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2016.02.17

“ショッピングに新しいカタチを提案する新プロジェクト”「LIFE」開催 「ルクア」が力を入れる顧客アピール戦略とは

「梅田 蔦屋書店」の催事スペースを活用した

 大阪・梅田に施設を構える20-30代女性をメーンターゲットにするファッションビル、「ルクア」。つい先週末の11-14日、その「ルクア イーレ」内において興味深いイベントが開催された。「LIFE」(ライフ)と銘打たれたイベントのシリーズで、今回で3回目を迎えた。顧客の買い物を促すという点では、販売促進活動と言ってもいいが、その手法が個性的である。企画した同館の担当者に話を聞いた。

供給過多の中、買い物の楽しさを発信する

 通常、商業施設の売り場における販促イベントと言えば、有名人やモデルのトークショーを開催するケースや、カードポイント○倍セールなどといった手法が一般的だ。トークショーという手法で購買増につなげる点では他施設と共通しているが、この「LIFE」というイベントは、「ルクア」のブランド価値を高める側面がある。むしろ、「ルクア」で買い物をするという付加価値の提供に軸足を置いている点が目新しい。「ルクア」を運営するJR西日本SC開発 営業本部の営業統括グループリーダー、河原畑(かわらばた)俊一・ルクア フロア統括はこのイベントについて、「ルクア独自の企画で、どうしたらもっとお客さんにお買い物を楽しんでもらえるか、を考えた」と説明する。

昨年のクリスマスに開催した「LIFE」イベントの模様

 “ショッピングに新しいカタチを提案する新プロジェクト”と銘打たれた「LIFE」。第1弾の開催は昨年12月のクリスマス時期。閉店後の店内でクリスマスギフトを購入できる「クリスマスナイトマーケット」を開催した。第2弾は年明け1月。初売りで賑わう館内にオリジナルの音楽を流し、ショッピングに付加価値を与える試みを行った。いずれも「ルクアだから体験できるお買いもの」という点が共通項だ。

「LIFE」第3弾イベントの模様

 そして今回の第3弾が、着なくなった服を思い出とともにリメークするイベント「想い出残すプロジェクト」である。13日には、この企画をプロデュースした伊勢谷友介 代表らによるトークショーが開かれた。場所は「梅田 蔦屋書店」内のイベントスペースである。コトと場を提供する同店のコンセプトにも合致したイベントと言えよう。「ルクア」が発信したい価値観を伝えるには最適のイベントだったのではなかろうか。

 

 「『LIFE』は生命という意味も込めているが、“生活”という意味でとらえている」と語る河原畑氏。顧客のライフスタイルの中に「ルクア」が自然に存在する状態を目指している。商品が供給過多の中、買い物の楽しさを発信することで、「ルクア」で買い物をしてもらえるように意識してもらう狙いがある。

事前告知は控えめに、SNSなどに限定

 同イベントの事前告知は控えめに、SNSやYoutubeなどに限定したという。マス媒体を避け、敢えて“口コミ”で広がるタッチポイントを選んだ。不特定多数のエンドユーザーに向けて発信するマス媒体ではなく、特定の顧客へ向けた発信をやりたかったようだ。ひと昔の専門店に見られるような、顔の見えるお客さんに伝える手法だ。「お店の原点回帰だと思う」と河原畑氏も話す。昨年12月に開催した第1弾の映像をYoutubeに投稿したところ、再生数が3万5,000回あったという。参加できる人数が数百人と限られていたため、イベント内容を知らせる目的だったが、思いのほか反応があったと感じている。

 

 「LIFE」イベントには、顧客にお買い物の楽しさを伝えることのほかに、もう1つ重要な目的がある。全館で約9,000人にのぼる販売スタッフのやる気向上だ。「販売スタッフ1人に10人の顧客がいると仮定すると、全館では9万人にのぼる。顧客とダイレクトにつながる販売スタッフの存在は重要で、いかに彼らを“その気”にさせるかが大切だ」(河原畑氏)。つまり、「LIFE」イベントを通じて現場のスタッフにも、「ルクア」で販売する価値観を感じてもらおうとしているわけだ。

 

 「ルクア」でお買いものすることに価値観を見出すお客さんと、そのお客さんに商品を販売することに価値観を見出す販売スタッフ。どうやら、この一連のイベントには、こうした関係性を構築するという大きな目的があるらしい。第4弾は、「ルクア イーレ」が開業1周年を迎える今春、3月下旬をめどに開催する計画だ。「5階の『時の広場』でファッションショーを開催する予定です。そのほか、ポップアップショップも数多く展開する計画です」(河原畑氏)。

 

 「ルクア」は現在、計画通りの売上推移だという。暖冬だった15年秋冬シーズンも、苦労した点はなかったそうだ。気温変動に合ったMDを揃えることができたからだという。大阪駅ビル内という好立地も追い風になっているのだろうが、「実店舗の(集客・売り上げの)伸び代はまだまだあると感じている」(河原畑氏)。20-30代の若い女性がメーンターゲットの東館「ルクア」は、「ある程度、ブランドイメージが出来上がっていると思う。『ルクア イーレ』は開業から1年足らずだし、顧客層も幅広い。顧客の抱くイメージが出来あがるのはもう少し先だろう」(同)。

 

 2館体制で再スタートを切った昨春から、まもなく1年を迎える「ルクア」。顧客のお買いもの体験を通じた館のブランド観の構築にも余念がない。こうしたコトとモノ、場を絡めたイベントは「百貨店が恒常的に行ってきた手法」(河原畑氏)だというが、これだけ業態が多様化し(現に「ルクア イーレ」はファッションビルと「isetan」のハイブリッド施設である)、多種多様な売り場が増えると、顧客へのアプローチ方法も多様化するということなのだろう。今回の取材で、そのようなことを感じた次第である。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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