PICK UP

2022.01.26

【2022秋冬 パリメンズ ハイライト2】日本メンズブランドが放つ力強いエネルギー すべてのブランドがリモートで日本らしさや東京カルチャーを発信

(左から)「ヨウジヤマモト」「メゾンミハラヤスヒロ」「ダブレット」

 2022年1月18日から23日にかけて開催された2022秋冬パリ・メンズ・ファッションウィーク(以下PMFW)。日本人デザイナーたちもPFWMのプラットフォーム内でデジタルでの発信となったが、その存在感を確かに見せつけた。

 

 オミクロン株による感染拡大の影響で、パリでフィジカルのショーを実施する予定だったブランドは東京でのショーに切り替えざるを得なかった。ただ、デザイナーたちはそのような状況でも決してネガティブな表情は見せない。パリに行けないことを逆手にとって、日本の名所や東京らしい場所でショーや撮影を行うことでブランドらしさや日本ブランドにしかできない表現を繰り広げている。ファッションとは力であり、暗く苦しい時でも人々の高揚感を喚起するもの。デザイナーたちのクリエイションが放つ力強いエネルギーが、そんなファッションの原点を改めて感じさせてくれた。

ターク(TAAKK)

 「ターク」は映像でコレクションを発表。テーマは“this nonsensical world we call home(我々がホームと呼ぶこの不条理な世界、という意)”だ。

 

 「自分自身の想像を超えて、先人たちが開拓したファッションの歴史の新しい1ページになり得る服作りとはなにか」そんな自問自答を繰り返しながら紡いだという2022秋冬コレクション。美しくもいびつで多角的な表情を生み出した。

 

 今シーズンは、美しいタイダイのようなパターンが印象的。ブランドらしい、途中で異なる服が侵食し合っていくようなアイテムと融合し、ブランドの世界観を創り上げていく。また、極端に太く広がるパンツや溝が深く大きいサーマル生地のようなアイテムで、コレクションに立体感をもたらした。

キディル(KIDILL)

 末安弘明デザイナーが手掛ける「キディル」は、映像でコレクションを発表した。テーマは“アウトサイダー(THE OUTSIDER)”。アール・ブリュットの作家としても知られる孤高のアーティスト、ヘンリー・ダーガー(Henry Darger)の「終わりこそない人の営みが織りなす芸術的な事項表現のあり方」にインスピレーションを受けた。

 

 ダーガーの遺作となった、15,000ページの小説と数百枚の挿絵からなる「非現実の王国で」のアイコニックな図像をファブリックやグラフィックとして用いた。また、ビビッドでサイケデリックな印象をもたらすダーガー特有のくすんだ紫やイエローは、今シーズンのキーカラーパレットとして強い印象を与える。

 

 そしてそのカラーパレットは、テーラードアイテムやニットウェア、MA-1、ドレスシャツなどにのせ、花の咲き乱れる色鮮やかな自然の中で成長する子どもたちというストーリーを反映した。また、フリルやリボン、チュール、動物モチーフのヘッドピースなどで無垢さを表現しつつ、「キディル」らしいパンク要素も強く打ち出すことで二重性と自己表現の大切さを表していたように思う。

 

 今シーズンもニットは「ルルムウ(rurumu:)」とのコラボレーション。そしてヘッドピースは「カシラ(CA4LA)」、シューズは「ドクターマーチン(DR. MARTENS)」とコラボレーションした。

 

 オフィシャルスケジュールで公開した映像では館の中や庭で遊びや踊りに興じるモデルたちの姿を描き出したが、2022年1月13日には東京・音羽の「鳩山会館」でリアルのランウェイショーも行い、限られた人数のゲストも招待している。

ファセッタズム(FACETASM)

 落合宏理デザイナーが手掛ける「ファセッタズム」は“mui”をテーマに、ショートムービーでコレクションを発表した。日本の山林で撮影されたであろうその映像は、美しい自然が、時の流れと共にますます色気を帯びてくる「ファセッタズム」のアイテムを引き立てる。

 

 ブランドらしいストリート感は保ちつつ、体に沿うラインのパンツや構築的なフリル、プリーツでエレガントさも醸し出す。様々なアイテムを解体し、重ね、再構築させる、その絶妙なバランスが冴えわたっている。トレンチ、チェスター、テーラードジャケットが合わさったようなアウターは力強く、華やかで力強い印象を残していた。また、スケルトンがプリントされたセットアップや、安全反射ベストをイメージしたかのようなポップなバッグなど、「ファセッタズム」流遊び心も各所に忍ばせた。

オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE )

 「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」は、“ア・ワーク・オブ・アーク(A WORK OF ARC)”をテーマに、2022秋冬コレクションをオンライン形式で発表した。テントのような布と骨組みでできている構造物を研究して服づくりに応用したという今回のコレクションは、プリーツの生地に円弧をひいて生まれる新たな立体造形に取り組んだ。

