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2000.03.14

【2025秋冬パリハイライト3】フェミニンなパワーショルダー、フローラルモチーフ、レース

写真左から「シャネル」「ルイ・ヴィトン」「ラコステ」「クロエ」

 

 昨今のパリコレクションはトレンドを掴みにくい、と前回の記事で言及したが、ボックスシルエットやパワーショルダーの流れは相変わらず続いている。ショールームで実際に目にすると、肩パッドの厚さが尋常ではない。ただ、肩からなだらかに下がったようなフォルムに仕立て、フェミニンさを失わないように工夫が施されている点が特徴的。また、秋冬であるのに華やかなフローラルモチーフをあしらったドレスや、レースやチュールで透け感を出したアイテムも目立っていた。

 

ラコステ(LACOSTE)

Courtesy of LACOSTE

 

 ペラジア・コロトロスによる第三回目の「ラコステ」のコレクションは、昨年の初コレクションと同じく、ローラン・ギャロス内のフィリップ・シャトリエ・コートを会場に新作を発表した。ただ、今回はコート内に観客席とランウェイを設置し、より間近に服を見せる演出だった。

 

 ブランド創始者、ルネ・ラコステへのオマージュが続くが、今季は特に1930年代のルネ・ラコステを取り巻く社交界での人間関係と、社交界を行き交う人々の装いに着目。トップ部分をタイトに、ボトムをバギーにする1930年代スタイルでまとめている。

 

 綿入りのスタンドカラーのコートでスタート。首元には半立体のワニのブローチがあしらわれている。ジャケットの多くにも、袖口に半立体のワニがあしらわれ、遊び心を感じさせた。アイコンのポロシャツは、サテンで立体的に仕立てられ、テニススカートイメージのプリーツを飾った「ランランバッグ」をコーディネート。ラケットケース風のバッグや、ラケットケースと一体型のバッグも目を引いた。

 

 ワークウェア風のセットアップには、トーナメントメダルを飾ったシューズレース風のベルトを合わせている。トーナメントメダルのモチーフは、ニットプルのアップリケとなり、今季の象徴的モチーフ。レインコートにはRENEの文字をあしらったスクエアのロゴ。このロゴは、ニットプルやポロシャツにも使用され、各アイテムをグラフィカルに見せていた。カラーパレットも特徴的。ホワイト、クリーム、キャメルに、ワニのロゴを思わせるブラックグリーン、そしてパープルがかったピンクがコレクションのアクセントとなり、全体を華やかなものにしていた。

 

バレンシアガ(BALENCIAGA)

Courtesy of Balenciaga

 

 アンヴァリッドの特設会場に迷路のような客席を設置してショーを開催した、デムナによる「バレンシアガ」。「バレンシアガ」のアーティスティック・ディレクターに就任して10年を迎えるデムナは、皆が着て美しく見えるスタンダードなものへのこだわりを見せた。

 

 それはファーストルックのシンプルなスーツに現れ、試行錯誤の上、スリーブがやや太めの、肩が前に入ったジャケットが生まれた。ジャケットにはオデットスカートを合わせたり、スーツ全体に虫食い加工を施したり。コートもオデットラインに仕立て、フェミニンな要素を加えている。

 

 汚しを掛けたブルーのフーディドレスは、クリストバル・バレンシアガのウェディングガウンからインスパイア。後半に登場したコートドレスも、クリストバル・バレンシアガのクリエーションからの影響を見せた。クチュールの要素は随所に見られ、全て手縫いのスウェットや、慌てて着たことで間違ってタックインしてしまった状態を表現したロングドレスなどにも現れている。

 

 モータースポーツに特化した企業、アルパインスターズ(ALPINESTARS)とコラボレーションしたヘルメットと共に、今季フィーチャーされたのが「プーマ(PUMA)」との共同制作のアイテム群。着古したかのようなウォッシュ加工のジャケットや、レザーのボンバースなどが登場した。

 

 ナンセンスな水着をイメージしたという、スイムウェアインスパイアのスパンデックス製ドレスもユーモラス。ヴェトモン時代から、様々なタイプのリアルな人々からインスパイアされて来たデムナだが、今季もあらゆるタイプを網羅し、それぞれのスタンダードを創り上げていた。

 

ロエベ(LOEWE)

Courtesy of LOEWE

 

