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2022.01.27

【2022秋冬パリメンズ ハイライト3】トレンドという呪縛から解き放たれ自由を謳歌するデザイナーたち

写真左から「ディオール」「ケンゾー」「エルメス

 

 ブランド設立75周年を迎え、壮大でメモリアルなショーを開催したキム・ジョーンズの「ディオール」、アーティスティック・ディレクターに着任したばかりのNIGO®が手掛けるケンゾー。会期後半は、この2つのブランドが大きな話題をさらった。

ディオール (Dior)

 キム・ジョーンズによる「ディオール」は、コンコルド広場の特設テントを会場にフィジカルなショーを発表した。ランウェイには原寸大のアレクサンドル三世橋を設置。ブランド設立75周年を記念し、御大クリスチャン・ディオールを意識した服作りを見せた。

 

 ブランドカラーでもあるグレーがキーカラー。ブランドのアイコニックアイテムであるバージャケットは新たなフォルムを見せ、ハンドステッチでラインを刺繍してウエストを絞ったかのような視覚効果を出している。アイコニックモチーフである籐編みのカナージュは、パテントレザーのコートやカットムートンのブルゾンとして登場。クリスチャン・ディオールのミューズでアドバイザーでもあったミッツァ・ブリカールをイメージさせるレオパードモチーフは、スポーティなブルゾンとステーブン・ジョーンズ手掛けるベレー帽として登場し、強い印象を残した。

 

 その他にも、ハウンドトゥースを刺繍したシャツや、フローラルモチーフを刺繍したシースルートップスやブルゾン、バラモチーフの絣素材のコートなど、40~50年代の「ディオール」のクリエーションからの引用は数えきれない。

 

特に半立体的なフローラル刺繍を施したニットや、ジオメトリックモチーフをメタリックビーズで刺繍したブルゾンなどは、ムッシュ・ディオールの全盛時代のドレスを直接的に想起させ、レディースのクチュールをメンズに解釈し直すというモダンな手法が興味深かった。

 

ジル サンダー(JIL SANDER)

 ルーシー&ルーク・マイヤーによる「ジル サンダー」は、ジョルジュ・サンク大通り沿いのアメリカン・カテドラルでショーを開催した。

 

 厳格さをも漂わせる、このブランドらしい仕立てのスーツには、クロシェ編みのニット製ヘッドウェアやネッカチーフが合わせられ、そのコントラストが印象的。ライダース風のレザーのラペルが付いたジャケットが特徴的で、今シーズンはコートの襟に1枚重ねるスタイリングを見せた。ライダースの要素はパンツにも見られ、レザーとウール素材のコンビのパンツが目を引いた。

 

 後半には12星座モチーフが登場。シャツやコートにプリントとしてあしらったり、ニットプルに仕立てたり、スタジアムジャンパー風コートのバックサイドに刺繍としてあしらったり。

 

 後半のブラックジャケットやコートにもクロシェ編みのモチーフは飾られ、その他にもジオメトリックモチーフのクロシェ編みのトップスや、ムートンとクロシェ編みをミックスしたトップスなど、どこかにDIY的な要素が漂い、このブランドとしてはとても新鮮に感じられた。

ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)

 「ドリス ヴァン ノッテン」は、最新コレクションをネット配信し、キャスパー・セイエルセンによるムービーを発表した。セイエルセンとのコラボレーションは昨年発表の2021~2022秋冬レディースコレクション以来。ムービーのロケ地はリュニヴェルシテ通りのある歴史上重要な邸宅(おそらくは旧セルジュ・ゲンズブール邸)で、BGMはスーサイドの“Dream baby Dream forever”。

 

 「騒々しい美しさ、優しいジェンダー、ぼやけた描線」をキーワードに、デヴィッド・ボウイ、カート・コバーン、ジャン・ミッシェル・バスキア、マーク・ボランといったロックスター、アート界のスターたちの名が並び、「男とは何か、女とは何か – これまでの常識にとらわれず、男女の境はよりいっそう曖昧になる」とするメッセージが掲げられた。

 

 ルールに囚われない着易さと自由さを重視し、パジャマからスポーツウェア、あるいは1950年代のクチュールを思わせる着物風のジャケットまで、バリエーション豊かなアイテムで構成。色はヴィヴィッドカラーとパウダリーカラー、ブラック&ホワイトといったベーシックカラー、あるいはシルバーをミックスし、変化に富むカラーパレット。

