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2018.10.12
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.52】2019年春夏ミラノコレクション【特別編】
宮田理江のランウェイ解読 Vol.52
日本人デザイナーが4組も正式参加した点で、2019年春夏のミラノコレクションは、特別なシーズンとなった。ビーチやテイラーリングが注目された今回、日本勢も大きなうねりに乗りつつ、持ち味を発揮した。プレゼンテーション形式で発表されたコレクションや、靴、帽子のブランドもストリートやポジティブ、コンフォート、グリッターといった、ミラノの新潮流を印象づけていた。
◆アンテプリマ(ANTEPRIMA)
スポーティーでポップなコレクションを披露した「アンテプリマ (ANTEPRIMA)」はポジティブな気分でランウェイを色めかせた。PVC(ビニール)素材を用いて、装いに濡れたようなつやめきをまとわせている。「SWING」というテーマの通り、ジグザグ柄やホットパンツで弾むようなウキウキ感を寄り添わせた。
スマイリー(笑顔マーク)とのコラボレーションがハッピー感を呼び込んだ。ウォーターカラーやオレンジなどのみずみずしい色が元気なムードをまとわせている。ビーチやピクニックに出掛けるような軽快さとレトロ感のミックスがのどかでアスレティック。プラスティックの透明感がフード付きレインコートにクールで若々しい雰囲気を帯びさせている。
ミニスカートやミニ丈ワンピースなど、コンパクトなウエアと、オーバーサイズのカーディガン、フーディーコートといった量感の豊かな服を組み合わせて、リズミカルな印象のレイヤードを組み上げた。グラフィック柄やカラーブロッキングの着姿をさらにアクティブに彩る。太いストラップの斜め掛けバッグや、小ぶりバッグ付きのベルトなどボディ密着型のウエアラブルバッグも装いのアクセントになっていた。
◆ウジョー(Ujoh)
ミラノでの発表を重ねる「ウジョー(Ujoh)」はミラノのシンボル「ドゥオモ(大聖堂)」の脇にあるミュージアムでランウェイショーを開いた。クラシックな建物とは対照的に、コレクションの内容は、持ち前のカッティング技術を生かした、大胆なシルエットの解体が目をひいた。マニッシュなジャケットをキーアイテムに選んで、伝統と革新をねじり合わせている。
テイラーリングの技を注ぎ込んで、ジャケットの再構成を試みた。象徴的なアイテムは、右半身しかないかのように見える、異形のジャケット。レイヤードに組み込むと、スポーティなアイテムとの適度な「ずれ感」が入り組んだミックステイストを生む。ショート丈やオーバーロング丈も取り入れて、テイラードの常識を揺さぶった。
アシンメトリーを多用して、流れ落ちるようなシルエットを印象付けている。しなやかに生地が波打つワイドパンツ、セットアップ、コンビネゾンなどが流麗なフォルムを描き出す。右半身はカラフル柄、左側は黒無地といった色と柄の非対称も提案。カムフラージュ柄やグラフィカル模様、イエローやグリーンなど、これまでよりもアイキャッチーな色・柄を投入して、着姿に勢いを乗せていた。
◆アツシナカシマ(ATSUSHI NAKASHIMA)
1960年代風のヴィンテージ感やサイケデリック風味を「アツシナカシマ(ATSUSHI NAKASHIMA)」はランウェイに持ち込んだ。モチーフ面で主役を張ったのは、ATSUSHIの「A」を変形したかのような三角形状のモチーフ。多くの服や小物に、色や形を変えながら繰り返しあしらわれ、コレクションのキートーンになっていた。
膝で絞ったワンピースや裾広がりのパンツといった、レトロムードのアイテムが用意された。ラッフルやドレープを配して、ロマンティックな雰囲気も呼び込んだ。ネオンカラーの帽子や手袋、ソックスがノスタルジック気分を醸し出す。スカーフはターバン風ヘッドアクセサリーやベルトに姿を変えた。