 インスピレーション源となったアート作品と共に服を見せるという目的で、ポッゾ・ディ・ボルゴ館を会場にプレゼンテーション形式でレディースとメンズの最新作を発表したジョナサン・アンダーソンによる「ロエベ」。23もの部屋には、ランダムに集められた新旧の作品と、それらにインスパイアされた服を展示。クリエーションの源泉と成り立ちを容易に紐解くことのできる、新たな提示方法を編み出していた。

 

 レイディ・チャーチマンによるペイント作品を床に置いたフロアでは、作品の色に影響を受けた作品を展示。スライスレザーのジャケットや、チューブ状にしたシルクシフォンにパールを詰め、その上から熱を加えて粒の形状を固定したパーツで構成したドレスなどが目を引いた。

 

 ワイヤーを内蔵させたドレーピングドレスや、トップとボトム全てが一体型になったトロンプルイユのシリーズ、ポプリンとレザーをミックスしたシャツジャケットなどは、巨大なリンゴのオブジェを飾った部屋に展示。

 

 今季、特に印象的だったのが、ヨゼフ&アニ・アルバース財団とのコラボレーション作品。ヨゼフ・アルバースによる「オマージュ・トゥ・ザ・スクエア」シリーズからインスパイアされたカラーブロックのマルケトリー(象嵌)・ビーズ刺繍によるバッグやスカート、アニ・アルバースのテキスタイルからインスパイアされたコートが発表された。特に後者は、コモ湖の繊維工場に特注したファブリックを用い、更に刺繍を施して仕上げている。美術品や工芸品の域に達しているアイテムの数々に驚かされる。

 

 その他にもアンシア・ハミルトンによる巨大なカボチャのオブジェ作品や、ジジフォ・ポスワによる花瓶、須田悦弘による朝顔の木彫、桑田卓郎による陶器など、大小様々な作品が展示されていたが、それらが服やアクセサリー類を新たな次元に導いているかのようだった。

 

ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)

Courtesy of Louis Vuitton

 

 1996年まで使用されていたアムステルダム行きの列車、エトワール・デュ・ノールの駅跡を会場にショーを行ったニコラ・ジェスキエールによる「ルイ・ヴィトン」。出会いや別れなど、様々な感情が交錯するプラットフォームでの様子を投影し、19世紀の列車の旅をイメージした。

 

 列車での1日を時間帯のイメージに合わせて表現。ニットを合わせたセットアップはデイウェア、デボレ素材のドレスはディナー用。個室でくつろぐためのアイテム、ランジェリードレスにはサテンのパネルをあしらい、19世紀のドレスを思わせるラインストーン刺繍のドレスは、スウェットのディテールを加えてリラックスしたムードに。

 

 ヘッドドレスは造形的でシンプル。1930年代のオリエント急行に乗る人々の装いを想起させた。今季は特に、1910年に発表された初のトラベルクロックを元に誕生した、1988年にイタリア人デザイナー、ガエ・アウレンティによってデザインされたトラベル・ウォッチ「LVII」を復刻。ブランケット、クッション、カンテラ風のランプなども、旅を想起させる重要な演出素材。

 

 古き良き時代からのインスピレーションをレトロフューチャーに変換。ニコラ・ジェスキエールらしい新たな局面を見せていた。

 

シャネル(CHANEL)

Courtesy of CHANEL

 

 届けられた招待状の箱の中には、傘下の工房ルマリエによる黒のシルクリボンのボウ。会場となったグランパレに、大きなリボンを巡らせてショーを行った「シャネル」。オートクチュールの象徴でもあるリボン結びは、メゾンの威厳を印象付け、最高峰の技術と素材に裏打ちされた美しいルックの数々に息を呑んだ。

 

 シンプルな黒のツイード製スーツでスタートするも、チュールのレーシーなタンクトップドレスを合わせて、新しいルックに仕上げている。その後もツイードのスーツは登場するも、チュールのケープが重ねられていたり、パフスリーブのドレスが重ねられていたり。重厚感あるスーツにエアリーな空気感をまとわせていた。

 

 色とりどりのツイードのスーツ、モノクロームのドレスといった、「シャネル」らしさを具現化させたルックと共に、カジュアルなダウンジャケットやデニムアイテムを交えてコレクション全体をモダナイズ。ダウンジャケットには黒のリボンをあしらい、デニムのトップスはグラデーションに仕上げて、目を引くようなアクセントを加えていた。

