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2014.12.12
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.21】2015年春夏パリ、ミラノコレクション
宮田理江のランウェイ解読 Vol.21
2015年春夏シーズンのパリ、ミラノ両コレクションではロマンティックが息を吹き返し、クチュール感が加速した。マテリアルの質感で遊ぶクリエーションや、凝ったディテール、アシンメトリー、センシュアル(官能的)な演出が増え、フォルムの冒険は踏み込みを深くした。70年代ルックやレトロスタイルの再評価も相次ぎ、モードの振幅は大きくなった。
◆ミラノコレクション
アートを着る作風を続けてきた「プラダ(PRADA)」は布の質感にフォーカスした。あえて裾のほつれをそのまま生かしたり、切りっぱなしの処理にとどめたり。ファブリックの表情を重んじたAラインのコートや細身のスリーブレス・ワンピースを提案。しつけ糸をわざと残したかのような演出にも、服がカッティングや縫製を経て誕生するプロセスをストーリーとして落とし込む意図がうかがえる。
高く大きな襟をワンピースやコートドレスに配して、アラウンドネックの景色を変えた。太い共布ベルトやレザーのトリミングも多用。サマーアウターの流れを加速した。蔓草(つるくさ)風の伝統的な植物柄をあしらい、動きを出している。曲線を描くニードルワークでシルエットに流麗なリズムを添えた。ふくらはぎ丈のブーツと膝丈のソックスを組み合わせ、グッドガールの風情を漂わせている。
「マルニ(Marni)」も生成り調のキャンバスライクな布の風合いを前面に押し出した。麻っぽい白やベージュの自然体テクスチャーが楽観を招き入れる。和服の発想を随所に織り込んで、着物ライクなシルエットを組み上げた。柔道の黒帯を連想させる極太のベルトは先端に丸みを持たせ、別の表情を与えている。オーバーサイズ気味のラウンドショルダーは朗らかなリラクシングを連れてきた。
袖にもオプティミスティックな雰囲気が宿した。手の甲まで覆う長袖のニットはのどかでユーモラス。大きめのカフス、筒袖風の太めスリーブも微笑ましい。特大の植物モチーフはくつろいだムード。親指だけをホールドするサンダルもヌケ感を帯びる。毛皮・皮革に造詣の深いデザイナーらしく、サマーファー、サマーレザーの提案も怠りなかった。
(左から)GUCCI 、EMILIO PUCCI
70年代の気分に包まれたのは「グッチ(GUCCI)」。鈍いつやめきを放つメタリックボタンをキーディテールに据えて、ミリタリー感とヴィンテージテイストをまぶし込んだ。ナポレオンジャケット風の胸飾りはグラムな顔つき。高い襟のジャケットや手の込んだ刺繍などにも軍服の残り香とセブンティーズのざわめきが写し取られていた。
デニム生地に新タッチを加えた。パンツにはセンタープレスを施し、深いダブル裾できちんと顔に整えた。デニムで仕立てたワンピースには、スニーカーのシューレースのような演出を試みている。千代紙風の和柄、パッチワーク風のモザイク柄など、モチーフ使いで華やがせた。レトロ感の高いネッカチーフにも、70年代への郷愁が漂っていた。
同じ70年代でも、「エミリオ プッチ(EMILIO PUCCI)」はヒッピー気分を濃くした。フラワーチルドレンを思い起こさせるミニワンピース、どっさりフリンジを垂らしたポンチョなどで当時のアメリカンムードを呼び覚ました。スエードの膝丈ロングブーツや、サイケデリックな色使い、ビーズの刺繍も、ヤングパワーが席巻した当時のアイコン。それらをモダンにとらえ直してみせた。
膝でいったん絞って、裾を広がらせたフレアパンツも復活。チュール系の極薄布地で仕立てたロングドレス、白い糸で編んだ透け編みワンピにもボーホー精神をまとわせた。多彩なプリントモチーフからセブンティーズの空気感を発散するのは、アーカイブが厚いこのブランドならでは。首に巻いたスカーフ、ウエスタン風のベルト、女神ライクなロングドレスなども当時の熱気を感じさせた。
鬼才ジェレミー・スコット氏がミラノモードの発火点に変貌させた「モスキーノ(MOSCHINO)」。今回は米国のバービー人形に着想を得て、さらにウィットフルなランウェイショーに仕上げた。全身ピンクのショート丈トップス×ミニスカートのルックはブランドロゴで埋め尽くされた。スタッズだらけのノーカラー(襟なし)ジャケット、総メッシュのセットアップなど、過剰とも映る高濃度演出でエナジーを注ぎ込んだ。
