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2021.03.11

【2021秋冬パリコレ ハイライト3】雪山、旅、パーティー・・・自由への渇望を映し出すパリのメゾン

左から ディオール、シャネル、ルイ・ヴィトン

 人間は束縛されると、自由への欲求が高まるのは自然なことである。今季公開された各ブランドのムービーは、コロナ禍で長く押し込められてきた人間の様々な欲望を垣間見せた。

 

 「シャネル(CHANEL)」はスキーとナイトクラブに思いを馳せ、「ミュウミュウ(MIU MIU)」はウィンタースポーツやアウトドアスポーツを思わせるルックを制作して雪山でロケを敢行。コロナ禍で冬のバカンスが飛んでしまったブルジョワたちは、皆スキーへ行きたかったのだろうか。

 

 「バルマン(BALMAIN)」はそのまま旅行をイメージし、エール・フランスの全面協力のもと(絶対にあってはならないのだが)尾翼の上をランウェイにするという大胆なショームービーを制作。自由な往来が不可能な今、敢えて旅行をイメージしたのは、自由への渇望に他ならないのだろう。

 

 「ランバン(LANVIN)」もパーティガール達を描き、登場するのは華やかな装いばかり。自粛ムードの中、着るものといったら部屋着で十分であるはずなのに、随分と思い切ったコンセプトを打ち出したものである。

 

 現代のハイファッションはあくまでも奢侈品であり、必需品ではない。限られた人々を満足させるために、人間の根本的な欲求・欲望を素直に発出して良しとされる世界でもある。時代を反映した様々な感情が直接的に素早く表現されるため、「ファッションは時代の鏡である」とされる所以なのだが、今季はそれを再認識したのだった。

ランバン(LANVIN)

 ブルーノ・シアレッリによる「ランバン」は、時代のムードを覆すかの如く、パーティウェアで統一した華やかなコレクションを発表した。グウェン・ステファニーの「Rich Girl」をBGMに、シャングリラホテルでロケを敢行したムービーも公開。ショッピングとパーティに明け暮れ、奔放に振舞うヤング・セレブリティをイメージしている。同曲でラップを担当するラッパーのイヴもカメオ出演。

 

 フェザーのトップス、フェザーのケープを取り付けたミニコートドレス、フェザーのイヤリングなど、ラグジュアリーな素材の象徴としての羽使いが印象的。そしてレオパードモチーフのコートドレスや、ビュスティエドレスなども登場し、シアレッリがティーンだった90年代から2000年代のファッションを彷彿とさせた。

 

 ジェームズ・ローゼンクイスト財団とのコラボレーションによるリップスティックとパールをプリントしたラメ素材のミニドレス、ツイードとシフォンのコンビのワンピースなど、モダンなアイテムから、刺繍を施した帯のようなトレーンをバックサイドに取り付けたカクテルドレスといったクチュール的な作品まで、ラグジュアリーの解釈の幅広さを感じさせる内容だ。

ディオール(Dior)

 マリア・グラツィア・キウリによる「ディオール」は、“Beauté Dérangeante”と題したコレクションを発表した。同時公開のムービーは、ファビアン・バロンが監督し、ヴェルサイユ宮殿で撮影。シルヴィア・ジャムブローネによる棘の生えた鏡作品を飾った鏡の間をモデルたちが歩き、シャロン・エイアルのコレグラフィによるダンサーたちが舞う。

 

 イングリッシュレースを重ねたホワイトシャツとシンプルなスカートの、ガーリーなセットアップでスタート。制服のようなシャツとワンピースのセットアップ、パフスリーブのレザーのドレスなど、少女性を漂わせるルックから一転、アヴィエータージャケットやマニッシュなツイードコートなどが織り交ぜられる。

 

レーザーカットのレザーレースのドレスや、ドレーピングドレスなどフェミニンなルックから、40年代を思わせるシンプルでマニッシュなアイテムが交互に登場。

 

 絣のような抽象的なモチーフの50年代風ドレスやシャツドレスが見られたが、これはクリスチャン・ディオールを支えたアンドレ・ブロサン・ドゥ・メレによるテキスタイルの復刻。レオパードモチーフもクリスチャン・ディオールへのオマージュ。

 