色数を増やしてランウェイを華やがせる一方、ワントーンやニアトーンでまとめたルックも相次いで投入した。レース仕立てのホワイトルックは白いニーソックスが印象的で懐かしげ。オリジナルのモノグラム柄を打ち出すアプローチには、ブランドのステータスをもう1段、押し上げる意欲がうかがえた。
◆チカキサダ(Chika Kisada)
画像:チカキサダ(Chika Kisada)
初めてミラノ・ファッションウイークに参加した「チカキサダ(Chika Kisada)」は、幾左田千佳デザイナーのバレエ経験を下地に、バレリーナの装いを写し込んだ。「レキサミ(REKISAMI)」のデザイナーも兼ねる幾左田氏の持ち味であるエレガンスと、「チカキサダ」に込めるパンキッシュな気分が響き合った。
バレリーナがランウェイに現れ、ショーモデルを招き入れる構成でスタート。モデルのまとったウエアにも、バレエの衣装「チュチュ」のテイストが薫る。でも、バレエ衣装そのものではなく、むしろ、チャレンジングに解体が試みられている。たとえば、スカート部分はフィッシュネットで仕立て、アクティブなシースルーに。コルセット風のボディスも組み込んだ。はかなげなチュチュの風情と、フェティッシュな演出が交錯した。
繰り返されたキーディテールは布をつまんだり、しわを寄せたりして生み出した、複雑な起伏だ。ドレープやラッフルも多用して、着姿を波打たせた。繊細な表情づくりに丁寧な手仕事がうかがえる。薄布の透け感と、ひだの重層感がハーモニーを奏でた。
トレンチコートを解体してワンピースやスカートに変形させている。スカートは特徴的なベルトやダブルブレストの骨格は保ったまま、端の布にくしゃくしゃのしわ加工を施し、トレンチの堅さをやわらげている。ワンピースもラッフルやフリルを配してレディーライクに整えた。
終盤にはどっさり布を使って、ボリューミーに仕上げたホワイトドレスを披露。シルキーな質感と、透けるチュール系生地を複雑に組み合わせ、気品をまとった。バレエシューズライクな靴もホワイトでそろえ、デザイナーのオリジンへのこだわりを印象づけていた。
◆ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)
カシミアニットで名高いイタリアブランド「ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)」は落ち着いたショールームの中庭でのプレゼンテーション形式でコレクションを発表した。ケータリングフードと飲み物が振る舞われた、サロン感覚の優雅な雰囲気の中、披露されたコレクションも、オーガニック感の高いピースが目立った。
今回のミラノでは、伝統的なサルトリア(仕立て職人)技術を、モダンウエアに注ぎ込む試みが目についたが、「ブルネロ クチネリ」でもテイラードジャケットにクロップドパンツを合わせるような「ドレス&ルーズ」の演出が繰り返された。リネンやコットンの天然素材をキーマテリアルに迎え、自然体の装いに仕上げている。色もベージュやエクリュ、ブラウンといったアーストーンを基調とし、サファリやエスニックの雰囲気を醸し出した。
トレンチコートの両袖をカットオフしたようなスリーブレスジャケットはやわらかい生地で仕立て、ベルトもリボン風。トレンチ風ジャケットの裾をドローストリングスに変え、スーパーワイドパンツとのセットアップを組み立てる提案も目新しかった。ナッパレザーを巧みに取り入れたレイヤードが質感の深みを引き出している。量感がたっぷりのリラクシングなウエアが多く、伸びやかなウエルネススタイルにまとめ上げられていた。
◆エミリオ・プッチ(EMILIO PUCCI)
ジェットセッターの御用達という歴史を持つ「エミリオ・プッチ(EMILIO PUCCI)」は、「カリブ海への旅」というテーマを選んで、ブランドの原点に立ち返った。創業デザイナーが遺したカラフルな「プッチ柄」は貴重なアーカイブであり続けているが、今回は図柄をシンプル化したうえ、色数を減らして、新しいモチーフを用意した。トロピカルな柄とジューシーな色がビーチ気分の装いを彩った。
