PICK UP
2021.03.10
【2021秋冬パリコレ ハイライト2】再生、過去への憧憬・・コレクションの奥底に秘めた各メゾンの願い
(左より)ロエベ、エルメス、イザベルマラン
ファッションは景気の動向と連動するのが常であり、不景気時には反発的に美しい色が多く登場する。今季も、秋冬らしからぬ明るい色彩が目に付いた。
「ロエベ(LOEWE)」のキーカラーはイエローで、「リック・オウエンス(Rick Owens)」はパープルとスカイブルーが強い印象を残し、「エルメス(HERMÈS)」はグリーンとピンク、「イザベル マラン(ISABEL MARANT)」は朱に近い赤、「ディオール(Dior)」も赤、「ニナ リッチ(NINA RICCI)」はクラインブルーがコレクションを引き締めた。
ただ、コレクションにおける色の割合はそれぞれのブランドで大きく異なり、また「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」のようにダークカラーを堅持するブランドもあり、一括りには出来ない。
シルエットや丈の長さの変化、色使いや素材の傾向など、目に見える物質的なものではなく、観念的な共通項を挙げるとしたら…。動きが止まった世界を復活させるべく再生への渇望、もしくは、これまでとは全く違う変化への欲求、あるいはコロナ以前の美しく楽しかった時代への憧憬。この時代だからこそ芽生えた思考が、コレクションの奥底に感じられたのだった。
リック・オウエンス(Rick Owens)
大きく細長いシルエットで統一したコレクションを発表した「リック・オウエンス」。前シーズンに引き続き、ヴェネツィアに隣接するリド島でショーのムービーを撮影し、海に伸びる埠頭をランウェイに見立てた。
トレーンを引く綿入りのブルゾンには、造形的なドレスをコーディネート。ドレスはトップ部分を脱がせて前に垂らせ、独特なフォルムを見せる。曲線を描きながら走るジップを配したジャンプスーツには、大きなパッド付ジップアップブルゾンを合わせたコートを合わせ、まるでロボットのよう。
一見レザーのように見えるグリーンのジャンプスーツは、スパンコールが全面に刺繍されており、SFに登場するキャラクターのような出で立ち。今季は総スパンコール刺繍のアイテムが多く見られ、無機質な輝きを添えていた。
本コレクションは、1つのモデルについてアウターを脱がせたり、レイヤードのパターンを変えたりすることでいくつもの着こなしを提案しているのが特徴。昆虫の変態のように、刻一刻と変化していく様子がスリリングだった。
ロエベ(LOEWE)
ジョナサン・アンダーソンによる「ロエベ」は、カラーセラピー(色による癒し)を印象付ける、カラフルで造形的、そしてグラフィカルなコレクションを見せた。
前シーズンはポスターやハサミを収めたボックスセットを制作したが、今季は「ショーはキャンセル」のスキャンダラスな文言を全面にプリントし、最新作の写真を収めた新聞と共に、ダニエル・スティール執筆の最新小説「The Affair」の抜粋も掲載したタブブロイド判を収めたボックスセットを発表。新聞については、日本では朝日新聞に折り込まれた。
同時発表されたムービーでは、本コレクションのルックを見せながらジョナサン・アンダーソン自身が解説。特徴的なカラーパレットは、サイケデリックからの影響と明言。
今季はドレーピングにフォーカスし、ノットに繋げるテクニックを多用し、刺繍を施した大きなバックルをあしらってオブジェのようなアイテムに仕上げている。オーバーサイズだが、グラフィカルでソフトな印象を与えるスリーブのコートドレスのシルエットが新鮮。
ここ3、4シーズンは、テーラリングが大きなミッションだったと語り、今季は20年代、あるいはそれ以前の乗馬ジャケットを参考にして細長いジャケットを作り上げ、一つの完成形を示している。
厳格さと遊びの落差、そしてその二つが生み出すコントラストがアーティスティックな側面を強調し、得も言われぬ不思議な調和を見せていた。
イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)
近藤悟史による「イッセイ ミヤケ」は、“As the Way It Comes to Be”と題したコレクションを発表。
水面のようなモチーフのシャツとパンツは、墨流しのテクニックを用いたもので、マーブルのようなワンピースも同様のテクニックを使用。絞りのような表面のニット地のアイテムや、サークルのフォルムにプリーツをかけたセットアップ、極端にAラインに仕上げたプリーツドレスなど、今までに随分と見てきたプリーツの要素は変幻自在で、毎回目を楽しませてくれる。
一転してミニマルなコートやブルゾンは、無駄の無いカッティングでハッとさせられる美しさを放つ。
サークル型にプリーツをかけたサルエルパンツやドレスは、このブランドらしさを漂わせながら、新しい方向性を感じさせる力強いアイテム。装飾性と非装飾性、そのコントラストが美しいコレクションとなっていた。
ニナ リッチ(NINA RICCI)
リュシュミィ・ボターとリジィ・ヘルブルーの二人による「ニナ リッチ」は、スポーティなカジュアルウェアをクチュールメゾンらしいテクニックと素材使いでモダンにリアレンジした。
テーラードはジップアップにしたスポーティなものと、大きなボタンと襟で60年風に仕立てたものがあり、シルエットはリーン。その一方、ブルゾンなどのアウターはオーバーサイズにまとめてコントラストを付けている。
前シーズンは香水「L’air du temps(レール・デュ・タン)」の瓶をイメージしたアイテムを登場させていたが、今季は香水瓶のデザインをイヤリングに転用したり、瓶をそのままペンダントヘッドにしたりするなどして、ブランドのアイコンを強調していた。
同時に公開された無観客ショーのムービーでは、イヴ・クラインのクラインブルーに塗られたパイプイスを並べたランウェイを、クラインブルーのシューズを履いたモデルたちがウォーキング。モデルがイスに座って休む様子が挟み込まれ、これまでのショーでは有り得なかったシーンに新鮮味を覚えた。
ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)
西洋服飾史における装いの再解釈に挑んできた「ヨウジヤマモト」は、今季も伝統的なスタイルをいかに新しいものにするかに集中し、それを完成されたものにしていた。
コルセットのようなステッチを加えたドレスや、コルセットを紛れ込ませたかのようなトロンプルイユ(だまし絵)のドレス、バスル(腰当)を装着させてヒップ周りを大きくしたドレスなどは、アンティークドレスを斬新にリアレンジしたもの。プリーツのロングドレスにはドレープのパーツを加えて、マドレーヌ・ヴィオネのドレスをモダナイズしたかのよう。
リアレンジ・モダナイズだけではなく、更にその先を提案する姿勢を見せる。三角形のパーツを組み合わせ、折り紙のように立体感を出したドレス、杭を打ったかのような立体的なパーツを取り付けたドレスなど、新しい美の在りようを具現化して見せる。
しかし、最後に登場したレザーのピーコートの風合いとシンプルな美しさこそが、今季の真骨頂だったのかもしれない。
イザベル マラン(ISABEL MARANT)
「イザベル マラン」は、80年代風のシルエットとエスニックテイストをミックスするスタイルを続けながら、アウトドアウェア・ワークウェアのエッセンスを加えて、モダンな装いを提案している。
ヘムに刺繍を施したフローラルプリントのドレスや、ペイズリー&フラワーのプリントドレスはサイケデリックなイメージ。クロスステッチやバラ刺繍のディテール、タッセルやポンポン、ペイズリーのバックルなど、エスニックテイストをミックスするのは「イザベル マラン」独自のスタイルだ。
