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2018.10.12
3年前と比べて23%減、厳しさ増すトレードショー――19年春夏レディス・パリファッションウィーク
2019年春夏のパリレディス・トレードショーが終わった。大きなトピックは、前回までコンコルド広場にテントを建てて開かれていた「パリシュールモード(PARIS SUR MODE)」が無くなり、同じ主催者であるWSNデベロップモン傘下の「プルミエールクラス(PREMIERRE CLASSE)」内に新たなコンセプトで「ドレッシング(DRESSING)」というウェアを中心としたエリアが登場した。また「トラノイ(TRANOI)」)は、ショールームを集めた「トラノイ・リシュリュー(TRANOI RICHELIEU)」を初開催し、「トラノイ・ウィーク(TRANOI WEEK)」含めて4ヶ所での展開となった。グラフと表にある通り、近年のトレードショー不振の中、数字と出展者の感想から変化を探るとともに、日本からの出展者も一部紹介する。
PC=プルミエールクラス、SUR=パリシュールモード
前回まではトラノイとプルミエールクラスの日程が1日ずれていたため、出展者が双方の展示会を視察することが可能だったが、今回は2018年9月28日~10月1日の同日程となり、それが叶わない形となった。ウーマンは、ヴァンドーム広場の1会場で1日短い9月28~30日に開催した。
トラノイ(TRANOI)
「トラノイ」パレ・ド・ラ・ブルス会場
(左から)ロンドンショールームと英国若手支援の「ファッションイースト」のみとなったトラノイ・ウィーク、
6つのショールームを集めたトラノイ・リシュリュー
(左から)フレグランスのコーナーはカルーゼル会場に健在、
若手を集めた「アップカミング・タレンツ」もカルーゼル会場に
トラノイはパレ・ド・ラ・ブルス会場とカルーゼル・デュ・ルーブル会場に加えて、従来マレ地区で「ロンドンショールーム」とタイアップして開いていたトラノイ・ウィーク(17ブランド)をバスチーユ広場近くに移し、新たにブルス会場近くに6つのショールームによる39ブランドを集めたトラノイ・リシュリューを開催した。トラノイ2会場の推移を見ると3年前に比べて出展者が2割減っており、ウィークやリシュリューを足してもカバーしきれていないことが分かる。
プルミエールクラス
(左から)プレミエールクラスの会場、ビーチ、インナーなどの集積は「エクスポーズド」
新たなコンセプトで選出したというウェアのゾーン「ドレッシング」は、各パビリオンに点在
プルミエールクラスには、新たにウェアを含めたゾーンのドレッシングやビーチウェア、ランジェリー、ルームウェアなどを集めた「エクスポーズド(EXPOSED)」ができ、シュールモードの無くなった部分を補う形となった。今後、プルミエールクラスでのウェアの展開が広がる可能性が出てきたと言えそうだ。しかしながら3年前と比べてパワーダウンは否めない。フランス婦人プレタポルテ連盟主催の「アトモスフェール(ATMOSPHERE)」(ウェア)、「ザ・ボックス(THE BOX)」(服飾雑貨)を引き継ぎ、米国発の「カプセル(CAPSULE)」を取り込むなどの施策もあったが、漸減傾向を33.6%減という数字が現しているようだ。
ウーマン
ウーマンは2層で展開
ウーマンは、メンズ・レディスプレのトレードショー「マン/ウーマン」の成功を得て、勢いに乗りたいところだが、メンズほどの元気さは感じられない。出展社数では唯一前年比で伸ばしてはいるものの、メンズ時期にレディスプレビューを含めて2会場で開催しているような規模に到達していないのは、レディス市場規模の大きさと比例して考えると物足りない数字といえる。
日本からの参加ブランド
9月28日~10月1日、ホテル・ムーリスで開かれた「ヴァンドーム・ラグジュアリー(VENDOME LUXURY)」も3年前と比べて半減となっており、独自のイブニングドレス市場という立ち位置で維持しているというところだ。日本からはデザイナーの岩谷俊和がディレクションする「ユミ・カツラ(YUMI KATSURA)」が初出展した。
またはジェトロの支援を受けてプルミエールクラスに15ブランド、トラノイに11ブランドが出展。この他にも数多くの日本ブランドが自力で出展しており、ウーマンにも3ブランド(英国在住含む)が出展した。以下、一部出展者を紹介する。
◆トラノイ・ブルス会場
(左から)今後、パリ以外の都市での卸販売強化を検討している常連の「カシラ(CA4LA)」、
海外卸が成功している鳴海有松絞りの「スズサン(SUZUSAN)」