 

 湾曲したポールが支えるテントの造形に着想を得た「ARCシリーズ」は、トップは背中から袖口に、パンツは側面から内側に回り込む曲線の折り目が特徴。湾曲したポールが支えるテントのように、しなやかな立体感を生み出している。テントの骨組みの構造から発想した中綿入りのアウターは、裾部分のアジャスターを調節することによりシルエットを変えることができ、様々な表情を楽しめる。

 

 印象的なのは、テントを透かすランタンのおぼろげな光を表現したプリントシリーズ。柄の組み合わせと色味は大胆で、どこかあたたかみを感じさせる。

 

 第五弾となる「ワクワ(WAKOUWA)」との共同シューズプロジェクト。今シーズンは、細いパイピングが特徴的なローカットモデルをホワイトとブラウンの2色で展開。パンチング加工が施されたシュータンのデザインが新鮮な印象を与えていた。

ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)

 「ヨウジヤマモト」は、青山店でランウェイショーを開催し、その様子を配信した。東京で観客を入れてショーを開催するのはなんと約12年ぶり。今シーズンは、“紳士服の始まり”をテーマにクラシカルなテーラードを「ヨウジヤマモト」流に表現した。ジャケット、ベスト、パンツのスリーピースを軸に、スカーフやタイなどの小物や、襟が二重になったシャツ、ワイドのカバーパンツなどで遊び心を効かせた。デカダンスなムードを醸し出すのが絵画柄。荘厳で夢魔的な作風で知られるポーランドの画家であるジスワフ・ベクシンスキー(Zdzislaw Beksinski)のものだ。同ブランドのアクセサリーライン「ヨウジヤマモト by リーフェ(Yohji Yamamoto by RIEFE)」の十字架や指輪、仮面のアクセサリーも、コンセプトの濃度を増すことに作用した。

 

 ショーには松重豊、加藤雅也、仲村トオル、伊原剛志、三原康可ら人気俳優5人がモデルとして登場した。

メゾン ミハラ ヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)

 「メゾン ミハラ ヤスヒロ」は、“SELF CULTURE”をテーマに東京・浅草の「すしや通り」でランウェイショーを開催し、その様子とストーリー仕立ての映像を組み合わせて配信した。当日は招待客以外も商店街に居合わせた人も観覧でき、「メゾン ミハラ ヤスヒロ」の壮大なショーでアーケード内はさながらお祭りのような雰囲気に包まれた。

 

 「グローバルな情報が手に入りやすくなった時代の中で、改めて自分の中のローカリズムについて考えた」という三原康裕デザイナーが今シーズン辿り着いたのは、自らのスタート地点である1990年代の東京の空気感。アメカジやミリタリー、古着が生んだファッションカルチャーを再構築・再構成する中に、「メゾン ミハラ ヤスヒロ」流着崩しやビンテージ加工などブランドらしいユーモアを散りばめた。

 

 MA-1やデニムジャケット、ダウンブルゾンなどは特徴的なオーバーサイズシルエットで、レザージャケットやチェックシャツ、デニムジャケットは服のパーツがズレているようなディテールで提案。パンツ、スカートドレス、アウトドア系のバッグを繋ぎ合わせたベストなど、遊び心のあるアイテムも登場した。

 

 今回メンズにおいては、三原デザイナーが長年買い集めた膨大な古着の中から数型を抜粋して「再解釈」した新ライン「モディファイド(Modified)」も誕生。この「新しい古着」のファーストコレクションは、アウター、シャツ、カットソー、パンツ含めて約25 型が登場した。

 

 ショーは生演奏の中行われ、三原デザイナーも警察官の恰好で登場し、音楽に合わせて踊ったり観客をショーに巻き込んだりと自らショーを盛り上げていた。フィナーレでは商店街中をキラキラと煌めく紙吹雪が舞い、現場のボルテージは最高潮に達した。コロナ禍でどこか暗い雰囲気が漂っていた世情を一夜にして明るく照らした「メゾン ミハラ ヤスヒロ」のショーは、見た者、携わった者にとって忘れられないものとなるだろう。

カラー(kolor)

 アイテムの複雑性が増すごとに存在感も増している進化の止まらない「カラー」は、メンズとウィメンズを同時に映像で発表。よく目を凝らさないと、そのアイテムがシャツなのかジャケットなのか、レイヤードなのか異素材ミックスなのかわからないほどに一つ一つのアイテムが綿密な計算とバランスによって成り立っている。

 

 例えば片側の襟がポロニットになっているオーバーサイズのチェック柄のダブルのジャケットや、Vネックが二つ交差してレイヤードのようになっているベスト、あえて破れや様々な素材の継ぎ接ぎを見せるジャケットなど、その表現の多様性に驚かされる。そしてその表情の豊かさは、トレンチやピーコート、ダッフルなどのクラシカルなアイテムでこそより際立っていた。

ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)

 海を望む崖上で撮影された映像でコレクションを発表した「ホワイトマウンテニアリング」。絶景ながらも厳しい自然を思わせるその場所で見せたのは、“デザイン、実用性、技術の3つの要素を一つの形にし、市場には屈しない姿勢でのものづくり”というブランドコンセプトに立ち返った、インダストリアルとアウトドアを融合させたアイテムだ。

 

 80年代〜90年代のアウトドアウェアの要素を解釈し再構築。クラシックな要因を残しつつ、現代の洋服としても成り立つようにパターンメーキングにアレンジをすることで、都市や山などシーンを選ばすカジュアルに着用することをイメージしたのだという。チェックやトライバルなどの柄やポンチョやウェスタンハットのような、ネイティブアメリカンや西部劇を連想させるような表現も見られた。

ダブレット(doublet)

 デザイナー井野将之が手掛ける「ダブレット」は、日本でフィジカルのショーを行って、その様子を収録しPFWMのプラットフォームにて配信した。会場は、渋谷のスクランブル交差点をリアルサイズで再現した栃木県足利市の「足利スクランブルシティスタジオ」。“THIS IS ME”というタイトルのもとパラレルワールドのように存在するもう一つのスクランブル交差点で繰り広げられるランウェイショー。

 

 モデルたちは身長、体形はバラバラだが皆バーチャルモデル「imma」のマスクをつけていて同じ表情をしている。そしてモデルたちと交差するように行き交うエキストラのアバターたち。これは、現実世界の「普通」や「常識」というフィルターを取り払いたくてメタバース空間をアナログで表現したのだという。

 

 井野デザイナーが「多様性という言葉を使っている限り本当の多様性は実現できない」という言葉を聞いて、皆が自分を自由に表現することが本当の多様性なのではないか、と考えたことから今シーズンのコレクションは生まれた。コレクションの軸となっているのは「ギャル」ファッションだ。

 

 時代を動かすエネルギーを持っていたギャル文化が好きだというデザイナーの想いを反映した。ミニスカートの制服にスーパーロングルーズソックス、ビビッドなピンクのアイテムやジャージにサンダルスタイルなどをダブレット流にアレンジした。

 

 「Mサイズと言っても誰を基準にしたサイズなんですか?という疑問があって大きく作ったテーラードジャケットをMサイズにしたり、普通と思っていることが本当に普通なのかを今一度考え直してみた。ファッション界の当たり前をひねくれた目線で見て、違う作り方をしてみたんです」と井野デザイナー。この「ストレートなひねくれ表現」が「ダブレット」そのものであり、多くの人を魅了するエネルギーの源でもあるのだろう。

ヨシオ クボ(yoshiokubo)

 「ヨシオクボ」は東京・中目黒にある自社ショールームでランウェイショーを開催し、その様子と映像作品を組み合わせて配信した。今シーズンのテーマは“IKAnobori(いか上り)”。“いか上り”とは、凧の関西地方での名称であり、今シーズンはその骨組みや風にはためく美しい布の様子を表現した。「骨組み」によって構築的なシルエットを描き出したポンチョやクリノリンのようにウエストにプリーツを施したブルゾンなど、印象的なアイテムが続々と登場。ベースはブラウンやグレー、ブラックなどシックなカラーだが、鮮やかな原色のカラーブロッキングや、龍の刺青を思わせるようなバックプリント、着物を思わせる和風のパターンなど、思わず目を奪われるような色使いが新鮮であった。

サカイ(sacai)

 ブランドの最もピュアな本質とそのスタイル、すなわちハイブリッドの極意を探究し続ける「サカイ」は映像でコレクションを発表。

 

 今シーズンは、生地やシェイプ、スタイリングのディテールにスノーボードウェアの要素を取り入れた立体的なシルエットが特徴的。ボリューム感では遊びつつも、同じ系統のカラーや生地を重ね、時にはチェックパターンでアクセントを加えて、ユニフォームのようなシンプルさを新しく表現した。

 

シアリングアウターの艶やかさ、ブランドらしいパターンに凝ったニットの優しさ、エレガントなフラワーモチーフのコートやブルゾンなどの洗練されたコレクションの中で、大げさに見えるスノーブーツがコレクションに彩を添えている。

 

 また今シーズン、ライダースジャケットの代名詞ともいえる「ショット(Schott)」とコラボレーション。オリジナルのフォルムはそのままに、デタッチャブルなライニングや、コートを組み合わせることによって「サカイ」らしさもミックスした。

 

 そして Kaikai Kiki 所属アーティスト、MADSAKI とのコラボレーションも発表。スプレーワークで知られるMADSAKIの文字柄をレザージャケット、ブルゾン、ニット、フーディー、プルオーバー、Tシ ャツにあしらった。

 

2022秋冬パリメンズコレクション

https://apparel-web.com/collection/paris_mens

メールマガジン登録