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2024.06.21

【2025春夏ミラノメンズ ハイライト2】軽さや柔らかさ、素材や仕立てを追求するこだわりのブランドたち

写真左から「ゼニア」「トッズ」「ブリオーニ」「ダンヒル」

 

 今シーズンのミラノメンズでは、戦争など様々な問題を抱える今の暗い時代に楽観主義や優しさを求める傾向が見られ、多くのブランドが海、島、旅など楽しいテーマを掲げた。その舞台としては特にイタリアを意識しており、イタリアが誇る美しい自然(特に海)や文化がイメージ源になっている。パンデミック収束以降、イタリアは空前の観光ブームだが、それによって改めてその魅力を再発見したかのような、ポジティブで無邪気なイタリア礼賛だ。

 

 または、子供のころからの個人的な思い出が出発点になっている場合もある(いずれにせよ、イタリア人にとっては海=バカンス=楽しい思い出なのだ)。そして、自由を謳うブランドや、人との出会いや距離感の近さ、といった人間らしい部分がコレクションに影響を与えているブランドが多かったように思う。自分の感情のままに、自由で、ノンシャランなスタイルがムードとなりそうだ。

 

 それを象徴し、カラフルな(特にペールカラー、シャーベットカラー、そして自然を連想させるような)色使い、鮮やかでポップなプリント、軽くて上質な素材、そしてイタリアらしい職人技がキーワードとなっている。開襟シャツやシャツジャケット、ショーツ、ドローストリングスパンツなどリゾート感のあるリラックスしたアイテムが多い。またスーツやネクタイの復活も見られるが、特に気になったのはジャケット、シャツ、ネクタイを同生地で合わせるコーディネートする提案だ。

 

 さて、テーラリングは相変わらず強い今シーズンにおいて、ハイライト2では、クラシック系のテーラーブランドや、モノづくりにこだわったブランドのコレクションをレポートする。

 

ゼニア(ZEGNA)

Courtesy of ZEGNA

 

 今シーズンもミラノメンズのフィナーレを飾った「ゼニア」。ショー会場には、今シーズンの主役となる素材、リネンの畑を再現したようなセットが設置された。

 

 “US, IN THE OASI OF LINEN”をテーマに、昨年の春夏に続き、リネンにフォーカス。「全く同じものは世界に二つとなく、特定の条件と場所が重なることで、どんなものでも代わりのない、唯一無二の存在となる」という“多元性”がサブテーマになっており、同じように見えるものを身につけていても、一人一人の個性でオリジナルのスタイルを作ることを提案する。それを実現するには、織り方や編み方によって、柔らかさと張り、手触りなど様々な表情を作ることができるリネンは最適だ。

 

 オーバーシルエットのコートやジャケット、スレンダーなロング丈のブレザー、切り込みのない襟が特徴的なニットシャツやテーラードスタイルのオーバーシャツ、そしてアイコニックな「イルコンテ」ジャケットは、アウターやレザーウェア、ジャケット、ノースリーブのジレなど、複数のバージョンが登場した。バリエーション豊かなジャケット類が揃う一方で、今シーズンはスーツが復活していたのが印象的だ。プリントの開襟シャツやメッシュやプリントをあしらったポロ、ショーツやゆったりしたパンツなど、リゾート感の漂うアイテムも。そして足元は新作「モカシン」で統一した。

 

 グローバル・アンバサダーのマッツ・ミケルセンがランウェイのフィナーレを飾り、ショーの後にはモデル達がランウェイに残って、間近でルックを披露するというお馴染みの演出がなされた。そして今回も製品を近くで見ることで、また改めてその質の良さを実感させられた。

 

ダンヒル(DUNHILL)

Courtesy of DUNHILL

 

 サイモン・ホロウェイによる2回目のショーとなる今回、ミラノを発表の場として選んだ「ダンヒル」。2月に行われた初のコレクションでは英国流クラシックの王道を繰り広げたが、春夏コレクションでは英国らしさを追求しつつも軽さやリゾート感を加え、紳士のワードローブの進化系と言えるコレクションとなっている。

 

