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2024.06.20

【2025春夏ミラノメンズ ハイライト1】自由と楽観主義を謳うミラノの先端モードブランド

写真左から「グッチ」「プラダ」「モスキーノ」「エムエスジーエム」

 

 2024年6月14~18日、「ミラノメンズ・ファッションウイーク」が開催された。イタリアファッション協会の発表によると、20のショー(うち4ブランドがデジタル)、43のプレゼンテーション等、全89のイベントを開催。アードリアン・アピオラッザによる初のメンズコレクションとなる「モスキーノ(MOSCHINO)」でスタートし、前回同様「ゼニア(ZEGNA)」がフィジカル発表日のフィナーレを飾った。今シーズンは、通常ロンドンで発表している「マーティン ローズ(Martine Rose)」がミラノでショーを開催し、2月にロンドンで初コレクションを発表したサイモン・ホロウェイによる「ダンヒル(DUNHILL)」もミラノへ。

 

 そんなミラノファッションウィークのハイライトリポート、第一弾では、ミラノメンズの先端モードブランドを中心に紹介する。

 

プラダ(PRADA)

Courtesy of PRADA

 

 いつも注目が集まる「プラダ」の会場セットだが、今回は白い小さな小屋からモデルが登場し、曲がりくねったランウェイを歩く仕組み。小屋を出るとおとぎの世界やユートピアが広がるようなイメージだ。今シーズンのテーマは“CLOSER”。「真実と虚像、現実と非現実について考察し、私たちが感じ取るものが実在するかどうかを問い、再考し、間近で観察してみるよう訴える」コレクションなのだとか。アイテム自体はジャケットやニット、トラウザーなどのベーシックなワードローブを揃え、トップはやや短めに、ボトムはローライズでゆったりめのストレートなシルエットのミニマルなデザインだが、遠くから見るのと近くで見るのでは違うトリッキーなディテールが各所に見られる。

 

 例えば、動きによって表面が波打っているような濃淡が施されたポロやシャツ、トロンプルイユでベルトをしているように見えるパンツ、ツイードのように見えて実はプリントのパンツ、そしてレイヤードのように見えて実は1枚になっているニットなど。そして意図的にしわを施したパンツやシャツやパティーナ加工のレザージャケットには使い込まれたような風合いを出し、シャツやジャケットの襟や裾にワイヤーを用いてくしゃくしゃにすることで有機的なフォルムを形成する。またベルナール・ビュフェの絵画がプリントされたTシャツや、全体に大ぶりなジップがあしらわれたユーティリティに溢れるカラフルなジャンプスーツなども登場。このディテールや色使いは新作のバッグにも使われている。

 

 「本コレクションは、ある瞬間、心によぎったアイディアを慎重に、かつ意外な方法で組み合わせた直感的なコレクションです。そのものに命が宿っているような、生きている服を作りたかったのです。無理のない自然さと楽観的雰囲気が漂う服が映し出すもの。それは直感性、熟考の上での選択、そして自由です」とミウッチャ・プラダとラフ・シモンズはコメントする。デザインにおいてはこれまでもしばしば人間の内面や身体への考察を行ってきた2人だが、今シーズンは人間や現実が持つ不完全さを認めて前面に出すことで得られる、解放感や自由を表現した。

 

モスキーノ(MOSCHINO)

Courtesy of MOSCHINO

 

 アードリアン・アピオラッザによる「モスキーノ」の2回目のショー。とはいえ、突然の就任で十分な準備期間のなかった前回は「コレクション0(Collezione 0)」としており、今回のコレクションを「コレクション1(Collezione 1)」と呼んでいるところからも、これがアピオラッザによる本格的な始動と言えそうだ。

 

 テーマは“ロスト・アンド・ファウンド(LOST AND FOUND)”。会場には沢山のトランクが積み上げられたセットが組まれ、旅をイメージしたルックが数々登場。ビジネストリップ風のテーラードスーツのスタイルには沢山のポケットがついてデスクツールたちが覗いていたり、ハート型のアタッシェケースや3つの小さいハットが一つに合体されたハットをコーディネート。またはスーツのジャケットの裾がフリンジになっていたり、床に届きそうな長いネクタイを合わせたり。楽園へのリゾートをイメージした、首から垂らしたネクタイが描かれたシャツとパレオのコーディネートやジャケパンにレイをかけたスタイル、イタリアへの旅を連想させるローマの遺跡やアマルフィ海岸のような絵のプリント、サッカーボールをモチーフにしたニットなど。

 