リゾート旅へ誘うかのようなムードに包まれた。ジャージードレスやプリーツスカートなどが弾むような若々しさを演出。イエローやライトブルーといった、海辺になじむポジティブカラーがユニセックスの装いにマッチ。左右アシンメトリーのアンバランス感が着姿に躍動感を添えた。
ショートパンツやシャツドレス、トレンチコートなどを組み合わせて、軽やかで気負わないリラクシングな着映えに整えた。なめらかな質感が元気な新モチーフと響き合って、グラフィカルなアーバンリゾートの装いに導いている。スポーティやビーチのムードが濃くなった今回のミラノを象徴するようなコレクションだった。
◆プランC(Plan C)
デビューコレクションとは思えないほど、練り上げられたプレゼンテーションを披露したのは、ウィメンズブランドの「プラン C(Plan C)」。だが、「マルニ(MARNI)」の創業デザイナーだったコンスエロ・カスティリオーニ氏の娘、カロリーナ・カスティリオーニ(Carolina Castiglioni)氏が立ち上げたと聞けば、それも納得だ。マスキュリンとフェミニンを同居させたテイストが持ち味で、マニッシュなボタンダウンシャツには華やかなラッフルをあしらった。
ボクシーでボリューミーなジャケットなど、量感のたっぷりしたシルエットを押し出している。気負わないリラクシングな雰囲気はコレクションのみならず、ブランドのキートーンとなっている。メンズとウィメンズを自在に使い分けられる融通自在の着こなしが楽しめそうだ。
イエローやピンク、グリーンといったポジティブなカラーパレットで着姿を弾ませている。オーバーサイズのパーカや極太のバギーパンツがファニーな着映えに導いた。レザーはボンバージャケット、ロングジレなどに用いられ、異素材ミックスのキーマテリアルに。素朴な木靴風のシューズやレザーを編んだローファーなどの目新しい足元も鮮度が高かった。
◆モンクレール ジーニアス(MONCLER GENIUS)
モンクレール ジーニアス(MONCLER GENIUS)
(c)Rie Miyata
「モンクレール(MONCLER)」の新プロジェクト「モンクレール ジーニアス(MONCLER GENIUS)」はミラノで5人のデザイナーがそれぞれ手がけたコレクションを発表した。2日間にわたったプレゼンテーションは初日にビデオインスタレーションで、翌日に実物を展示する形で1つのストーリーを構成した。デジタルとリアルの世界を行き来するような体験は来場者に戸惑いとサプライズをもたらした。
ダウンウエアに強みを持つブランドが「裏シーズン」にあたる春夏向けの表現手法が関心を集めていた。「4 MONCLER SIMONE ROCHA(4 モンクレール シモーネ・ロシャ)」では庭園やガーデニングからインスピレーションを受け、フローラルなモチーフとロマンティックなシルエットが提案された。フリルやレースがアウンウエアにフェミニンを忍び込ませている。
プロダクトをスクリーン上で披露するという発表形式そのものがデジタル時代の新スピリットを印象づけた。総勢8人のグローバルなクリエイターに自由なデザインを任せるという、「モンクレール ジーニアス」の挑戦的な取り組みに応えて、創り手たちは思い思いに従来のダウンウエアの定型から離れ、映像表現にもなじむダウンウエアを提案していた。
◆セルジオ ロッシ(Sergio Rossi)
画像:セルジオ ロッシ(Sergio Rossi)
ミラノでは歴史的な建造物がコレクション発表の舞台に選ばれることが珍しくない。17世紀に建てられたアンブロジアーナ図書館を会場に選んだのは、リュクスな靴で知られる「セルジオ ロッシ(Sergio Rossi)」。フリンジがブーツやパンプス、カウボーイブーツなどに動きを添えた。