 テーラリングでは、グレンチェック、ウインドーペーン、ヘリンボーンなど英国の伝統的なパターンを、軽い素材で仕立てたジャケットやスーツが登場。一方、アウターでは、モートリティーズ時代のアーカイブからインスピレーションを受けた、撥水加工を施したダブルフェイスのリネンのカーコートやドライビングジャケットなど。同様にアーカイブからの連想から生まれたレザーグッズたちや、傘、ドライビンググローブからも英国の上質なエレガンスが漂う。

 

 バーリーブルー、コーラルレッド、ブリティッシュタンなどの遊び心のあるカラーパレットも加わり、クラシシズムへの回帰を強調すると共に、今のムードで「ダンヒル」を進化させている様子がうかがえる。

 

ブリオーニ(BRIONI)

Courtesy of BRIONI

 

 「ブリオーニ」は、”Living elegance (エレガンスを生きる)”というテーマで、18世紀に建てられた新古典主義の建物、ボロメオ・ダッダ宮の中庭にてプレゼンテーションを行った。

 

 今シーズンも「ブリオーニ」が重要視するのは軽さだ。その軽さと「ブリオーニ」のエレガンスを現代のライフスタイルにおけるシチュエーションに合わせ、サルトリアのノウハウを各アイテムに活かしつつ、ノンシャランな着こなしで表現する。テーラリングではシャツ、ジャケット、そしてネクタイまでもスーツと同素材で仕上げたスーツスタイルを提案。アンコン仕立てのブレザーや脱構築的シルエットのトレンチコートやブルゾン、軽いレザーナッパのジャケットやパンチング加工を施したスエードのジャケットなど、ビジネスシーンでもプライベートでも使えるようなアイテムが揃った。一方、イブニングではニットのディナーシャツや、約10,000個のビーズに手作業でシルク糸の刺繍を施したディナージャケットなどが登場。

 

 カラーパレットは、スクオラ・ロマーナ(ローマ派)の画家たちが使った色からインスパイアされたブラウン、グレー、ブルー、ブラックに、アクセントとしてアクアグリーンとインテンスブルーなどを使用している。また、1952年にピッティ宮殿のサラ・ビアンカ(白の間)で開催された初のメンズ・ファッションショーを讃えて、白を基調としたルックのコーナーも設置されていた。

 

 全体的に軽さがテーマになっている今シーズン、常に軽さと心地よさを追求してきた「ブリオーニ」はまさに本領発揮というところ。質や機能性を損なうことなく、どこまで軽く美しく作るかの挑戦を続け、そしてその成果が毎シーズン、形になって表れている。

 

ラルディーニ(LARDINI)

Courtesy of LARDINI

 

 いまや発表の場をピッティから完全にミラノに移した「ラルディーニ」は、今シーズン、ポートレートホテルのバーでプレゼンテーションを行った。緑あふれる中庭には8人のフィッティングモデルたちが。前回よりもさらに見せるルックを減らしてあくまでイメージを伝える戦略を強化し、きっと膨大に用意されているであろう他のピースはショールームにて見せる仕組みだ。

 

 今シーズンのテーマは“軽さ”。コレクションノートには「人生を軽く考えなさい。軽さとは表面的なものではなく、上から物事を滑空することであり、心に岩を置かないことだからです」というイタリアの作家、イタロ・カルヴィーノの言葉が書かれている。「ラルディーニ」が考える“軽さ”とは、この言葉にあるような「重きをおかないことの重要性」であり、「仕立ての完成度や洗練された素材の探求を放棄することなく、形、量、比率、色によって美的かつ倫理的な軽さを追求する」ということだそう。世界的に難しい状況にある今の時代、辛い思いをしている人々も多い中、攻撃的ではない優しく柔らかいコレクションに仕上げたとか。

 

 具体的なインスピレーション源はフレンチ・リヴィエラ。そのゆっくりとしたリラックスしたリズムが、アンコンジャケットやゆったりしたタック入りパンツ、開襟シャツなどで表現される。スーツだけでなく、シャツやジャケットと同じトーンの新しいネクタイのコーディネートや、トップス、ポロシャツ、カーディガンのセットアップも提案。色はマリンブルー、セージグリーン、アンティークピンク、乳白色、クラウドグレー、サンドベージュなどのパステルカラーを多用し、リネン、シルク、リネンシルク混やリネンウール混などの流れるような感触の生地を使って仕上げている。

