に東京で開催されるファッション合同見本市「PROJECT TOKYO」にも出展する予定だ。

 

■「Coett」
http://coett.com/

#ファッションテックを打ち出す地元香港企業

 近年の市場拡大に伴い、同展でもデジタル技術やファッションテックを活用したサービスを紹介する企業が地元香港を中心に見られた。

 

 香港の「Padshare」は、30年の歴史を持つカナダ発のオンラインCADシステム。生地の無駄を最小限に抑えるスマートシェーディングや、他社のファイルフォーマットをそのまま活用できるなど汎用性などが強み。近年需要の高まるカスタムオーダーに柔軟に対応できたり、プラットフォームに登録されているデザイナーとプロジェクトごとに協業することなども可能だ。

 

■「Padshare」
http://share.padsystem.com/en/member/register

 NFC(近距離無線通信)技術を利用したプロモーション用製品「CoolPop」を披露したK&D社は、前年同月展に続き2回目の参加。時計やスニーカー、バッジなどに内蔵したNFCにスマートフォン(NFC対応端末)を近づけると、企業のプロモーションサイトや特設ページへと遷移できる仕組み。現在は香港のほか、日本や中国、台湾、マレーシア、米、仏などの企業と取引があり、これまで「NIKE+CONNECT」などのプロモーションで採用実績がある。東京にもオフィスを構えるが、今秋からiPhoneでもNFCが標準搭載されるようになる予定であるため(android端末はすでに搭載)、需要拡大に期待を寄せている。

 

■「CoolPop」
https://www.nfcgifts.com/

 1987年創業の香港iGarment社は、クラウド型の衣料品生産管理システムを紹介。中国などアジア周辺地域のクライアント獲得をねらい参加した。また、越境EC対応の物流会社として2013年に中国・北京で創業したECMSも出展。スムーズな税関手続きや、増加傾向にある小口便に対しては、他社より低価格で注文できる幅広い価格設定などを訴求した。現在はアマゾンなど有力EC企業の物流代行なども請け負う。

■「iGarment」
http://www.igarment.net/en/

■ECMS EXPRESS
https://www.ecmsglobal-jp.com/

#AI活用が本格化 ファッション× eコマース

  • ザローラのAlin Dobrea氏

  • クラウドブレーカーCEOのエドウィン・ウォン氏

 同展で特設ゾーンも設置したファッションテックやデジタルテクノロジーについて、会期中は有力研究機関や企業によるセミナーも行われた。eコマース市場については、前年の“Online Shopping Reshapes the Fashion Industry(オンラインショッピングがファッション産業を再形成する)”に続き、“News Retail Era:’Fashion x E-commerce’Strategies(新リテール時代:ファッションxeコマース戦略)”と題し実施。シンガポール発のファッションEC「ザローラ(ZAROLA)」、ブース出展も行った越境EC物流サービスの香港「ECMS」、インフルエンサーマーケティングを行う香港「クラウドブレイカー(cloudbreaker)」などの各責任者が登壇した。ザローラとクラウドブレーカーに共通するキーワードは、中華圏におけるインフルエンサー“KOL(キーオピニオンリーダー)”と“AI(人工知能)”。

 

 ASEAN地域におけるブランド事業を統括するザローラのAlin Dobrea氏は、KOLを起用したソーシャルマーケティングが消費喚起に欠かせないとし、そうしたマーケティングや過去の購買履歴などのデータを最大限に生かすことが競合他社との差別化になると説明。ユーザーへの商品リコメンドにおいて、過去の購買アイテムをAIで画像分析することでユーザーの嗜好をより正確に割り出しているとした。また、クラウドブレーカーCEOのエドウィン・ウォン(Edwin Wong)氏は、ファッション&ビューティー関連企業とのさまざまな取り組みを紹介。化粧品ブランド大手SK-IIと行ったポップアップイベントでは、肌の状態をAI分析できるブースやスマホ決済システムを装備した無人デジタルストアを再現。KOLによる情報拡散と併せて話題になったという。また、SNS投稿された画像やテキストのAI解析によって、企業・ブランド側とKOLとの最適なマッチングや、オンオフライン双方においてエンゲージメントを最大限に高めることのできるユーザーを選定する取り組みなども紹介した。

 

(取材・文:戸田美子)

メールマガジン登録