 ジェレミー時代のエンターテイメント性の高い過剰装飾に比べると控えめだが、一つ一つのルックをよく見ると、それぞれがアイロニーやパロディの小技に溢れていて、近くでじっくり見て手に取って味わう楽しみがある。「ロストした(失った)ものをファウンド(見つける)」とは、今一度、「モスキーノ」を探求する旅でもあるが、次の「モスキーノ」は普通の人が着られる(または着たくなる)方向に向かっているようだ。

 

ディースクエアード(DSQUARED2)

Courtesy of DSQUARED2

 

 テアトロ・リリコという劇場を会場に選んだ「ディースクエアード」。入り口には芝居のパンフレットのように、モデル達の顔写真やショーのコンセプトが書かれた冊子が置かれている。ショーは舞台上に吊るされたケージから出てきたマッチョなダンサーたちによるパフォーマンスでスタート。それに続いてモデルたちが登場し、観客席の間を縫うように歩く演出だ。

 

 テーマは“#D2HEAT”。ブランドがフォーカスするエレガンスとエッジ、柔らかさと強さという二重性を、アンダーグラウンドシーンの様々な要素を混ぜ合わせて表現する。

 

 ボンデージハーネスがキーアイテムとなっており、上にはシフォンのシャツなどの透け感のあるアイテム、またはトレンチやジャケットなどテーラード風アイテムをハーネスだけを付けた素肌に直接着ることで、チラ見せの存在感を発揮する。それに合わせるボトムはゆったりしたタック入りパンツからカッティングの入ったスリムジーンズ、ラテックス加工のパンツまで。大きく胸元の開いたジレやワンショルダーでコーディネートするトップス、透け感のあるジャージータンクトップなど露出度の高いセクシーなルックも多い。そこにレスリング用のタンクトップやボクサー用パンツ、チャンピオンベルトなど格闘技風テイストもプラスされる。

 

 最後にはマスクをかぶり、純白のフリンジ付きジャケットを纏ったモデルが登場。今度はこれらの格闘家ルックのモデルたちがケージに戻ってショーはフィナーレへ。コレクションはいつも以上にセクシーでパワフル、それをいつもながらの趣向を凝らした演出で見せ、ファッションウィーク初日の夜を大いに盛り上げてくれた。

 

エムエスジーエム(MSGM)

Courtesy of MSGM

 

 今年、ブランド創立15周年を迎える「エムエスジーエム」は、それを記念した2025春夏メンズと2025ウィメンズリゾートの合同ショーを発表。街の中心から外れた倉庫で行われたショーでは、ランウェイの脇の白いスクリーンにコレクションのカラーパレットのペンキでブラシストロークを作るインスタレーションが繰り広げられた。

 

 コレクションテーマは“the sea and I.(海と私)”。それを彷彿させるように、インビテーションにもセーラー帽の折り紙が入っていた(ショーではそれを頭に乗せているモデルも)。ポロシャツや開襟シャツ、ウインドブレーカー、バミューダパンツやショーツなど、海を連想させるアイテムが、ターコイズブルー、イエロー、コーラル、ネイビーブルーなど夏らしい色で登場する。

 

 そしてマリンボーダーやひねりを加えたストライプ、フラワーモチーフ、そして様々なプリント、例えばマッシモ・ジョルジェッティが頻繁に訪れる海辺のリゾート地であるラ・ヴェデッタの景色や、ルーク・エドワード=ホールが描いたビーチの若者の絵が使われている。カニやイルカが描かれたサマーニットや「Not A Tourist」という文字が入ったパーカもある。

 

 「リグーリア州の私の家、ラ・ヴェデッタは特別な展望台となり、そこで未来についての私の考えが生まれ、点と記憶が一体となり布の物語となる」とコレクションノートには書かれている。多くのイタリア人にとって海とは幼いころからのバカンスの思い出が詰まった場所だが、そんな海への懐かしい思いとアニバーサリーを機とした次への展望がコレクションに込められているかのようだ。

 

ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)

©DOLCE&GABBANA

 

 ここ数シーズン、トータルブラックのコーディネート中心でショーを発表してきた「ドルチェ&ガッバーナ」だが、今シーズンは色やグラフィックが復活。でも変わらないのは職人技や手仕事へのフォーカスで、今回は色味があることでそれがよりわかりやすくなっている。

 