60年代のフューチャリスティックな雰囲気、ヒッピームーブメント、「サンローラン(SAINT LAURENT)」全盛の70年代の空気感など、レトロな要素も散見。大きなボタンがアクセントのオーバーサイズコートやノーカラーのジャケットを合わせたパンツスーツなど、シンプルなルックとのコントラストが印象的。艶めかしい光を反射する合繊素材のセットアップやドレスも、どことなくレトロな雰囲気を醸している。
今季はスポーティなブルゾンをコーディネートするルックが多く登場し、リアルクローズの割合が増えていたのが印象的だった。
エルメス(HERMÈS)
ナデージュ・ヴァンヘ=シビュルスキーによる「エルメス」は、メゾンのルーツを物語る乗馬の世界に新しい解釈を加えたコレクションを発表。デイウェアではあるが、いかにエレガントで美しく見せるか、に果敢に挑戦する姿勢を貫いている。
ムートンカラーのジャケットと「タッタ―サル」モチーフから着想を得た格子柄デザインのパンツは、レインウェアとしての提案。大きな外付けポケットが特徴的なブルゾンはスポーティなムードの中に、「エルメス」らしい気品と共に威厳さえ漂わせる。
今季も「エルメス」を象徴するモチーフが様々なアイテムを彩り、引き立て役となっている。鞍に用いられる鋲「クルー・ドゥ・セル」モチーフは、綿入りのジップアップベストのエンボスワッペンとして使用され、ピラミッド型のスタッズはレザーブルゾンやベルトに、また乗馬用ブランケットを彷彿させるフリンジディテールも数多く登場した。
毎シーズンの楽しみとなっている手の込んだアイテム。プリントやビーズ刺繍したスモッキングドレスが登場。慎みある華やかさと、その完成度を支える技術力の高さを漂わせ、「エルメス」らしいバランスの妙を感じさせた。
ジル・サンダー(JIL SANDER)
今季パリに発表の場を移した、ルーシーとルーク・メイヤー夫妻による「ジル・サンダー」。このブランドらしいシンプルでリーンなシルエットを追求しつつ、ミニマリズムに終始せず、バリエーションの妙を見せてインテリジェンスを漂わせるコレクションを発表した。
センタープリーツを施して縦のラインを強調したコートやジャケット。襟を削いで無駄を省いたジャケット。無機質で冷たささえ漂わせるが、そのコントラストとなるのが、色鮮やかなフローラルモチーフの刺繍。ハンガリーの伝統的なカロチャ刺繍を彷彿とさせ、その対極のミックス加減が絶妙だ。
グラフィカルな市松模様のタートルネックドレスや、バタフライプリントのコート、ヘリンボーン風のモチーフを刺繍したレーシーなAラインドレスなど、表情豊かなアイテムも目を楽しませる。
コレクション発表前に、「ジル・サンダー」を所有するオンワードホールディングスの連結子会社であるオンワードイタリアS.p.A.より、「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」や「ディーゼル(DIESEL)」などを所有するOTBグループに全株式を売却することが報じられた。現時点では、メイヤー夫妻がアーティスティック・ディレクターを続投の予定である。
ジバンシィ(GIVENCHY)
アリックスを手掛けるマシュー・M・ウィリアムズによる「ジバンシィ」は、リカルド・ティッシ、クレア・ワイト・ケラーからの流れで、ダークでエッジーなスタイルを踏襲。リアルクローズをオートクチュールブランドらしく再構築・新解釈し、ストリートスタイルを加味して、フレッシュで若々しいムードでまとめた。メンズも同時に発表。
造形的なシルエットのボリュームあるファーコート、カジュアルな綿入りブルゾン、リベットを打ったファーのベストなど、ワークウェアやアウトドアウェアからインスパイアされたアイテムが並ぶ。
クチュールメゾンらしいドレッシーなアイテムについては、単体のドレスのみのルックが数少なく、ロングシルエットのドレスにファーのコートやブルゾン、あるいはアシメトリーのニットなどをコーディネートし、カジュアルダウンしているのが特徴。
ハイブランドによるラグジュアリーなリアルクローズを体現したコレクションとなっていた。
取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)