初出展でメンズが得意な靴「ソイム(SOIIHM)」
タキヒヨーによる海外進出ブランドでモードテーストの強い「ベースマーク(BASE MARK)」
◆トラノイ・カルーゼル会場
2011年からパリに挑戦する山形のニットメーカー、米冨繊維の「コーヘン(COOHEM)」
3回目の出展となる甘めデザインのストール、スカーフ「ティティエ(TITIER)」
(左から)初出展で価格面やサイズなどに課題を感じるという「ウェイ(WEI)」、
2回目の出展、素材から作り込むナチュラル服の「ファクトリー(FACTORY)」
2002年からパリ進出を果たしているベテランで山形のニットメーカー、佐藤繊維の「エム・アンド・キョウコ(M & KYOKO)」
白黒に絞り込んで作る「上田安子服飾専門学校」の学生によるプロジェクトブランド「ユーシーエフ(UCF)」
5ブランドを共同出展させた合同展「ソレイユトーキョー(SOLEIL TOKYO)」
(左から)ミシンを持ち込み実演した帽子ブランド「石田製帽(ISHIDA SEIBOU)」
複雑な手編みが持ち味の「ラニット(L’ANIT)」
(左から)久留米絣の伝統を服やストールにする「藍木野(AKINO)」、
モード感とギミックが得意な「アソート(A SOUGHT)」
どこかに和を感じさせる大人服「セイジ・イノウエ(SEIJI INOUE)」
◆プルミエールクラス
(左から)華やかなプリントのストール、スカーフからバッグまで展開する「マニプリ(MANIPURI)」、
パネルブロックがカラフルな鳥取のバッグメーカーの「ハナアフ/バルコスデザイン(HANAA-FU/BARCOS DESIGN)」
◆ウーマン
リラックス感とクールさを併せ持つ「トゥジュー(TOUJOURS)」
愛知県・三河木綿の刺子で作るバッグの「キャバ(CABAS)」
ロンドン在住、コンテストの「イッツ」にも入賞経験のある皮革小物「キーツ(KI:TS)」
今シーズンは取材を通じて、さらにトレードショーの厳しさが増していることを実感した。高過ぎる出展料が、投資効率の悪化を招いて出展自体を躊躇させてきた状況もあるが、会場の賃貸料が高いのも同意できる面もある。しかし、スタートアップを支援するという点で、もう少し主催者側に努力が欲しい。一方でトレードショーの側のみに責任があるのではない点も強調したい。グローバルSPAの市場浸透によるトレードビジネスそのものの規模縮小や店頭活性化よりも前年実績重視の堅いバイイング傾向なども既存取引先優先、ショールーム優先とならざるを得ない状況を作り出している。ある商社がセレクトショップのアテンドに際し「ほぼ既存仕入先以外のブースをスルーしていく」ので、「それでは仕事にならない」と、とあるブースを通り過ぎた瞬間に「このブランド、A社(大手セレクトショップ)が取っていますよ」と声掛けると引き返してオーダーすると言う。典型的なパターンだ。
またあるベテラン出展者からは、「プレの時期の方が、予算が増えていることを考えると、メインのこの時期に訪れるバイヤーが減ってきているのではないかと思う」と話してくれた。日本ブランドにとっては、企画生産サイクルの更なる前倒しという厳しい状況が求められる訳だが、パリを通じての海外市場開拓に向けては、クリアしていかなければならない課題なのかもしれない。
トラノイ https://www.tranoi.com
ウーマン https://www.manwomanshows.com/
プルミエールクラス https://premiere-classe.com/en
ヴァンドーム http://www.vendomeluxury-
久保 雅裕(くぼ・まさひろ)
ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。『senken h』を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。 大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア『Journal Cubocci』を運営。複数のメディアに執筆・寄稿している。杉野服飾大学特任教授の傍ら、コンサルティングや講演活動を行っている。また別会社で、パリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストア、国内合同展の企画なども行い、日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。
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