 コレクションのテーマは“イタリアン・ビューティー(ITALIAN BEAUTY)”。自然の美しさや多様な文化、クラフツマンシップなど、魅力にあふれるイタリアの伝統と美学へのオマージュだ。特にカプリ島、ポルトフィーノ、リド島など、イタリアの美しさを象徴する海や島をイメージし、ラグジュアリーなリゾート感溢れるコレクションとなっている。手織りのラフィアを使ったジャケットやコート、サンゴのビーズ刺繍を施したスーツやシャツなど、工芸品のようなイメージが漂う。テーラードテイストを活かしつつ、かっちりしたジャケットには襟の部分が強調された開襟シャツに、ボトムはアンフォラパンツを合わせ、リラックス感をプラス。マリンボーダーのTシャツやパイピングを施したジャケット、ベルト代わりのバンダナ使いなどで海の雰囲気を強調する。

 

 また職人によって手作業で仕立てられていることの証明として「Handmade」ラベルが付けられており、これは異国の人から見るイタリアのイメージを伝えたいという考えからなのだとか。

 

 「ドルチェ&ガッバーナ」は4月からミラノのパラッツォ・レアーレにて「フロム ザ ハート トゥ ザ ハンズ:ドルチェ&ガッバーナ(From the Heart to the Hands: Dolce&Gabbana)」 展という、過去のオートクチュール作品たちがテーマ別に展示された展覧会を開催中。手仕事とモノづくりの素晴らしさが集結されたこの展覧会からの流れもあって、いつも以上にその職人技に目が行くコレクションだった。

 

フェンディ(FENDI)

Courtesy of FENDI

 

 今回はイベントスペース「スーパーマキシ」にてショーを開催した「フェンディ」。6本の可動式ミラーの柱が移動・回転し光を反射しながらランウェイの回廊を作り出す演出だ。来年、創立100周年を迎えるにあたり、そのプレビューとも言えるような、ブランドの伝統や普遍性にオマージュを捧げるコレクションとなっている。

 

 創業当時に馬具の技法から生まれたセレリアのステッチを、変則的なピンストライプとしてジャガード生地に生かしたり、日本のボロデニムに表面加工したり。またブレザーやニットに施された紋章は、ペカンストライプとFFロゴ、ローマ神話で物事の始まりと終わりを司るヤーヌス、そしてリスといった、ブランドゆかりのモチーフを組み合わせたものだ。ちなみにこのリスは、創業者エドアルド・フェンディが「いつもリスのように忙しく動き回っている」と、妻のアデーレに贈った絵からの着想だとか。

 

 基本的にはベーシックなメンズワードローブを揃えており、多くのルックがタイドアップで一見規則的なイメージだが、シャツやポロの前立ては斜め方向にずらされていたり、袖が切り込まれることで、ユニークなひねりを加えている。全体的にミルク、アイボリー、キャラメル、ペールブルーやグリーンなどパウダリーな色合いが使われ、チェックやストライプなどのモチーフも多用される。

 

 100年の歴史の中から生まれたアイコンを常にモダンにアップデートしてきた「フェンディ」。来年のアニバーサリーにはまたエポックメイキングなアイコンが生まれるのかもしれない。

 

マリアーノ(Magliano)

Courtesy of Magliano

 

 前回はピッティに参加した「マリアーノ」だが、今シーズンはミラノメンズに回帰。街の中心から外れた倉庫でショーを開催した。このコレクションは、マリアーノの子供時代からの思い出がベースになっているそうで、インビテーションは遊園地のcalcinculo(スイングライド)用のトークンになっている(が、calcinculoとはイタリア語で「ケツを蹴る」と言う意味もある)。

 

 またコレクションノートには通常の昔話の始まりとはちょっと違う「ピノッキオ」の冒頭部分、「昔むかしあるところに……『ひとりの王さまがいたんだ!』わたしのちいさな読者たちはきっとすぐに言うにちがいない。いいえ、みなさん、それはまちがいです。昔むかしあるところに、まるたん棒が一本、あったのです」が引用され、「マリアーノ」らしい皮肉や反抗精神に繋がる。

 

 そんなコレクションには全体的にリラックスした懐かしい感じが漂う。オーバーシルエットのシャツやジャケットに、ドローストリングスやワイドデニムなどゆったりしたパンツか、バミューダ、クロップトパンツを合わせる。母や祖母が作っていたのであろうクロスステッチのディテールに幼少期の思い出が象徴される。そしてイタリアの子供なら必ず思い出があるはずのビーチからの連想は、タオル地のコートや水着をイブニングウエアにすることで表現される。そしてイタリアの子供たちは小学校で必ず勉強させられるピノッキオはTシャツのプリントとしても登場。

 