 40~50年代を彷彿とさせるシルエットのドレスが多く見られる中、パールの襟を配したラフルのドレスや、最終ルックのハートシェイプのチュールドレスなど、キウリらしいモダニティ溢れる作品で締めくくった。

アンリアレイジ(ANREALAGE)

 逆様にしてみたら…。アイテムを上下させることで生まれる視覚効果や、フォルムの変化を見せたのが、森永邦彦による「アンリアレイジ」。

 

 ポルカドットのコートは、逆さまにすると襟周りにドットが集まり、ハウンドトゥースのコートを逆さまにすると、やはり襟元にモチーフが集まり、裾には何も無くなる。

 

 アーガイルが首周りに集中したカーディガンや、重力の証明をしたとされるアイザック・ニュートンのリンゴの木を思わせるニットもユーモラス。モチーフが逆様のスカジャンや、ポケットやトグルが襟周りに集まったダッフルコート、スタッズが肩の周りにのみ打たれたライダースなど、固定観念を覆すようなひねりを加えているのも興味深い。

 

最後のドレスのシリーズは、逆様にしても着用できるもの。「ビューティフル ピープル(BEAUTIFUL PEOPLE)」も同じコンセプトでコレクションを発表していたが、それは偶然の一致かもしれず、もしかしたら、視点の変化を欲する今という時代の空気感なのかもしれない。

バルマン(BALMAIN)

 地球上だけにとどまらず、宇宙なども含めて広いレンジの旅をテーマにしたのが、オリヴィエ・ルスタンによる「バルマン」。エール・フランスが全面的に協力した無観客ショーのムービーも同時に発表。

 

 アヴィエータージャケットのミリタリーインスパイアのアイテムでスタートし、作業服としてのつなぎや宇宙服などが織り交ぜられる。武骨なイメージを持つユニフォームだが、ネオンカラーのディテールやスタッズ、そして今回特にアップサイクルされたスワロフスキーのクリスタルで飾り、「バルマン」らしくフェミニンでエッジーにアレンジ。

 

 大き目のトラベラーズバッグやハットボックスを思わせるサークルバッグ、紙飛行機型のクラッチ、ネックピエロウをイメージした大振りのイヤリング、シートベルトを思わせるバックルのチェーンベルトなど、アクセサリーやディテールにも旅をイメージさせるものが散りばめられている。

 

 昨シーズンからスタートした、PBのイニシャルをグラフィカルに配したモノグラム「ラビリンス(迷路・迷宮)」のコート類やドキュメントバッグも登場。

 

 第二次世界大戦後、創始者ピエール・バルマンが常に旅をしていたことに言及しながら、今後復活するのであろう新しい旅行の在り方を提案してした。

シャネル(CHANEL)

 ヴィルジニー・ヴィアールによる「シャネル」は、これまでショー会場として使用していたグラン・パレを離れ、セレブリティが集うことで知られるパリ左岸の隠れ家的クラブ、カステルで撮影されたランウェイショーのムービーを発表。監督はイネス・ヴァン・ラムスウィールドとヴィヌード・マタディン。

 

 ムービーでは、モデルがクラブの中に入り、無造作にコートをクロークに預けるシーンが繰り返されるが、寒い外と暖かいクラブの中の温度差、そして装いのコントラストを表現。モデルたちの多くにスキーシューズのようなフェイクファーブーツを合わせているのが印象的で、シープスキンのパーツを外すとブーティが現れる仕掛けも。

 

 コートの中のインナーは、一転して軽やかなアイテムが並ぶ。チューブトップとスカート、スイムウェア風のワンピース、シースルーのレースのビュスティエなど、動きやすさ、踊りやすさを重視している。オーロラのスパンコールで装飾されたツイードのジャケットとキルトスカート、白襟の黒いシャツとジャケットとスカートのセットアップは、先頃急逝したステラ・テナントを彷彿させる。

 

 スキーウェアのようなロゴ入りキルティング製ジャンプスーツや、ノルディックな雰囲気のセーター、フェイクファーのノーカラージャケットなど、そのままスキーへ繰り出せそうなアイテムも。その一方で、ポップなカラーリングのセットアップや、キャミソール型のドレスなど、軽さと薄さを漂わせるルックとの対比を強調。

 

 軽重、寒暖の相違を巧みに操りつつ、美しいコントラストと調和を見せ、ナイトクラブとスキーを結び付けながら若々しくフレッシュなコレクションに仕上げていた。

タカヒロミヤシタザソロイスト.(TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.)

