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2022.01.24
【2022秋冬パリメンズ ハイライト1】新解釈ドレスやノマド、モダニティ・・・様々なテーマが交差するパリメンズ前半
2022年1月18日から23日まで、パリにてメンズコレクションが開催された。会期は前シーズン同様6日間で、今季は76ブランドが参加。経費を抑えることのできるデジタル配信が主流であるため、ここ最近の傾向である新規の参加組が目立った。
40万人超と記録的な新規感染者数が報じられる中、今季もフィジカルなショーは少なく、日に2~3のブランドが発表する程度。
屋外ではマスクの鼻出し及びあご掛けは普通で、マスクをしていない人も多い。ショー会場の中でさえもマスクをしていない人は少なからず見られ、それはワクチン接種が進むヨーロッパならではの光景といえるのかもしれない。
1月16日にワクチンパスポートの提示の義務化が決定し、その次の週末には法が施行されたため、会期半ば以降はこれまでのようなPCR検査や抗原検査による陰性証明書ではショー会場に入ることが出来なくなった。今後、デジタル配信とフィジカルなショーの乖離は益々進みそうではあるが、規制が緩和される余地はあり、その状況次第で情勢は変わるのかもしれない。全てはコロナとフランス政府に掛かっている。そんなパリコレクションの現状である。
ルメール(LEMAIRE)
クリストフ・ルメールとサラ=リン・トランによる「ルメール」は、会期2日目にフィジカルなショーでコレクションを発表。19世紀~20世紀初頭に活躍した生理学者・医師のエティエンヌ=ジュール・マレーが考案した連続写真(クロノグラフ写真)からインスパイアされ、遊牧民的な装いを髣髴とさせるスタイルを貫きつつ、服の動きを意識したクリエーションを見せた。
一見シンプルなルックも、生地の流れ方と身体への沿い方が計算されているため、流麗なシルエットを見せる。身体にフィットしたシャツにはバギーパンツとオーバーサイズのワークウェアブルゾンを合わせ、レイヤードのバランスが絶妙。例えオーバーサイズであっても、極端なカッティングは避け、程良いサイズ感を打ち出している。このブランドならではのリラックス感は、そんな組み合わせの妙によるものなのだと実感。
各ルックでは。それぞれのアイテムの重ねとバッグ・シューズといったアクセサリーがハーモニーを生んでいたが、会場に設置された舞台演出家フィリップ・ケーヌによる30メートルにも及ぶ架空の風景のペイントとも、各ルックは見事な調和を見せていた。
アミ パリス(AMI PARIS)
アレクサンドル・マテュッシによる「アミ パリス」は、旧証券取引所だったブロンニャール宮を会場にフィジカルなショーを開催した。招待状は、1975年から2009年まで使用されていた地下鉄(メトロ)とバスの定期券、カルト・オランジュで、パリに住む人々とって郷愁を誘うアイテム。会場の入り口にはメトロの改札機が置かれ、会場内はBGMとして地下鉄構内の音が流されていた。
日々、地下鉄で行き交うパリジャン・パリジェンヌのスタイルから着想を得て、都市における社会的・文化的多様性を表現。メトロを中心に、パリを強烈に意識した内容となった。また、マテュッシの青春時代だった1990~2000年代、つまりはカジュアルなアイテムとゴージャスなアイテムが共存していた時代も彷彿とさせ、モダニティとノスタルジーをバランス良く配している。
アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)
ジョニー・ヨハンソンによる「アクネ ストゥディオズ」は、デジタル配信にて最新コレクションを発表。自身が生まれ育ったスウェーデン北部のラップランドのコミュニティからインスパイアされ、遊牧民のライフスタイルから影響を受けた。
工芸品的なタペストリーの断片をミラーボールのようなメタリックシャツに重ねたり、ムートン製スリーブにパッチワークのベストを合わせたりするなど、全く整合性の無いアイテム同士をぶつけることで、この上ない新しさが生まれている。
オーバーサイズのトップスにバギーパンツを合わせたり、細いシルエットに極端に長いマフラーを合わせたり、プロポーションの遊びを見せる。それらには、先の尖ったシューズや膨れ織りのジャカード素材のスニーカーをコーディネート。一見野暮ったさが漂うものの、「アクネ ストゥディオズ」らしいバランス感覚に裏打ちされたルックの数々に新鮮さを感じずにはいられない。
単体で成立するアートピースのようなルックで構成されたコレクションは、全体を見通すと、それぞれコントラストの妙で貫かれ、強固な統一性が感じられるから不思議だ。
ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)
「ルイ・ヴィトン」は、トンプル市場跡のイベントスペース内でフィジカルなショーを発表。昨年11月に急逝したアーティスティック・ディレクターのヴァージル・アブローによるオリジナルコンセプトを、クリエイティブチームとコラボレーターたちとの協業によって制作した。
コレクションタイトルは“Louis Dreamhouse™”。服を通して大人への成長を辿る物語を展開した。ヴァージルらしいスポーツウェアとフォーマルウェアのミックスを見せるが、今季は仕立服、スポーツウェア、ドレスに広く結び付いたドレスコードを打破する、というアグレッシブな手法を採用し、新たな世界観を創出。