 「マリアーノ」らしいスタイルは一貫して変わってはいないのだが、今シーズンのコレクションはかなりシンプルで控えめなのが印象的だった。

 

ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)

Courtesy of JW ANDERSON

 

 今シーズンの「ジェイ ダブリュー アンダーソン」のコレクションは、ボリューム感や素材、デコレーションにおける実験的なアプローチがなされた。強調されたコクーンシルエットがキーとなっており、球体のようなダウンジャケットやニットが登場。ボトムはショート丈、またはスリムなシルエットでバランスよくコーディネートしている。ボンバージャケットやレザーライダースジャケットもオーバーシルエットで、前後の裾を曲線状に描いて長さに差をつけている。巨大なネクタイや、何重にも重ねたカラフルなスカーフなど誇張されたディテールも印象的だ。また丸いクッションがついたようなトップスや「REAL SLEEP」のロゴの入ったパーカなど、「眠り」にまつわるアイテムも。

 

 さらにイギリスとアイルランドの家が描かれたケーブル ニットとウールのトップスのシリーズや、バック部分がトレインのようになっていたり、ガンフラップ部分がプリーツで誇張されたトレンチコートなど、英国ムードも差し込まれる。 

 

 そしてアイルランドのビールメーカー、ギネスとのパートナーシップによるアイテムも発表。ロゴの部分をパールで仕上げ、ギネスビールのイメージに合わせた黒いパーカや、アーサー・ギネス風の機械刺繍でジョナサン・アンダーソンのサインが入った手編みのインターシャカシミアブレンドヤーンニットが登場する。

 

 多くのイタリアンブランドやイタリア人デザイナーが、イタリアを賛美する今シーズン、孤軍奮闘アイルランド魂で対抗するジョナサン。さすがにギネスとのコラボは意外だったが、すべてにおいて独特なコレクションは見る人を楽しませてくれた。

 

グッチ(GUCCI)

Courtesy of Gucci

 

 今シーズン、「グッチ」はデザイン・建築関連の複合文化施設ミラノ・トリエンナーレ・デザイン・ミュージアムにてショーを行った。5月にもテート・モダンにてリゾートコレクションを発表しているが、これは「どんな人でも受け入れて、皆が自由にインスピレーションを得られ、そして出会いの場所でもある」ミュージアムをサバト・デ・サルノがこよなく愛しているから。「グッチ」は4月のミラノデザインウィークでも、イタリアンデザインの巨匠たちの名作を「グッチ ロッソ アンコーラ(深いレッド)」カラーで彩ったシリーズを発表しており、デザインへの傾倒がうかがえる。ちなみにその時のインスタレーションの装飾に使われていたアシッドグリーンが、ファーストルックを飾るコートを始めとして、今回はコレクションにも各所に登場している。

 

 コレクションは“都市と海辺の出会い”というコンセプトで、海のモチーフやカラフルな色使いをモダンなスタイルと融合させた、自由で楽しいムードが漂う。そこには「自分の服を着た人々が自由な気分になり、歓迎されていると感じてほしい」と言うサバトの思いが表れている。

 

 人を歓迎する=包み込む象徴であるコートは、各所に登場するが、これらは高めの位置にあるポケットや長いスリットが特徴だ。シングルジャケットはストレートなシルエットで、袖の部分にプレスを入れることでシャープな表情を生み出し、ポプリンで仕立てたダブルジャケットは軽くリラックスした印象だ。シャツはゆったりしたボクシーシルエットで、大きなユーティリティポケットが付いていたり、サーファー、イルカ、ハイビスカスなどの海にまつわるプリントが使用されている。それ以外でもジップの部分にもイルカのチャームが付いていたり、海のモチーフは各所に現れる。

 

 またビーズのフリンジを全体にあしらったシャーベットカラーのワークジャケット、トリムにフリンジを入れたり、花模様の刺繍を施したシャツなど手の込んだ装飾も。長袖ポロシャツにはスパンコールを色糸で手編みすることで玉虫効果が生まれ、ジップアップジャケットにはエンボス加工でコーデュロイのように見えるスエードの襟を施すなど、ディテールに職人技が溢れている。

 

 「もっとグッチを愛してほしい」というメッセージを、構築してきた要素を継続したり、リピートしつつ進化させることで伝えてきたこれまでのシーズンだったが、そろそろそれも定着してきた今、サバトの新しい方向性への挑戦が始まった。でもそこには常に、みんなに愛される服作りへの変わらぬ思いがこもっている。

 

取材・文:田中美貴

>>>2025春夏ミラノメンズコレクション

 

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさわった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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