 宮下貴裕による「タカヒロミヤシタザソロイスト.」は、レディースのパリコレクション期間中に初めて作品を発表。しかし、このブランドは元々性差が無いため、レディースとメンズの定義を一切していない。

 

 コレクションタイトルは、全ての「再生」を願う意が込められた“RE:”。様々な制約のある現在の社会は一つの終わりであり、同時にスタート地点でもあると捉え、これからの時代へ向けての服の進化を表現し、再構築を目指している。

 

 多用されているベルトやチェーンは拘束の象徴で、宇宙服から引用されたボリュームやシルエットのアウターには、ゴシック体とモールス信号を組み合わせたモールス文字がプリントされたパッチを大きな安全ピンで留めている。

 

 ファーやアランニットのブルゾン、あるいはボーダーのトップスや細身のコートには、左右の身頃にジップを配してケープのようなフォルムに仕上げている。ジャンプスーツやタンクトップには、縦横無尽にジップを走らせ、束縛からの解放をイメージさせた。

 

 時代の空気感を自己のフィルターを通して服に表現するという、パーソナルな姿勢とクリエーションを見せたコレクションだった。 

ミュウミュウ(MIU MIU)

 ミウッチア・プラダによる「ミュウミュウ」は、ウィンタースポーツの装いを思わせるアウトドアウェアインスパイアのアイテムと、その対極にあるランジェリーとのコントラストを見せるコレクションを発表。コルティナ・ダンペッツォの雪山でロケしたムービーも公開した。

 

 ボアを合わせたセットアップには、鎖編みのキャミソールを合わせ、その落差が不思議なハーモニーを生む。クラフト感溢れる鎖編みのテクニックは、ボア付きブルゾンにも転用。野暮ったさが醸し出されるが、それが新鮮さを生み出す要因にもなっている。

 

 スキーウェアのような綿入りアイテムはスイムウェアやブラトップに形を変え、得も言われぬ危ういエロスを生む。

 

 ムートンのボンバースやベストには、ジップアップポロを合わせ、マニッシュなアイテムも軽重のコントラストを強調。スタッズを打ったコートにはシルクのキャミソールドレスを、ストラップにスタッズを打ったキャミソールドレスにはインナーにニットプルを合わせる。薄手のニットドレスにはキッチングローブのようなムートンの手袋を、クリスタルを刺繍したドレスには、大振りのファーのブーツをコーディネートしてボリュームの違いを強調。アンバランスさの中のバランスの妙を見せ、正に「ミュウミュウ」らしいコレクションとなっていた。

ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)

 ニコラ・ジェスキエールによる「ルイ・ヴィトン」は、彼らしいフューチャリスティックなヴィジョンを具現化した、ウルトラモダンでハイパーミックスなコレクションを発表。今季は特にフォルナゼッティとのコラボレーションを全面に押し出し、アンティークな古さと「ルイ・ヴィトン」の先進的な新しさのコントラストを強調している。無観客ショーのムービーは、ルーヴル美術館の中でもギリシャ・ローマ・エトルリア時代の彫刻を展示するミケランジェロギャラリーでロケを敢行。BGMは先頃解散を表明したダフト・パンクのヒット曲3曲。

 

 アウトドアウェアやユニフォームを思わせるカジュアルなアイテムを、オーバーサイズやドロップショルダーに仕立て、ライニングに立体的な箔プリント素材を合わせたり、スタッズやビーズやスパンコールを刺繍したトップスをコーディネートしたりし、光る要素を加えている。フリルを飾ったチュールのスカートが、トップ部分のワイルドなアイテムとの対比を見せ、モダンで新しいバランスを提案。

 

 刺繍を施した60年代風のシルエットのワンピースは、どことなく甲冑のような雰囲気を漂わせ、最終の3点は剣闘士のような出で立ちで、ランウェイにそびえる彫刻と呼応。

 

 ムービーでは、フォルナゼッティによるグレコローマン彫刻プリントの剣闘士風ドレス姿のモデルが「サモトラケのニケ」を見上げるエンディングだったが、新旧の融合によって生まれる新しいクリエーションの発出を印象付ける幕引きだった。

 

取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)

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