カートゥーンをプリントしたスポーティなブルゾンや、天使のアップリケをあしらったスタジアムジャンパーなど、モチーフが多く登場。その中でも、写実派のギュスターヴ・クールベによる1855年作の画家のアトリエは、ヴァージルの深遠なクリエーションを物語っていたモチーフの一つ。右側には上流階級、左側には様々な階層の人々が描かれた絵を主題に据えることで、そのコントラストを一つのルックの中で浮き彫りにしている。ジョルジョ・デ・キリコによる1914年作の「Souvenir d’Italie」をモチーフにしたジャカード素材のスーツは、完璧な柄合わせでそのシュールリアルな絵の居心地の悪さを見事に表現。ランウェイ上のブルーに塗られた不思議な建物とも呼応していた。
パンチングレザーに刺繍を施してタペストリーのように表現したセットアップやゴブラン織りのようなフローラルジャカードのセットアップなど、クラシカルモダンなルックも印象的だった。
子供が描いたかのような花を飾ったバッグや、動物の耳の付いたキャップなど、ナイーブなアクセサリーをコーディネートすることで、そのコントラストが遊びとなり、心地良さを生み出す。マリエ(ウェディングウェア)とも捉えられる白のシリーズには、レースをあしらった羽が合わせられて天真爛漫さを漂わせ、コレクション全体にオプティミスティックな印象を与えた。
最後にスタジオとアトリエで4年の歳月をヴァージルと共に過ごしてきた人々が登場し、感動的なフィナーレを迎えた。
リック・オウエンス(Rick Owens)
「リック・オウエンス」は、パレ・ドゥ・トーキョーでフィジカルなショーを発表。コレクションタイトルは“STROBE”で、ストロボのようなフラッシュライトが照らされる中、モデルがウォーキングした。BGMはシスターズ・オブ・マーシーの「ライト」で、オウエンス自らメンバーのアンドリュー・エルドリッチにリミックスを依頼したという。
オーバーサイズのダッチェスサテンのコートや綿を入れた造形的なブルゾン、ビッグショルダーのジャケットなど、ビッグシルエットのルックでスタート。顔をすっぽり覆った綿入りのノースリーブブルゾンや、尿瓶を意味する言葉を織ったニットトップという、ドキリとさせられるアイテムも登場。
綿入りのリフレクター素材のブルゾンやゴートヘアをあしらったブルゾンには、ダン・フレイヴィンの作品を思わせる蛍光灯を配したヘッドウェアをコーディネート。このアイデアは、昨年10月のエジプト旅行で巡った神殿と墳墓から着想を得たという。
昨年発表されたレディースコレクションに呼応する形で、ピンクやオレンジのアイテムも登場したが、これらはLWG (レザーワーキンググループ)の認定を受けている2世代続くトスカーナの染色業者に依頼したもの。その他にも、イタリアの伝統を継承し続ける職人の手を経たファブリックを多くあしらった。また環境への配慮も欠かさず、コットンジャージーの全てをオーガニックの認定コットンを採用した。
クレージュ(Courrèges)
ニコラス・デ・フェリーチェによる「クレージュ」は、パリのナイト・クラブのイメージをコレクションに投影。昨年10月に発表されたレディースコレクションが、かつてデ・フェリーチェ自らが参加した屋外のクラブイベントの会場だったことや、その前月に「クレージュ・クラブ」と題したパーティを企画するなど、デ・フェリーチェのクリエーションはクラブシーンと密接に結び付いているようだ。
ファーをあしらったブルゾン、バギーなデニムパンツなど、カジュアルで着易いアイテムが主流。「クレージュ」らしいビニール素材のブルゾンも健在である。その中で、カットを入れて肌を露出したビニール素材のトップスや、肩を露わにしたホルターネックのジャージー素材製トップスなど、クラブで注目を集めるに違いない身体にフィットしたアイテムもミックス。
メンズコレクションと共にレディースのプレフォールも合わせて発表。ルックブックには、スペインのシンガー・ソングライターでDJでもあるBad Gyal、「クレージュ」のオリジナル曲の作曲者でもあるDJのVTSSとSene、振付師のMiles Greenberg、スタイリストのAllegria Torassa等がモデルとして登場。「クレージュ」独自の、ナイト・クラブにまつわるコミュニティが形成されつつあるようだ。
ポール・スミス(Paul Smith)
「ポール・スミス」は イル・ド・フランス地方商工会議所本部にてコレクションを発表した。モノクロームからカラーに変換される映画の転換期からカラーパレットを抽出し、映画界の巨匠たちの作品の表現テクニックに着目。
セピア色やモノクロームなどニュートラルカラーから、カラー映画の出現を思わせるグリーン、ブルー、レッド、ローズピンクなど、今季も色彩豊かだ。このブランドのシグネチャーともいえるフォトグラフィックプリントは、ハリウッドの黄金時代の銀幕スターの顔写真からインスパイアされたもので、サイケデリックな色合いのシャツに、あるいはモノクローム映画時代を思わせる色合いのコートに仕立てられた。サイケデリックなジグザグプリントは、デヴィッド・リンチやウォン・カーウァイといった映画監督へのオマージュで、オーバーサイズのニットやブーツ、綿入りのコートなどにあしらわれている。
シルエットは細身からオーバーサイズまで様々で、またアウターはダウンジャケットやダッフルコート、ボマージャケット、ウィンドブレーカーなど、アウターウェアのバリエーションはこれまで以上に豊富。
スタイリングは「地球に落ちて来た男」のデヴィッド・ボウイ、あるいは「パリ、テキサス」のハリー・ディーン・スタントンから着想を得たそうで、インスピレーションの宝庫ともいえる映画に終始貫かれたコレクションとなっていた。
取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
2022春夏パリメンズコレクション