 

 ファクトリーブランドから完全に脱却を果たした「ラルディーニ」。スタイリッシュ路線へのシフトはますます続くが、その根底には確かなモノづくりがある。

 

トッズ(TOD’S)

Courtesy of TOD’S

 

 今シーズンは以前ウィメンズのショーでよく使っていたPAC(現代美術館)にて展示会を行った「トッズ」。入り口部分には、マッテオ・タンブリーニによる初のメンズ コレクションを纏ったモデルたちがずらりと並び、奥の会場にシューズのコレクションが置かれた。そして前回に続き、会場では職人が作業をする様子を手の部分だけ見せるインスタレーションが行われていた。

 

 今シーズンのテーマは、“アーティザナル・インテリジェンス=職人知能”。 一般的にはAIといえば人工知能のことだが、「トッズ」における AIは職人の知恵。つまり、職人が長年に渡り蓄積してきた知識であり、人間がプロセスの中心となる有益なツールだと考える。

 

 それを象徴するのが、パシュミナのように柔らかく軽く、上質なシルクのような手触りを想起させるレザーのセレクション、パシュミープロジェクトだが、これが今回の新コレクションのアウターウェアのラインナップとして登場する。パッチポケットを備えたスエードジャケットや。メンブレンを二重にしてヒートシールしたスエードのブレザーやシャツジャケットなど。アイリッシュリネン製のデコンストラクトスーツや防水リネンのジャケットも揃った。またシューズではゴンミーニのサボのシリーズがデビューし、バッグではディーアイ バッグの新作「ディーアイ バッグ サック」がキャンバスやレザーの様々なバリエーションで登場する。

 

 人工知能を利用することの恩恵はあるが、職人技と職人の知恵に対する価値観こそ維持すべきものだということを示唆する今回のテーマ。職人技があるからこそ仕上がった質のよいコレクションがそれに説得力を与えていた。

 

セッチュウ(SETCHU)

Courtesy of SETCHU

 

 今シーズンの「セッチュウ」は、ギャラリーを会場とし、コレクションのルックブックの撮影風景をそのままプレゼンテーションとして見せるという演出。ギャラリーは普通に営業しており、2階が撮影セットに、3階ではその様子をモニターで見られるようになっている。

 

 テーマは”Playful functionality & Functional of playfulness(遊び心のある機能性と遊び心の機能)”。いつも一枚の折り紙からクリエーションを始める桑田悟史だが、今回は紙を途中までカットし、折り曲げたものが着想源。ここから生地の裏側を見せたり、様々なベルトやストラップ、フック によって長さや着方を変えるというアイデアに行きついた。

 

 代表的なのは、フックを全て留めると何もディテールがないように見えるが、隠されたフックを少しだけ外しインナーや肌を見せたり、フックによってパンツはフルレングス、クロップト、ショーツへと、アウターはコートからジレになるという、まさに遊び心ある機能性アイテムだ。また、ジャンプスーツは、袖を通さず背中や胸下で結ぶことでブランドらしさのあるGEISHAドレス風への展開もできる仕様に。今シーズンは友人のアーティストのルイ・バラタメリーによる、日本の歴史にインスパイアされたマンガのような特別なアートワークのプリントも登場した。

 

 オリジナルの素材開発もさらに進み、サトウキビの搾りかすと和紙の紡績糸によるデニムやチノシャンブレー、先シーズン登場したマシーンウォッシャブルカシミア、傘に使われていたオリジナルナイロン素材は大ぶりのトレンチとパッカブルハットとして登場した。

 

 今シーズンも「セッチュウ」の快進撃は続く。会場には有名バイヤーやジャーナリストなど海外の重鎮も訪れており、ますます注目度が高まっている様子が感じられた。

 

取材・文:田中美貴

>>>2025春夏ミラノメンズコレクション

 

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさわった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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