 

 ショー中盤からは、黒のリボンは様々な形で登場。ケープの首元にあしらったり、パールでトリミングされたり、パンツのフリルにあしらったり。そして白いリボンは、ニットにあしらわれたり、プリントで表現されたり。バリエーション豊かに見せている。

 

 コレクション全体をポップでキャッチーなものにしたのが、パールをあしらったチェーンネックレスやバッグ、そして大粒パールヒールのシューズ。華やかなアイテムをより一層愛らしく彩っていた。

 

ウジョー(Ujoh)

Courtesy of Ujoh

 

 ランウェイにスクールチェアをセットしてショーを行った、西崎暢による「ウジョー」。自身が学生時代を過ごした1990年代のスクールファッションから着想を得て、制限の多い制服やテーラードの世界を再構築し、新たなファッションに生まれ変わらせた。

 

 校則を掻い潜り、プリーツスカートの丈の短さやルーズソックスにこだわりを持っていた時代にイメージを求めたルックでスタート。プリーツスカートはアシメトリーに仕上げ、ブレザーには切込みを入れて、インナーのラガーシャツ風のオーバーサイズニットを見せ、ルーズソックスからインスパイアされたヤク素材のレッグウォーマーをコーディネート。そして、校章風のブランドロゴのバッジを合わせている。

 

 セーラーカラー風の付け襟を合わせたルックは、優美なシルエットを見せ、ニット製のポンチョをマフラーのように合わせたコートルックは、アンバランスの中にバランスを感じさせる。

 

 リサイクルポリエステル素材の人工羽毛「エアーフレイク」を入れたサテン地のキルティングのコートも、やはり冬服からの着想。スカートに仕立ててアシメトリーのニットと合わせたり、リボンテープをファーのよう織ったジャカード素材と合わせてコートに仕上げたり。

 

 学生服のコードを用いながらもしっかりとモードに昇華させ、窮屈な世界に自由な空気を送り込むかのようなコレクションとなっていた。

 

 パリコレクションを主催するパリ・オートクチュール組合の公式カレンダー上で、メンズコレクションを発表する日本人デザイナーは全体の2割となっている。ウィメンズでは、その占有率は低くなるものの、1割が日本からの渡仏組である。

 

 フランスでは、日本文化へのリスペクトが伝統と化していて、ひいき目に見ている部分が無くはない。ただ、そんな中で日本人デザイナーだけが特別扱いをされているわけでもないはずである。移ろいやすいファッションにあって、実力が無ければパリコレクションに参加し続けることは出来ず、フランス人によるリスペクトの意欲も長続きしないだろう。

 

 この目覚ましい日本人デザイナーの活躍を支えるものは一体何なのか。既にメンズコレクションのハイライト記事でも言及しているのだが、その答えの一つとなるものが、東京都と一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構が主催するTOKYO FASHION AWARDである。海外進出をサポートするためのアワードであり、パリ市内で行われる合同展示会、showroom.tokyoを開催している。それらを足掛かりに、「ダブレット(doublet)」や「キディル(KIDILL)」など、パリコレクションでコンスタントにショーを発表するに至ったデザイナーは多い。

 

 今季のshowroom.tokyoでは、今年のレディースの受賞者である「リブ ノブヒコ(RIV NOBUHIKO)」、「サトル ササキ(SATORU SASAKI)」、「ハトラ(HATRA)」、「タン(TAN)」の4組と、昨年の受賞者である「タナカダイスケ(Tanaka Daisuke)」と「ミスターイット(mister it.)」が参加。展示会場では、東京で大きな存在感を発揮する「ミスターイット」の砂川卓也と話す機会を得た。「メゾン マルタン マルジェラ(Maison Martin Margiela)」でのキャリアがあり、その実力は推して計ることが出来るのだが、丁寧に仕立てられた服を目の前にして、日本人らしい繊細な感性が見て取れた。

 

 TOKYO FASHION AWARDは、今後の活躍が確実となる才気あふれるデザイナーを的確に選出しているのだとあらためて感心させられる。そうして、日本のファッションに大きな期待が集まるのは、実は当然のことなのかもしれない。パリの合同展示会を通して、そんなことを思ったのだった。

 

取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
画像:各ブランド提供(開催順)

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