惜しむそぶりもなくアイデアをあふれ出させた。ジャケットの上からビキニを重ねるスタイリングも披露。まばゆいゴールドのトレンチ風アウター、マルチカラーの特大ドット柄を配したワンピは押し出しが利いている。ノーニュークス(反核)シンボルやスマイルマーク、ビッグリボンなどのアイコンを多用。太めのチェーンはベルトやネックレスに用いて反骨をいたずら混じりにささやいた。
ミラノモードをリードするエンジンにまで成長した「エムエスジーエム(MSGM)」は、プレイフルなキツツキ鳥を服に舞わせた。足首にもフェザー(羽毛)を配して鳥ののどかで自由なムードを呼び込んだ。その姿と響き合う「FREEDOM」のレターメッセージもポジティブな気分を印象づけた。「MSGM」の4文字をバラバラにしてちりばめたロゴ尽くしの演出には、ブランドの成功に裏打ちされたデザイナーの自信がうかがえた。
スリップドレス、ミニ丈ドレスなど、若々しいシルエットのワンピースをそろえた。チュールやレースを重ねたワンピは「透け×透け」のミステリアスな風情が目に残る、手の込んだ仕立て。襟なしのコートは黒のトリミングで上品な顔立ちに仕上げた。Tシャツやフーディーなどのストリート要素を巧みにドレッシーな装いに落とし込んで、ラグジュアリーとスポーティーの融合に深みを見せた。軍服風ポケットを備えたジャケットも披露し、ミリタリーにもしっかり目配りを利かせていた。
◆パリコレクション
ブランド誕生から125周年の「ランバン(LANVIN)」は、ファーストルックで禁欲的なまでにミニマルな、ワンショルダーのロングドレスで「エルバス・ランバン」らしい仕立ての精度を見せつけた。しかし、全体にドレープの音楽を奏でながらも、随所に変革を持ち込んだ。しつけ糸を残し、裾を裁ちっぱなしで放置したような「仕立て途中」風の演出は針仕事へのオマージュとも映るいたずらっぽい仕掛け。トレンチコートは布が波打ち、テイラードジャケットはオーバーサイズ気味。セオリーをずらし、予定調和を崩す「不ぞろいの美学」がランウェイを包んだ。
アイコン的なドレスにとどまらない間口の広さを示した。バイカージャケット風のアウターにはロックの気分が宿った。フィッシュネットとレースと組み合わせた透け演出にも、エレガンスの枠に縛られないクリエーション意欲がのぞく。刺繍を筆頭にした職人仕事のニードルワークをあちこちに施して気品を香らせることも忘れていない。バッグのストラップを手首に交差して巻き付ける持ち方はフォロワーが現れそう。首から提げる板レリーフ風のアクセサリーも面白い見栄え。ジャポニズムを感じさせる金蒔絵風の装飾もあでやかだ。
細かく透かし目を配した模様レースでクラシカルとボーホーを同居させた「ヴァレンティノ(Valentino)」。ワンピースの全体に丁寧なレースを施しエアリーで官能的な装いにまとめ上げた。オールホワイトのレースワンピは清楚で涼やか。エプロンドレスにはコケットが潜む。レースと重ねたグラデーション配色でリズムを乗せた。図案化された花柄モチーフはややサイケデリックに彩られ、着姿をダイナミックに弾ませた。
シャツドレスやエプロンドレスなどで、ミニ丈ワンピースのバリエーションを示した。丸みを帯びた大襟を添えた、ネイビーのロングアウターはレトロなたたずまい。ミリタリー風ショートパンツや極太フレアパンツとのセットアップも試した。5段ラッフルがあでやかなティアードドレスの総花柄ワンピースは色とフラワーモチーフが華やかに交錯。ロングドレスもタペストリーを写し取ったかのように絵画的な景色。ヒトデやサンゴといった海の生き物もドレスに息づいた。極細のストラップを何重にもすねで交差させたシューズが脚のヌーディーを際立たせていた。
(左から)Saint Laurent 、 Dior
「ロッククチュール」を究め続ける「サンローラン(Saint Laurent)」は1970年代グラムロックのきらびやかさをまとわせた。ミニ丈ワンピースをキーアイテムに据えて、ロックスターに憧れるグルーピーを連想させるテイストを打ち出した。ファーストルックは紅白で彩った花柄ミニワンピの上から、迷彩柄のアウターをオン。コンパクトなバイカージャケットや、カットオフしたデニム・ホットパンツで小ぶりでアクティブな着姿に見せている。スネーク模様のスカート、レオパード柄のネッカチーフもレトロロック濃度が高い。
