NEWS

2019.07.06

【2019秋冬パリ・オートクチュール ハイライト】華やかさを取り戻すオートクチュール サスティナビリティを謳う

 2019年6月30日から7月4日までの5日間、パリ市内でオートクチュール(高級仕立服)コレクションが開催された。発表メゾン数が30となり、減少傾向にあった前シーズンと比べると、今シーズンは32に微増。しかし、それは主催するクチュール組合の公式カレンダー上での話で、実際には小さなブランドによるコレクション発表が合間にあり、また「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」のようにクチュール組合のカレンダーに載せずにコレクションを発表し続けるプレタ・ポルテのブランドもあり、スケジュールはこれまで以上に過密だった。そして、クチュール期間中に新作を発表する宝飾ブランドの数も一段と増え、オートクチュール本来の賑やかさや華やかさを取り戻しつつある。その一方、ゲストたちの頭を悩ませたのが、会場から会場への移動。現在パリ市内では、2024年のオリンピックへ向けた道路工事を各所で行っているが、そのために慢性的な渋滞が発生している。タクシーやバスは到着時間が読めず、観光客ですし詰めの地下鉄を利用したり、徒歩で移動しなければならない場面が多かった。今後しばらく、パリコレクションは文字通り、体力勝負のイベントとなりそうだ。

ジョルジオ アルマーニ プリヴェ(GIORGIO ARMANI PRIVÉ)

 ジョルジオ・アルマーニによる「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」のコレクションは、プチ・パレを会場にショーを開催した。“アルマーニ・コード”と題し、1980~90年代のフォークスタイルをイメージしながら、「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」らしい華やかさとエレガンスを見せた。カラーパレットは黒の他に、ダスティピンク、ダスティブルー、ミントグリーンといったパステルトーンが多く見られ、モチーフはマイクロドット、ポルカドットなどの大小様々なドットを重層的に組み合わせているのが特徴。デイウェアのジャケットは、丸みを帯びたショルダーからパゴダスリーブ的な強さを持ったものまでバリエーションがあるものの、多くはウエストがシェイプされフェミニンなシルエットを描いている。中盤からの夜会服では、トップ部分がシースルーになっているものが見られ、透け感を強調。サテンのバギーパンツや、ラメを散らしたチュールのパンツなどを合わせて、リラックス感も加えている。パステルカラーのAラインのドレスは、大振りで迫力があるものの、「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」のクチュールならではの軽やかさも同時に兼ね備え、風に舞う姿が優雅で美しい。防寒を考慮した素材により、重くなりがちな秋冬コレクションにあって、そのカラーパレットの効果もあり爽快ささえ感じさせた。

 

「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」2019秋冬パリ・オートクチュールコレクション

ゴルチエ(GAULTIER PARIS)

 ジャン=ポール・ゴルチエによるオートクチュール・コレクションは、動物にまつわるトロンプルイユ(だまし絵)のテクニックを交えながら、頭を覆うほどの高い襟のアイデアや、頭からすっぽりと被るフードのアイデアを用いたアイテムを発表。会場となった本社パーティーホールには、80~90年代のハウスミュージックが響き渡り、パーティーのような雰囲気で進行した。得意とするテーラードは、大きな襟、太いベルトが特徴的で、アイテムによってはクリノリンのようなシルエットを描く大きなポケットが合わせられる。ネオンカラープリントのドレスやジャンプスーツは、BGMと相まって90年代初頭を彷彿。フォックスの毛皮をプリントしたダウンジャケットや、ゼブラ風のボーダーのミニドレス、パンサーの毛皮をビーズ刺繍で表現したドレスなど、「ジャン=ポール・ゴルチエ」らしい遊びの要素を加えたアイテムには、装飾として鳥の羽をあしらい、特にサステナビリティを強調しているわけではないようだった。

■「ゴルチエ パリ」2019秋冬パリ・オートクチュールコレクション

ヴィクター&ロルフ(VIKTOR & ROLF)

 長らく発表の場としていた劇場ゲーテ・リリックを離れて、ホテル・ウェスティンのボールルームでショーを開催した「ヴィクター&ロルフ」。今季は、ジョン・ガリアーノやクリスチャン・ラクロワともコラボレーション歴のあるテキスタイル・アーティスト、クラウディ・ヨングストラの協力を得てコレクションを発表した。現代の錬金術師とも言われる彼女が自宅の庭で育てた植物から染料を作り、染め上げたのがネイビーと黒のシリーズ。オランダのドレント・ヒース・シープの羊毛を用いたアイテムは、独特の重厚感とクラフト感を漂わせる。古着を引き裂いたパーツをニードルパンチし、ヴィンテージ感もプラス。同じく古着のパーツでパッチワークしたアイテムには、羊毛をニードルパンチしたサテンのスカートをコーディネート。これまで古着をクチュールに取り入れてきた彼らだが、今季は自然素材による染色というアイデアも加わり、サステナビリティを一歩推し進めていた。

 

■「ヴィクター&ロルフ」2019秋冬パリ・オートクチュールコレクション

ユイマナカザト(YUIMA NAKAZATO)

これまでの方向性を変えず、しかし全く新しい要素を加えて注目を浴びたのが、中里唯馬による「ユイマナカザト」のオートクチュール・コレクションである。各人の身体に合わせて服を作り上げるオートクチュールこそが究極のサステナビリティである、とする中里は、山形県に本社を置くスパイバー社と、東京を拠点にするザ・ユージーン・スタジオとコラボレーション。招待状のデザインや、パリ医大ホールのランウェイのアートディレクションをザ・ユージーン・スタジオに、そして素材のすべてをスパイバー社に依頼し、見事な融合を見せた。プロテインを主原料にした糸による手編みのニットドレスや、髪の毛のようなプロテイン製繊維を飾ったトップス、水に触れた部分のみ収縮する、しぼりのような風合いのバイオスモッキングの技術を用いたケープドレスなど、それぞれ印象的なアイテムは、微生物の助けを経て作られる自然由来の素材によるもの。コットンのような感触のものから、まるでレザーのような風合いのものまで様々だが、99%植物由来のスナップを用いて細かく分けたパーツを繋ぐType1と呼ばれるシステムをこれまで通り採用。パーツが劣化したら交換可能で、長く着用できるという大きな利点があり、また体型の変化にも対応しやすい。それは、このブランド発の新しい形のオートクチュールといえるだろう。

 

「ユイマナカザト」2019秋冬パリ・オートクチュールコレクション

ブランドごとに発信するものが明確に異なるオートクチュールは、通常まとまったトレンドを捉えにくいのだが、今シーズンはサステナビリティを謳うブランドが多かった。クチュール期間のオープニングを飾った、ソフィア・クロチアーニによる「アエリス(AELIS)」は、前回のデビューコレクションから自然素材にこだわる姿勢を見せ、またショールームで初のコレクションを見せたイリーナ・クローズによる「ベカルティ(Bequartii)」も、自然素材のみを使用し、レザーについてはリサイクルであることを強調していた。しかし、彼女たちとは全く違う視点でサステナビリティを捉えていたのが「ユイマナカザト」である。分子レベルからデザインして環境負荷の少ない素材を作り出す企業、スパイバー社の手による繊維素材は量産されておらず、依然として参考商品扱いだが、「ユイマナカザト」はこのコラボレーションによって今後新しい潮流を作っていく可能性を大いに秘めている。そしてそれは今後も続くそうで、新しいものが次々と飛び出してくるに違いない。そんな期待を抱かせたのだった

2019秋冬パリ・オートクチュールコレクション

 

取材・文:清水友顕

メールマガジン登録