前のシーズンから加わった、シャープなスクエアのかかとがアイコンの「sr MILANO」がコレクションの柱に据えられた。大理石のようなオプティカルホワイトが足元にきらめきを呼び込む。アイレットに埋め込まれたクリスタル装飾をはじめ、PVC(ビニール)素材やトロンプルイユ技法が靴にイリュージョンを宿した。ヌードカラーのバックストラップもセンシュアルなムードを醸し出していた。
図書館という舞台にふさわしく、モデルが本を読んでいるという演出が伸びやかでノーブル。読書に飽きたのか、居眠りする姿も。くつろいだ雰囲気のモデルたちが履いている靴に自然と目が向かう見せ方も工夫されていた。
◆ジュゼッペ・ザノッティ(Giuseppe Zanotti)
画像:ジュゼッペ・ザノッティ(Giuseppe Zanotti)
今回のミラノでは、これまでにも増して、まばゆくきらびやかなシューズが提案された。服がスポーティやコンフォートに向かう一方、靴にはリッチ感やグリッターを求める傾向が強まっているようだ。「ジュゼッペ・ザノッティ(Giuseppe Zanotti)」はブランドの誕生25周年を記念するコレクションを披露した。
ありふれた日常をレッドカーペットに変える「everyday red carpet」を提案している。ビジューやクリスタルをちりばめたディテールが洗練された華やぎを呼び込んだ。クリスタルをはめ込んだアシンメトリーヒールはサプライズな見え具合。ジーンズに合わせやすそうなウエスタンブーティも用意した。
クロコダイルやパイソンといったエキゾチックレザーをカーフレザーに型押し。レオパード柄のなめらかなシルク、ベルベットのようなスエードなど、上質な素材に印象的な柄や模様を配して、足元をざわめかせていた。
◆ジミー チュウ(JIMMY CHOO)
画像:ジミー チュウ(JIMMY CHOO)
凜々しい女性像を打ち出す試みが続くが、「ジミー チュウ(JIMMY CHOO)」は「高潔さ、自信、パワー」をキーワードに選んで、新しい「強さ」を表現した。20世紀の彫刻家、ブランクーシに着想を得て、センシュアルなフォルムに仕上げた。彫刻的な美しさと大胆なグラマラスがフェミニンと気高さを両立している。
バックル付きストラップをあしらったミュールはなだらかな曲線がセクシーでレディーライク。ポインテッドトゥは足の甲にこしらえた結び目がドラマチックな表情。メタリックホイルレザーはフューチャーリスティック(未来的)なムードをまとわせている。2本のレザーストラップが足に巻きつくディテールも目をひく。
今やモードのキーピースとなりつつあるスニーカーもプラチナ風の輝きを放つ。オーバーサイズスニーカーはダイヤモンドをイメージしたソールを掛け合わせている。リネンやラフィアなど、異なる質感の素材をミックスするクロスマテリアルのデザインも靴の表情を深くしていた。
◆ボルサリーノ(Borsalino)
画像:ボルサリーノ(Borsalino)
イタリア帽子のシンボル的なブランド「ボルサリーノ(Borsalino)」は1980年代の気分を下敷きに、モダンにリモデル。強烈な色や幾何学模様、マルチロゴプリントなどを取り混ぜて、現代的にアレンジした。ミレニアル世代以降にもボルサリーノ流の美学を伝えている。
メンズコレクションでは夏らしいエクアドル・ストローハット、パナマ、ラフィアなどのバリエーションが軽やかな風情。一方、レディースは高いクラウンとカーブラインが特徴的なシルエット。カイマンワニのリボン、大柄ペーズリーのバンダナ・スカーフなども帽子を彩る。
布地タイプの帽子は、コントラストで遊んだ。クラシックなフォルム、カラーバージョンのデニム、印象的なマルチロゴが目をひく。装いのアクセントに迎え入れやすい、程よい主張を宿しながら、タイムレスな大人感が漂うコレクションだった。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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