 

 あえて秋冬コレクションにハイビスカスの拡大モチーフをあしらったり、レディースモデルにマニッシュなスーツを着せる、あるいはメンズモデルにラップスカートをまとわせたり。そんな何事にも囚われない、境い目を作らない姿勢を随所に感じさせながらも、このブランドらしいエレガンスのコードをしっかりと漂わせるコレクションとなっていた。

ロエベ(LOEWE)

 ジョナサン・アンダーソンによる「ロエベ」は、ピエール・ド・クーベルタン・スタジアムを会場に、フィジカルなショーを開催。男性の典型的な装いに捻じれを加えるという、アンダーソンならではの独自の解釈を見せた。

 

 トップスにはLEDライトが這わされ、油脂加工することで透明性を得たレザーのコートは身体と下着のシルエットが透けて見え、スーツは身体に窮屈なまでにフィットしている。これまでの服の概念を超え、ある意味奇異に感じられるアイテムの数々。

 

 チェリー柄のオールインワンには半透明のブーツと内側から光を放つコートとハート型にくり抜かれたニット帽を合わせ、ポケットの袋がはみ出たデニムショーツには裏側に顔をプリントしたTシャツが合わせられる。牡蠣プリントのタンクトップや、ワイヤー入りの造形的なカラーブロックのシースルーニットなど、秋冬コレクションであることを忘れさせるようなルックも数多く見られた。モデルによっては裸足で敷き詰められた砂を歩き、そこがまるでビーチであるかのような錯覚に陥る。

 

 ワイヤーを入れて極端にシルエットを変形させたTシャツとショーツのセットアップ、リング状のパーツを左右に合わせたムートンのコートなど、奇抜なフォルムを見せるルックも印象的。大きなハートのパネルを配したロングスリーブのTシャツや、排水溝のパーツをあしらったコート、上半身の裸体の写真にクリスタルを乗せたキラキラと反射するTシャツなど、それぞれ関連性の無い強いアイテムばかりだったが、見終わった後に一つのコレクションとしての調和を感じさせるから不思議だ。

エルメス(HERMÈS)

 ヴェロニク・ニシャニアンによる「エルメス」は、エリゼ宮の家具を管理するモビリエ・ナショナルにてショーを開催した。今季、ニシャニアンと前回のショーでもコラボレートした舞台演出家のシリル・テストは、モビリエ・ナショナルに保存されているタペストリーに着目。実際のタペストリーとスクリーンをコラージュのように飾ったランウェイをモデルたちがウォーキングしたが、スクリーンに映し出されるタペストリーのモチーフは、時間が進むにつれて曖昧になっていく。モダンな服と技術、そして古典的なモチーフのコントラストが新たな魅力を生み出すショーとなった。

 

 今季は、対照的な素材を組み合わせ、それぞれが重なり合う「撞着と洗練」が核となっている。異素材をあしらったリバーシブルのアイテムや、光沢素材とマットな素材を重ねたルックが登場したが、互いの調和とぶつかり合いが生まれる様が、軽快さと美しさを見せている。

 

 チャコール、ブラウン、黒といったニュートラルカラーを主軸に、フロステッドブルー、花粉を思わせる黄色、ポップなオレンジ、レタスグリーンなど、ナチュラルなカラーパレットで彩り、意外なコントラストを見せる。

 

 針葉樹を思わせるグリーンのムートンのブルゾンは、ファー部分はブルーに染められ、ヘリンボーンのブルゾンには鮮やかなオレンジで縁取られ、新鮮な驚きを与えるアイテムとなっていた。ライニングにファーをあしらったブルゾンにはレタスグリーンのシャツを、ブラウンのレザーのスーツにはピンクのシャツをコーディネートし、色の遊びが楽観的なムードを与えている。

 

 異なるもの同士の組み合わせは、時として違和感を生むこともあるが、今季の「エルメス」は終始心地良い調和で貫かれていた。

ケンゾー(KENZO)

 NIGO®による「ケンゾー」は、高田賢三が1970年に初めてブティックをオープンさせたパッサージュ(アーケード街)のギャルリー・ヴィヴィエンヌの廊下をランウェイに、フィジカルなショーを行った。BGMにはNIGO®自身のアルバム「I know NIGO®」からの楽曲を使用。その中の曲でコラボレートしたファレル・ウィリアムスがショー会場に現れ、またイェ(カニエ・ウエスト)もゲストとして来場した。