きらめきパーツを銀河のようにまぶしたボウタイ・ブラウス、真ん丸バックルのスタッズベルトでグリッター感を押し出した。厚底シューズにもキラキラ演出を施した。トップが平らなカンカン帽風ハットが細身仕立てのジャケットにマニッシュを共鳴させつつ、黒ストッキングで妖艶さを誘い込んだ。スターモチーフや水玉、細ボーダーなどのアイキャッチーな柄を多用。和風柄も見せた。ミニワンピは胸元を深々と切れ込ませ、挑発的なセクシーを演出。ブラック主体のレザーや縦縞のジャケットを重ねてクールでグラムに引き寄せている。
「ディオール(Dior)」は白を主役にモノトーンの装いへ誘った。純白のノースリーブにホワイトの細身パンツで合わせストイックな「白無垢」感を印象づけた。色数は抑えながらも、スモック風の温和なふくらみや、ハイネック、たっぷり袖などの異形フォルムで動きを出している。タイトなタンクトップと、ウエスト下を過剰に張らせたボリューミースカートの強弱コンビネーションは朗らかなめりはりを利かせていた。コートやブラウスを融合させたをような白のロングワンピースはボディーラインを拾わず、別の輪郭を描き出している。
指先、爪先の見せ方にウィットを潜ませた。手の第2関節まで隠すロングカフスはトリッキー。厚手の柄物ニットソックスと一体化したような靴もやさしげな表情。アウターのようにも映るスーパーロング丈のジレではフロントに小ぶりのボタンを何十個も連ねた。ジャケットの正面を斜めに打ち合わせ、おへそゾーンに三角形の隙間をこしらえる仕立て方も目新しい。ドローストリングス付きのバミューダパンツはくつろいだ雰囲気。ベルトの端を余らせ長く垂らす小技もリラックス感を寄り添わせていた。
ブラックをキートーンに据え、ゴシックとロックを響き合わせた「ジバンシィ(GIVENCHY)」。ミニ丈ワンピースと黒革ニーハイブーツを組み合わせ、ダークロマンティックを薫らせた。ブーツはスニーカーのように正面で紐を幾重にも交差させて足首ゾーンに素肌をのぞかせている。この紐の交差ディテールはニットトップスのフロントでも繰り返された。肩口、デコルテ、胸元もヌーディーに整えて、上半身をコンパクトに見せている。
古代ローマの剣闘士(グラディエーター)風の短冊状レザーを腰から下にたくさん垂らした、黒革仕立てのミニドレスはゴシッククチュールの趣が深い。ペザントドレス風に胸が広く開いたワンピや、ひじから先が優美に広がったミニドレスにもゴス感が漂う。十字架モチーフもあちこちに落とし込まれていた。襟なしアウターは正面がショート丈で背中側はロング丈という前後丈違いのアシンメトリー。身頃と袖を縁取るようにアイレット(鳩目)を配し紐を通して古風なムードを醸し出している。黒と白の太ストライプ、スタッズの縁取りも目に残る。
「アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)」はジャパネスク色に染まった。梅や桜、牡丹といった和テイストの柄・紋様がキーモチーフに選ばれた。角張った着物風シルエットに加え、和服ライクなカシュクールの打ち合わせも登場。直線的な袖形も和服に通じる。ワンピースの袖の内側には深いスリットが切られた。しかし、着物の風情は、黒主体のややゴシックな気配を帯びたジャケットやワンピースに写し取られていて、エキゾチックな東西ミックスムードが生まれている。
太い黒革のハーネスを身頃に走らせ、スリリングな「緊縛感」を呼び覚ました。ハーネスで四角く囲むような格好で大胆に胸ゾーンで窓を開け、素肌をさらしている。シースルーやブラトップ、チラ肌見せとも組み合わせて、抑制の利いたエロスを引き出した。満開の桜の木をそのまま着込んだかのような、花びらモチーフで腰から下を埋め尽くした立体的スカートは和の美意識をシンボライズ。黒革のロングコートにも紅白の和花柄を乗せ、手には筥迫(はこせこ)風な角張りクラッチバッグを握らせた。
レースや刺繍に象徴される精緻なニードルワークを打ち出す作品が目に付いたのは、2015年春夏シーズンの傾向を物語る変化と言える。クチュール感やロマンティックムードを前面に押し出すブランドが相次ぎ、華やいだ。コートやブーツといった秋冬の定番的アイテムが春夏に移植される「シーズンレス」の流れは太くなり、クリエーションの余地はさらに広がった。ロックの浸透、ミリタリーの広がり、シルエットの変容などを通して、パリ、ミラノ両コレクションは全体に、デコラティブ(装飾主義)の再来とエフォートレスの進化を予感させた。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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