 

 アメリカのカルチャーに影響を受けて育った1970年生まれのNIGO®は、約50年後に文化服装学院の先輩である高田賢三のコレクションを引き継ぎ、フォーマル、スポーツウェア、ストリートウェアをミックスしながら独自のモダンウェアを提案。ケンゾー=フローラルモチーフ、というイメージを裏切らず、アーカイブから引用したヒナゲシでコレクションを彩っている。しかし、引用だけに留まらず、NIGO®自らデッサンをした木瓜の花モチーフや、NIGO®自身が技術を学んでいる陶芸家・藤村州二の赤絵のモチーフをあしらったり、高田賢三自身のデザイン画をコラージュしたりするなど、様々なモチーフ使いがコレクションを明るくオプティミスティックなものにしている。

 

 グレンチェックのスーツやロゴを織り込んだニットなどは、80~90年代の「ケンゾー」作品を彷彿。ウンベルト・レオンとキャロル・リム時代から定番となったタイガーモチーフは、重厚なニットやネクタイの刺繍などにしっかりとあしらわれていた。作務衣風のジャケットや着物を思わせるショートコートなど、日本的なフォルムも巧みに溶け込ませている。

 

 終始ポップで楽しい印象を与えるというエンターテイナーの側面を出しつつ、自らのクリエーションと高田賢三のそれを巧みにミックスしながらアウトプットするという、見事なバランス感覚を見せていた。

アニエスベー(agnès b.)

「アニエスベー」は最新メンズコレクションを発表し、チュイルリー公園前のアパルトマンとリヴォリ通りを中心にロケを敢行したムービーを配信した。

 

アニマルプリントのブルゾンには細身のデニムパンツを合わせ、同じくアニマルプリントのスーツはスリムなフォルム。今季は細いシルエットが主流となっている。

 

 ブラック&ブルーのダブルフェイス素材のショートコートにはフィッシャーマンキャスケットを合わせ、ワークウェアスーツにはチェックのターバンをコーディネート。キリム風モチーフのフーディなど、エキゾチックなアイテムも目を引く。

 

赤と黄色のニットジャージーのトップスは、中世の剣闘士のイメージ。ウエストマークのベルトがアクセントとなっている。

 

ケープ付きのジャケットやイラストをあしらったジャケットなど、これまで通りイヴニングウェアで最後を締めくくった。

 

 

 特に目新しい傾向が見当たらなかった今シーズン。だからといって、パリコレクション全体の内容に不足があったわけではなく、各ブランドはそれぞれのクリエーションを追求し、新しいものを生み出そうとする強いエネルギーに溢れていた。ただ、一括りに出来る傾向が無かっただけである。

 

パンツの太さは幅広から細身まで様々であったし、ジャケットはオーバーサイズから窮屈そうなものまで多種多様。色の多いブランドもあれば、モノトーンで統一するブランドもある。各デザイナーは、これまで重要視されてきたトレンドという呪縛から自由になりつつあるのかもしれない。

 

「ドリス ヴァン ノッテン」は自由であることの重要性をコレクションを通して主張していたように感じられたし、ジョナサン・アンダーソンは前衛的とも表現できそうな服を、敢えて「ロエベ」という老舗ブランドのコレクションで発表し、その奔放さを感じさせた。

 

そんな中で、今後新しい流れを作りそうと感じさせたのがNIGO®による「ケンゾー」だった。アメリカのカルチャーから多大な影響を受けた日本人デザイナーが、アメリカのヒップホップを中心にしたデザイナーもこなすアーティストたちとの関係を築きつつ、ポップなデザインの服を発表する。服も音楽同様、エンターテイメントの延長線上にあるとする姿勢が見て取れる。アメリカナイズされることを拒否してきたフランス人が、日本人が設立したブランドでそれを容認する。既にウンベルト・レオンとキャロル・リムというアジア系アメリカ人による下地があったにしろ、日本人のNIGO®だからこそ受け入れやすいはずである。今後「ケンゾー」というブランドとNIGO®は、大きな流れの中心に据えられて行くのかもしれない。そんなことを考えた今シーズンだった。

 

取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)

 

 

2022秋冬パリメンズコレクション

https://apparel-web.com/collection/paris_mens

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